瀬川貴次の万物ぶらぶら(仮),segawa takatsuga no bambutsu burabura illustration 星野和夏子

其の十五:懐かしのウルトラ怪獣

とある朝、目が醒めてすぐ、時計代わりにテレビのスイッチを入れた。すると、画面にポテトグラタンの調理風景が映し出され、その下に『魂がなくなるまで潰す』と表記された。「……朝から何を放映しているんだ?」これはあれか、目醒めるとそこは異世界でした的な事態に陥ったのかとも疑ったが、そんなこともなく、『(ポテトの)塊がなくなるまで潰す』の見間違いであった。まあ、それはともかく。夜型の作家さんも多いようだが、わたしは基本、朝起きて日中に仕事をし、夜寝るタイプだ。そんなわけで、真夜中に放映されるアニメは録画して昼間に視聴する。今期のお楽しみのひとつは『ULTRAMAN』。初代ウルトラマンが活躍した時代から数十年後、地球の新たな危機に、初代マンだった早田(ハヤタ)氏の息子が奮闘する物語である。わたし自身はウルトラセブン世代で、残念ながら初代マンをテレビで観た記憶はない。それでも、ダダやゼットンなどの勇姿を改めてアニメで拝み、そのかっこよさに惚れ惚れとしてしまった。思い返せば、いたいけな幼稚園児だった頃。貯まったお年玉で、わたしが人生初、自分の意志で購入した単行本は『怪獣ウルトラ図鑑』(大伴昌司著/秋田書店/1968年)であった。さまざまなウルトラ怪獣の生態が事細かに記載されていたのだが、中でも怪獣ツインテールは印象的だった。ツインテールとは、髪の毛を上部でふたつに結んだ髪型のことではない。あれはツーテールだ。ツインテールは帰ってきたウルトラマンに登場した怪獣で、パッと見た目はうろんな目をした大口ブサ面のイモムシである。身体の末端に鞭のような二本の尾を有しており、その下半身をほぼ垂直に立ちあげ、ゆらゆらと尾を揺らす。なかなかインパクトのある造形であった。わたしの記憶が正しければ、このツインテールに関して『怪獣ウルトラ図鑑』は「肉はエビに似ておいしい」と解説していた。幼いわたしにとって、これはかなりの衝撃だった。あのおへちゃ顔のツインテールが、食べたらおいしい、それもエビの味に似ているとは。わかりやすい比喩に感化され、凶悪なはずの怪獣がとてもうまそうに見えてしまったではないか。怪獣食という、ディープすぎる禁断の領域に幼稚園児をいざなった『怪獣ウルトラ図鑑』は、なんとおそろしい書物であったろうか。ある意味、かの異端の魔道書〈ネクロノミコン〉にも匹敵するかもしれない。だからといって、ツインテールが好きかと問われると返答に困ってしまう。わたしにとって、最も思い入れ深いウルトラ怪獣はツインテールではない。エレキングである。ボディラインはゴジラやレッドキングとも共通する、下半身でっぷりの二足歩行タイプ。怪獣の王道体型だ。しかし、エレキングはそのボディカラーにおいて、他とは一線を画す。白地に黒ブチ模様、シックでおしゃれなモノトーンなのである。顔の形も少し仔犬っぽい。さらにいうと眼球がなく、眼窩からは代わりに、黒い三日月に柄をつけたような感覚器が、カタツムリの角のごとく突き出ている。いわゆる視線の恐怖を感じさせない、ジェントリーな配慮。それでいて、丈夫そうな歯をちらつかせる口もとが、怪獣としての猛々しさを忘れずに伝えている。わたしがエレキングを推すのは、ビジュアルだけが理由ではない。あれはやはり幼稚園児時代のこと。当時、園児たちは何かというとウルトラセブンごっこに興じていた。男児たちはセブン役を取り合い、怪獣役を押し付け合い、残ったその他大勢は洩れなくウルトラ警備隊の隊員となった。そこにまぎれこんだ自分を含めた女児二名は、敵のピット星人として囚われ、幼稚園の暗くて寒い下足置き場の、壁と下駄箱同士で三方を囲まれた狭い隙間に押しこめられたのだ。ピット星人とは、エレキングを使役していた宇宙人。美しい双子の女性に化け、ウルトラ警備隊をさんざん翻弄していた。男児たちはそのまま外に飛び出し、明るい園庭で追いかけっこに興じた。彼らの楽しげな声を聞きながら、わたしは狭苦しい暗がりで両手を合わせて祈っていた。「早く助けに来て、エレキング……」と。思い描いた救い主は、白馬にまたがったフリル袖の優男王子ではなく、むっちり下半身のキュートなエレキングだった。だって、こっちはピット星人なのだもの。もちろん、いくら待ってもエレキングは来ない。男児たちは軟禁したピット星人のことなど忘れ果て、ひたすら園庭を走りまわっている。そんな、甘くも酸っぱくもない思い出が、のちの人格形成に影を落とすことに──なっているのやら、いないのやら。正義の味方側よりも敵側に感情移入しやすくなったのは、あるかもしれない。ま、そのあたりはいまさら言ったところで詮無いわな。とにかく、エレキングはかっこよくてかわいかったのだと、ここに意味なく力説しておくとしよう。
香炉 旗指物 角盥
トノサマ