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小説を書くためのプチアドバイス by三浦しをん

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「短編小説新人賞」の選者として、毎回投稿作品に対し、厳しくも愛情あふれるコメントを寄せてくれる
三浦しをん先生が、小説を書くために押さえておきたい「お作法」を教えてくれます。

第14回 小説を書くための「取材」で、覚えておきたい3つのポイント

 おい、もうとろけそうだぜ。なんとかならんのかこの暑さ。毎年、極力冷房をつけずに夏を乗りきってきたのですが、今年はさすがに命にかかわるなと思い、冷房のお力を借りて就寝しています。
 そうしたら永眠という勢いでよく眠れる! 一日十四時間ぐらい寝ちゃう! かえって生命の危機!? 冷房をつけたうえで、毛布にくるまって眠るのって極楽ですな。サウナの直後に水風呂に入るみたいな、「じゃあ最初から適温の湯に浸かってればよかったんじゃ……」的矛盾(?)を感じもするのですが、しかし気持ちいい。やめられない!
 というわけで、睡眠に大幅に時間を取られるので、仕事がまったく進みません。すべて夏のせいだ。

 さて今回は、「小説の取材方法」について考えてみます。
 私は実在する芸能や職業を題材にした小説を書くことがあるので、「どうやって取材してるんですか?」「取材してみたい職業があるのですが、ツテがない場合はどうしたらいいですか?」と、小説家を志すかたから、たまに質問をいただきます。たしかに、「たまたま知りあいが就いている職業に興味を抱いた」というケースでもないかぎり、ツテはゼロの段階から取材をはじめなければなりません。

 すでに小説家としてデビューし、担当編集者がついてくれている場合は、編集さんを通して該当の職業に就いているひとを探してもらい、取材の申しこみも編集さんを通して打診してもらうってことも可能でしょう。ただ、作者がそこまで受け身(編集さん任せ)な姿勢だと、あまりうまくいかない気がします。実際に取材し、取材相手になるべく心を開いてもらえるように話をうかがうのは、作者本人ですから。

 なので、「書きたい」と思う職業などがあって取材するとき、小説家としてデビューしていようといまいと、方法や条件はほぼ変わらないのではないかと思います。私の場合はどうしているかを説明しますね。ご参考になれば幸いです。

 たとえば、『風が強く吹いている』という箱根駅伝を題材にした小説を書いたとき(新潮文庫になってるよ。小声でCMでした)。「箱根駅伝の小説を書きたい!」と思ったのは、小説家として本を一冊出しただけの、デビュー直後のことでした。当然、ツテはなにもない。箱根駅伝に出場したひとが身近にいないのはもとより、「担当編集者」という概念すらもほぼない状態です。
 では、どうしたか。「箱根駅伝の小説を書きたい」と、まわりに言いふらしまくりました。ここが肝心です。「ツテがないな」と思ったらとにかく、「知りあいに○○の関係はいませんか?」と周囲に聞くのです。相当めずらしい職業などであっても、数を打っていれば必ず、「それなら、知りあいの親戚にいたはず」といった反応がいつかは返ってくるはずです。「友だちの友だちはみな友だちだ」戦法です。

 私は運よく、わりとすぐにツテが見つかりました。学生時代にアルバイトをしていた本屋の店長さんが、箱根駅伝観戦が好きだったのです。しかもその本屋さんでちょうど、大学で長距離をやっている女性がバイトをしていることが判明。彼女はかなり有望な長距離選手で、本格的に競技に打ちこんでいる子だったので、長距離走についていろいろ教えてもらえました。練習も見せてもらいましたし、箱根に出たことのある実業団の選手とも知りあいだったので、紹介してもらうことができました。

 紹介してもらってなにをしたかというと、みんなでわいわい飲みました。「遊んでるだけじゃねえか」と思われるかもしれませんが、これも肝心なのです。言い訳じゃなく、まじで。べつに必ず飲み会をしなきゃいけないわけではありませんが、初対面の相手と手っ取り早く打ち解ける際、お酒ってわりと有効なのは事実です。楽しく飲んでしゃべっているうちに、彼らがどんなに真剣に競技に取り組んでいるか、どういう苦しみや喜びがあるのか、伝わってきました。それでますます、「やっぱり箱根駅伝の小説を書きたい」という思いが強くなりました。
 同時並行で、箱根駅伝にまつわる資料を読んだり、過去の大会のビデオを仔細に見たりしました(ビデオは本屋の店長さんが貸してくれました。箱根駅伝オタなので、毎年の大会を録画しておられたのです!)。予選会や本選にも足を運びました。
 この時点で、どこの出版社とも刊行の話はしていません。出版してもらえるかどうかわからないけれど、とにかく勝手に取材していました。「書きたい」という情熱って大事ですね……。ただ単に、箱根駅伝を知れば知るほどおもしろくて、箱根駅伝オタになってしまっただけではという気もしますが。取材においては、オタク気質の粘り腰というのも大事です。いや、言い訳じゃなくて、まじで。

 数年をかけて、資料を調べたり大会を見物したりして、どういう登場人物たちにするか、どういうストーリーラインにするかを固めました。その段階で、親しい担当編集者に、「実は、箱根駅伝の小説を書きたいと思って準備してまして」とはじめて打ち明けました。私にしては詳細なプロットなども作成し、どんな小説になりそうかを説明したのです。デビューしてから数年のあいだ、箱根駅伝の取材のかたわら、ほかの小説も書いていたので、そのころには「担当編集者」という存在も現れていたのであります。よかったよかった。
 編集さんはおおいに乗り気になってくれました。「けっこうなページ数になりそうだし、取材もまだ重ねたいから」ということで、連載ではなく書き下ろしで刊行しようと決め、そこからは編集者を通して、正式に取材の申し入れをしました。箱根駅伝は「関東学生陸上競技連盟」という団体が主催しているのですが、私のように海のものとも山のものともつかぬもんが、いきなり「取材させてくれ」と言っても、警戒なさるかもしれませんからね。出版社という「会社」を通せば、「あ、本気で取材しようとしてるんだな」と安心してもらえる場合もあります。「立ってるものは親でも会社でも使え」戦法です。

 とはいえ、さきにも述べたとおり、実際に取材するのは作者本人です。どういう大学を取材したいのか、なにを見たいのか、どんな選手に話をうかがいたいのか、方針を定めて動かなければなりません。でもま、あまりむずかしく考える必要はないと思います。「ここをもっと知りたいな」「楽しいな」という気持ちの赴くまま、しかし相手のお邪魔にならぬよう気をつけつつ、見学したりおしゃべりしたりすればいいのではないでしょうか。

ポイントをまとめます。



  • 一、とにかく言いふらして、ツテを探す。「友だちの友だちはみな友だちだ」戦法。

  • 二、資料を読んだり話を聞いたり現場に行ったりと、自分で動く。必要に応じて、「立ってるものはなんでも使う」戦法を発動する。

  • 三、相手の邪魔をせず、しかし自分の心の動きに正直に、見学したり質問したりする。

 実際に取材相手のかたと会って、お話しをうかがう際に気をつけているのが、先述のとおり、「なるべくお邪魔をしない」です。
 取材の時点では、その小説がちゃんと形になるかどうか未知数です。にもかかわらず、相手は貴重な時間を割いて取材に応じてくださっています。小説に協力する義理なんざ、なにもないというのに! 私はいつも、ありがたさと恐縮でぶるぶる震えます。
 もし私のもとに、「小説を書きたいので、取材させてください」と打診が来たら、「……え、なに? どういうこと?」とわけがわからないし、警戒すると思います。でも、これまで取材させていただいたかたはみなさん、「わけのわからなさ」と「警戒」をかなぐり捨てて、とても親切に話を聞かせてくださいました。当然ながら、私の書いた小説を読んだことがないかたも大勢いらっしゃいましたが(ていうか、むしろそれがフツーだ)、それでも一肌脱いでくださったのです。
 だから、小説家としてデビューしているか否かは、まったく関係ありません。取材相手が貴重な時間を割いてくれていることを肝に銘じて、丁重に、誠実に、お話しをうかがえば、先方も親切にいろいろ教えてくださいます。

 話をうかがう際、私はなるべく、メモを取らないようにしています。いきなりの打診で、相手はただでさえ緊張、警戒なさっているのに、いかにも「取材」なムードを醸しだすと、率直な話をしにくく、あまりうまくいかないことが多いからです。事実関係などで確認したいところがあったら、あとで改めてメールや手紙で質問すればいいのです。それよりも、相手のたたずまいや口調などに注意を払いつつ、会話に集中したほうが、実りの多い時間になる気がします。もちろん、取材が終わったら忘れないうちに、うかがった話のポイントを猛然とメモしておきましょう。

 ノンフィクションの取材や、細かい数値などが肝心となるケースなどは、またまったくべつだと思いますが、小説の取材の場合はなによりも、「相手がどんなひとなのか」を感じ取るのが大切なのではないかと思っています。小説はあくまでもフィクションなので、「取材でうかがった話を、テープ起こししたみたいにそのまま書く」ということにはならないですからね。
 あと、これまたさきに述べたとおり、もし機会があったら、一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりするのもいいと思います。なぜか人間、同じ場でしゃべりながら胃袋を動かすと打ち解けられる。不思議ですね。
「知りたいな~、楽しいな~」と感じながら取材を進めていくと、自然といいエピソードを聞けたり、思いがけない場面に出くわしたりするものです。とにかく、あまりしゃちほこばる必要はありません。相手の都合を尊重し、敬意を持って、話に耳を傾ける。「小説のために、なにかを引きださなくちゃ」とガツガツ迫るのではなく、ふだんどおり「人間と人間」のおつきあいを心がけていれば、それで大丈夫です。

 取材を通し、楽しく素晴らしい出会いがみなさまに訪れますよう、お祈りしています。

三浦しをん(みうらしをん)

東京都出身。2000年に「格闘する者に◯」でデビュー。2006年「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞受賞。2012年「舟を編む」で本屋大賞を受賞。最新刊は「ののはな通信」(KADOKAWA)、「愛なき世界」(中央公論新社)。

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