今回よりスタートの『岩谷文庫』は、ダンスと読書が大好き! THE RAMPAGE from EXILE TRIBEの岩谷翔吾さんが、フレッシュな視点でおすすめの本を紹介してくれる、ほぼ月イチブックレビュー連載です。読書を愛するあなたや、気になるけれど何を読んだらいいかわからないあなた。日々の生活にちょっぴり疲れてしまって、近頃本を読めていないあなたへ。あなたの心の本棚にも、『岩谷文庫』を置いてみませんか?
読書家の妹が僕に勧めてくれたのは
「瑞々しい青春小説」とは真逆の、不穏な物語だった。
今回は、米澤穂信さんの作品『ボトルネック』のレビューをお送りしたいと思います。
舞台は北陸、金沢です。主人公は、高校1年生の少年・リョウ。家族関係に問題を抱えている彼は、2年前に恋人のノゾミを事故で亡くしてもいる。
物語は、リョウがノゾミを弔うために、彼女が死んだ場所である「東尋坊」という福井県にある断崖絶壁を訪れるシーンから始まります。
ちなみに僕は、デビュー前の『武者修行』(編注:バス一台で日本全国を回り、ライブパフォーマンスをする活動)で北陸地方を訪れたことがありますが、高所恐怖症なので、東尋坊には行きませんでした……。
序章でリョウは、ノゾミの死んだ場所でノゾミの死因を思ううち、突然意識を失って崖から落ちてしまいます――と思っていたら、なぜか金沢市内の川のほとりで目を覚ます。何が起こったのか、読み手も一瞬見失ってしまうような、不思議な展開ですよね。
この本を手に取ったきっかけは、妹に勧められてのことでした。僕の妹はすごく読書家なので、その時自分が読んでみたかった「高校生・大学生の男女が登場する青春ものの小説でおすすめのタイトルを教えて」と相談してみたんです。そして出てきたのがこの『ボトルネック』でした。
相談したキーワード的にいっても、きっと「爽やかな瑞々しい青春小説」なんだろうなと思って読み始めたんですが、どうも不穏な気配が漂っている。これはいったい……? と、一気に物語に引きこまれました。
タイトルになっている『ボトルネック』という言葉も、初めて耳にして、作中の描写で初めて意味を知って。「へえ~、こんな言葉があるのか。でもどうしてこんなタイトルなんだろう?」と、物語とタイトルの繋がりが想像できなかったんですが……読み終わってもう一度タイトルの意味を考えたら、「そういうことか!」とわかって、ゾクッとしました。
さらに、一度読み終えてから序章へ戻ると、結末を知ったからこそわかる伏線がたくさん張られていて、驚くと同時にすごく怖くなる!
『ボトルネック』は、文庫版は300ページ弱、僕は今回4~5時間で読みましたが、続きが気になってグイグイ先へ引きこまれるので、読書慣れしていない人でも一気に読めてしまう勢いのある作品だと思います。
みなさんも、初回は「どういう物語かな」と筋書きをたどって読んでください。そして、一度読んでおしまいにせず、ぜひ読み返してほしい。ちょっとした描写の違いで、「あぁ、ここがあの部分に繋がる伏線だったのか!」と、2回目だからこそわかるおもしろさがたくさんある。
いろんな角度から楽しめる作品なので、読み返しがオススメです。
後ろ向きなリョウと楽天的なサキ。
正反対のふたりを見て、僕が感じたこと
序盤、東尋坊で意識を失ったリョウは、なぜか自宅のある金沢市内で目を覚まします。自宅へ帰ってみると、確かに自分の苗字の表札が出ていて、何もかも見覚えがある家なのに、「サキ」という見知らぬ少女が住んでいて、ここは自分の家だという。
いったいどうして? と読み進めるうち、リョウがいるのはどうやら「パラレルワールド」らしいということがわかります。ふたりとも同じ両親の元にうまれた人間だけど、リョウの世界にはサキはいないし、サキの世界にはリョウはいないんです。
このリョウとサキ、すごく対照的な性格の人間として描かれています。サキは根が明るい楽天的な性格で、何事に対しても主体的にどんどん動いていく。そして、一方のリョウは、どちらかというと暗い性格です。
僕はどちらというと楽観的な性格で、サキに近いものの考え方をするので、彼女には共感できるところが多かったです。
反対に、リョウのことはちょっと苦手だなと思いました。リョウは自分から動かず、物事がなぜそうなっていくのかを想像することもしない。
物事をあるがままにただ受け容れると言うとそうなのかもしれないけれど、ひたすら受身でただクヨクヨしているので、「動けよ!」って思ってしまうんです。
物語は、彼にとってつらい方向へ進む展開が多いんですが、正直、リョウが自ら動けば、違う可能性をいくらでも選べたんじゃないかという印象を持ちました。
僕は、何事も悪い方に考えて立ち止まっても仕方がないので、「まず自分が動かないと」と、いつも思っています。それは、僕自身がTHE RAMPAGEというグループで活動して、いろんな実体験を通して、身をもって感じたことです。
たとえば、「やりたい」と思うのは簡単だけど、それを行動に移せるか移せないかで人生は変わってしまう。僕は、リョウに感情移入して『ボトルネック』を読む中で、「後悔する前に行動しなくては」ということをすごく強く感じました。
といっても、不思議なことに、読んでいると、リョウの暗い部分や行動に移せない理由も、すごくよく分かるんです。僕自身は行動派なので、リョウは何かと反面教師になって、彼を見ていると「もっとこうしろよ!」って、腹立たしく悔しくなるところが多い。でも、心が弱っていたら、誰しも自分の軸を失って、リョウみたいに考えてしまう瞬間はあるのかもしれないですね。
『ボトルネック』という物語から僕が受け取ったのは、
自分で選んで「行動」することの大切さ
現実を生きている人間は、一人の中に、サキのように明るい部分と、リョウのように暗い部分が必ずあって、サキ優勢になるか、リョウ優勢になるかっていうバランスで生きていると思います。ただ、サキ優勢で生きていく方が、絶対人生は楽しいんじゃないでしょうか。だから僕は、悩みがあるんだったら、悩み続けるんじゃなくて、サキのように行動することを選びたいです。
たとえば人間関係でトラブルがあって、翌日相手に会うのが不安な時は、前夜のうちに相手に電話する。そこでもしケンカになってしまったとしても、自分が「動く」ことで、必ず何かが変わるはずだと思うからです。
物事は本当に自分次第。「絶対に不可能」なことなんて、きっとこの世にはない。目の前に何か問題があるとして、自分自身が本気の熱量で、覚悟をもってその問題にぶつかれば、現状よりは一歩、二歩先へ進むことができると、僕は信じています。 人間は、本気の思いがあれば、どんなことでも変えられる、そして、小さな行動をひとつひとつ積み重ねていけば、きっと自分の住む世界そのものが変わっていく。何より、行動することって、得られた結果がどうであれ、自分の心に嘘のない誠実な行為だと思うんです。
自分自身に嘘なく生きることは、口で言うのは簡単でも、実際にやるのはすごく難しいこと。大人になればいろいろと制約も増えてきますが、だからこそ行動することがいっそう大切。僕はこの『ボトルネック』という作品から、そういうメッセージを受け取りました。
この作品は、舞台となる北陸の街の描写がとても魅力的です。
僕が武者修行で金沢に行った時は春で、兼六園は桜が満開でとてもきれいでした。デビュー後にホールツアーで金沢と福井に行った時は、福井駅の駅前に恐竜のオブジェがあって、ハッピーな雰囲気を感じたことを覚えています。
季節が違ったせいか、実は作中の「弁当忘れても傘忘れるな」といわれるような空は見たことがありません。でも読んでいると、暗くどんよりと垂れ込めるような空模様とか、肌を刺すような寒さも行間から伝わってきて、『ボトルネック』という作品にすごくふさわしい。いつ雨が降るか分からない暗い空って、いやですよね。
リョウの恋人のノゾミは横浜出身で、作中に「青空が見たい」と嘆くシーンが登場しますが、その気持ちは想像できる気がしました。
物語は、やがてリョウの恋人であるノゾミの死の理由にもせまっていきます。
事故だと結論づけられていたノゾミの死の真相は?
そしてそれを知ったリョウの行動は?
クライマックスに向けて加速する展開には、本当に手に汗を握りますし、明かされた真実に驚かされたり、怖くなったり……ラストシーンは、読み手に委ねられるような終わり方になっているので、ぜひみなさんがこの結末をどうとらえたのか、解釈を聞いてみたいです。
間違い探しという言葉に、ぼくは少しひっかかりを覚えた。
こちら側とぼくの側で差があったとしても、別にそれは間違いじゃないだろう。
それを間違いと呼ぶのは、ちょっと残酷じゃないか
間違い探しという言葉に、ぼくは少しひっかかりを覚えた。こちら側とぼくの側で差があったとしても、別にそれは間違いじゃないだろう。それを間違いと呼ぶのは、ちょっと残酷じゃないか
この作品を読んで、印象に残ったフレーズです。
物語の序盤で、サキの世界に迷い込んだリョウは、彼女から「この世界と自分がいた世界の違うところを探す」ことを「間違い探し」として提案されるんです。冷静に考えれば、どちらが間違いなんてことはないはずで。ただ、ふたりは違う世界に住んでいるから、そこに少しずつ違いがある。
それってどちらも「正解」でいいはずなのに、あえて「間違い探し」と言っている。サキはこの言葉をまったく悪気なく言っているようですが、すごく引っかかりを感じました。
主人公のリョウも、最初は僕と同じように引っかかりを感じているんですが、物語が進むにつれて……この先は、ぜひ本編を読んで確かめてみてください!
僕はカフェやリビング、ベッドなど色々な場所で読書を楽しんでいますが、半身浴しながら本を読む事もしばしば……そんな時のマストアイテムがTHE RAMPAGEのメンバーであるLIKIYAさんがプロデュースしたこちらのアロマキャンドル!
BLACK MUSKのほんのり甘くセクシーな香りと、キャンドルの炎の光が集中力を高めてくれます。
身も心もリラックスした状態で本を読むと、その世界観にのめり込む事が出来るのでオススメです。
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。