『岩谷文庫』は、ダンスと読書が大好き! THE RAMPAGE from EXILE TRIBEの岩谷翔吾さんが、フレッシュな視点でおすすめの本を紹介してくれる、ほぼ月イチブックレビュー連載です。読書を愛するあなたや、気になるけれど何を読んだらいいかわからないあなた。日々の生活にちょっぴり疲れてしまって、近頃本を読めていないあなたへ。あなたの心の本棚にも、『岩谷文庫』を置いてみませんか?
カバーに描かれた情景の美しさに胸を打たれるとともに浮かんだ疑問――「どこよりも遠い場所」とは?
みなさん、こんにちは! 『岩谷文庫~君と、読みたい本がある~』おかげさまで、早くも第3回になりました。今月は、阿部暁子さんの作品『どこよりも遠い場所にいる君へ』のレビューをお送りします。
【※レビュー内には本編のネタバレが含まれますので、ご注意ください。】
この本を手にしたとき、まずカバーの美しさに胸を打たれました。美しい空と海と、制服姿の高校生。イラストから、この本に綴られているのは、きっと爽やかな恋愛のお話なんだろうなと自然に想像できました。でも、タイトルにある「どこよりも遠い場所」って…? カバーに描かれているふたりは恋人同士で、引っ越しで離れ離れになるのかな? と想像したんですが、それだと「どこよりも遠い場所」とはちょっと違う気がする。「どこよりも遠い場所」とはいったい――? そんな疑問を抱きながら、本を開きました。
主人公は、月ヶ瀬和希という高校生の男の子。「采岐島(ときしま)」という離島にある采岐島高校、通称「シマ高」に通い、寮で暮らしています。 シマ高は、かつて過疎化が進み廃校寸前になったことがあります。でも、先代の校長が改革を呼びかけたことをきっかけに、島外からの入学誘致や、Iターン移住の推進に成功。今では全国から生徒を受け入れるユニークな高校として、知名度を高めています。和希も島出身ではなく、横浜からシマ高へ進学してきたのですが、どうやらそれには何か事情があるらしい。
そんな和希が、ある日、采岐島にある「神隠しの入り江」と呼ばれる場所で、身元不明の少女が倒れているのを発見する。ふたりの出逢いから、物語の幕は上がります。 少女の名前は七緒。和希の報せで救助されるとき、今の西暦を問われた彼女は「1974年」と呟くんです。どうやらこの「神隠しの入り江」は、その名の通り、ここに来た人が神隠しに遭うという曰くつきの場所らしい。さらに、采岐島には、どこからともなくあらわれ、時には未来を予言することもある「マレビト」という言い伝えがある。そう、七緒は、1974年から時を超えて現代へ来てしまった少女なんです。いったいどうして?
和希は、島に住む芸術家の高津に保護された七緒を訪ねるうち、少しずつ心を通わせるようになります。物語が進むうちに、やがて和希自身の抱えるものも少しずつ明らかになる……本来別の時代を生きているはずの和希は、七緒はいったいどうなるのか? 先が読めなくて、本当にページをめくる手が止まりませんでした。
個性豊かで距離感が絶妙な和希のルームメイトたち。
THE RAMPAGEメンバーとの寮生活を思い出す
主人公の和希は、序盤は人間味があまり感じられなくて、とにかくキャラクターが掴めない。そもそもどうして采岐島に来たのかもわからない。ルームメイトで親友の幹也の方が、よっぽどイキイキしていて「こういうヤツいる!」って印象でした。他のルームメイトたちもそれぞれ個性的なのに、和希だけは自分の心を表に出さないし、息をしている感じがしないんです。僕は最初、和希をかまいまくる幹也の方が気になってしまい「こんなに和希に心配りしてお世話してあげるなんて、幹也はなんて優しいんだろう!」って思っていたぐらいです。
作中には、和希が暮らすシマ高学生寮での生活がたくさん描かれます。 僕たちTHE RAMPAGEのメンバーも、以前、寮で一緒に暮らしていたので、「あるある」と感じる部分は多かったです。この元気をもて余した感じというか、無駄にパッションだけは溢れてる感じ。文字からも熱量が伝わってきて、すっごく楽しく読めました。
また、寮食のごはんが美味しそうなんですよね。和希がわかめ嫌いだって書かれていて、僕はわかめ大好きなので「なんでわかめ嫌いなんだよ!」って思ってしまった(笑)。 僕らがお世話になったLDHの寮にも寮母さんがいて、朝夕の食事を出してくれるんです。朝食は、決まってソーセージと目玉焼きと納豆とご飯と味噌汁。ソーセージがピンク色で、今でもピンク色のソーセージが食べたくなることがあります。
シマ高の寮は冷蔵庫が共用で、個人の物は名前を書いておくルール。僕らの寮にも共用の冷蔵庫があって、でも、名前を書くルールはなかったんです。そのせいか、ちょこちょこ物がなくなる事件があって、メンバーでよくケンカになっていました。メンバー会議は真面目な話をする場所なのに「冷蔵庫に入れておいた僕のパンがなくなったんですけど、食べたの誰ですか?」なんて訊いてみたり。でも、みんな言わないんですよ。絶対誰かが取ったのに! いまだに「あのパン取ったの誰だったんだろうね?」って話題になります。本当に、神隠しか!? って思うぐらいです。僕らもシマ高みたいに名前を書いておけばよかったなぁと思います。
今も思い出す寮生活ならではの人間関係と、
作中に描かれたエピソードのリアルさ
寮っていいですよね。この作品を読んでいて、すごく懐かしい気持ちになりました。僕は5年間寮で暮らして、その時間が今の自分の礎になっている部分も大きいと思います。一緒に寮生活しているメンバーとは、否応なく話す機会が増えるし、自然と家族みたいになってしまう。半年に一度部屋替えがあったので、いろんなメンバーと同室になりました。ルームメイトとはくだらないことで、しょっちゅうケンカするんですよ。例えば、3人部屋でトイレットペーパーを買ってきて、割り勘って言ってるのになかなかお金を払ってもらえないとか。で、めちゃくちゃ怒るんですけど、寝て起きたら忘れてる(笑)。メンバー同士がプライベートの時間も仕事の時もずっと一緒。そういう環境で暮らしているうちに、自然と人とのつきあい方のスキルが磨かれました。そして、作者の阿部暁子さんは女性なのに、男子の寮生活の雰囲気がすごくリアルに描かれていて「わかる!」というところがたくさんありました。
猫のようなイメージのヒロイン・七緒と、
見守る大人たちの強さ・優しさ
つい、寮生活の話ばかりになってしまいましたが、登場人物にも目を向けたいと思います。
ヒロインの七緒は、冒頭で「過去から来た人」であることが示唆される少女です。素性がはっきりしないから、どんな子なんだろうって気になってしまう。カバーの素敵なイラストを見ると、きっと和希と恋愛関係になるんだろうと想像できるんだけど、序盤は顔も合わせないし会話も噛み合わないしで、どうやって恋愛に発展するんだろうって不思議でした。でも、蒸しパンを介した交流があって、和希との距離が徐々に近づいていく。
カバーでは後ろ姿しか描かれていませんが、僕は読んでいて、凜とした空気をまとった、ちょっと古風な女性を想像しました。好きな人の一歩後ろをそっと歩く、でもいざというときはすごく強くて、最終的には、彼女の心が、折れそうになった和希を支えた。すごく魅力的な女性です。
そして、和希と七緒を見守る大人組。高津さんと仁科先生も「強さと優しさ」を兼ね備えた人たちです。二人とも、采岐島に生まれ育った人で、高津さんは島で一番のお屋敷に住んでいる彫刻家。ぶっきらぼうなんだけどすごく優しくて、身元不明の七緒を自分の家で保護してくれる人です。仁科先生は、シマ高の先生で和希のクラスの担任。「自主独立」「個性伸長」の校訓を体現したような人で、和希のことはもちろん、生徒ひとりひとりを尊重してくれる。
この二人が、シマ高で同級生だったという設定がまたいいです。二人の高校生時代を見てみたい。見た目や表面上は尖っていたり、カッコつけたりしているけれど、心の中は、美しい采岐島の景色と同じように、汚れずにまっすぐ育ってきたんだろうなと。和希や七緒への二人の接し方を見ていて、強くそう感じました。
一度は捨てたピアノを、七緒のために再び弾く。
和希にとってのピアノ、僕にとってのダンス
物語の中盤で、大きな事実が明らかになります。それは、和希がプロ級のピアノの才能を持っていることと、なんらかの事情でそれを捨ててしまったこと。彼はピアノを本当に愛していたのに、あることがきっかけで人間の悪意に晒され、その醜さを目の当たりにして、大切なピアノを諦めてしまった。でも、そんな和希を、再び鍵盤に向かわせたのが七緒でした。
人を衝き動かすものって、きっと目には見えないけれど、心の中にいつも燃え続けている思いなんだと思います。和希にとってのそれはピアノで、多分、僕にとってはダンスがそうです。 和希は理不尽な理由でピアノを手放し、七緒との出逢いがきっかけで再びピアノに向かいますが、僕がもしダンスを奪われたとしても、絶対にまた踊ってしまうと思う。
和希とピアノの関係は、自分自身のデビュー前の活動休止期間を思い出させてくれました。あの頃は「もうダンスなんかやめてやる」とヤケになっていましたが、街中で流れるBGMのリズムを無意識に取ってしまったり、電車のリズムに合わせて、気づかないうちに体を揺らしていたり。「ああ、僕は本当に、心の底からダンスが好きなんだ」と思い知らされました。和希も、きっとそうだった。そして、断ち切れないピアノへの情熱が、七緒をきっかけに甦ったんだと思います。
ダンスって、口べたな人でも、言葉が通じない外国の人でも、体さえあれば繋がれるもの。目には見えないすごいパワーがあって、だからこそずっと心に残り続ける。でも、中途半端な気持ちで踊っても、誰にも何も届かない。 ピアノもそうだと思うんです。 ダンスでも音楽でも、表現する人の心が入っていないと、きっと相手に感動を届けることはできない。心が入っていない表現じゃ、自分の心が動かないし、相手の心も動かせない。何事も、「心」がすごく大切なんだと、僕はダンスを通して考えるようになりました。
作中では、和希が七緒のためにピアノを弾こうと強く決心する、ある瞬間が描かれています。読んでいて僕は、このときの和希の目に宿った光が見えたような気がしました。 和希は、七緒ひとりのために弾く。 僕らは、ライブを観にきてくれた1万人、そのひとりひとりのために歌い、踊る。 きっと、それは同じ心意気だと思うので、表現者として激しく和希に共感しました。
これは、ただの感動ストーリーじゃない。
読み終えた瞬間、僕は呼吸さえ忘れていた
物語は、後半にさしかかるにつれてどんどんスピード感を増していきます。 和希にピアノを諦めさせた「人間の悪意」が、またしても彼に襲いかかります。そして、七緒はそれに立ち向かおうとする。 けれども、七緒はいつまで和希と一緒にいられるのか……? 読んでいると、どんどん心臓が高鳴って、作品の世界にのめり込んでしまいました。
そして、最後の一文を読み終えて、本を閉じて――きっと、僕は呼吸さえ忘れていたんだと思う。「はあーっ」と、声にならない、深くて長い息をつきました。
この本は、僕らのファン世代の、10代の子たちにぜひ読んでほしいです。すごく大事なことを教えてもらえると思います。全編に清涼さが漂う、すごく爽やかな物語だけれど、それだけじゃない。人の嫌な部分をきっちり描いて、でもそれを乗り越える力があることを教えてくれる。 もしも、みなさんが誰かの悪意を感じて苦しい気持ちになってしまうことがあったら、ぜひ、この本を読んでみてください。きっと、救いが見つかると思います。
そして、本編を読み終えたら、ぜひもう一度、カバーイラストをじっくり見てみてください。オビがかかっていたら、外してみてください。そこに描かれているものに気づいた時、きっと、みなさんは、思わず声を上げてしまうと思いますよ!
あなたが笑っていてくれたら、もう、ほかに望むものはない
あなたが笑っていてくれたら、もう、ほかに望むものはない
これは、七緒が「どこよりも遠い場所」から和希に送った手紙の一節です。
文章そのものは、ヒット曲の歌詞なんかでもよく見かけるような、ありふれたものですよね。でも、この本を最後まで読んでから、もう一度この一文を読み返すと、そこにこめられた重みがまったく違うことに気づくと思います。
七緒の手紙は、ここ以外に書かれていることも、こんなに人の心を抉る言葉があるだろうかというぐらいの物が詰め込まれています。
僕はこの手紙を読んで、泣きました。そして、救われました。 ここには、一番大切な人への、何物にも代えがたいメッセージが詰まっている。ぜひ、みなさんにも、このメッセージを受け取ってほしいです。
今回は読書風景をお届け。 THE RAMPAGEの楽屋では色んなタイプの人がいます。読書をしている人、映画を見ている人、ゲームをしている人、雑談している人…16人の男たちが各々の過ごし方をするので、基本楽屋はワチャワチャしています。どれだけ陣さんとか翔平が大声で話していても、読書好きの集中力は周りの音をシャットアウトして遮る力があると思っています!(笑) 樹は楽屋でも静かだから、集中して本読みたい時は樹の横の席に座ります。(笑)
ある秘密を抱えた月ヶ瀬和希は、知り合いのいない環境を求め離島の采岐島高校に進学した。采岐島には「神隠しの入り江」と呼ばれる場所があり、夏の初め、和希は神隠しの入り江で少女が倒れているのを発見する。病院で意識をとり戻した少女の名は七緒、16歳。そして、身元不明。入り江で七緒がつぶやいた「1974年」という言葉は? 感動のボーイ・ミーツ・ガール!
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