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選評付き 短編小説新人賞 選評

入選作品

自分だけの永遠を探す

廣瀬美揮子

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  • 編集A

    「可愛いヒロインとかっこいいヒーローの話」では全くないんですが、等身大の人間が描かれていて、逆にとても魅力的でした。主人公の可奈にも譲にも、適度にダメなところがあるんですよね。すごく親近感が湧く。ただのキャラクターではなく、生身の人間を描けていたと思います。そして、そういうリアルさを維持したまま、「まだ誰も見つけていない、自分だけの星はきっとある」「今日も夜空を見上げて、自分だけの永遠を探す」という、とても美しいテーマへと話をまとめ上げているところが、すごくよかった。二人を安易に恋愛関係にはしないで、ほんの微かな恋心を匂わせる程度で終わっているという、その塩梅もよかったなと思います。私はイチ推しにしました。実は私は、今回の投稿作品の登場人物たちの中で、譲が一番好きなんです(笑)。

  • 三浦

    人間味のあるキャラクターでしたね。

  • 編集B

    それに比べると、斉藤くんはいまいちな感じですね。

  • 編集C

    ある意味、最低だよね(笑)。そもそも、大して好きじゃないんなら、告白されてもOKなんかしないでほしい。そして、主人公を「泥棒猫!」呼ばわりする女の子も、ひどい。

  • 三浦

    斉藤くんと、可奈のライバルの女の子は、薄っぺらいキャラのままで構わないと思います。可奈は、斉藤くんにフラれたことでしばらくうじうじしていたけれど、譲に出会うことで、もっと大きな世界を知り、そちらに夢中になる。斉藤くんのことなんて、知らぬ間に忘れていた、という話なのですから。ただ、斉藤くんが「俺、無理」と別れようとしたとき、可奈はすごく簡単に諦めていますね。ここは、ちょっと違和感がありました。強引に迫って押しかけ彼女になったくらいなのですから、あっさり別れを受け入れたりしないで、もう少ししつこく追いすがったほうが可奈らしかったと思う。でもまあ、高校生の恋愛って、こんなものなのかなという気もしますね。

  • 編集D

    斉藤くんって、パッと見がイケメンなんでしょうね。たぶん主人公は、「わっ、素敵!」と思って一目惚れしちゃった。

  • 編集E

    私はそこが引っかかります。なんで斉藤くんなんか好きになったんだろう? 可奈は、後半部分では、「自分だけの永遠に思いを馳せる」ところまで行ける子なんです。なのに、そんな子が、たとえわずかな間でも「この想いは永遠だ」とまで思うほど好きになった相手が、斉藤くんのような中身のない男の子なのかと思うと、なんだかしっくりこない。私、後半部分の話はすごく好きなんです。だから余計に、斉藤くんに関する部分が、何か違うように感じて。

  • 編集C

    私もそれは気になった。斉藤くんに関するエピソードと、譲に関するエピソードが、うまく絡んでないよね。

  • 三浦

    エピソードに断絶があるのは、可奈が新しいものに出会ったからです。新しい恋愛相手という意味ではありませんよ? 斉藤くんとは別れ、次に譲を好きになったから、可奈が変化した、というような話ではないんです。星を探し続ける喜びに人生を捧げている譲に出会った可奈は、イケメンを彼氏にしたり横取りされたり……なんてこととは、まったく次元の違う世界が存在するのだと知った。そして、譲のように情熱を持って生きることは、その気になれば自分にだってできるのだということをも知ったんです。思ってもみなかった可能性や価値観が、目の前に広がった。新しい世界を知ることができた可奈は、もう、「ちょっとかっこいいだけの男の子」なんて、どうとも思わなくなっている。斉藤くん絡みの前半部分と、譲絡みの後半部分が噛み合わないのは当然なんです。何かを知る前と、後とで、一人の人間にとっての世界がどれほど変わるのか、という話ですから。

  • 編集F

    描かれているテーマはすごくいいと思います。でもやっぱり私も、主人公の変わりようが、今ひとつ呑み込めなかった。冒頭では、学校の廊下で大喧嘩してますよね。ビンタとか「泥棒猫!」とかイチゴパンツとか(笑)、そういう世界の話だったのが、ラストでは、静寂に満ちた天体観測室で、コーヒーの香りに包まれて、星空を見つめて「自分だけの永遠を探し」ている。ちょっと、主人公の変化のあまりの落差に、ついて行けなかった。俗っぽい世界が、急に崇高になっている感じで。

  • 編集G

    私は、落差があるのは、逆にいいと思います。斉藤くんなんかを好きだった女の子が、ラストでは「自分の永遠を見つけよう」なんて思うまでになっている。人物の内面が大きく変化する話を作れているのは、すごくいいなと思った。

  • 編集F

    このあたりの受けとめ方は、人によるんでしょうね。私は譲を、主人公が大きな影響を受けるほどに、素敵な人物だとは思えなかった。だから、この話に入り込めなかったんだろうなと思います。

  • 三浦

    それは、譲がお尻ばっかり掻いてるから?(笑)

  • 編集F

    いえ、違います(笑)。ぼさぼさ頭でいつも汚れたジャージを着ているとか、そういうのはいいんです。でも、研究者としてすごい人なのかどうかが、よくわからない。むさくるしいオッサンなんだけど、天文学者として輝いている瞬間もある、というふうに描かれていたなら、私ももっと譲に心惹かれたと思うんですが。

  • 編集C

    確かに。せめて、譲が流星群とかを見せて、可奈が「うわあ……!」とものすごく感動するようなシーンでもあればよかったのにね。「譲ってすごい!」と可奈が思う瞬間があれば、日頃のぐうたらぶりとのギャップと相まって、譲がぐっと魅力的になったはず。今のままでは描き方が平坦すぎて、私も譲をそんなに素敵だとは思わなかった。

  • 編集D

    全体に、引っかかりが少なすぎますよね。いい話だと思うし、登場人物たちも好感が持てるんだけど、すべてがスーッと通り過ぎてしまう感じ。いい場面だったのに、つい読み過ごしてしまうというか。

  • 編集G

    私もあんまり話に入り込めなかったのですが、それは描写がいまいちだったせいかなと思います。これ、読んでいても、情景が浮かばないですよね。場面の絵がほとんど見えてこない。人物がどこにいて、背景がどうなっているのか、読んでも思い描けないんです。だから、せっかくいい場面で、いいセリフを言っていても、あまり心に残らない。

  • 編集D

    作品の舞台はすごく素敵なはずなんです。郊外の高台に、古びた洋館のような天文台が建っていて、中には、ピカピカに磨かれた巨大な望遠鏡があって。なのに、それがちっとも、映像として見えてこない。

  • 三浦

    確かに、描写は上手くないし、足りないところも多い。建物とか、周囲の情景とか、もっと丁寧に描写すべきですよね。

  • 編集D

    ものすごくドラマチックなことが起こるような話ではないからこそ逆に、読者に映像を見させることは重要です。情景描写は心情描写とリンクしているところがありますから。

  • 編集B

    あと、国内有数の望遠鏡がある天文台なのに、ほこりまみれでボロ屋敷のようだとか、寝ボケてばかりのおじいさんがたった一人で管理しているとか、ちょっと設定にも引っかかりを感じます。

  • 三浦

    それに、天文台の望遠鏡って、何の予備知識もない女子高生が、一人で扱えるものなのでしょうか?

  • 編集H

    譲は大して専門家らしいことを言っていないよね。「天文」というメイン要素が、ただのお題目になってしまっている。

  • 三浦

    具体的な描写ができていないというのは、やはり下調べが足りないせいだと思います。天文関係について調べるのはもちろんですが、こういう話を書くなら、取材のために実際に天文台に行くくらいのことはしてみてほしいですね。

  • 編集B

    ラストにも、ちょっと疑問を感じる。可奈は「今後も天文台に通って、新星を探そう」と思っているみたいですが、でも可奈自身は、星にそれほどの興味があるわけではないですよね。

  • 三浦

    おそらく、新星を探している間は、譲と繋がっているような気分になれるから、ではないでしょうか。今はまだ、譲にほのかな想いを抱いているわけですからね。ただ、やっぱりそこは女子高生ですし、二週間もすれば、天文台通いは飽きてやめちゃうんじゃないかな(笑)。でも、そうなっても、別にいいんだと思います。このお話の中で重要なのは、可奈が譲と恋仲になることではなくて、「自分にとっての永遠を探そう」と思えるようになったことなのですから。ただ、その肝心のテーマの描き方がちぐはぐになっている箇所があって、そこは大きなマイナス点だなと思いました。二十三枚目で可奈は、「この人が夜空にかける情熱は、きっと生きている限り変わらない。だとすれば、それは譲にとって永遠と同じだ」と気づいている。なのに、その三行後に、「譲も自分だけの永遠を探してるの? 見つけたら、なんて名前を付けるの?」なんて訊ねてしまっている。これは明らかにおかしいですよね。譲にとっての「永遠」は、「新星を見つけること」でも「命名権を得ること」でもなく、「天体観測に情熱を燃やして生きること」そのもののはずです。可奈だってそれを感じ取っていたはずですよね。斉藤くんとの恋は永遠だと思っていたけど、違った。星は永遠に存在するだろうと思っていたら、それも違った。でも、人が思いを燃やして生きること、心を捧げる何かを持っているということ、それは「永遠と同じだ」という結論に、可奈は自分で辿り着いた。可奈のその「発見」はとても美しいし、尊いものだと思います。にもかかわらず、その後でズレた質問をすることで、話が堂々巡りになってしまっている。ここは本当にもったいなかった。

  • 編集C

    一番の盛り上がりになるはずの場面が、盛り上がらなかったですね。

  • 三浦

    「譲が自分だけの永遠につける名前は、結局聞けなかった」というところも、話が矛盾しています。

  • 編集C

    「乙女な可奈にする」と、譲はちゃんと答えていますからね。たとえ冗談半分であったとしても。どうも、作者自身が、作品のテーマを完全には把握できていない感じがする。そのせいで、話の焦点がぼやけている印象があります。

  • 編集G

    もったいないですよね、せっかくいい話なのに。インパクトのある冒頭もすごくよかったのですが、その後の展開にうまく活かされていなくて残念でした。

  • 編集C

    見せ場のアピールの仕方などを、もう少し研究してほしいですね。ただ、可奈と譲の掛け合いとかは面白く読めました。

  • 三浦

    ユーモアがあって楽しい話なのに、美しいテーマもはらんでいて、胸を打たれましたね。難点もありましたが、とてもいい作品だと思います。

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