『岩谷文庫』は、ダンスと読書が大好き! THE RAMPAGE from EXILE TRIBEの岩谷翔吾さんが、フレッシュな視点でおすすめの本を紹介してくれる、ほぼ月イチブックレビュー連載です。読書を愛するあなたや、気になるけれど何を読んだらいいかわからないあなた。日々の生活にちょっぴり疲れてしまって、近頃本を読めていないあなたへ。あなたの心の本棚にも、『岩谷文庫』を置いてみませんか?
みなさん、こんにちは。岩谷翔吾です! いつも『岩谷文庫~君と、読みたい本がある~』を応援していただきありがとうございます。第9回は、朝井リョウさんの作品『スター』を読んで感じたことをご紹介していきます。
朝井リョウさんの作品は、以前『チア男子‼』が映画化された際に出演させていただいたご縁もあって、これまでに何作か拝読していました。今回『スター』を読んで改めて感じたのは、そのずば抜けた読みやすさです。はじめ、世界観や登場人物の人間関係を理解するのに時間がかかる本は少なくないけれど、この本にはそういうところが一切ない。文章がするするっと頭に入ってきて、すぐに作品世界に没入できます。
冒頭は、主人公たちのインタビュー記事から始まるんですが、まるで実際のインタビューを読んでいるようなリアリティがあり、自然に興味を惹きつけられていく。すごく秀逸な始まり方だなと思いました。
物語を貫くテーマにも、心を打たれました。表現活動、アーティスト活動をしている人なら、きっと誰でも感じたことがある悩みがリアルに描かれていて、ストーリーを追うだけでなく、数え切れないくらいの人生訓を得ることができます。これまで沢山いろんな本を読んできましたが、その中でも3本の指に入るぐらい素晴らしい作品だと思いました。『岩谷文庫』の連載を始めてから、周りの人からおすすめの本を教えてほしいって訊かれる機会が増えたんですが、最近はもっぱらこの『スター』を推しています。三代目 J SOUL BROTHERSの山下健二郎さんに訊かれた時も、この本をおすすめさせていただきました。
【※レビュー内には本編のネタバレが含まれますので、ご注意ください。】
「“国民的スター”って何なんだろう」
この本が、僕自身に突きつけてきたこと
『スター』を手に取った時、帯に書いてある「国民的スターって、今、いないよな」の言葉が目に飛び込んできました。みなさんは、国民的スターって、どんな存在だと思いますか? 僕たちTHE RAMPAGEは、ありがたいことに先日東京ドーム公演を実現させていただくことができました。ドームという場所を目標にしていた時は、「ドーム公演=国民的アーティスト」という認識だったんですが、いざ現時点での自分たちを振り返ってみると、お年寄りからお子さんまで、広い年齢層の方に知られているわけではないし、誰もが口ずさめるようなヒット曲もない。今はまだとても「国民的アーティスト」と言える段階ではないのではないかと思ったんです。
じゃあ、国民的スターってなんなのか。少し前の時代までは、TVドラマや映画で主演を張っている俳優さんや、ドーム公演をするアーティストが絶対的なスターだったと思うんですが、今の世の中ではYouTuberとして支持されている方が、あるファン層にとってはスターと呼べるポジションにいたりする。「国民=みんな」が見ているものというのが、変わってきているんですよね。僕は、THE RAMPAGEとして国民的アーティストを目指していきたい。そんな変わらない気持ちを持ちつつも、この本に掲げられた「国民的スターって、今、いないよな」という言葉には「確かにな」と頷かざるを得ませんでした。
……と書くと、まるでこの本は国民的スターを目指す人のための物語かのようですが、そういうわけではありません。
主人公は、立原尚吾(たちはら・しょうご)と大土井紘(おおどい・こう)という二人の若者です。尚吾と紘は、大学の映画部で出会った仲間同士で、在学中に共同で撮影した映画が、新人監督の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞。大学を卒業した二人は、異なる映像制作の現場へ身を投じることになります。
尚吾は、日本映画界の巨匠・鐘ヶ江誠人(かねがえ・まさと)監督に弟子入りする道を。
紘は、YouTuberの映像編集担当として発信する道を選びます。
誰もが簡単に「発信」することが可能になった時代に、求められているものは何なのか。同じ一本の映画から始まりながらも正反対の方向を選んだ二人は、それぞれの立場で壁にぶつかっていく。そんな彼らやその周りの人々を通して、本作では本当に様々な価値観が語られていきます。そして、そこに絶対的な正解はありません。
正反対の道を選んだけれど、尚吾と紘は
どちらも正しく、僕はどちらにも共感した
表現スタイルは真逆の尚吾と紘ですが、僕は二人のどちらにも共感できましたし、できないところもありました。
尚吾は、自分の信念を貫くところ。紘は、時代に対応して柔軟に生きるところに共感しました。逆に共感できないのは、尚吾は自分の価値観に合わず認めたくないものに対して、自分より劣っている部分を探して批判しようとするところ。紘は、柔軟であるがゆえに流されやすいところです。
理想を言えば、「ブレることなく質の高いものを追求する」尚吾に肩入れしたい。THE RAMPAGEとしては、鐘ヶ江監督の下で学ぶ尚吾と同じように、僕らはLDHの恵まれた環境で、質にこだわって制作した楽曲・MVを発信させてもらえています。けれど一方で、自分がSNSで日常的にしている発信は、プロが撮影したハイクオリティな写真ではなく、自分がiPhoneで撮った写真を使っていたりしていて、YouTubeで動画を上げる紘に近い。まさに作中でも語られているんですが、SNSでの発信って質より量で、どれだけ人の目に触れさせて時間を奪えるかが勝負という面があるし、ユーザーの方からもそれを求められていたりする。そう考えると尚吾のやり方も紘のやり方も、どちらにも正しい面があるわけで、本当に難しいなと思いました。
もし自分が『スター』の世界にいたとしたら、最初は紘のようにYouTubeで発信をすると思います。質にこだわれなくても、毎日発信することで再生数を稼いで、人気を得ます。そして、資金を貯めてから尚吾のように、映画制作で質を追求することに振り切る。実際、こういうやり方をする人は多いんじゃないでしょうか。夢を実現するためには、こだわりを捨ててお金を稼がなくてはならないシーンってあるので、あながち紘のやり方が間違っているとは思わない。
一方、尚吾が憧れていた映画界の巨匠に弟子入りできたのは、彼自身の才能はもちろんですが、それに加えて運や恵まれた環境があったからで、誰でも尚吾のようなルートをたどれるわけではない。そんな尚吾でさえも、作中ではなかなか芽が出せずにくすぶっていて、この先夢を実現するにはそれなりの年月がかかるだろうなと感じさせられる。
尚吾と紘、どちらの生き方がいいんだろうかという問いには、きっと読む人それぞれの答えがあると思います。ただ、僕自身としては、尚吾のようにブレない信念をもって生きている人は、かっこいい大人になれるのではないかと感じています。
質と価値、お金と時間。この本は、
僕に「答え」ではなく「問い」をくれた
『スター』の中で、何度か提示される問いがあります。
それは、尚吾が選ぶ「世に出るまでのハードルが高く有料で提供され、高品質である可能性は高いが拡散されにくいもの」と、紘が選ぶ「世に出るハードルが低く無料で提供され、低品質である可能性は高いが拡散されやすいもの」のどちらがいいのかという問いです。二人はこの答えを探して悩み続けていて、僕自身もひとりの表現者として読みながら真剣に悩みました。
今の時代の流れを考えると、どちらも正解で、どちらが間違っているとは言えないと思います。でも、自分が表現したいものを突き詰めていくのなら、最終的には「有料で提供される高品質なもの」を選びたいですね。観てもらうからには、その人にとって価値がある作品を作りたいし、ただの時間泥棒みたいなことはしたくない。
とはいえ、この問いの答えは本当に難しくて、たとえば僕が尚吾と紘、どちらかと仕事をするとしたら、きっと紘を選んでしまうと思うんです。こちらからの問いかけに、紘はスピード重視でレスポンスをくれそうで、尚吾はじっくり考えてから答えを提示してくれそう。後になって考えてみたら「尚吾の案のほうがよかった」ってなることもあると思うけれど、現実的にはレスポンス優先で紘と組みたいって思うだろうなと。
結局、二人のどちらもが正解だと感じるからこそ、僕は二人ともに共感するし、この物語に惹かれてしまうのかもしれませんね。
僕が、尚吾と紘から学んだものはたくさんあります。
質と価値、お金と時間。自分が何を信じて発信するべきなのか。
時代はすさまじい速度で移り変わっていくし、世界はどんどん多様化していく。
世の中のニーズに応じたものを発信することは大事だけれど、それだけでは芯がなく、人の心に届くものは創れない。YouTubeで活動する紘は、最初のうちは、自分の中で死守したいクオリティのラインを決めて発信していきます。けれども様々な要因が重なって、そのラインを守れなくなったことが、彼の崩れるきっかけになる。このくだりはすごく示唆的で、やはり、表現者である以上、自分の中で譲れないもの、信念は持つべきだと思いました。
たとえば、THE RAMPAGEメンバーの浦川翔平は、毎日TikTokで発信をしていて、僕も時々動画に出させてもらうのですが、どんな動画にするかは必ず事前に相談をして、LDHのアーティストとしてふさわしいものを発信するように心がけています。グループとして7年活動してきて、正直、ファンの方が何を求めているかはわかるのですが、ただそれに応えているだけでは、アーティストではなくなってしまうと思うんです。
世のニーズを踏まえることと、そこに迎合しすぎないこと。
このバランスって本当に難しくて、僕は日々葛藤しています。
EXILEが創り上げた、かつてのLDHの筋肉質なイメージと、今の自分たちJr.EXILEの爽やかなイメージとは異なっていて、僕の中には、昔ながらの伝統を守りたい自分と、今の時代に適応していかなきゃっていう自分がいます。今多くの人に求められているのはJr.EXILEだと思いますが、でも、LDHの軸がぶれないのは、僕が憧れたEXILEがあってこそです。どちらかが間違っているわけでなく、どちらも正解。これは、『スター』を読んで感じた「尚吾も紘も、どちらも正しい」という思いとも重なる部分が大きいなと思います。その上で、時代が移り変わる中で、その時その時の正解をどう判断していくべきか――この本は、まさに表現者である自分に「答え」ではなく、大いなる「問い」を突きつけてきた一冊。だからこれほどまでに心打たれたのだと思います。
読み終えた今、もう一度考えたい
「スター」とは、いったい何なのか
僕は前々回『推し、燃ゆ』のレビューで、「人にはいろんな形の背骨がある」と書きました。考えてみれば、この「背骨」は「スター」と同義です。つまり、今の時代、国民的スターはいないけれど、スターの数は増えている。そう考えると、ちょっと不思議な気持ちになりました。さらに、数十年前に大ヒットした曲には、ZOOさんの『Choo Choo TRAIN』や、中西保志さんの『最後の雨』のように、今でも歌い継がれているものがありますが、今現在ヒットチャートを賑わせている曲の中に、この先そうなるものがひとつでもあるのかな?と思ったり。この本を読んで、考えさせられることは、あまりにも多いです。
この作品の中で、「ブレずに貫く信念」を、尚吾よりもさらに明確に見せてくれた登場人物がいます。それは、プロボクサーの長谷部要(はせべ・かなめ)です。
要は、尚吾と紘が映画祭でグランプリを獲った作品『身体』の被写体となった男です。後に、紘は要が所属するボクシングジムのYouTubeチャンネル専属として活動することになります。ジムの運営者側が、クオリティを無視してバズることばかり優先した動画制作を紘に求めてくる中で、要は外野の思惑など関係なく、ただ無言で己の強さを究めようとする。様々な価値観に尚吾と紘が揺さぶられ、僕自身も葛藤する中で、一途に強さを求めていく要の姿がどれだけ救いになってくれたことか。『スター』の世界に彼がいてくれて、本当によかったと思いました。
現実の自分にも、要のような存在がいます。それは、初代J Soul Brothersを立ち上げたHIROさんと、BOBBYさんという僕の師匠です。BOBBYさんには、初代JSBメンバーしか持っていない「JSB」と刺繍の入ったキャップを継承の意味で授かりました。そのキャップをツアーやMVなど、様々な場面で気合いを入れるために被っています。
表現者である僕にとっては、お二人のような存在こそが原動力。自分がブレることのない「岩谷翔吾」でいられるのは、そのおかげです。
「私が鐘ヶ江監督の映画を好きになったのって、
答えじゃなくて問いをくれるからなのね」
「私が鐘ヶ江監督の映画を好きになったのって、答えじゃなくて問いをくれるからなのね」
これは、YouTubeで活動する紘の動画が、権威ある映画雑誌の映画評で取り上げられたことに怒りと焦りを隠せない尚吾へ、鐘ヶ江監督の製作チームでともに働くスクリプター(現場で撮影情報を記録する係)の浅沼が話す言葉です。
彼女は、尚吾が書く脚本に対して「世の中に目配りして、“今の時代の生き方はこれ”と答えを言いたがっている」と指摘し、鐘ヶ江監督の作品は、答えではなく、問いをくれる作品だ、と語ります。
『スター』の読み手にとっては、まさにこの物語そのものが「問い」。この本を読んでも、答えは得られません。でも、表現する人、創作する人にとって、この「問い」は絶対に考えなくてはならないものだと思います。そうでないみなさんも、ぜひこの本を読んで、表現者や創作者ってこんなことを考えているんだな、と感じてもらえると嬉しいです。
今回は本棚の一部を特別に公開しましょう…
特に思い入れ深い本を作業机にディスプレイしています。出演した映画やドラマの台本も並べています。
めちゃくちゃ恥ずかしいですが、「チア男子!!」の台本の中に書いてあったメモを岩谷文庫をご覧の皆様だけに出血大サービスです。
このように監督から言われた事や、考えてきた演技プランを台本に書き込んで、役作りを行うのです。このメモだけでどこのシーンか分かる方は岩谷ファンレベルかなり高いです!(笑)自分でもこのメモだけではどのシーンか分かりません(笑)
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。
ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。
受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応――作品の質や価値は何をもって測られるのか。
私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。
次回の岩谷文庫は…
「#岩谷文庫リクエスト」ツイッター企画にたくさんのご投稿ありがとうございました。
第一弾は、@aoi_hanaaaさんからのリクエスト本、
『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス/ハヤカワ文庫NV)
をご紹介します!
ぜひ次回更新までに、ハッシュタグ#岩谷文庫で読んだ感想を呟いてみてくださいね。
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