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選評付き 短編小説新人賞 選評

ハッピーエンドのそのつづき~捕らわれのシュネーヴィトヒェン~

皇 里乃

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  • 編集A

    「シュネーヴィトヒェン」って何だろう? と思って、読み始める前に調べたら、「白雪姫」と出てきました。読めば確かに、タイトルの意味が分かります。主人公が仕えることになった王妃様は、「王子様と結婚した後の白雪姫」ということだったんですね。今は国王となったかつての王子様が、実はロリコンの変態だったとか、好奇心をそそる設定が盛り込まれていて、面白いなと思いました。僕はイチ推しにしています。ただ、このサブタイトルは、つけないほうが良かったと思う。「白雪姫」という情報を全く入れずに読んだほうが、もっとインパクトがあっただろうと感じました。

  • 三浦

    「シュネーヴィトヒェン」というのは、ちょっと読みづらい言葉ですよね。タイトルとしても、長すぎると思います。

  • 編集B

    わざわざつけたサブタイトルなのでしょうけど、作品の魅力には繋がっていないですね。

  • 編集A

    僕のように事前に調べる読者は少数派かもしれませんが、サブタイトルでネタバレするのはやめたほうがいいと思う。

  • 三浦

    基本的にサブタイトルというのは、「タイトルの段階で、内容をもう少し補足したい」ときにつけるものだと思います。でも、「捕らわれのシュネーヴィトヒェン」と言われても、「シュネーヴィトヒェン」が何のことか分からない読者にとっては意味のない情報だし、知っている人にとっては読んだときの驚きが半減してしまう。この話のタイトルは、単に『ハッピーエンドのそのつづき』だけでよかったんじゃないでしょうか。

  • 編集A

    この王妃は、実の母親に何度も殺されかけ、事実一度は死んだ。「美しい死体であること」を気に入って王子が彼女を欲したとか、心肺蘇生で生き返ったあと母親に残酷な復讐をしたとか、妻が初潮を迎えたら王子は夫婦生活を持とうとしなくなったとか、気持ち悪い要素がいろいろ入っているのですが、その煽情的なキモさが逆によかった(笑)。すごく興味を引かれて、面白く読めました。

  • 三浦

    わかります。この気持ち悪さはとてもいいですよね。

  • 編集C

    妻が「少女」ではなくなったとたん手を出さなくなるとか、この王様はなかなか筋の通ったロリコンですよね(笑)。そういうところはすごくよかった。

  • 編集A

    パッと思いついて書いた話なのかなと思いますが、その勢いとか意気込みといったものは評価したいです。

  • 編集D

    この王妃様は、本物の「白雪姫」なんですよね? それともこれは、『白雪姫』を下敷きにした、別のお話ということなのでしょうか?

  • 編集B

    「白雪姫のその後」を描いている、ということだと思います。モチーフにしただけというには、王妃の過去が『白雪姫』に似すぎている。「猟師への殺害命令、コルセットの紐、毒櫛、毒リンゴと、四度殺されかけた」「結婚したとき7歳だった」「母親に、焼けた鉄靴を履かせて死ぬまで踊らせた」など、グリム童話の原典と共通しているところがたくさんあると思います。

  • 編集D

    加えて『白雪姫』には、いろいろな説がありますよね。「王子様は実はロリコンで、死体愛好者だった」というのも、ネタとしてはけっこう有名だと思います。むしろ、手垢がついていると言っていいかもしれない。そういう意味において、材料の料理の仕方がちょっと雑に感じられるところはありました。「ロリコン」という設定も、この中世っぽい世界観のお話の中で適切なのかどうか、疑問に感じます。当時は若くして結婚することは珍しくはなかったし、まして王侯貴族なら、いろいろな理由で、ごく幼い年齢で結婚させられることは普通にあったと思う。

  • 編集A

    年齢に関しては、確かに引っかかる描写が見られました。18枚目に、「中年と呼んでなんの差し支えもない国王が王妃と並ぶと、年齢的にとても釣り合わない」「実際彼女は国王よりとても若いのだ」とありますね。でも王妃は、「8歳になる少し前に王子妃になり、それから30年近く経った」わけですから、現在は37歳くらいでしょうか。それなら、「中年」である国王と、「年齢的にとても釣り合わない」とは言えないと思う。

  • 編集C

    確かに。王様の歳はよくわからないけど、4、50代だと推測するなら、とりたてて年齢差があるとは言えないですよね。仮に国王が57歳で、王妃と20歳離れているとしても、この時代の国王夫妻の年齢としては、ありえる範囲だと思います。

  • 編集E

    まあこれは、国王のロリコンぶりを読者に示そうとして、「国王夫妻には年齢差がある」ことを強調したかったんじゃないかな。

  • 編集B

    ただ、年齢に関する描写に現代の感覚が入り込んでいるのは確かだと思います。こういう辺りは、もう少し注意したほうがいいですね。

  • 三浦

    それと、王妃様の年齢は、もう少し早めに読者に伝えたほうがいいと思います。年齢的に本当に若い王妃が、歳の離れた王様に束縛されているのか。それとも、若く美しく見えるけど、そろそろ容色が衰えかける年齢なのか。現状ではそういう辺りがつかめないまま読むことになって、読者が話に入り込みにくいです。

  • 編集C

    そもそもこの話、主人公はアンナのはずですよね。ところが後半は、話の中心が王妃に移っている。ラストの数ページでは、視点人物さえ王妃に交代してしまっていますね。これではアンナは、ただの狂言回しでしかない。ドラマチックな物語が描かれてはいても、主人公にとってこれは「他人事」ですよね。

  • 三浦

    前半と後半で、物語のトーンが変わっている印象があります。たった30枚の短編なのに、話が途中で分断されている。しかも、19枚目から始まる王妃の一人語りのところは、非常にあらすじ感が強い。ちょっと語り口が洗練されていないと感じます。もったいないですよね、せっかくの面白いアイディアなのに。30枚では足りないのなら、もっと長い枚数でちゃんと書いたほうがいい。話と枚数が合っていないのではと思います。

  • 編集A

    でも、「ハッピーエンドのはずの『白雪姫』のその後を描いてみました」というのは、一種の一発ネタだと思うので、あまり長く書くと、かえって面白くなくなってしまうかも。

  • 三浦

    確かに。ただ、やはり枚数はもうちょっとあったほうがいいように思います。全体に駆け足だし、何といっても、王妃が過去を語る際のあらすじ感は非常に気になりますので。

  • 編集B

    一人称で劇的な過去を明かしている割に、王妃の気持ちが伝わってこないですよね。もうちょっと感情の迸りがあってもいいと思うのに。

  • 編集F

    加えて王妃が、悲劇のヒロイン然として自分の過去を滔々と語るのには、かなり引っかかりを感じました。「美しさのあまり、母に憎まれた」「美しさのあまり、王子に執着された」ということを自分で言ってしまうのは、はっきり言ってかっこ悪い。読者も、王妃に思い入れできなくなります。

  • 編集B

    この物語はむしろ、最初から三人称で書いていったほうが、まだ読者に伝わりやすかったのではないでしょうか。

  • 三浦

    私もそう思います。現状では、ちょっと構成と語りがうまくいってないように感じる。

  • 編集A

    作者が一番書きたかったのは、おそらく終盤の「王妃のロマンス」ですよね。「白雪姫は王子と結婚して実は不幸だったけど、30年後に真実の愛を手に入れた」という展開で読者を驚かせるため、わざと第三者であるアンナを語り手にしたのかと思ったのですが。

  • 三浦

    でも、執事のベルツと王妃がくっつくだろうことは、割と読者は気づくんじゃないでしょうか。他に誰もいないから、消去法で(笑)。実際、私はそこに驚きはなかったです。

  • 編集B

    私はちょっと気づかなかったですね。ベルツが王妃を大切に思っていることは分かるのですが、そこまで深い恋愛感情だとは思っていませんでした。むしろ、もう少しわかりやすいフラグを立てておいてほしかったという気がします。

  • 三浦

    終盤で二人が両想いになったとき、読者が「そうか、なるほど、考えてみたら何となくそんな気はしてた」と思うためにも、語り手はアンナではないほうがいいと思います。城で働き始めて間もないわけですから、王妃たちとの関係がまだ浅すぎる。

  • 編集C

    そうですね。王妃とベルツ、両者の人となりをよく知っていて、両者に深い敬愛の念を持っている人。長い年月を共にしてきた人。そういう人を視点人物にしたほうがいい。そうでないと、「お二人の想いが通じ合って、本当に良かった……!」という感慨が生じないし、読者も感動できない。

  • 三浦

    王妃が新しい侍女に自分の秘密の過去を語るとしたら、「ひと月経ったから」とかではなく、二人の間に信頼関係が生まれたからだと思います。その絆が生じるまでをちゃんと描くとしたら、とても30枚では足りませんよね。物語の構成が、まだ十分に練られていない。自分が書きたいことをどうやったら効果的に読者に見せられるか、どういう描き方にすればアイディアを最大限に活かせるのかということを、もう少しよく考えたほうがいいと思います。

  • 編集A

    寓話風に書いてみてはどうでしょう? あるいは、長らく王妃に仕えたアンナの、回想形式や日記形式の一人称にするとか。

  • 三浦

    日記とかでは、いたずらに枚数を食ってしまいそうですね。寓話風にもしないほうがいいと思います。

  • 編集B

    寓話風だと、客観的になりすぎて、読者に臨場感が伝わりませんからね。

  • 編集C

    ベルツ視点はどうでしょう? 淡々と職務を遂行していた男が、ついに感情を抑えきれなくなっていく内面を描くとか。

  • 三浦

    描き方にもよるかと思いますが、それも難しい気がしますね。私はやはり、三人称で王妃の感情の高まりをしっかりと描くのが一番いい方法だろうと思います。

  • 編集C

    あと、4枚目で、「女性も家や身分、国に捕らわれず、もっと冒険していいはずよ」と王妃が言っていますよね。これはこの作品の重要なテーマなのだろうと思います。けれど、あまり活かされているとは言い難かった。確かにラストで王妃は、身分を捨てて新たな人生へと歩き出しますが、ベルツへの愛の告白で「もっと早く伝えればよかった。もっと若く、美しいときに……」と言うのは納得できない。外見の美しさ故に過酷な人生を余儀なくされた王妃なのに、心を自由に解き放って新しい人生へ踏み出そうというこのときになぜ、「私はもう、若くも美しくもないから……」みたいなことを言い出すのでしょう?

  • 編集B

    王妃の地位にいたときも、同様でしたね。自分の老いに苛立ち、美しい少女たちに嫉妬しているような印象が強かった。

  • 編集C

    そしてベルツがまた、「あなたは変わらず美しい。いや、昔より今のあなたのほうがもっと美しい」と返事をするのも引っかかる。「愛している」ことを伝えるときに、なぜ「美しさ」にばかり言及するの? これはつまり、この王妃が「あなたは美しい」と言われたがっているということですよね。そして、「容色が衰えかけた私でも、彼は『美しい』と思ってくれる。それは愛ゆえだ」ということ。結局、物語が「男性に『美しい』と言われ、愛されることが女性の幸せ」みたいな着地になって、「女性だってもっと冒険していい。自由に生きていい」というせっかくのテーマが立ち消えてしまっている。

  • 三浦

    それに、両想いになれれば幸せなら、城を出る必要はないですよね。ベルツとは愛人関係になればいい。

  • 編集A

    王様は、「残りの人生は、私も君も好きなように生きる」とはっきり宣言してるくらいだから、一切とがめてこないでしょうしね。

  • 編集C

    でもやっぱり、王妃はそういうのは嫌なんでしょうね。一対一の恋人関係になりたい。そして、「どうせ恋愛するなら、若く美しいときにしたかったのに」とも思っているのでしょう。「ロリコン王子に捕まったおかげで、私の一番いい時期を台無しにされた」と恨んでいるのが本音のように見える。

  • 編集B

    結局、「若さと美しさ」に一番執着しているのは、王妃自身のように思えます。

  • 編集G

    そんなこと気にしなくていいのにね。これから二人で、いくらでも幸せになれるんだから。

  • 編集C

    せっかく両者の想いが通じ合うシーンなのですから、「年齢や外見など関係なく、心から愛し合っている」ということが、もう少し読者に伝わりやすい描き方をしてほしかったですね。

  • 三浦

    あと、この作品の大きな問題点は、キャラクターがあまり動いていないことだと思います。例えばベルツは、王妃が30年間も辛い思いをし続けている中、何もしていませんね。本当に王妃のことを心から愛していたなら、もう少し何らかのアクションを起こしていいはずじゃないでしょうか。ラストの王妃も、あっさり城から脱出しているみたいだけど、そこに至るまで何をどうしたのかが描かれていません。アンナが脱出にどういうふうに協力したのかも書かれていない。この小説には、登場人物たちが現状を変えるために具体的にどんな行動を起こしたのかということが、ほとんど描かれていませんね。そこがすごく引っかかりました。作品の発想自体はとても面白いと思うのに、いろいろもったいなかったですね。

  • 編集E

    王妃様の白髪のエピソードのところは、若さを失いつつある女性のリアルが非常によく出ていて、私はすごくうまいなと思いました。そういう人間の生っぽい感じを、もっと前面に出す話にしてもよかったんじゃないかな。ただその場合、やっぱり30枚では書き切れないでしょうけどね。

  • 編集C

    そして、「おとぎ話のその先」を描いた意欲作にしては、結末が「男性と結ばれて、めでたし」という旧態依然の価値観のままだったのも残念でした。

  • 編集B

    アイディアとか目のつけどころは良かったのですが、描き方や着地点について、もう少し練り込んでみてほしいですね。

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