『岩谷文庫』は、ダンスと読書が大好き! THE RAMPAGE from EXILE TRIBEの岩谷翔吾さんが、フレッシュな視点でおすすめの本を紹介してくれる、ほぼ月イチブックレビュー連載です。読書を愛するあなたや、気になるけれど何を読んだらいいかわからないあなた。日々の生活にちょっぴり疲れてしまって、近頃本を読めていないあなたへ。あなたの心の本棚にも、『岩谷文庫』を置いてみませんか?
舞台は東京郊外。「便利屋」として働く二人の男。
みなさん、こんにちは! 『岩谷文庫 ~君と、読みたい本がある~』第2回は、三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』のレビューをお送りします。
【※レビュー内には本編のネタバレが含まれますので、ご注意ください。】
東京都内にあるけれど、都心からは離れていて、東京というよりはむしろ神奈川の一部と思われている。東京のベッドタウンとしてお金持ちも住んでいれば、駅裏に行くと犯罪スレスレの行為もまかり通っている。このお話は、そんな不思議な感覚の街・まほろ市で、「便利屋」を営んでいる多田啓介と、多田の高校時代の同級生である行天晴彦というふたりの男の物語です。
「多田便利軒」が請けおう仕事は、入院中のおばあさんの代理見舞いからバスの運転状況の監視、飼い犬の預かりまで、それはもういろいろなもの。そんな雑多な仕事に、多田は日々実直に取り組んでいる。ところが、そんな多田のもとへ、高校卒業以来もう何十年も交流のなかった行天が、突然転がり込んできます。多田は、不本意そうではあるのですが、なんだかんだと彼を受け容れることになり、男ふたりの奇妙な共同生活がスタートします。
物語の冒頭で、行天は、高校時代に授業中のアクシデントで小指を切断し、それをくっつけた経験がある、という、少しショッキングな事実が明らかになります。そして、はっきりとは書かれていませんが、どうも多田は、その事故に対して何か思うところがあるらしくて……。
「バディもの」かと思いきや、二人はまるで噛み合わない
「ふたりの男の物語」っていうと、バディものかな?という印象を受けますよね。ところが、物語の序盤に登場してくる多田と行天は、まるで噛み合ったところがなくて、ひどい凸凹コンビです。それに、ふたりとも主人公なのに主人公感がないというか……カッコよくも成功者でもなくて、「ああこういう人、普通にいそうだな」と感じるキャラクターなんです。タイトルに出てくる「便利軒」=「便利屋」というのも、どんな仕事なのか、最初は想像できなくて。こんな噛み合わないふたりで、いったいどんな話が始まるんだろう? と、ただもう疑問でした。
読み進めていくと、最初は互いに背を向け合って、背中越しに互いを意識し合ってるような微妙な関係だった多田と行天が、いろんな「仕事」を通して、少しずつお互いの欠けたところを埋めて、同じ方向を向いていくようになります。そういう人の心の移り変わりが、とても興味深かったし、微笑ましかった。そして、ふたりの変化がすごく「わかるなぁ」と思いました。
自分も経験したからこそわかる、多田と行天の関係。
「男」対「男」の微妙な関係と、空気感
僕が多田と行天の関係性に強く共感したのは、THE RAMPAGEでの自分自身の経験と重なる部分が多かったからだと思います。
THE RAMPAGEのメンバーって、年齢も生まれ育った環境も、カッコいいと思うものも全く違う16人が集まって結成されたので、最初は全員がバラバラで、かなり仲が悪かったんです。当時は、メンバー全員が思春期まっただ中で、みんな尖っていて、お互いのことを見向きもしないで我が道を行くような感じで。デビュー前に活動を休止した期間もあって、その頃は本当にメンバー全員がケンカばかりしていましたね。
たとえば、僕はEXILEのダンスがカッコいいと思っていたけれど、別のメンバーはジャスティン・ビーバーのダンスがいいって言う。もう、こだわりとこだわりのぶつかり合いです。THE RAMPAGEは後輩グループたちと比べてメンバーの個性が強いし、「アーティストとして売れていかなくてはならない」って気持ちを全員が抱いていたからこそ、互いに譲れない。あの頃は寮で暮らしていましたが、定期的に開くメンバー会議も、互いに言いたいことを言い合ったかと思えば、全員が無言で、2時間まったく言葉を交わさないことさえありました。
今思うと、譲れない部分があったからこそ、同じ方向を向いた時に大きな力が生まれたし、あの頃とことん衝突したからこそ、今はメンバー全員すごく仲が良いのかもしれないです。
だからこそ、多田と行天の関係性は、すごくよくわかります。
お互いに背中を向けているんだけど、実は視線を後ろに送って斜めに相手を見ている。完全に嫌!っていうのではなくて、すごく相手が気になっていて、でも相手に手は伸ばさない。多田と行天の距離感を見ていると、僕はすごく懐かしい気持ちになりました。
多田も行天も、普段は結構コミカルなやりとりをしているくせに、いざとなると言いたいことがうまく言えなくてツンケンしてる。でも、実はふたりには、離婚経験だったり家族との関係だったりという共通点が多い。僕らも「アーティスト」という共通点を抱えた上で衝突していたので、多田と行天を見ていると溜め息が出ちゃうような……数年前の自分を思い出して、なんとも言えない気分にさせられました。
きな臭い事件・突き抜けすぎたキャラクターを
温かく描き出す三浦しをんさんの文章の魅力
作中で、多田が経営する「多田便利軒」には、それはもういろんな依頼が舞い込みます。しかも、多田と行天はその依頼を通して、なぜか犯罪スレスレのきな臭い状況に巻き込まれてしまう。たとえば、小学生男子・由良の塾の送り迎えの仕事が、なぜかドラッグ取引と絡んでいたり、マスコミに追われる女子高生の清海を一時的に保護する仕事が、実は清海自身が自分の意思で、犯罪者である友達をかばっていたり。冷静に考えると、どれも結構怖い事件だと思うんですが、三浦しをんさんの書く文章って、終始淡々としているのに、何とも言えない温かみが溢れている。だから、いい意味で大事件が大事件に思えないし、日常の延長線に感じられてしまう。もしかしたら、詐欺や殺人といった大事件が起こる時って、当事者にとっては、こんな風に日常の延長線上の出来事なのかもしれないなと思いました。
三浦しをんさんの文章を読んで、もうひとつ強く感じたことは、多田と行天を筆頭に、脇役に至るまで、どのキャラクターもすごく人間くさいということ。実は、登場した時点で第一印象がいいキャラはあんまりいなかったんですが、読み進めていくうちにどんどんそのキャラの人間味が溢れて、誰に対しても「こういう人、いる!」って思ってしまうぐらい、すごくリアル。
なかでも印象的だったのは、まほろ市のダークサイドで幅をきかせている男・星くんと、彼の後輩で、彼女でもある女子高生の清海です。
星くんは、物語の前半に登場してきて、多田や行天と絡む人物。小学生にドラッグの運び屋をさせている売人で、あからさまに悪い男です。ところが、物語の後半、彼女である清海が登場してくると、彼女に対してはちゃんと優しくしているし、振り回されてもいるし、マスコミに追われる彼女を守ろうという優しいところも見えてくる。清海とお揃いのストラップなんかつけたりして、可愛らしい一面があるんですね。
THE RAMPAGEのメンバーも、一見尖っているのに、実はみんな可愛いところがあるので、星くんを見ているとすごく「うんうん、わかる。悪ぶってるけど、本当はいいヤツなんだよね」と感じました。
星くんの彼女の清海は、ある事情から罪を犯して逃亡した友だちの園子を、周囲の大人に嘘をついて守ってあげようとする。社会通念を飛び越えてでも守ってあげたい相手や関係って、きっとあると思うんです。だから、清海の行動にはすごく共感できました。逃亡中の園子に、暗号的なやり方でメッセージを伝えるところも、彼女の頭の良さが端的にあらわれていて、とても魅力的でした。
「故郷」がない自分にとってのまほろ市は
まるで幻のように、清濁を併せ呑む不思議な街
この物語の舞台である「まほろ市」は、東京都町田市がモデルになっているそうです。
僕は、関西に住んでいた時代が長かったので、まほろ市=町田市だと全然わからなかった。アッパークラスの住むエリア、夜の世界エリアと、全然雰囲気の違うエリアがひとつの街に共存しているので、幻の世界なんだろうなと思っていたぐらいです。猥雑なところもある街だけれど、まほろで生まれ育った人は、やがてまほろに帰ってくるというところが印象的でした。そこで生まれたら、ずっとそこに住んでいたくなるような、濃密な人間関係のある街なんでしょうね。
僕は実家が転勤族だったので、鳥取、岡山、広島、埼玉、大分、大阪、東京……と、生まれてから引っ越しばかりしていて、いわゆる「故郷」「地元」と感じる街がないんです。だから、まほろ市に密着して、濃密な人間関係の中で暮らしている多田たちの姿にはすごく憧れました。
もうひとつ、強く印象に残っているのが、まほろ市に住む人々のありようです。
まほろ市内には、裕福な人が住むアッパーエリアと、比較的低所得の人が住む下層エリアがあるようですが、アッパーエリアに住んでいる人が、あまり幸せそうに描かれていないんです。逆に、下層エリアで暮らしている星くんや娼婦たちの方がイキイキとしている。本当に大切なものはお金じゃ買えないし、目にも見えないものなのかもしれない、と思いました。
人間関係も家族関係も、「修復」できないものはない。
希望と優しさが伝わる、多田と行天のラストシーン
話をもう一度、多田と行天に戻します。
多田は便利屋として受けた依頼にはきちんとこたえようとするし、常連客のことも大事にしている。責任感が強い性格で、社会人としてちゃんとしているので、読んでいて共感できるところがたくさんありました。行天は、一見何を考えているのか全然わからないし、言動もかなり突発的。行天みたいな人が目の前にいたら、どう対応したらいいのか、分からなくなってしまうような気がします。
でも、多田と行天には、それぞれ家族関係において大きな傷を抱えているという共通点があります。ネタバレになるので詳細は伏せますが、多田と行天が便利屋として様々な仕事をこなすうち、次第に彼らが抱える「陰」の部分がクローズアップされてきます。
彼らは、ふたりとも「家族と一緒にいる形」を放棄し一人で生きていて、でも本当は、誰かと繋がりたい気持ちを抱えている。
物語の終盤で、多田と行天の関係には亀裂が入って離れ離れになってしまいます。
でも、二人はもう一度再会し、互いの思いを吐露しあう。
凸凹だらけでまるで一致する部分がなく、互いを背中越しに見ているだけだった二人が、確かに通じ合う瞬間が、そこで描かれます。
互いに嫌がっているようなそぶりを見せていても、二人だからこそ互いに抱える「共通の傷」を埋めていける。そして、傷を抱えながらでも、人は生きていけるのだと伝えてくれる。全編を通して、もっとも一番光を放つ印象的なシーンでした。
この物語を読むと「一度傷つけてしまったものであっても、修復できないものはない」という確かなメッセージが伝わります。「切断された行天の小指」は、まさにその比喩になっているんです。たとえば自分が何かを、誰かを傷つけて、ずっとそれを気に病んでいたとしても、本当は、傷はもう癒えていて、相手は気にしていないかもしれない。
人間関係も家族関係も、相手と直接話し合わないとわからないことはたくさんあって、でも話し合うことを諦めなければ、自分が思っているよりスムーズに修復できるのかもしれない。一度傷つけてしまっても、「終わりだ」と絶望する必要はない。たとえ困難であっても、諦めなければ修復できないものはない。多田と行天の生き方から、僕はそんなメッセージを受け取りました。
「傷はふさがってるでしょ。たしかに小指だけいつもほかよりちょっと冷たいけど、
こすってれば、じきにぬくもってくる。
すべてが元通りとはいかなくても、修復することはできる」
「傷はふさがってるでしょ。たしかに小指だけいつもほかよりちょっと冷たいけど、こすってれば、じきにぬくもってくる。すべてが元通りとはいかなくても、修復することはできる」
これは、クライマックスで、行天が多田に伝える言葉です。
高校時代、行天は「事故」で小指を切断してしまった。でも、その事故を誘発する悪戯をしかけたのは多田でした。だから彼は、ずっと行天に対して責任を感じていたんです。
普段すごく口数が少ない行天が、こんなに長く喋るのはここだけで、その分、行天から多田へ「伝えたい」という気持ちをすごく強く感じました。自分の小指のことを話しているけれど、実は人が抱えるトラウマだったり、人間関係だったり、あらゆることに通じるメッセージだと思います。
僕が生活の中で一番こだわっているものは『匂い』
香水も高校一年生の頃に一目惚れしたものをずっと使い続けています。
家の中もディフューザーを玄関、リビング、寝室で匂いを少し分けたり…
家にお客さんが来た際に「良い匂い」と言われるのが一番嬉しいです!(心の中で「ふふふ、よく気付いてくれましたね…」とガッツポーズしちゃいます笑)
前置きは置いといて…本を読む時お香を焚くことが多いです。
「KUUMBA」のお香。匂いも何種類か持っていてその日の気分や作品によって変えます!
嗅覚を自由に遊ばせ本を読むと、視覚として入ってくる文字が想像の世界を無限に躍動させてくれる感覚がしてたまらないです!
今作は清潔感のある石鹸のような匂いのお香を焚きながら読みました!
まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦が転がり込み、二人は様々な依頼に精を出す。ペット預かりに塾の送迎、納屋の整理……ありふれた依頼のはずが、このコンビにかかると何故かきな臭い状況に。予言する曽根田のばあちゃん、駅裏で夜の仕事をするルルとハイシー、小学生の由良、バスを監視する岡老人……個性的な依頼人たちが登場し、抱腹絶倒かつ心温まるストーリーを展開。そんな中、多田と行天の過去が次第に明らかになり、二人の抱えるものと生き方が、読者の心に突き刺さる! 第135回直木賞受賞作。
東京都墨田区Y町。つまみ簪職人・源二郎の弟子である徹平(元ヤン)の様子がおかしい。原因は昔の不良仲間が足抜けすることを理由に強請られたためらしい。それを知った源二郎は、幼なじみの国政とともにひと肌脱ぐことにするが――。弟子の徹平と賑やかに暮らす源。妻子と別居しひとり寂しく暮らす国政。ソリが合わないはずなのに、なぜか良いコンビ。そんなふたりが巻き起こす、ハチャメチャで痛快だけど、どこか心温まる人情譚!