かける

がんばるor頑張らない女性小説賞 選考結果発表

TVドラマ化もした「これは経費で落ちません!」の著者・青木祐子さんを選者に迎えて開催した当賞は、「がんばる女性、がんばらない女性」をテーマとした作品を募りました。やや「広い」と思える設定でしたが、入選作は果たしてこのテーマをどのように描いたのでしょうか。青木祐子さんの選評とともに、入選作を発表します。

大賞,賞金3万円

『この梅酒が漬かる頃には』

木爾チレン

『宇宙生物ガンバラナイ』

七ツ樹七香

最終選考作品

『優しくて強かで脆くて弱い』 結咲りと

『佳菜ちゃんと私』 藤村知郷

『世界は君のためにある』 黒瀬かすみ

『私の知らないあなたの世界で』 おちくま情

講評 青木祐子

青木祐子です。今回、「がんばる女性 or がんばらない女性」短編小説公募の、最終審査の一角を担いました。よろしくお願いいたします。以下、講評をさせていただきます。

『優しくて強かで脆くて弱い』 結咲りと

 満ち足りているように見える女性が内心では鬱屈を抱えている、というテーマ。読みやすかったですが、どこが不満なのかわからないという意見が出ました。
 主人公に共感できないのは、キャラクターの関係性や内面を台詞や文章で説明していて、納得できるエピソードがないからだと思います。主人公の仕事や趣味についてもしっくり来ません。なぜライターなのか、なぜゴッホなのか、なぜ友人は主人公をこんなに好きなのか。もっと掘り下げてみるといいと思います。

『佳菜ちゃんと私』 藤村知郷

 全体的に冗長です。エンタテインメントの短編小説で、家庭内の狭い話となると、描写よりも会話主体で運んだほうがいいような気がしました。
 ……と最初読んだときは思ったのですが、二度目に読み返すと、意外といい作品かも? と。
 劇的ではないけれども、この小さな変化が大きなことだったのだろうと思わせる終わり方。ごく普通の家庭にある小さなズレの雰囲気、ゆったりした空気感があります。
 余談ですが、こういう「大きな欠点はないが、印象に残らない」タイプの小説が、壁を打破するにはどうしたらいいのか? という話題になりました。
 わたしならこうするというのはありますが、他人を真似たところでうまくいくものではありません。これは本人が書いて書いて見つけ出すしかない、としか答えられなかったです。
個人的には欠点を潰すのではなく、美点、個性を伸ばしていくほうがいいと思います。

『世界は君のためにある』 黒瀬かすみ

 動きのある作品で、推した方もいました。わたしは評価しなかった側です。
 ひっかかったのが、彼女が自分の力で何かをしたわけではないということ。いわゆる受け身、巻き込まれ型の主人公で、いろいろ起こるようでいて、実は主人公は流されるままに動いているだけです。
 何かひとつでも自分から決意した、行動した、そのことによって変化が起こったというエピソードがあればよかったと思います。
 しかし、可哀想な主人公が正しい人に見つけ出されて救われるという話はむしろ王道です。自分はこういうストーリーが好きだ、書くという意志があるならば、青木の意見など気にしてはいけません。巻き込まれ型の小説を極めていただきたいと思います。

『私の知らないあなたの世界で』 おちくま情

 こういうのはずるいなあ、という話になりました。泣けます。
 一人称が生きていて、なめらかに読めます。しかしキャラクターが弱い。同性愛者や苦労人の母親について、一般的な浅いイメージの人物や設定を配置したように見えます。
 母親の感性についてはむしろ、母親を「祖母」にしたらぴったりではないか? という話になりました。
 人を描く小説であるならば、キャラクターや設定を記号にしないほうがいいです。彼ならではの個性のあるエピソードがあればよかったと思います。

『この梅酒が漬かる頃には』 木爾チレン

 この話、好きなんですよ。
 婚約者と別れて島に来た女性が、幼なじみの男性と会い、明日へ向かって踏み出す。
 それだけの話で、選考でも「何も起こらない」「自業自得なので同情できない」「キャラクターの掘り下げが足りない」という声がありました。その通りだと思います。
 でも好きなんですよ、わたしは。
 細かく見れば指摘するべきところはあるけれども。半端に修正するくらいならこのままがいいです。
 台詞回しが良い。教訓めいたことを押しつけがましくなく入れるのもうまいと思います。

『宇宙生物ガンバラナイ』 七ツ樹七香

 面白かったです。
 文章、構成にリズムがあって退屈しません。ところどころに面白い表現があって、そういうのがひょっと出てくると、読むほうものってきます。主人公も明るくて楽しいです。この子には何かあるなと思わせておいて、運動神経がよかったのは意味があった、頑張らないことを頑張った、というオチも逆説的で、時事的な皮肉がきいていると思います。
 ひとつ指摘するなら、宇宙生物をガンバラナイという名前にする必要はなかった。不自然な名前ですし、コロナウイルスの暗喩であることは明白なので、他にそれらしい名前をつけるか、単に宇宙生物にしてぼかしておいたほうがよかったと思います。

 厳しいことも述べましたが、最終作の六作品、すべて面白く読みました。
 大賞の二作については完成度が高く、満足しています。
 解釈がそれぞれ違い、かつ前向きな作品ばかりで、思いがけずいいテーマだったと思います。
 読み切りの短編はいいですね。読むのも書くのも好きです。最終作品の選考は初めてで緊張しましたが、わたしにとっても勉強になりました。
 ありがとうございました。

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