かける

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選評付き 短編小説新人賞 選評

13段目を踏んじまえ

鳥谷綾斗

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  • 編集A

    ホラーテイストの作品ですね。微妙に不穏な雰囲気の中で話が進んでいき、終盤にいきなりドン! と怖い場面が来る。とてもインパクトがあって、いいなと思ったので、僕はイチ推しにしました。

  • 編集B

    僕もです。ラストで怒涛のホラー展開になるのが、とてもよかった。

  • 編集A

    ただ、「13段」と言えば、普通は「絞首台への階段の段数である」ことが頭をよぎると思うんですが、そこへの言及が全くなかったのは物足りない気がしました。話のどこかに入れ込んでおけば、ホラーな雰囲気が一層盛り上がっただろうと思うのに。

  • 編集B

    もしかしたら作者は、「絞首台」のことは特に考えていなかったのかもしれませんね。

  • 編集C

    単に「13は不吉な数字だから」という意味合いで、「13段目」を設定しているのかも知れないですね。それに、これがホラー作品かどうかも、実は明確ではないと思います。もしかしたら作者は、「現代・いじめ」というジャンルの作品として書いているのかも。

  • 編集D

    もし「いじめモノ」として書かれた作品なのだとしたら、このオチはかなり引っかかります。愛里が、あまりにもかわいそうすぎると思う。他人の心の痛みを思いやるあまりに死んでしまったのに、二十年以上たった今も、彼女は地獄の苦しみに苛まれ続けている。理不尽ですよね。これでは死に損です。全く救いがない。

  • 三浦

    そうですね。愛里の優しい気持ちを踏みにじるような結末ですよね。

  • 編集D

    その上、当時いじめの主犯格だった優子は、いじめた自覚すらないまま、今日まで過ごしている。愛里が自殺した原因が優子のいじめだったなら、優子は愛里を殺したようなものですよね。なのにこの話のラストでは、優子は正美の命を救った「いい人」のように描かれている。「いじめモノ」のストーリー展開としては、なんだか違和感があります。

  • 編集E

    愛里の自殺は、本当に優子が原因なんでしょうか? 私はそこも、納得できなかった。自身がいじめられていたならともかく、「『いじめは悲しいよ』という私の小説が入賞した後も、友達が友達をいじめていたから」といって、どうして「では、私は死のう」ってことになるのでしょう? いじめをなんとか止めようとするのではなく、自殺という方向に進むというのが、よくわからなかった。

  • 編集D

    あまりに繊細すぎますよね。そんなことでいちいち絶望していたらキリがないと思う。それに、正美へのいじめも、結局数週間後には止んだんですよね。かっこいい男の子絡みの、ちょっとした妬みに過ぎなかった。愛里は、もう少し様子を見るなり、解決を模索するなりすればよかったのに。死ぬのは、さすがに早計に感じます。とにかく、「優子ちゃんが正美ちゃんをいじめたから、私は死にます」という理屈は、腑に落ちないです。

  • 編集E

    もしかして愛里が死んだのは、いじめ問題が原因ではないのかもしれないですね。正美視点の話だから、それが「事実」みたいに書かれていますが、実は正美が勝手にそう思い込んでいるだけかもしれない。

  • 三浦

    確かに正美は、思い込みの激しい人間のように見えますね。正美に限らず、登場人物たちの行動には、今ひとつ理屈が通っていないようなところがあり、呑み込みづらかったです。

  • 編集E

    私は、主人公たちの名前は、キャラクターの特徴を表しているのかなと思ったりしました。「角野正美」は正義を振りかざしてギスギスしている人、「円山優子」は考え方の柔軟な優しい人、という意味合いのようにも受け取れる。思いやり深い女の子の名前も「愛里」だし。

  • 編集D

    なるほど。こういうネーミングを作者が意図的にやっているとしたら、この作品は「主人公が正しい」という話ではないのかもしれない。

  • 編集C

    「語り手が信頼できない」タイプの小説かもしれないですね。

  • 編集E

    正美は、長年抱えて来た優子への恨みや憤り、自分の担当するクラスでのいじめ問題、協力体制のない職場などに相当ストレスを感じていて、精神的に追い詰められていることが窺えます。いろいろなことに、正常な判断ができなくなっているのかもしれない。

  • 編集D

    それなら、愛里が「いじめ問題を苦にして自殺した」というのも、正美の一人合点だった可能性がありますね。もしそうなら、愛里の死について、優子には責任がないことになる。

  • 編集C

    ただ、「主人公が思い違いをしていた。実は優子の方が正しかった」という話として明確に描かれているわけでもないですよね。

  • 編集F

    この作品の中で、優子は結局、「いい人」なの? 「悪い人」なの? 作者はどういうつもりで描いているのでしょう?

  • 編集E

    単なる「悪人」として描いている感じはしないですね。いろいろ問題発言しているのは確かですけど。

  • 編集D

    「親がクズ」とかね。

  • 編集F

    ただ、言っている内容自体は、実はそんなに間違ってもいない。自分の子供を「風呂にも入れない、着替えもさせない」親は、確かに問題だと思います。

  • 編集E

    口は悪いけど、冷静で客観的な目で現実を見ている人なんでしょうね。

  • 編集A

    それに、ラストで優子は、正美を救っている。優子が引き止めてくれなかったら、正美は無間地獄のようなところに落とされてしまったかもしれない。崩れ落ちてきた椅子からも、優子は身を挺してかばってくれています。

  • 編集F

    ではこれは、「最初は嫌な奴かと思っていた優子が、実は真っ当ないい人だった」という話なのですか? 作者はそのつもりで書いている、と受け取っていいんでしょうか?

  • 編集D

    でも、優子は昔、正美をいじめていたんだよね? そして、現在自分が担任しているクラスにいじめ問題が起こっているというのに、対処する気はまったくない。子供たちが相談に来たって、相手にもしない。それでいて、「うちのクラスには問題がない」と思い込んでいる。これでは到底、「優子は、実はいい人」とは言えないと思う。

  • 編集C

    でも、「優子のクラスは学級崩壊している」というのも、正美の思い込みかもしれませんよね。そして、「昔、優子にいじめられた」というのも、正美がそう思い込んでいるだけなのかもしれない。実際はいじめというほどでもなかったのに、被害妄想に陥っているのかも。あるいはまったく逆に、いじめは本当にあったけれど、いじめた側の優子は忘れてしまっているということなのかもしれない。いったい「事実」はどうだったのかということが、この作品からは読み取れないです。思い込みの激しそうな人物の一人称で描かれた話だから、書かれていることをどこまで信じていいものか、判断がつかない。

  • 編集E

    一人称小説ですから、ほとんどの読者は、無意識的に主人公に味方しながら読み始めますよね。優子のことも、最初は「いい加減で自分勝手で意地悪な女性」という目で見ます。でも、読み進むうちにだんだんと、「主人公も、ちょっとおかしいのでは?」と思えてくる。そうなるともう、何を信じて読めばいいのか、わからなくなる。

  • 三浦

    そうですよね。そして、そこまで読者を混乱させようとは、作者は思っていないのではという気がするのですが、そのあたりもまた、はっきりとしない。作者がどういう読み筋を意図して書いているのか、作品から汲み取りきれなかったです。

  • 編集C

    今の描き方では、何もかもが曖昧ですよね。

  • 三浦

    はい。終盤の展開を読む限りにおいては、「人間を『いい人』『悪い人』というふうに一面的に決めつけることはできない」という話を描いているのかなと思えます。ただ、それが成功しているとはちょっと言い難い。作者が正美を、そして優子を、どういう役どころとして描いているのかが、現状では曖昧だし、ややブレているのではないかと思います。読み筋がわからなさすぎるので、読者は混乱してしまう。

  • 編集D

    「13段目」に関する設定も、すごく曖昧だと思います。どういうシステムなのか、今ひとつよくわからなかった。13段目は、毎日午後四時四十四分に、自動的に出現するんですよね? ならその怪奇現象は、その場に誰がいようがいまいが関係なく、毎日起こり続けているということ? 二十年以上もずっと?

  • 編集A

    そうでしょうね。でもだったら、そのことを知らずにそこで遊んでいた子供とか、知ってて肝試しをやった子供とかが、もっと何人も亡くなっているはずだと思います。

  • 編集D

    原因不明の死を遂げる子供たちが続出する学校なんて、とっくに閉校になっていそうですよね。

  • 三浦

    それに、主人公が目にした生首たちの中には、「若い男性、中年女性、おじいさん」までいますね。これは、校務員のおじいさんとか、給食のおばさんとか、そういった人たちなんでしょうか? たまたま午後四時四十四分にここを通りかかって、13段目を踏んでしまったということ? それともこの人たちは、学校関係者ではないということでしょうか?

  • 編集D

    別の場所で亡くなった、全く無関係の人たちかもしれないですね。でも、そういう人たちが、なぜこの学校の「13段目」で生首状態になっているのか、よくわからない。この校舎に、何か呪いとか曰くとかがあるのでしょうか?

  • 編集A

    僕は、「13段目の出現とともに、成仏していない人たちがひしめく世界へつながる」みたいなことかなと、勝手に想像して読みました。

  • 編集D

    でも、愛里はどうして、いまだに成仏できていないの? 自分から望んで死んだのに。

  • 編集A

    そこのところはよくわからない。でも、「13段目」には、なにかしら悪意のようなものを感じます。生贄をおびき寄せ、永遠に苦しませようとしているような。愛里の霊も、最初、正美には幸せそうな表情を見せて、誘いこもうとしてますよね。優子にはそうは見えていないらしいので、これは13段目の「罠」なのかなと思いました。「現実逃避したい人には、そこが楽園っぽく見える」というような。まあ、勝手な推測ですが(笑)。僕はホラー作品が好きなので、つい脳内補完して読んでしまうのですが、普通に読んだら、疑問点が多くてすごく引っかかるだろうと思います。こういう辺りに関しては、もう少しちゃんと書いておいてほしかったですね。

  • 三浦

    「13段目」は、この話においてとても重要な要素なので、読者が疑問を感じないようにさりげなく説明したほうがいいですね。

  • 編集D

    それに、13段目を踏んでも「ただ死ぬだけ」というのは、設定として物足りない気がする。「命と引き換えに、昏い望みを叶える」みたいなプラスアルファがあった方が面白かったのではと思います。

  • 三浦

    あと、ちょっと情報提示の段取りが悪いところがあって、私はそこも気になりました。例えば四枚目で、主人公と優子が「小学校からの幼なじみ」だと書かれていますね。幼なじみ同士が、共に公立の小学校教師になり、自分たちの卒業校にそろって就職するなんてことは、あまりにも低い確率だと思えて、どうしても読者は引っかかります。でも十一枚目で、「教師になって七年目に、母校であるこの小学校に赴任した際、優子と再会した」ということが判明する。これならまだ、「あり得るかも」と思えます。ただ、これではちょっと遅いですよね。こういう辺りは、読者に不要な疑問を持たせないよう、もう少しうまい書き方にすべきだったと思います。それから、場面の描写が分かりにくいところも目につきました。例えば二枚目。高橋さんと安田さんが、川原さんをめぐって、物理的暴力も含めた喧嘩をしてますよね。この場面における人物の位置関係とか、誰が何をしたのかということが、ちょっとわかりにくかった。もう少し情報を整理して書いたほうがいいと思います。

  • 編集A

    九枚目に、「(私と愛里は)六年間、同じクラスだった――否、正確には五年だ」とありますが、五年生になった春に愛里は死んだのですから、正確には「四年」ですよね。ほぼ四年間しか、一緒ではなかった。

  • 編集D

    確かに。これは、うっかり間違いですかね(笑)。

  • 編集A

    わざわざ「六年――いや違う、五年だ!」みたいに強調されているから、間違いが余計に目立ってしまって、なんだか残念な感じです(笑)。設定のずさんさと言い、ちょっと雑な造りが目につくところがありました。

  • 三浦

    私が一番残念に思ったのは、冒頭の一行目、「緋色の廊下を歩いていた」というところです。これだとどうしても、「レッドカーペット」のことかと読者は思いますよね。で、読み進むうちにだんだんと、「夕方の場面ばかりだな」「一行目の文章も、夕陽のせいで廊下が緋色に染まっているということだったんだな」とわかってくる。でも、これでは遅すぎると思います。冒頭の一文のすぐ後に、「夕陽が差しているから、すべてが赤く染まって見える」みたいなことを書いておかないと、作者が思い描いている場面が読者に伝わりません。この作品において「緋色」というのは、とても重要な比喩表現ですよね。「13段目」が出現する不穏な夕暮れを象徴する言葉で、話のあちこちにちりばめられています。ラストも、「私には不吉に見える夕焼けの緋色は、優子にはあたたかみのあるオレンジ色の黄昏に見えているのだ」ということで話を締めくくっている。だとしたら、重要な要素を登場させている冒頭の文章は、作者の込めた意味合いが読者にきちんと届くものにするべきだったと思います。

  • 編集D

    私、冒頭に「緋色の廊下」が出てきているということに、今指摘されて初めて気づきました。全く印象に残ってなかったです。

  • 三浦

    文章の意味や、比喩だということが分かりにくいから、つい読み飛ばしてしまったり、印象に残らなかったりする読者も出てくるわけです。つまり、作者がせっかく意図して盛り込んだ要素が、効果的に活きていない。非常にもったいないと思います。

  • 編集F

    この話には、いろんな要素が盛り込まれていますよね。学校の七不思議、謎の死を遂げた少女、現在のいじめに過去のいじめ……ちょっと盛り込み過ぎかなと思います。加えて、いじめられていたのは愛里ではなく主人公のほうだったとか、いきなりホラー展開になったりとか、仕掛けもいろいろ施されているのですが、どうにもまとまっていなくて、話の中に入り込みにくかった。

  • 編集C

    作者が設定している読み筋が分からないので、何が描きたい作品なのかも伝わってこないですね。せめてもう少し、「真相」がはっきりわかる書き方になっていたらと思うのですが。

  • 三浦

    あくまで私の想像ですが、作者はやはり、主人公の正美が語っていることが「真実」だというスタンスで書いているのではないかと思います。昔、優子は正美をいじめていたことがあった。そのことに絶望して、愛里は13段目で自殺した。そこまでは事実であると。ただ、優子には優子の考えや「優子の目から見た世界」というものがあるわけで、それは正美のものとは一致しません。そしてそれは、どちらが正しいとか間違っているというような問題でもないでしょう。昔正美をいじめたのも、今回正美を助けてくれたのも、どちらも同じ「優子」である。人間を簡単に、「いい人」「悪い人」というふうには断じられないし、各自それぞれに見えている世界が違う。そのことに気づいた正美が、辛い現実から逃げるのをやめ、「今後自分は、子供たちのいじめ問題にどう向き合っていくのか」についても、新しい視点で考え始める。そういう話を、作者は書こうとなさっているのだろうと。ただ、現状ではちょっと、「この小説は、そういう読み筋の話だ」と断言しきれない面がある。というのも、話が終盤に向かうにつれ、優子の「いい人度」が上がっていくのと比例して、主人公の人格に徐々に疑問符がつく印象がありますよね。そのせいで読者は、主人公の語りをどこまで信用していいのか分からなくなる。人物やストーリーの描き方の手順が、ちょっとうまくいっていなかったなと思います。

  • 編集C

    もう少し読み筋を固定させてほしいですよね。作品に漂う不穏な雰囲気にしても、色々なことが曖昧があるがゆえに、意図せず醸しだされたものなのかもしれない。

  • 編集D

    この話は、もっと明確にホラーに振って書いた方がいいんじゃないでしょうか。

  • 編集A

    終盤のホラー展開の部分は、作者がひときわ力を込めて書いているように感じます。だったらもっと明確に、13段目に顔たちが現れるシーンに向かって収斂していく話にすればよかったのに。

  • 三浦

    なんといっても、そこが一番の見せどころですからね。

  • 編集B

    でも、死者の顔がひしめき合っているシーンは、本当に怖くて気持ち悪かったので、そういうものをちゃんと描けているのはよかったなと僕は思います。

  • 編集A

    モヤモヤと続いていた話が一気にホラーに転じる急展開には、引き込まれるものがありました。クライマックスで急激に転調するという演出は、短編ではすごく効果的だと思います。ただ、印象的なシーンをうまく作れていただけに、作品全体にまたがる曖昧さはすごく残念でした。

  • 編集C

    やはり、「何が書きたいのか」ということを、作者がまず自分の中ではっきりさせること。そして、それを読者に伝えるためにはどう描くべきかを考えることが、とても重要ですね。

関連サイト

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