かける

「書きたい」あなたを応援するスペシャルコンテンツ

小説を書くためのプチアドバイス by三浦しをん

「小説を書きたい」すべての人必見のスペシャルコンテンツ登場!
「短編小説新人賞」の選者として、毎回投稿作品に対し、厳しくも愛情あふれるコメントを寄せてくれる
三浦しをん先生が、小説を書くために押さえておきたい「お作法」を教えてくれます。

第4回「30枚の短編小説。その構成は、どうやって考えればいい?(後編)」

前回、「30枚の短編」の構成の立てかたについて考えてみましたが、やや抽象的というか、わかりにくいかなという気もしたので、今回は実例を挙げて発想や構成を説明します。
例にするのは、はばかりながら、自作『星くずドライブ』(『天国旅行』所収・新潮文庫)です。これは50枚の短編ですが、まあ発想や構成において、30枚の場合と大差ないだろうと思います。
あ、「『星くずドライブ』を読め」ということではないです(気が向かれましたら、お手に取ってみてくださいね←小声)。ざっくりとあらすじを説明します。

『星くずドライブ』は、学園都市で暮らしている大学生の男女の話です。語り手の「僕」は、彼女の香那とアパートで半同棲生活を送っています。ある晩、いつものように香那が部屋に訪ねてくるのですが、食欲がないのか、僕が用意した夕飯に手をつけません。変だなと思いつつ就寝し、翌朝、一緒に大学へ行ったところ、どうやら友人には香那の姿が見えていないようなのです。

実は、香那は前夜、僕のアパートへ来る途中で車にはねられ、幽霊になっていたのです。僕は幼いころから、幽霊を実体のように鮮明に見ることのできる能力を持っていたため、まさか香那が霊体だとは思わずに接してしまっていたのでした。
僕は幽霊の香那とともに、香那が生きていたころと変わらぬ暮らしをしますが、二人のあいだには微妙な隙間風が吹きはじめます。僕は香那に「取り憑かれた」状態ですから、このまま香那に「監視」され、新しい恋愛も結婚もできないのかなあ、なんて考えます。香那は香那で、自分の姿を見ることができるのも、会話を交わせるのも、僕しかいません。僕を頼るしかない状況に、幽霊ながら心もとなさを感じています。
そんなある日、ひょんなことから、香那は時速八十キロ以上のスピードで移動すると、霊体を保っていられず雲散霧消してしまうことが発覚しました。僕は、百二十キロぐらいスピードを出したいなあと思いながらも、実行には移さず、幽霊の香那を助手席に乗せて車を走らせるのでした。

こうしてあらすじを書くと、バカみたいな話ですな……。それはともかく、この小説をどう発想し、構成を立てたか、記憶をたどってみます。

小説を書くよりも何年かまえ、私はお世話になったかた(故人)にぼんやり思いを馳せていました。「亡くなってけっこう経つけれど、たまにこうして思い出してしまうなあ。たとえば、さして親しくなかった同級生(存命中)のこととか、まったく思い出さないのに」と考え、「とすると、生者と死者のちがいって、なんだろう。親しくなかった同級生からしてみれば、私だって、死者よりも遠い存在だろう」と、なんとなく不思議な気持ちにとらわれたのでした。
この気持ちを小説にしたいなと思っていたところ、数年経って、折良く短編の依頼(しかも「心中」というテーマで)が来たので、「よっしゃ」と実作に取りかかることにしました。

まず、前述の「気持ち」を短編の「肝」に据えることに決めます。前回説明したパターンでいうと、私は「二」の、「登場人物に関しては曖昧で、むしろ『ある感情』だったり、作品の雰囲気や主題のようなものだったりが思い浮かんでいる」派なので、このように「気持ち」を短編の「肝」にして、発想していくことが多いのです。
次に、その気持ちを物語として表現するために、どんな登場人物にするのがいいかを考えました。私は以前から、なぜ幽霊が見えるひとがいるのか、そのひとたちにとって、世界や死はどう映っているのか、とても関心があります。そこで、主人公は幽霊が見えるひとにしよう、と思いました。小説の雰囲気としては、ちょっとユーモラスだけど、うつくしく切なくこわくもある話にしたいから、きらめく青春感満載の、大学生がいい。では、幽霊になってしまうのは、主人公の恋人である大学生ということにしよう。
そこでちょっと思考が止まりました。恋人の死因はなんだろう。病死だと、看病についてとか、またべつの描写が必要になってくるかもしれず、書きたい「肝」とややずれるおそれがある。突発的な事故、車にはねられるとかかな……。

死因についてはひとまずおいて、小説の舞台となる場所を考えてみることにしました。私の友人は、筑波研究学園都市に住んでいたことがあり、私も遊びにいきました。非常に広大かつ人工的な街で、大学へ通うために、学生さんも車が必須、という感じでした(構内を移動するのも大変な広さなのです)。しかし、ちょっと車を走らせれば、豊かな自然も残っています。
生者と死者のあわいを描くのに、ぴったりだ。車社会だし、恋人が不幸にも車にはねられて亡くなるというのも、そう不自然ではないのではないか。よし、筑波研究学園都市らしき街を舞台にしよう。
すると、またいろいろ発想が湧いてきて、主人公と恋人が、恋人の生前も死後もよくドライブしていること、一定以上のスピードに恋人の霊体が持ちこたえられないことなど、設定がどんどん決まりました。

ここまで脳内で考えるのに、たぶん五分とかかっていません。当時のネタ帳を見ますと、「英太、紗絵 一人称 星くずドライブ」とだけ書いてあります。構成立ててないじゃないか! しかも登場人物の名前、できあがった小説とちがうじゃないか!(作中では、「僕」は「英ちゃん」と呼ばれています。構想段階では「紗絵」だったのに、作中で「香那」にしたのは、「カナ」のほうが響きが鋭角かつ悲しげだからです)
短編の場合、実際に紙に構成を記さずに書きはじめてしまうこともあります。ただ、これは頭のなかでかなり道筋が見えているときに限ります。

『星くずドライブ』のケースでは、肝となる気持ちははっきりしており、「一定以上のスピードに霊体が持ちこたえられない」という設定を思いついた時点で、ラストも決まりました。舞台も、行ったことがある場所をモデルにすることにしたので、イメージしやすい。あとは、50枚という枚数に収まるように、できるかぎりテンポよく話を進めればいい。細かい説明をしている暇はないので、もう一行目からズバリと行こう。
つまり、「まずは『肝』を定める→それを活かす登場人物や舞台を定める→すると細かい設定がどんどん浮かんできた→枚数に収めるためには、冒頭からズバリと行こう」という順で発想し、(脳内で)構成を立てたわけです。

『星くずドライブ』の冒頭の一文は、こうです。


 まったく迂闊ではあるが、僕は香那が死んでしまったことにしばらく気づかなかった。

ズバリ、です。しかし、香那が幽霊であるということまでは明かしておらず、「なになに、どういうこと? これから香那って子が死ぬのかな?」と、一応読者のかたの興味を引ける冒頭なのではないかと思います(たぶん)。
僕と香那(幽霊)の生活やら、周囲のひとたちとのあれこれやらを描写しつつ、三十枚目あたり(つまり、全体の半分よりちょっとあと)で、書きたいと思っていた肝の部分が来ます。


 顔も名前も知らない、道で行きあっても幽霊みたいに互いに目もくれずに過ぎていく大半のひと。彼らにとって僕は死者に等しいし、僕にとっての彼らも同じくだ。そんなふうに考えながら夜の街を眺めおろすと、すでにあの世にいるような気分になってくる。

ここからは一気にラストへ突入です。二人のあいだに微妙に不穏な空気が流れるようになる。間の悪いことに、香那が八十キロ以上のスピードに持ちこたえられないことも発覚する。ラストは、こうです。


 香那に残った『好き』という気持ちは、いずれ薄らいでいくものなのだろうか。気持ちが消えたとき、香那も完全にこの世から消えるのだろうか。その日が早く来てほしいようにも、せめて僕の鼓動が止まるまでは消えずにいてほしいようにも思いながら、星空のもと車を走らせる。

いかがでしょうか。「冒頭(読者への引きと、説明に割く枚数をなるべく減らすために、キレ味重視)→肝(ストーリーが展開するシーンや、登場人物の感情が高まるシーン。中盤以降に持ってくる)→ラスト(余韻、あるいはオチ)」という、短編の構成の常道を踏まえていることが、おわかりいただけたでしょうか。自作を例に挙げてしまったがゆえに、「踏まえたからといって、うまくいくとはかぎらないんだな、ということがわかった」って感じかもしれませんが。面目ない。素晴らしい短編が世の中にはたくさんありますので、いろいろ研究してみてください。

もちろん、あえて常道(=型)ではない構成にしてもいいのです。私も、『星くずドライブ』を書くとき、「常道とは」なんて考えずに構成を立てました。しかしなぜか、自然と構成の基本ラインを採ってしまっている。不思議ですね~。「中盤よりちょっとあとに肝が来ると、ちょうどいい」など、物語のリズムのようなものがあるのかもしれませんね。

みなさまが短編を発想、構成される際に、少しでもご参考になれば幸いです。

三浦しをん(みうらしをん)

東京都出身。2000年に「格闘する者に◯」でデビュー。2006年「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞受賞。2012年「舟を編む」で本屋大賞を受賞。最新刊は「あの家に暮らす四人の女」(中央公論新社)。

短編小説新人賞 応募

関連サイト

e!集英社
コバルト編集部ブログ
ウルンジャー書店
マーガレットブックストア
ダッシュエックス文庫
ファッション通販サイト FLAG SHOP(フラッグショップ)