かける

短編小説新人賞

選評付き 2019年度

年間最優秀賞発表!

選評

『朱い道をなぞる先』

  • 三浦

    書道の描写がとてもリアルでよかったですし、後輩へのライバル心なども、すごくよく描けていたと思います。

  • 編集D

    部活でのスタメン争いで、水面下で心をヒリヒリさせている感じとか、すごく伝わってきました。

  • 三浦

    熱狂感と没入感がちゃんとある作品でしたよね。

  • 編集D

    悩み抜いた主人公が、深い情熱を秘めた先生から薫陶を受け、自分の進むべき道を見つけるラストは、胸にじんと来る展開でしたね。

  • 編集G

    ただ、私はこの先生が苦手だった。

  • 編集B

    私は好き(笑)。

  • 三浦

    こんなふうに先生に対する好みが分かれるのは、人物像がちゃんと結ばれているということでしょうね。生身の人間に対する評価や好悪が分かれるのと同じです。いい作品って、そういうものかなと思います。究極的に言えば、読者百人のうち一人であっても、「もう、むっちゃハートにビンビンきたわ~!」と激しく思う作品こそが、長く記憶に残っていくものなんだろうと思います。

  • 編集H

    ただ、ラストの五つの漢字は、ちゃんと書くべきでしたね。そこは本当に惜しかったです。

『君にしか見えない僕の影』

  • 編集I

    ちょっと不思議な雰囲気のお話でした。主人公は、家族も含めて、ものすごく陰惨な目に遭っているんだけど、そのことを嘆いて泣きわめいているでもないし、誰かを恨んでいるでもない。癒えない悲しみを抱えたまま、止まった時間の中にたたずんでいる。とても静かで、哀しくて、でも、なぜだか優しさも漂っているような世界観なんですよね。そこがとても魅力的でした。こういう作品世界を描けるのは、すごいなと思います。

  • 三浦

    この世ならぬ空気感みたいなものが、よく出ていましたよね。

  • 編集I

    あの世に行ききれていない女性の魂が、あの世とこの世の狭間の世界を彷徨う中で、すでに死んでしまっていた昔なじみの主人公と出会ったのだという真相も、興味深かった。切ないけれど、希望が見えるラストもよかったです。透明感があって、悲しくも美しい。こういう雰囲気のお話を書けるのは、得難い才能だなと思います。

  • 編集G

    ただ、細かい部分で整合性が取れていないところもあって、ちょっと気になりました。でも、悲惨な過去が背景にある話にしては、想起される映像や雰囲気がとても繊細で美しいですよね。

  • 三浦

    描写がすごく澄みわたってうつくしく、印象深かったです。そういうところを大切にしつつ、長い作品も構築していけるように、ぜひがんばっていただきたいです。

『忘れ得ぬ人』

  • 編集K

    秘めた恋心の話ですね。文章がとてもうまいし、企みがあるのもよかった。

  • 編集I

    すごく好きな作品です。密かに先生を見つめ続けている主人公が、先生の素敵さを無意識に美しく描写していたりして、いじらしいですよね。最後のところは驚かされましたけど。

  • 三浦

    相手との間合いを測るような、絶妙な心理描写がよかったです。最後のどんでん返しというか、オチとなる主人公の行動も、衝撃的なんだけど、同時に「そうだよな」と納得させられる感じがありました。

  • 編集B

    「その悪意、私にちょうだい」という作品を支配するような台詞が、すごく効果を上げていましたよね。

  • 編集G

    これほどの情念が水面下にあったのかと、びっくりしますよね。

  • 編集B

    描写もすごく良かった。雨降る朝に、ドア越しの先生を想いながらピアノを弾くシーンは、優しいきらめきに満ちていました。ラストに至るまでの世界観は淡くソフトで、読んでいて心地よかったです。

  • 編集G

    だからこそ、ラストの急変ぶりが際立ってますよね。ただ、基本的にとてもうまい作品だからこそ、いろいろな粗も目立ってしまっていた。そこはもったいなかったですね。

  • 三浦

    「自分は先生に恋をしている」という主人公の自覚が、時系列的にやや矛盾しているように感じられました。せっかく「恋」を描いているのに、気持ちの盛り上がりの流れが曖昧になっていて、そこは惜しかったですね。でも、文章力の高いかたですから、修正ポイントはすぐに理解して、今後に活かしてくださるだろうと思っています。

『卒業』

  • 編集I

    卒業式の日に、高校生活をMV風に回想しているお話でしたね。

  • 三浦

    仲のいい二人の男の子のいちゃつきぶりを、主人公は三年間そっと見守り続けたんですよね。で、乱暴に要約すれば、「そんな我が青春に悔いなし!」と。読んでるあたしも同感だ!(笑)

  • 編集G

    主人公自身にも、すごくいい友達がいましたよね。男の子たちとも、いい距離感でつきあえていた。自分が大活躍したとかではないけれど、ある意味とても幸せで充実した高校生活だったといえるでしょう。読んでいるこちらも、ほっこりします。

  • 編集D

    男の子たち同士の距離感も絶妙でした。相思相愛なのに、相手を傷つけまいとして、互いに一歩身を引いて気遣い合っている。

  • 三浦

    抑制が効いているのがいいですよね。ただ、過去の思い出の断片を次々と書き連ねていくやり方は、ちょっと気ぜわしく感じられるところがありました。そのあたりの書き方をもう少し工夫すれば、もっと洗練された作品になるかなと思います。でも、セピアの紗がかかったようなミュージックビデオ感は、やはりとても魅力的ですよね。

  • 編集E

    ちょっと狡いとは思いますけどね(笑)。この一作だけで、まるでシリーズものの最終話みたいな感じになっている。こんな雰囲気で押してこられたら、読んでいるこっちは、勝手にノスタルジーを掻き立てられてしまう。

  • 三浦

    確かに。ただ短編としては、そういう「いきなりクライマックス感」みたいなものもアリだと思う。「この一瞬を切り取って描く」ということが、非常に上手くできていたかなと思います。繊細な輝きがすごくよかったです。

  • 編集I

    こういう断片系の書き方は、やっぱり青春ものによく似合いますね。もう、なにもかもがキラキラして見える。

  • 編集D

    それに、見守るだけの存在だったはずの主人公は、意外と二人の男の子たちに影響を与えてもいる。企まずして、彼らの気持ちをちょっと救ったり、勇気づけたりしていたんです。「されど人生は続く」という話の着地のさせ方も、余韻があって胸に沁みる。とてもいい作品だなと思います。

『駅で会いましょう』

  • 三浦

    これもすごく印象深い作品です。描写や文章が非常にうまいなと感じました。情報を出すタイミングもすごく自然で、小説的でしたね。細かいアイテムの遣い方も、とても上手だったと思います。

  • 編集D

    「しまもよう」のお題つきの回でしたね。

  • 三浦

    ストライプのスカートを履いている汐音さんは、すごく颯爽としていて素敵でした。読者にそう感じさせる描写ができていたと思います。

  • 編集I

    全体に、とても丁寧に作られた作品でしたよね。

  • 三浦

    ラストで、汐音さんが主人公を試すような行動を取る点だけは引っかかりましたが、それ以外の、二人がちょっとずつ距離を詰めていく様子の描き方は、すごくよかったと思います。微妙な心情をうまく描けていました。

  • 編集C

    主人公たちは同性を愛する人たちなのですが、それがさほど「特別なこと」というふうには扱われていませんよね。もちろん「私は普通の人とは違う」と思ってはいるんだけど、「同性である」ことだけをことさら深刻に悩んだりはしていない。恋しい人に近づきたいけど躊躇してしまうという、普遍的な恋愛心理として描かれていて、非常にバランス感覚がいい書き手だなと感じました。多様性が認められつつある今のご時世だからこそ、同性愛の扱い方にはちょっと難しいところもあるのですが。

  • 三浦

    そのあたりの描き方の匙加減が絶妙でしたね。今の時代の空気感がうまく反映されていたと思います。

  • 編集D

    爽やかな作品にまとめられていて、とてもよかったですね。

『翼は空を忘れない』

  • 編集G

    これも女性同士のお話。

  • 三浦

    これがまた、関係性や距離感の描き方が絶妙なんですよね。視覚情報が異様に研ぎ澄まされている緊密な文章も、個性的でよかった。

  • 編集I

    すごく映像的な描写でしたよね。

  • 三浦

    冒頭の、玄関のタイルのところからして素晴らしい。主人公と友人のやり取りとかも、彼女たちの普段の様子が窺えるものになっていて、とてもいいなと思いました。絵が炎上しているドラマチックなラストも、非常に印象的でしたね。最後の一文も最高にかっこよかった。このキレときらめきはすごいなと思います。

  • 編集D

    ただ、主人公の恋愛感が、今ひとつ読者に伝わりにくかったようにも思います。深い情念を孕んだ物語にしては、ちょっと生っぽい感情が足らなかったかなという気がする。

  • 編集I

    描写がやや過剰になりやすい傾向もありましたね。書き込みすぎで、読んでいて息が詰まる感じ。

  • 三浦

    こんなにも密度の高い文章のまま、長編を書くのはちょっと辛いかもしれないですね。作者も読者も息切れしてしまうというか。だから、まずは短編をいくつか書いてみるのがいいかもしれない。で、作品の内容によって、ちょっと文章の濃度を変えてみるんです。訓練も兼ねて何作か書いていくうちに、文章の緊密さの調節の仕方が、なんとなくわかってくるかもしれない。それができるようになれば、長編も書きやすくなるのではと思います。ぜひ試してみてほしいですね。

『彼との距離、三歩』

  • 編集I

    思春期の女の子の繊細な内面が、非常によく描写されている作品でした。

  • 編集D

    主人公は、周囲と感性やテンポが違うことで疎外感を抱えているんですが、そういう自分をことさら卑下したりはしていない。自分の世界の中に生きていますが、心を閉ざしたりもしていないです。

  • 三浦

    周囲の人の意見や考えをちゃんと受け止めることができていますよね。自分も他人も否定していない感じには、とても好感が持てました。

  • 編集D

    でもある日、偶然、同じ感覚を共有している男の子と出会う。通じ合える驚きや喜びに胸を震わせる主人公の気持ちが、文章からすごく伝わってきて、作品世界に深く入り込んで読めました。繊細な心情描写が魅力的な小説でありながら、身体感覚がちゃんと描けているのも良かったです。

  • 編集B

    ただ、「耕田カード」など、説明不足で分かりにくいところもありましたね。話に入り込みにくいと感じた人も一定数いました。評価はやや分かれた感があります。

  • 三浦

    でも、ちょっと輪郭の曖昧な雰囲気のある世界だからこそ、読者が自分からのめり込んで読めたときには、強烈に惹きつけられますよね。

  • 編集D

    通じ合える人を得て、主人公の世界は鮮やかに色づいていく。他者の視点に重なる喜びを知り、自分一人だった狭い世界が豊かに広がり始めるんです。心が解放され、柔らかな変化を見せる少女の姿が、見事に描き出されていたと思います。

  • 三浦

    爽やかかつ静かに劇的なラストで、すごくいいですよね。

  • 編集G

    主人公の内面をひたすら追っている話ですが、意外に客観性のある作品になっているのもよかった。次の作品にも期待したいですね。

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