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選評付き 短編小説新人賞 選評

ぐるぐる

星崎はるな

33

  • 編集H

    引っ越しをしたら、いきなりタイムループに巻き込まれてしまった少年のお話です。一人で見知らぬ土地にやって来てから、なぜか九月十日が延々と繰り返される。しかも、そのことに気づいているのは自分だけらしい。翌日には何もかもがリセットされて、また同じ出来事が起こる。何百回繰り返しても抜け出せないループに閉じ込められてしまった主人公は、気持ちがすさんで、暴れ回ります。自暴自棄になって悪行三昧の日々を送るんだけど、やがてそれにも飽きて、徐々に気持ちを前向きに変えていく。周囲に当たり散らして憂さ晴らしするより、笑顔と思いやりの中で暮らす方がよっぽど心地よいということに気づくんですね。少年の内面の変化や成長が、とても自然に描けていました。微笑ましいオチへと物語が終結していて、お話としてもまとまっていたと思います。「同じ日が毎日繰り返される」というタイムループ設定自体はそれほど斬新ではないかもしれないけど、読み終えたとき、素直な感想として、「この作品、とても好きだな」と思えました。

  • 編集E

    よくわかります。なんとなく「この話、好き」と思えるような、不思議な魅力があるんですよね。非常に好感度の高い作品だなと思います。

  • 編集A

    それにしても、主人公の親って、ちょっとひどくないですか? まだ中学生の息子を一人で引っ越し先に行かせて、「明日から新しい学校へ行きなさいよ」なんて。まさか、中学生本人に転校手続きをさせるの?

  • 三浦

    まあ、不測のトラブルがあったわけですから、親としても仕方なくということなんじゃないでしょうか。それに、転校の手続きとかは事前に済ませていたのでしょう。

  • 編集C

    それなら、「手続きはもう済んでいるから」みたいな説明を入れておいてほしかったですね。ほんの一行で書けることですが、その一行があるかないかで、読者の受け取り方は全く違ってきますから。

  • 編集A

    中学生の男の子の、まだちょっと幼さの残る内面は、よく描けていたと思います。

  • 編集E

    この主人公、なんだか可愛いですよね。お母さんに何を言ってもことごとくやり込められてスネちゃったり。駅弁がコンビニ弁当より高いことを知らなくてお金が無くなったり。

  • 編集C

    誰もいない新居で、ご機嫌に踊りまくったりね(笑)。

  • 編集E

    そうなんです。解放感で一気に嬉しくなっちゃった中学生男子の感じがよく出ている。書かれていないけど、きっと一人で「イエーイ!」とか叫んでたんでしょうね(笑)。

  • 三浦

    一人称の小説なのに、「男性グループの音楽」という表現をしていて、ズコーッとなりました。「固有名詞を出すのはまずいかな」という主人公の配慮でしょうか(笑)。でもこういう場合は、べつに固有名詞を出してもいいと思うし、もうちょっと読者が具体的に想像できるよう、アイドル系なのかダンス系なのかK-POPのかとか、さりげなくヒントを提示してもいいのではと思います。

  • 編集H

    僕は10枚目の、「女子は赤、男子は緑のジャージ/赤と緑って、一年中クリスマスかよ」ってところが、なんだか面白かった(笑)。ツボにはまって、すごく笑えました。

  • 編集B

    主人公は都会育ちですよね。もし引っ越し先の田舎を本気で毛嫌いして蔑んでたりしたら、すごく嫌味な人物になっていたでしょうけど、この主人公自身がいい感じにおバカな男の子なので(笑)、彼が「あーもう、こんな田舎」と思っていても、あまり嫌な感じがしませんね。

  • 編集A

    微笑ましい範囲内で見ることができました。

  • 三浦

    はい。登場人物みんなに、とても好感を持てました。それぞれの性格や心の動きが、言動を通してちゃんと伝わってくる描きかたでしたね。

  • 編集B

    ただ、中学生の引っ越しから始まった話が、急に「タイムループ」というSF展開になるのは、すごく唐突に感じました。どうしていきなりそんなことになったのか、なんでそのループからいつまでも出られないのか、理由もよく分からないし。

  • 編集H

    毎朝、主人公の目の前でおばあさんが転びますよね。このおばあさんの存在は、とても意味ありげで伏線っぽい。だから、このおばあさんが神さまか何かで、タイムループの秘密に絡んでいるのかと思ったのですが、そうではなかった。

  • 編集D

    私は、「このおばあさんを助けたら、主人公はループから抜け出せるのかな?」と思っていたのですが、そういうことでもなかったですね。

  • 編集A

    ループから抜けられたのは、交通事故に遭ったからかなと思うのですが、理屈付けや説明が全くないので、そのあたりのことは本当によくわからないです。

  • 三浦

    そうですね。ただ、タイムループのシステムや因果関係の説明は、この話においては、私はそれほど必要ではないと思います。現状のままでも、さほど違和感はなかったですね。

  • 編集D

    一点すごく気になったのですが、タイムループしている世界にいるんだから、おばあさんを助けるようになって以降の主人公の夕食は、毎晩カレーなのかな?

  • 三浦

    たまには別のものを食べたいですね(笑)

  • 編集B

    同じ日が繰り返されてはいても、主人公がどういう行動をとるかに影響されて、その後の出来事が変わっていくわけですから、夕食の献立も日々違うものになるのではないでしょうか。朝、おばあさんとどんな会話をするかによって、メニューが色々変化する、みたいな感じに。

  • 編集D

    うん、そうだろうなとは思うんだけど、そこが明確には書かれてないから、読んでいて引っかかります。「それから僕は/毎晩、夕食をご馳走になった」という表現では、具体的なことがわからないですよね。もう少し読者がはっきりと状況を理解できるような書き方にしてほしかった。

  • 三浦

    そうですね。描写に抜けがあるところがいろいろあって、私も気になりました。例えば18枚目に、「隣の家から大きなゴミ袋を持ったバアさんが出てきた」とありますが、「おばあさんが転んだ」ことまでは書かれていませんね。でも、同じ日が繰り返されていることに気づくシーンなのですから、ここでは絶対に、「転んだ」という描写が必要だったと思います。朝起きたら、三日連続同じニュースをやっていた。隣のおばあさんが三日連続同じ転び方をした。だからこそ、ちょっとニブい主人公でさえ、「あれ? 何かおかしいぞ」と思ったわけですよね。そして本当なら読者もこのシーンで、「同じことが毎日繰り返されているらしいぞ」と主人公と同じタイミングで理解する、という劇的な効果が生まれたはずです。でも、おばあさんが転ぶところまでをきちんと描いていないせいで、「繰り返し」の見せ方が中途半端になってしまっています。

  • 編集A

    まったく同じことが三日も繰り返されている、というダメ押しで、「タイムループ」という展開がはっきりするわけですからね。そこまでをきっちり描く必要がある。

  • 三浦

    あと、13枚目にもわかりにくい描写がありました。主人公が学校から帰ってきたら、玄関に鍵がかかっていた。両親にメールしても電話しても反応がない。「そうしているうちに急に眠くなってきた」。一行空いて、「気がつくと朝になっていた。/リビングには誰もいない」とある。ということは、主人公は家の中にいるわけですよね。でも、一行アキの前には、主人公が自分で鍵を開けて家の中に入った描写がありません。だから私はてっきり、主人公は玄関の外で眠ったのかなと思っていました。ここはもうちょっと、読者にわかりやすい丁寧な描写が必要かなと思います。

  • 編集D

    おそらく作者の設定としては、「タイムループの世界にいるんだから、どこで寝落ちしようと、朝目覚めたら一律、新居の中にいる」ってことなんだろうけど、そういう辺りのルールは、ちゃんと書かないと読者にはわからないです。

  • 三浦

    あるいは、朝も自分で鍵をかけて学校へ行ったのですから、帰宅時も鍵を開けて家に入るのは自明のことだろう、と作者はお考えなのかもしれません。しかしその場合も、読者の混乱を招かないようにするため、両親に連絡してみたのは玄関の外なのか中なのか、つまりどのタイミングで鍵を開けて家に入ったのか、このシーンではさりげなく書く必要があると思います。

  • 編集C

    説明が足りないから、いろいろ矛盾してるように思えたり、疑問を感じる点が多かったですね。あと、「大坂なおみ」を「大阪なおみ」と書いている漢字の間違いも、推敲の段階で気づいてほしかった。ニュースの場面が繰り返されるたびに目にするので、読んでいてすごく気になってしまいます。

  • 編集I

    ちょっと、これはあくまで想像なんですけど、主人公が突然タイムループに巻き込まれてしまったのって、田舎に対するリスペクトがないのが原因ではないかと。

  • 三浦

    なるほど、その土地の神様の怒りを買ったと(笑)。

  • 編集I

    オタクンとか、新しい場所でできた友だちと仲良くなっていくうちに、田舎に対する不満や嫌悪感がなくなっていって、その土地に馴染んだ。

  • 編集D

    やっと許されたんですね、「ここで暮らしてよし」と(笑)。

  • 編集A

    でもその割に、おばあさんを毎朝助けて、オタクンと仲良くなっても、ループはまだ続いているけど。

  • 編集I

    最後に、命を投げ出してでも友だちを救おうとしたところで、罪滅ぼしが終わったのかなと。

  • 編集B

    「命がけで友を救えるか?」が、よそ者を受け入れるイニシエーションだったのかな。転校先としては、ものすごくハードな土地柄ですね(笑)。

  • 編集A

    まあ、作者がそこまでの設定を用意していたとはちょっと考えにくいですけど(笑)、でもタイムループの理由としては、その説はなかなか説得力がありますね。

  • 編集I

    だって、最初主人公は、「田舎の学校には話の合うヤツなんかいない」って言ってましたよね。転校先の生徒も先生も全員ジャージで、「僕はそんなの着たくない」と思っていた。それがラストでは、「ジャージの集団に僕も紛れる。緑のジャージも悪くない」とまで気持ちが変化しています。これは、新しい場所にちゃんと溶け込むことができたということだろうと思います。

  • 三浦

    確かに、未知なものや自分とは異質なものに対して、こちらが偏見や先入観を持っている間は、相手だって自分を受け入れてはくれませんよね。主人公は新しい土地へ行っても、そこを全然理解しようとしていなかった。だから弾かれてしまって、同じ時間をずっとぐるぐるしているしかなかった。ちょっとずつ相手のことを考えたり思いやったりするようになり、最終的に「この土地も悪くないな」と思えるようになったからこそ、主人公はループから抜け出せたし、自分自身も幸せになれたということですね。そのあたりを、作者がどこまで明確に意図して書いているのかはわかりませんが、できあがったこの作品は、ちゃんとそういう造りの物語になっていると思います。

  • 編集A

    よく考えてみると、とても深いテーマを扱っていますね。そしてそれを、ハートウォームな作品に仕上げている。

  • 編集D

    悪いことも一通りやった上で、「悪いことをやってるよりも、クラスで人気者になったほうがよっぽど楽しい」「こっちが心を開けば、向こうも心を開いてくれる」「自分が変われば、世界も変わるんだ」なんて、前向きな方向にどんどん変わっていく主人公の姿は素晴らしいと思う。とてもいい話ですよね。

  • 三浦

    終盤で、自分からオタクンの身代わりになって事故に遭い、「僕はリセットされるから大丈夫。でも君は死なないで」と思うシーンには、胸を打たれました。

  • 編集I

    ちょっと色々雑だったり、粗があったりもするのですが、男の子の成長物語として、すごくいい作品になっていたと思います。中学生の主人公が、何度も繰り返されるループの中で、ゆっくりゆっくり成長していく感じが、とても好ましかった。作品全体に、なんだかユーモラスな雰囲気が漂っているのも楽しかったですし。

  • 三浦

    ほんとにね。車に轢かれそうになったオタクンに、親が「前髪が長いから前方不注意で事故に遭ったんだ」って言って髪を切らせるところとか、もうすごいおかしくて(笑)。なんだろう、何でもないようなエピソードなんだけど、何かがちょっとずつ面白い。作者の素晴らしい持ち味だと思います。

  • 編集B

    作者は笑わせているつもりはないんでしょうけど、でも、なんだか面白いんですよね(笑)。

  • 編集C

    文章もキャラクター描写も、他愛ない感じなんだけど、なんだか好感が持てる。

  • 編集A

    みんなが同じようなことを言ってる。「なんだか好き」「なんだか面白い」って(笑)。

  • 編集B

    この好感度の高さは、ものすごい強みだと思います。

  • 編集H

    ただ、もう一押し、何らかの吸引力が作品にあったらという気もしますね。

  • 編集A

    それもわかります。作品全体にというか、小説のテイストに、若干幼さがありますよね。いい幼さではあるんだけど、何かしら物足りない気持ちにもさせられる。

  • 編集B

    でも、前回の投稿作に比べると、文章力は飛躍的にアップしています。本当に驚くほどの成長ぶりだったので、今後にぜひ期待したいですね。

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