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今野緒雪の虫喰い小説賞選考結果発表

「『本の虫』くんが食べてしまった小説の穴を埋めて、話を完成させる」という、今野緒雪からのユニークなお題に答える投稿企画「今野緒雪の虫喰い小説賞」には、42通の作品が集まりました。今回は、今野緒雪が選んだ受賞作と、最終選考作品の計5作品をご紹介します。それぞれのアイデアで書かれた投稿作は、もともとの素材は同じなのに、どれも全然違うお話になっています。選評と一緒に、ぜひ読んでみてくださいね!

お題を読む

タイトル

「え」

 そんな私の短いつぶやきは、突然風がたてたヒュウという口笛みたいな音に乗っかったまま、あっという間に消えてしまった。

「今、なんて言った?」

 本当のところ、さっきまでさほど強い風は吹いていなかった。だから、今目の前で発せられた声が聞き取れなかったわけじゃないんだ。ただ、それがあまりに思いがけない言葉だったから、我が耳を疑って、つい聞き返してしまっただけ。

「だから——」

そんな接続詞でつなぎつつ、サッピはもう一度同じ言葉を言う準備をした。さっきより何十パーセントか増しの真顔を作って。

 サッピは、私の友達だ。知り合ったのは私が十三歳の時で、「幼なじみ」と呼ぶには微妙だけれど、それ相応のつきあいであることは間違いない。本名は。それが共に過ごした歳月の中で bc と呼び方がどんどん変化していき、最終的にはサッピで落ち着いた。——って、今そんなことをのんびり回想している場合じゃない。

 サッピの薄い唇が、待ったなしで、ゆっくり、そしてはっきりと動く。

「実は d なんだ」

 聞きながら、私は「あーあ」と肩を落とした。あーあ、言っちゃった。そうか。ということは、さっきのあれは、やはり聞き間違いじゃなかったわけだ。

 しかしさ、サッピ。それはないんじゃないの。これまでそんなことおくびにも出さなかったくせして、こんな晴天の下で天地がひっくり返るような告白してくれちゃうんだ。

 いや、違う。

 突然ということはない。私はどこかで気づいていた。予感というか予兆というか、いずれこんな日が来るのではないか、と、いつからか覚悟していたような気がしないでもない。

 サッピは言葉を続けた。

「カエデはさ、狭いとこ苦手だったよね」

「……そうだけど」

 だからって、こんなに周りに障害物のない場所に連れてくることはないでしょうよ。ついでに言うなら、私は閉所恐怖症よりずーっと重い高所恐怖症なのだ。だから、さっきからできるだけ動かないように、できるだけ視線を下方に向けないようにしているの、わからないのか。

 よりにもよって、ここは e

 いや。わかっているんだろうな。サッピは私のことを私以上に知っている。以前、こんなことがあった。

f

 そう。わかっている。だから、私をここに連れだした。私の反応いかんによっては、思い切った行動に出ることも辞さないという覚悟のもと、決行に至ったのだ。

 ここから私を突き落とすことも、自らが飛び降りることもできる。どっちもごめんだけれど、聞かなかったことにして走って逃げたいところだけれど、事ここに至ってはそんなことはもう不可能なのだろう。

「カエデの気持ちを聞きたい」

 その前に、私も聞きたいことがある。

「いつから?」

 いつからサッピは、私をそういう目で見始めたのだ。

「決めたのは、g

「それからずっと、サッピはこの日が来るのを待ってたんだ?」

「そう。長いような短いような。楽しいような切ないような。そんな時間だった」

 サッピは目を細めてつぶやく。

「サッピ……」

 どんな感情にしろ私への思いが、長年サッピの心の多くを占めていたという事実が私の胸を熱くした。

 ——いや、だめだ。感情に流されてはいけない。これは自分の一生に関わる問題である。冷静に分析して答えを出さなければ。それは、これまで培った友情を壊す覚悟で迫ってきた友に対する礼儀でもある。

「でも、もうタイムリミット。選んで、カエデ」

 返事を急かすように、幾分強い風がまたヒュウと吹いた。その中、かすかに h が聞こえたように思えたのは気のせいだろうか。

 私は一度、雲一つない空を見上げた。そろそろ潮時だろう。

 ゆっくりと視線を戻し、サッピに向き合う。そして、口を開いた。

i

*お題ここまで

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虫喰い小説賞 賞金5万円

『崖っぷち』

花 千世子

選評

 たくさんの応募、ありがとうございました。できるだけ多様な設定に対応できるように、とお題を作ったつもりだったのですが、やはりつなぎ目に皆さん苦労したようですね。その中でこの作品は、虫喰いを埋めて作った小説とは思えないほど、自然だし内容も無理がなくて面白かったです。いつの日か『セルパン』のサッピが大蛇を首に巻いて「コンビ名を『クリフ』にして」とカエデに迫る続編が目に浮かびます(笑)

最終候補作品 (作品五十音順)

『約束の旅立ち』

小沼史歩

選評

 秋の楓(カエデ)と春の桜(サッピ)、親は警官と組長。二人の少女を対比が面白いです。こうなると、警察のマークが「桜の代紋」とも呼ばれているのが皮肉だなぁ。

『神様のインターバル』

白笹那智

選評

 私なりにいろいろパターンを考えてみましたが、二人が一人だったというのは浮かばなかった。カエデが高所恐怖症になった原因も、納得。

『春一番にお別れね』

作楽シン

選評

やっちまったな、カエデ! サッピの苦労も水の泡だ!
最後の最後で腰砕けになりました。いや、笑った。

『そして、右回りに一回』

青鳥ナキ

選評

 アイディアが秀逸。タイトルから始まり、名前も世界観も謎だらけ。で、ぐいぐい読ませます。高い場所にいるという手がかりだけで、ここまで作っちゃうのはすごい。

担当編集者からひとこと

「虫喰い小説賞」にたくさんの楽しい作品のご応募、ありがとうございました。 このお題で最も知恵をふり絞らないといけないのは、「サッピは一体カエデに何を隠していたのか?」という点なのですが、最終候補に残った5作品は、その部分で非常によく練ってあったと思います。そして最後の「オチ」をどうするか。これも難しかったと思いますが、短い物語ながらもキャラを動かし、そのキャラならばこう言うだろう、この設定ならばこうなるだろう、という流れに違和感のない作品が優先的に残りました。設定を吟味し見極め、キャラに生命を吹き込むという作業は、短編でも長編でも小説づくりの肝になりますので、これからもみなさま、頑張ってください……!

関連サイト

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