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小説を書くためのプチアドバイス by三浦しをん

「小説を書きたい」すべての人必見のスペシャルコンテンツ登場!
「短編小説新人賞」の選者として、毎回投稿作品に対し、厳しくも愛情あふれるコメントを寄せてくれる
三浦しをん先生が、小説を書くために押さえておきたい「お作法」を教えてくれます。

第13回「物語の舞台を描写するときは『情報の取捨選択』が重要!」

 原稿書いてる場合じゃねえ、MUGENだ!(訳:コンサートチケット取るのに忙しくて締め切りに遅れます!)

 ……すみません、なるべくちゃんと仕事します。
 夜ごと友人たちと、「どの会場から申しこんだらチケット当選しやすいか」の戦略を練る今日このごろですが、みなさまはいかがお過ごしですか? 私は、いまなら城を攻め落とせるかもという勢いで脳みそ回転させてます。諸葛亮と呼んでくれてもいいんだぜ。この諸葛亮、連戦連敗ですがね。チケット争奪のいくさ、激しい……! みんな希望の地にたどりつけますように!
 
 さて今回は、担当F氏が提案してくださったお題について考えてみます。F氏曰く、
「舞台設定(建物や街)の、矛盾のない書きかたを教えてください」
 とのことなのですが……。それ、私に聞く!? 校閲さんから毎回、「和室部分が異次元空間にあるとしか思えない間取りになっているのでは?」といったご指摘をいただき、自作を映像化していただいた際には、大道具さんや美術さんから、「階段どこにあるんですか?」「ここに物干し台って無理だから!」とあきれられてきたのに!?

 とはいえ私も、一応は小説を書くまえに、間取り図とか地図とか作っています。空間把握能力に欠け、脳内で立体物を構築するのが著しく不得手なため、結果的に「トンデモ建物」や「トンデモ街」な描写になってしまっているだけで。……残念。
 作中に登場する主要な部屋や家については、事前に間取り図を描いておき、ドアや窓の位置、家具の配置などを決めておいたほうがいいと思います。もちろん、外観や内装のムードも、必要に応じて絵に描いたり、参考になる写真を眺めたりして、ある程度は脳内で固めておきましょう。

 それらすべてを、作中で文章化(=描写・説明)するわけではないですが、作者自身が部屋や家のイメージをつかんでおくのが大切です。イメージがはっきりしていれば、「ぼんやり描写」を避けることができると同時に、「どこを文章で描写し、どこを読者の想像に委ねるかの選別」も的確にできるようになるからです。
 間取り図を描く際に肝心なのは、「スケール感」です。たとえば、部屋の詳細な間取り図を描いたとしても、その一室が「小学校の運動場ぐらい」なのか「六畳」なのかを、作者がちゃんと把握していなければ、文章化するときにやっぱり「ぼんやり描写」になってしまいます。「ドアから部屋の奥まで、何歩ぐらい」とか、「何畳ぐらいの部屋」とか、間取り図を描きながら、スケールも脳内で固めましょう。

 こうして作成した間取り図をもとに、室内や家屋について文章で説明・描写する局面に差しかかった。このときに肝心なのが、「どこを文章で描写し、どこを読者の想像に委ねるかの選別」です。
 部屋にある家具や、その配置を、いちいち説明していては話がさきに進みません。写真や映像だったら、「どういう部屋で、どこにどんな家具があるのか」を、ほとんど一瞬で伝えられます。しかし小説は、文章のみで表現するものです。読者の想像に適宜委ねつつ、作品にとって大切だと作者が判断する部分(「このベッドに注目してください」「こういう雰囲気の部屋なんです」)へと、さりげなく読者の注意を誘導する必要があります。小説における描写とは、「事細かに説明すること」ではありません。読者の想像力をよりかきたてるための、「材料」なのです。

 小説において、「写真や映像のように、細部まで忠実に文章でスケッチする」のは、実は描写ではない、と私は思います。「文章を通して読者の想像力が刺激され、写真や映像のように人物や場面が脳内に浮かんでくる」のが、うまい描写なのです。
「読む」というのは、積極性を求められる行為です。読者は積極的に、小説の文章からなにかを汲み取ろう、感じ取ろうとしつつ、読んでくれているのです。そういう読者の想像力を信頼し、委ねる勇気を持ちましょう。
 つまり、なにもかもをのっぺりと文章で説明するのではなく、写真で言えば「ピントを合わせる」感じ、映像で言えば「編集する」感じで、「ここ!」という部分や雰囲気を読者に伝える。「ここ!」を自信を持って選択するために、事前の間取り図作成やイメージの把握は大切なのです。
 ぴったりの例とは言えないかもしれませんが、拙著『あの家に暮らす四人の女』(6月下旬に中公文庫になる予定だよ。小声でCMでした)から、室内の描写を挙げます。


 佐知の部屋は西と南に窓があり、位置を高くしつつある日が後者から差しこんでまぶしかったが、カーテンを閉めもせず眠りに落ちた。
 濡れた頭にバスタオルを巻き、ベッドに突っ伏して眠る佐知は、巨大なこけしのようだった。しかし、その姿を目撃した生あるものは、ちょうど窓の外を羽ばたいてよぎったカラスのみだった。

 主人公の佐知の部屋は、「二階の角にある」という設定です。そのため、二方向に窓があります。私の脳内では、部屋のドアを開けて右手に西向きの窓、正面に南向きの窓、左手の壁際に机、ベッドは頭のほうの短辺が南向きの窓に接し、長辺の片方は西向きの窓に接している、とイメージされています。
 しかし、そこまで綿密な説明は必要ない、と判断しました。この場面で読者に伝えたい肝心な部分は、「佐知は布団を敷くのではなく、ベッドで寝ている」「ベッドは窓辺にあるらしい」「表を飛ぶカラスの目から、ベッドにいる佐知が見える位置らしい(なぜこれが肝心なのかというと、のちのちカラスが話の展開にかかわってくるので)」ということだからです。

 たとえば、
「佐知はベッドに突進した。部屋のドアを開けて、右手にあるベッドだ。ベッドは南向きの窓と西向きの窓の角にはまりこむように置いてあって」
 などと書いてしまうと、いきなり情報がいっぱい押し寄せることになり、読者は混乱します。「描写」ではなく、読者が想像力を発揮する余地のない「説明」になってしまっている、ということです。

 読者が混乱する一因は、「佐知はベッドに突進した。部屋のドアを開けて、右手にあるベッドだ。」という情報提示の段取りのまずさにもあります。
「佐知はベッドに突進した。」という一文を読んだ瞬間、読者はそれぞれの脳内で、ベッドの位置を想像します。ドアを開けて正面にあるのか、右手にあるのか、左手にあるのか、読者は思い思いに「絵」を描くのです。
 ところが次の一文で、「部屋のドアを開けて、右手にあるベッドだ。」と明かされる。すると、正面や左手にベッドがあると想像していた読者は、脳内で描いた「絵」の修正をしなければなりません。これは非常に疲れることだし、何度も修正を要求されたら、「なんだこの小説。ちっとも『絵』が浮かばない」とイライラしてくるでしょう。
 だから、ある程度は読者の想像に委ね、伝えたいところをうまく取捨選択して、「描写」することが大事なのです。

 街についても同様です。
 架空の街ならばなおさらに、事前に地図を描くなどして、イメージをつかんでおきましょう。その際もやっぱり、「スケール感」を意識します。たとえば、通りの端から端まで歩くと何分かかるのか。街Aから街Bまで何キロあって、徒歩あるいは乗り物でどのぐらい移動時間がかかるのか。
 こういうスケール感をつかむためには、地図を眺める習慣をつけるのがいいと思います。「最寄り駅から会社まで、電車で三十分かかるけど、距離は何キロぐらいなのかな」「家から最寄り駅まで、歩いて十五分かかるけど、距離は何キロぐらいなのかな」と地図で確認し、作中で街などを設定するときの指標にするのです。「一時間歩いた移動距離は、だいたい四キロぐらい」といったことも、体感ないし把握しておけば、説得力のある「街づくり」ができます。

 そうだ、建物や室内、街などの描写について研究するには、特に「本格ミステリ」を読むことが有効ではないか、と私は思っています。まあ、研究のために読んでるのではなく、ただ単に好きだから読んでるのですが。しかし、「描写の勉強になるなあ」と感じることが多いのも事実です。
 なぜなら本格ミステリではしばしば、嵐で島が孤立したり、吹雪で山荘に閉じこめられたりするからです。そこで殺人が起きるわけですが、「孤立した島内の、どこにどんな建物があって、どういうふうに道が通っているか」とか、「山荘の間取りはどうなっていて、どの部屋にだれが泊まっているか」とかが、ものすごく的確に描写される。状況がちゃんと説明され、情報提示がフェアに行われてこそ、読者は探偵と一緒になって、「だれが犯人なんだろう」と推理することができるのです。
 そのため本格ミステリでは、建物や街の描写が比較的緻密かつ、「どこを文章で描写し、どこを読者の想像に委ねるかの選別」がものすごく洗練されているのだと思います。「読者の脳内に『絵』が浮かぶような描写が、なかなかできないなあ」とお悩みのかたは、ぜひ本格ミステリをお読みになってみてください。

三浦しをん(みうらしをん)

東京都出身。2000年に「格闘する者に◯」でデビュー。2006年「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞受賞。2012年「舟を編む」で本屋大賞を受賞。最新刊は「あの家に暮らす四人の女」(中央公論新社)。

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