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編集(て)の「夏の三題噺大賞!」結果発表!

選者 編集(て)

脳筋編集(て)が勝手に選ぶ「夏の三題噺」大賞には、締め切りの8月31日までに82本の応募がありました。全体にレベルが高く、個人的には「これが集英社の入社試験だったら一発で通すぜ!」と思うものも多かったです(しかし(て)にそんな権限はない)。その中から栄えある受賞6作品を発表します!

編集(て)

お題

下記の3つのキーワードを必ずそれぞれ1回以上使ってショートストーリーを書いてください。

「バカンス」「コップ」「絶体絶命」

三題噺大賞

賞金5万円

 

『真夏の確信犯』

皇里乃
作品を読む

 生温い水に指先をぴちょんと浸す。

 愚かな奴だ、と、そっとほくそ笑んだ。

 夏の日差しに浮かれてバカンスになど出掛けなければ、こんなことにはならなかったのに。

 ほら。この指先をほんの少し動かすだけで、全てが終わる。

 お前は恐怖と絶望、そして怒りに震えながら絶叫するだろう。

 俺は決して、サディストではない。

 お前のそんな顔を、見たいわけではないのだよ。

 だから、これは仕方のないことなんだ。長い付き合いのお前なんだから、わかってくれるだろ?

 すっかり陽が傾いてきた。

 水面(みなも)に赤い夕陽が沈むのが見える。

 この光景を、お前が見ることは二度とないだろう。

 さあ、この絶体絶命の危機に、もはや誰も助けは入らない。

 俺はプロだから、誰にも知られることなく、そっと仕事を終えるんだ。

 え? 焦らすなって?

 そうか。やっぱり俺は、サディストなのかもしれないな……。

 指先が僅かに動く。衝撃音が響き渡る。いやな色の飛沫が、四方八方に飛び散った。

 すべてはお前が悪いんだよ。

 ただいまー! 海気持ちよかったよー、お留守番ありがとね…って、きゃー! コップのお茶出しっ放しだったー! タマ! なんでわざわざテーブルから落とすのよ!」

 「うにゃん!」

 

選評

 ショートショートのお手本のような作品で、切れのいいオチが見事でした。猫って放っておかれるとけっこう拗ねますよね…。

   

『とんだバカンス』

ひなた
作品を読む

 出かけると言うと、母さんが友達の分までランチを作ってくれた。水筒を持って、一張羅を身にまとい、意気揚々と出発する。

 「南の島にバカンスに行こうぜ!」

 仲間を誘うと、みんな喜んでついてきた。四人で長い道のりを歩き、船をチャーターして海を渡った。晴れた空、青い海、白い砂浜。船を飛び降りると、思わず「すっげー!」と叫んで走り出していた。みんな船を下りると、砂に足を取られながらも懸命に追いかけてくる。砂浜を駆け抜けると声を上げた。

「早く来いよ! 探険しようぜ!」

 うっそうと生い茂る木々の中へと入っていく。実はこの島、お宝を隠し持った連中が住んでいるという噂があった。その噂を聞いてこの島に来ることを決めたのだ。

 不意に、木々の間に人影が過った。誰だ、と問いかけるが、返事はない。代わりに、木の上から、奇声を発しながら飛び降りてくる男がいた。男は棍棒を振り上げる。

 出かけに父さんが護身用に持たせてくれたサバイバルナイフを抜いて、棍棒を受け止めた。だが、別の方向からもガサガサと草木をかき分けてくる影がある。そちらの男は鎖鎌を持っていた。蹴り飛ばしてやったが、すぐに起き上がる。さらに別の男が現れる。絶体絶命とはまさにこのこと。右からも左からも人影が現れ、あっという間に取り囲まれてしまった。逃げる隙がない。

 その時だ。一緒についてきた仲間が飛び出してきた。飛びつき、かみつき、ひっかいて、あっという間に男たちをやっつけてくれた。

  敵を全て倒した後、男たちの一人に目をやった。まだ息があるようだ。抱き起こし、水筒からコップに水を入れて飲ませてやると「お前、何者だ?」と、一緒にいた仲間のイヌ、サル、キジを順に見ながら男は呟いた。

「俺か? 俺の名前は——桃太郎」

 青い顔をした男は、そうか、お前があの……と言って、再び気を失った。

 

選評

こちらも最後の種明かしで思わずうなった作品。ちなみにあらすじ大賞でも桃太郎ネタが受賞してましたが別に(て)が桃太郎好きというわけではありません。

   

『グッドラック・エース』

森野 塁
作品を読む

 潜伏を始めてこれで五日目。絶体絶命だ。

 秘宝《女神の杯》を片手に、今頃は祝杯をあげているはずだったのに、どれもこれもあの間抜けな運転手のせいだ。

 計画は完璧だった。博物館に移される情報を聞きつけ、警備会社に偽名で就職までして移送車の警備に当たった。相棒と共に運転手役の男と共謀し移送車ごと盗んだまでは良かったが、山道でカーブを曲がり切れずに崖から海に転落。俺たちは何とか助かったが、運転手と《女神の杯》はまだ見つかっていない。

 「ジョーカーから連絡は?」

 「ないね。エース、来週はバカンスだよ。今からどこ行きたいか考えといて」

 相棒のジャックは、今日もスマホ片手に呑気な顔だ。こいつは昔から事の重大さってものを理解しない。正真正銘のアホだ。

 「お前馬鹿? 秘宝を回収しないと、ボスに殺されるぞ」

 「女神のコップだったら心配いらないよ。買っといたから」

 「買っといた?」

 スマホの画面には、決済方法のやり取りなどが出ている。オークションのようだ。そこに映る写真は間違いなく《女神の杯》だった。

 「どういうことだ!? ジョーカーの仕業か」

 「親切な人が海から拾って出品したんじゃないの? もう送ってくれたって。ほら、今日中にコップは届きますよってメール来てる」

 狐につままれたような気持ちで、俺は改めてスマホを覗き込んだ。そこには出品者とのやりとりが残っている。最後のメールは今から十分前。文面を読み始めたところで、呼び鈴が鳴った。赤く点滅する光が窓から室内に射しこんでくる。

 「あ、届いたみたい。はーい、今開けます」

 「待て、ジャック……!」

 スペルも分からないアホと組んだ俺がいけない。メールには、警察(COP)を送ると書いてあったのだ。

 

選評

「コップ」=「刑事(COP)」ネタはいくつかありましたが、杯をコップと言い換えてからの2段オチが決まったのが勝因でした。

   

『マジック』

葉瀬かのこ
作品を読む

 トラフォード氏は手品師だ。今はさびれた温泉街で、酔客相手にさえない出し物をやるだけだが、若いころは派手な仕掛けで大いに観客を沸かせたものだった。

 バカンスシーズンを迎えたある日のこと。飲泉所で居合わせた客に、ここは湯の温度が低くて温泉卵はできないんだってね、と残念そうに言われた。コップに汲んだ温泉をちびちび飲んでいたトラフォード氏は、それを聞いた瞬間ひらめいた。

 さっそく次の日、バスケット一杯の卵を抱えて温泉の湧き出し口のある山へとやってきた。ここならふもとの街とは違って、お湯も蒸気もかなり熱そうだ。立ち入り禁止のロープをくぐり、大量の蒸気が立ちのぼる岩場を目指した。

突然、足もとの地面がくずれ、あっと言う間もなくトラフォード氏は地下の空洞に飲みこまれた。絶体絶命かと思われたが、幸い落ちた先は積もった砂の上だったので、ケガをせずにすんだ。トラフォード氏はほっと胸をなでおろした。

 「よかった。卵も無事だ」

 「卵ですって?」

 奧からかぼそい女の声がした。誰かいるのか。湯気と熱気が充満するなかを、トラフォード氏は声のする方へ向かった。そこには太い鎖につながれた娘が、ぐったりと横たわっていた。娘は弱々しい声で、ひもじくて死にそうだと訴えた。トラフォード氏がバスケットを渡すと、娘は三ダースほどの卵を次々丸飲みにした。すっかり平らげた娘は礼を言い、身の上を語り始めた。

  「父は昔、名髙きお方に殺されたドラゴンです。そのとき私も捕らえられ、ずっとこの洞窟に閉じこめられているのです」

 「なんと気の毒に。すぐに枷を外して自由になろう。今はもう中世じゃない」

 娘はうなずき、破れた衣の裾から鱗のある長い尾を伸ばした。それを見たとたん、トラフォード氏はまたもやひらめいた。

 「君、火は吐けるかね。少しなら? よろしい。元気になったら私と組んでショーをやろう。お客に正真正銘のマジックを見せてやろうじゃないか」

 

選評

最後まで展開が読めず、引き込まれました。てっきりドラゴンの吐く炎で卵茹でるつもりなのかと…(黒焦げですやん!)

   

『バカンス・コップ・絶体絶命』

世理ナズナ
作品を読む

 僕の彼女、小説家志望なんだ。まだ芽は出てないけど、毎日すっごく頑張ってる。

 いろんな作家の本を片っ端から読んでるのはもちろんだし、書く題材のことは丹念に調べ上げる。なんなら実践だってためらわない。読者を虜にする魅力的な小説を書くためには、きちんとその内容を自分のものにしてなきゃいけないというのが持論だ。えらいよね。

 あ、ちなみに彼女が書いてるのはホラーサスペンス小説だ。人とかいっぱい死ぬ。

ここ最近スランプ気味だった彼女は、まったく路線の違う少女小説にもチャレンジを始めた。その投稿先で募集している、三題噺コンテストに応募すると意気込んでいる。

 三題噺のお題は「バカンス」、「コップ」、そして「絶体絶命」。

 「創作意欲が湧いたから、取材がてら一緒に旅行に行かない?」って誘いに来た彼女はとっても可愛かったけど、でも僕は今、そりゃいいね取材も協力するよとウキウキ答えた過去の自分の頭をしこたまぶん殴りたい。

 うん、創作意欲が湧いたのはロマンティック恋愛少女小説じゃなくて、いつもの人死にホラーの方だったんだね。僕がバカでした。

 僕は知ってる。彼女が尊敬する作家の大好きな作品を。本のページがボロボロになるまで読み込まれてて、私もいつかこんな話が書けるようになりたいってよく言ってる。

  バカンス先で手錠に繋がれちゃったヒロインが、その絶体絶命のピンチをコップを使って切り抜ける、ってストーリー。

 どうやったか知りたい?

 そのヒロインは、コップの破片で自分の手首を切って、流れる血を潤滑剤にして手錠から抜け出したんだ!

 ……あの、僕からのささやかな提案だけどね?その三題噺、恋愛ものにしない?ダメ?

 

選評

三題噺のメタネタは、ネタ切れのようにも見えて評価が難しいのですが、本作品はさらに一ひねりあったのがよかったです。

   

『特別休暇』

黒羽 玄
作品を読む

 「先輩、乗務員さんを呼んでもらっていいですか。わたし、窓際なんで呼びづらいんで」

 「また? あんた、コップに何杯ジュース飲むの? この飛行機のジュース全種類全部飲み切る勢いじゃない。トイレが近くなるわよ」

 「だってタダですから! 食事もタダ、ジュースもタダ、死神勤続五年のご褒美最高です! 一歩間違えば自分も死んじゃう現場で頑張り続けてよかった。涙が出そうです」

 「うん、まあ、そんな危険な職場の怪しい上司がくれた特別休暇なんだけどね……」

 「いいじゃないですか、南の楽園! 思いっきり楽しみましょう。実はわたし、もう下着と水着を『置換』してるんです、服の下」

 「あんた、自分の特殊能力をそんなことに」

 ——お客様にご案内いたします。当機にトラブルが発生いたしました。酸素マスクを着用になり、乗務員の指示に従ってください。

 「先輩、なんか大変です、映画みたいです!」

  「……冗談じゃないわよ! いま最新の死亡通信来たけど、この便、燃料漏れでエンジンに引火、墜落予定よ! 休暇中で死の鎌がないから、死神だって爆発炎上したら死ぬわ!」

 「絶体絶命じゃないですか! しかもトイレに行きたくなりました! 絶体絶命です!」

 「絶体絶命って二回も元気よく言うな!」

 「駄目です、限界です、コップコップを」

 ***

 「なんとか無事に着陸できましたね、先輩」

 「あんたが空にしたジュースタンクの空気と漏れた燃料を『置換』できて良かった。燃料はタンクに入ったし、トイレも間に合ったし」

 「先輩、部長からメールが一通来てます」

 ——現実の死と隣り合わせ、死神冥利に尽きる最高のご褒美でしたね。じゃあ、帰国して下さい。ちなみに宿はとってありません。

 「え、これで南国バカンス終了なんですか?」

 「まさに、馬鹿んす……って、寒いわ!」

 

選評

すみません……バカバカしいものと一発ギャグが大好きなんです……本当にすみません……。(※褒めてますよ)

 

選外佳作

作者名五十音順

『撃たない理由』 安藤和秋 / 『他力の対価』 川瀬七貴 / 『ナンパと砂遊び』 川瀬七貴 / 『金魚すくい』 桐一兵衛 / 『パスワード』 紫藤市 / 『なむなむバザラダンカン!』 月原たぬき / 『100均の恋』 ホワイト / 『スナック愛で会いましょう』 みうらまさゆき / 『運命のシーサー』 宮条優樹

関連サイト

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