かける

虫食い小説賞

今野さんが書いた小説の一部分が、「本の虫くん」に食べられてしまいました。
そのせいで、この小説の肝となる大事な部分が欠けてしまい、
どんな話だったのか分からなくなってしまいました……。
嘆き悲しむ今野さんを慰めるために、これらの虫喰いを埋めて、新たな小説に仕立ててください……!

選者 今野緒雪

選者 今野緒雪

『夢の宮~竜のみた夢~』で1993年上期コバルト・ノベル大賞、コバルト読者大賞受賞。コバルト文庫に「夢の宮」シリーズ、「マリア様がみてる」シリーズ、「お釈迦様もみてる」シリーズ、集英社オレンジ文庫に『雨のティアラ』『Friends』がある。

タイトル

「え」

 そんな私の短いつぶやきは、突然風がたてたヒュウという口笛みたいな音に乗っかったまま、あっという間に消えてしまった。

「今、なんて言った?」

 本当のところ、さっきまでさほど強い風は吹いていなかった。だから、今目の前で発せられた声が聞き取れなかったわけじゃないんだ。ただ、それがあまりに思いがけない言葉だったから、我が耳を疑って、つい聞き返してしまっただけ。

「だから——」

そんな接続詞でつなぎつつ、サッピはもう一度同じ言葉を言う準備をした。さっきより何十パーセントか増しの真顔を作って。

 サッピは、私の友達だ。知り合ったのは私が十三歳の時で、「幼なじみ」と呼ぶには微妙だけれど、それ相応のつきあいであることは間違いない。本名は。それが共に過ごした歳月の中で bc と呼び方がどんどん変化していき、最終的にはサッピで落ち着いた。——って、今そんなことをのんびり回想している場合じゃない。

 サッピの薄い唇が、待ったなしで、ゆっくり、そしてはっきりと動く。

「実は d なんだ」

 聞きながら、私は「あーあ」と肩を落とした。あーあ、言っちゃった。そうか。ということは、さっきのあれは、やはり聞き間違いじゃなかったわけだ。

 しかしさ、サッピ。それはないんじゃないの。これまでそんなことおくびにも出さなかったくせして、こんな晴天の下で天地がひっくり返るような告白してくれちゃうんだ。

 いや、違う。

 突然ということはない。私はどこかで気づいていた。予感というか予兆というか、いずれこんな日が来るのではないか、と、いつからか覚悟していたような気がしないでもない。

 サッピは言葉を続けた。

「カエデはさ、狭いとこ苦手だったよね」

「……そうだけど」

 だからって、こんなに周りに障害物のない場所に連れてくることはないでしょうよ。ついでに言うなら、私は閉所恐怖症よりずーっと重い高所恐怖症なのだ。だから、さっきからできるだけ動かないように、できるだけ視線を下方に向けないようにしいてるの、わからないのか。

 よりにもよって、ここは e

 いや。わかっているんだろうな。サッピは私のことを私以上に知っている。以前、こんなことがあった。

f

 そう。わかっている。だから、私をここに連れだした。私の反応いかんによっては、思い切った行動に出ることも辞さないという覚悟のもと、決行に至ったのだ。

 ここから私を突き落とすことも、自らが飛び降りることもできる。どっちもごめんだけれど、聞かなかったことにして走って逃げたいところだけれど、事ここに至ってはそんなことはもう不可能なのだろう。

「カエデの気持ちを聞きたい」

 その前に、私も聞きたいことがある。

「いつから?」

 いつからサッピは、私をそういう目で見始めたのだ。

「決めたのは、g

「それからずっと、サッピはこの日が来るのを待ってたんだ?」

「そう。長いような短いような。楽しいような切ないような。そんな時間だった」

 サッピは目を細めてつぶやく。

「サッピ……」

 どんな感情にしろ私への思いが、長年サッピの心の多くを占めていたという事実が私の胸を熱くした。

 ——いや、だめだ。感情に流されてはいけない。これは自分の一生に関わる問題である。冷静に分析して答えを出さなければ。それは、これまで培った友情を壊す覚悟で迫ってきた友に対する礼儀でもある。

「でも、もうタイムリミット。選んで、カエデ」

 返事を急かすように、幾分強い風がまたヒュウと吹いた。その中、かすかに h が聞こえたように思えたのは気のせいだろうか。

 私は一度、雲一つない空を見上げた。そろそろ潮時だろう。

 ゆっくりと視線を戻し、サッピに向き合う。そして、口を開いた。

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*お題ここまで

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