瀬川貴次の万物ぶらぶら(仮),segawa takatsuga no bambutsu burabura illustration 星野和夏子

怖いだけじゃない、7つの不思議な怪奇譚!瀬川貴次 最新刊『わたしのお人形 怪奇短編集』集英社オレンジ文庫より大好評発売中!

其の二十四:ホラーなPV

家で仕事をしていると早々に煮詰まってしまい、ついつい別のことに手が出て、作業が止まりがちだ。これを防ぐため、図書館や喫茶店をよく利用しているのだが、密を避けるこの御時世で、そこでの席を確保するのも難しくなってきた。ならば、カラオケルームで仕事はできないものかと、試しに2時間、部屋を借りてみた。結果、最初の30分のみ、仕事に費やし、残りの1時間半をひとりで熱唱していた……。まあ、大声を出して歌うのはストレス解消にもなるので、無駄ではなかったと信じたいが。そんなわたしがカラオケでよく歌うのは、アニソンと80年代ロック。あの時代のPV──プロモーション・ビデオは印象的なものが多い。中でもホラー要素の強いものをいくつか紹介してみよう。まずはロックウェルの『サムバディ・ウォッチング・ミー』。舞台は郊外の一軒家。ロックウェルがシャワーを浴びながら歌う画像の合間に、カメラが玄関から入ってきて、家の中をずっと映していく。カラスが羽ばたきながらキッチンをよぎったり、壁の肖像画がこちらを見ていたり、シャワーに血のような赤い水が混じったり、庭に墓石が並び、その間に無表情の不気味な男が半裸で立ち尽くしていたりと、不穏な要素がこれでもかこれでもかと盛りこまれていく。コーラスにマイケル・ジャクソンが参加しており、曲調はクール。そこに「誰かに見られている気がする」という歌詞が載って、身に危険が迫りつつある予感が否応(いやおう)なしに高まっていくのだ。「シャワーを浴びているとき、髪を洗うのが怖い。目をあけたら、そこに誰かが立っていそうで」には、共感するひともきっと多いだろう。最後、シャワールームから出て、ちょっと神経質になりすぎたかなぁと苦笑しているロックウェルのもとに、郵便配達夫が郵便物を届けに来る。が、死角に入っていて彼には見えていない側の相手の手は、まるでゾンビのように爛(ただ)れていて……というラストは秀逸。お次はデッド・オア・アライブの『ディア・イズ・サムシング・マイ・ハウス』。森の中の廃墟の大広間で、装飾的な肘掛けイスにふんぞり返ったボーカルのピートが『うちに何かいる。あれはずっと昔に消えた恋の亡霊に違いない」「階段を駆けあがっていく足音が聞こえる。きみはもう、ここにいないのに」と荒々しく歌う。内容的には失恋歌なのだろうが、曲のテンポは速いし、ピートが古城に陣取った魔王のごとき凶悪な表情をしてみせるので、湿っぽさはない。あの頃のピートは本当に美しかった。廃墟の物音におびえるさまは往年のハリウッド女優さながらで、頬についた木の葉をさっとはらう仕草や、最後にがくりと後ろにのけぞった白い顔は、息を呑むほどだった。ああ、それなのに「顔にコンプレックスがあった(えっ!?)」と美容整形に手を出し、悪いほうへと面変わりしていったのには……、なんと言っていいのやら。ため息しか出ない。そして、ニック・カーショウの『ザ・リドル』。ケルト風のメロディに、深読みがいくらでもできそうな抽象的な歌詞が載り、全体的に不思議な雰囲気が漂っている。PVでは、ニックがドールハウスじみた奇妙な空間に迷いこみ、『不思議の国のアリス』に登場するような太っちょの中年双子や、黒いアイマスクに緑の衣裳をまとって笑う道化に翻弄されている。細い廊下は床が白黒の市松模様で、白い壁には歪んで映る丸い鏡やヤカンが架かり、ドアとドアの間をバグパイプを吹き鳴らす一団が行進していく。まさしく『謎(リドル)』なのだ。きれいで不気味、どこか妙。童話的であると同時に悪夢的で、忘れられない独特の魅力に満ちている。さて、最後にお勧めしたいのがローラ・ブラニガンの『セルフ・コントロール』だ。これはもう大好きすぎて。自著『わたしのお人形』に収録されている『インフェルノ~呪われた夜~』のイメージ曲だったりもする。PVもかなり色っぽい。都会暮らしのけだるげな美女が、夜の街に遊びに出かける。そこで、黒尽くめの装束に真っ白な仮面をつけた男を目撃し、心騒がせる。彼女は、その謎めいた仮面の男に魅入られ、怪しい秘密クラブのような場所へといざなわれる。そこでは仮面をつけた男女が淫靡(いんび)にからみ合いながら踊っていて──と、妖しさ満載だ。歌詞も「あなたはわたしの自制を奪っていく」「わたしは夜の魔物に囲まれている」「わたしは自分に言い聞かせる。この夜はけして終わらないのよと」と、昼間の現実に倦(う)んでいた女性が、震えおののきつつも夜の魔に魅了されていく感じが表れていた。仮面の男が脱いだら、上半身がけっこうむちむちしていた点に関しては何も言うまい。この曲はしばしばリメイクされており、中でもデンマーク出身の男女デュオ、インファーナルの『セルフ・コントロール』のPVが個人的に好みだった真っ白い空間に、白いイスがひとつあるだけ。そこにすわった金髪の小悪魔風な美女が、露出度高めの真っ赤な衣裳を着て歌っている。脇からちらりと見える下着は豹柄だし、赤いハイヒールに合わせているのは、紫と青のツートンカラーの靴下だ。曲もテンポアップされ、かなりポップに仕上がっている。そこに黒衣の美男美女数名が、にやにやと笑いながら忍び寄ってくる。なんの説明もないけれど、「美味(おい)しそうなねーちゃんがいるなぁ」と淫魔たちが寄ってきて、彼女を誘惑し始めているように見えなくもない。真っ白な空間には、妖気の象徴か、水に垂らした墨滴(ぼくてき)のごとく黒い色彩が流れていく。かと思うと、いきなり水中での映像となり、長い髪や服の裾が水流に乱れ、くるおしくたゆたう。水中でのけぞる彼女の肌に、淫魔たちは遠慮なしに手をのばしてくる。ああ、彼女の運命はいかに──なのだが、結果的に身を滅ぼしたのは、いちばん積極的で小憎らしいくらいに自信満々だったイケメン淫魔のほうだった。これは、下級淫魔がそうとは気づかずに上級淫魔に手を出して、逆にぱっくん食べられたと見るべきか。それとも、女性は人間だけれど実は強力な呪術師で、近づいてきた魔物をあっさり返り討ちにしてやったのだと見るべきか。どちらにしろ、こういった攻守逆転劇は大好物だ。同じ曲でも、ひたすら闇に取りこまれていく展開あり、魔を平(たい)らげる展開ありと、一曲で二度楽しめるのも面白い。まあ、ぶっちゃけ、ばけものがばけものらしく、邪悪にがんばってくれさえすれば、わたしは大喜びなのである。
香炉 旗指物 角盥
トノサマ