『岩谷文庫』は、ダンスと読書が大好き! THE RAMPAGE from EXILE TRIBEの岩谷翔吾さんが、フレッシュな視点でおすすめの本を紹介してくれる、ほぼ月イチブックレビュー連載です。読書を愛するあなたや、気になるけれど何を読んだらいいかわからないあなた。日々の生活にちょっぴり疲れてしまって、近頃本を読めていないあなたへ。あなたの心の本棚にも、『岩谷文庫』を置いてみませんか?
みなさん、こんにちは! 『岩谷文庫~君と、読みたい本がある~』第12回をお送りします。これで、まる一年間、僕のブックレビューをみなさんにお届けしたことになりますね。第一回のことを思い出すと、とても感慨深いものがあります。
今回ご紹介するのは、伊坂幸太郎さんの『砂漠』。
この本を初めて読んだのは19歳の時でした。僕にとっては定期的に読み返したくなる本です。僕が『チア男子!!』の映画に出演させて頂いた時に、風間太樹監督がこの本すごくいい、「『砂漠』みたいな映画を撮ってみたい」と言っていたのが気になって、手に取ったんです。大学生たちが登場する青春ものなので、当時は読み終えて「大学行きてーっ!」としみじみ思った記憶があります。今回『岩谷文庫』で取り上げるにあたって再読したところ、キャラクターたちから受ける印象が以前と結構変わっていて。月日が経っているからというのはあるにしても、この変化はおもしろいなと思いました。
今の自分もまだまだ若いはずなんですが、「俺もこんな青春したかった! こんな学生生活を経験してみたい!」と、読むたび羨ましい気持ちになるんですよね。
【※レビュー内には本編のネタバレが含まれますので、ご注意ください。】
舞台は杜の都・仙台。大学で出会った五人の大学生たちの
損得勘定抜きの友人関係は、本当に素敵で羨ましくなる
この物語の舞台は、仙台市。
市内の大学で出会った五人の学生たちが遭遇する、学業のみにとどまらない大学生活の様々な出来事が、疾走感溢れる文章で綴られています。
メインキャラクターの五人は、それぞれとっても個性的です。
語り手であり、物語の軸でもある北村は、ちょっと冷めた目線で物事を見る「鳥瞰型」の学生。めちゃくちゃわかりやすい「チャラ男」キャラの鳥井。どこまでも真っ直ぐで自分の理想を求めて直球勝負の西嶋はすごく愛すべき人間で、読みようによっては彼がこの物語の主役なんじゃないかと思わせられるほどです。
このグループの中で言うと、謎めく美少女として大学で名を馳せる東堂さんは、僕もつきあってみたい(笑)。つかみどころがない人なんだけどそこが魅力的で、つい追いかけたくなってしまうという、男性にとって普遍的な「憧れの女性」ですね。もう一人の女子・南ちゃんは、東堂さんとはまた全然違うタイプのかわいい子。東堂さんが陰なら南ちゃんは陽で、きっと男子は東堂さんより南ちゃんとつきあった方が幸せになれます(笑)。さらに、南ちゃんにはもうひとつ大きな特徴があります。それは、「超能力者」だということ。作中に張り巡らされた様々な伏線に、彼女の能力が関わっている、いわばこの物語のキーマンですね。
僕自身は大学に通っていませんが、彼らの友人関係は本当に素敵だなと思いますし、輝かしく見えました。作中に出てくる「人間にとって最大の贅沢は、人間関係における贅沢である」という一文にもあらわれていますが、学生時代って、人が損得勘定抜きの、素直な人間関係という贅沢を享受できる貴重な時間です。でも、社会に出てしまえばその環境とは決別しなくてはならない。「もう一度あの頃に戻りたい」って、誰しもが言ったことのあるだろう言葉ですが、それを「逃げ」にして生きるなよ、というメッセージが込められていると思う。これは、伊坂さんがこの作品を通して書きたかった「軸」のひとつなんじゃないかなと僕は解釈しています。
この作品は刊行されたのが2005年と少し昔なので、SNSがなかったり、携帯電話を持っていない学生がいたりと、今の若い子が読むとギャップを感じるかもしれませんが、僕はあまり気にならなかったです。あと、北村たちが麻雀ばかりしているのは面白かったですね。僕自身将棋がすごく好きなこともあって、麻雀もうまくはないですけどルールは知っているので、対局シーンは読んでいて楽しかったです。…といって、誰かとやるほど詳しくもないんですけれどね。THE RAMPAGEメンバーでは山彰さん(山本彰吾)と一度だけNINTENDO Switchのゲームで対局したことがありますが……ルールを知っているだけなので、そんなに白熱もしませんでした(笑)。
もし僕が五人と同じ大学に通っていたら、きっと彼らと仲良くなっていたと思います。自分は誰とでも仲良くなってしまうタイプだと思っているのですが、西嶋や鳥井と親しくなれたら、大学生活を引っ張ってもらえてすごく楽しそうじゃないですか。そしてきっと東堂さんを狙っていると思う(笑)。東堂さんは麻雀が好きなので、彼女と仲良くなるためにもっと本気で麻雀に打ち込んでいるかもしれません(笑)。
物語の主役は男女の五人組なので、作中には彼らの恋愛模様も描かれています。といっても、著者である伊坂さんは恋愛メインのお話にはしたくなかったそうで、学生たちの日々を構成する要素としてさりげなく、でも面白く恋愛事情に触れています。「つまんない合コン」シーンの描写はめちゃくちゃ笑えるぐらい秀逸だし、五人のうちカップル同士の関係性もすごく興味深い。ネタバレになるので誰と誰がくっつくか、というところは伏せておきますが、誰もが憧れる東堂さんを西嶋が振ってしまうのはなかなかに衝撃的で。この二人の関係がどうなっていくのかを、最後までドキドキしながら見守りました。
あらゆる物事に忖度せず、自分の思いを叩きつけてくる
そんな西嶋の言葉に、僕は心を揺さぶられた
物語の中では、五人が関わる大小様々な事件がどんどんと起こってくるので、読んでいて息をつく間もないぐらいなんですが、僕が好きなのはいろんな局面にちりばめられた西嶋の言葉です。彼とはぜひ仲良くなっておきたいですよね。でも二人きりで会うのはキツいから、東堂さんとか北村とかワンクッション挟んでギリギリですが(笑)。西嶋は主観的ではあるけれど、すごくまっすぐな人間なので、彼の言葉にはいろんなことを気付かされて、「西嶋語録」を作ってしまいたくなるぐらいでした。
例えば……。
「三島由紀夫を、馬鹿、と一刀両断で切り捨てた奴らもね、心のどこかでは、自分が本気を出せば、言いたいことが伝わるんだ、と思ってるはずですよ。絶対に。インターネットで意見を発信してる人々もね、大新聞で偉そうな記事を書いている人だって、テレビ番組を作っている人や小説家だってね、やろうと思えば、本心が届くと過信してるんですよ」
僕自身、発信側の人間ではありますが、確かに「自分がネットで発信すればみんなに届くだろう」とどこかで思っている。それって過信なのでは……?と、グサッと刺さりました。
他にも、
「目の前の人間を救えない人が、もっとでかいことで助けられるわけないじゃないですか」。
「たとえばね、手負いの鹿が目の前にいるとしますよね。脚折れてるんですよ。で、腹を空かせたチーターが現れますよね。襲われそうですよね。実際、この間観たテレビ番組でやってましたけどね、その時その場にいた女性アナウンサーが、涙を浮かべてこう言ったんですよ。『これが野生の厳しさですね、助けたいけど、それは野生のルールを破ることになっちゃいますから』なんてね。(中略)助けりゃいいんですよ、そんなの。何様なんですか。野生の何を知ってるんですか。言い訳ですよ言い訳。自分が襲われたら、拳銃使ってでも、チーターを殺すくせに、鹿は見殺しですよ」
などの言葉にも、非常にハッとさせられました。
人間は大人になればなるほど、物事を自分の都合のいいように解釈してしまうし、社会通念にも縛られる。そして、いろんなことを器用にやろうとして小利口になっていくと思うんですが、まっすぐな熱意を宿した西嶋という人はそうじゃない。あらゆる物事に忖度せず「そんなの関係ない、自分はこう思う」と断言する西嶋の言葉には、胸を衝かれるところがすごく多かったです。
西嶋の台詞だけでなく、伊坂さんの文章は本当に面白いですよね。僕は気になったところに印をつけるんですが、読み返すと8ページの時点で印がついていて、しょっぱなから気になるフレーズがあったんだなと思いました。有名ですが、「砂漠に雪を降らすことだってできる」という言葉も、ありそうであまり聞いたことがなかったというか。「雨」じゃ弱くて、「雪」というところがいい。伊坂さんって、ラップを書いたらすごく上手そうだな……と思いました。すごいパンチラインをリリックで書きそうです。
将来への不安、自分は何者かという問い。
誰もが経験する悩みに、この作品はそっとエールをくれる
この作品のタイトル『砂漠』は、北村たちがまだ脚を踏み入れていない「社会」を比喩する言葉です。
僕の目から見ると、確かに社会は、ある意味「砂漠」だと思います。どこまでも広がっていて、自分自身で考えて歩いて行かなくてはならない。そこには道しるべもなければ、導いてくれる誰かがいるわけでもない。僕たちが生きていく人生や社会は、楽しいこともあるけれど、つらいこともたくさんある。それを、果てしない「砂漠」のなかを自ら選択しながら歩んでいく行為にたとえているのが秀逸だと思いました。
もしかすると「学生時代は『勉強しなくてはならない』、社会人は『働かなくてはならない』。どちらの立場であっても課せられるものはあるから、同じようなものではないの?」と疑問に思う人がいるかもしれません。でも、この二つは違うと思います。
学生時代は、親に言われて何かをして、達成したら親から褒めてもらえて、生きているのも家庭と学校だけの小さな世界、いわばひとつの街みたいなものです。でも、社会に出るということは、守られていた小さな街から、どこまでも広がっている砂漠に立ち、次の街がどこにあるのか、どうやったらたどり着けるかもわからない中を手探りで歩いていくのに等しい。たとえば僕たちTHE RAMPAGEは、長い間ドームツアーを目標にしていましたが、これをしたら確実に実現できる、という保証はどこにもありませんでした。それでも人間は、自分の行く道を自分で決めて、自分の力で歩き続けなくてはならない。それって、「砂漠を歩く」ことにすごく似ていると思います。
まだ社会に出ていない学生の北村たちは、毎日を楽しく過ごしているけれど、いずれ旅立つ砂漠にどんな苦難が待ち受けているのか想像できないし、未来に対する不安も抱いている。作中ではその不安をこんな描写でリアルに伝えてきます。
砂漠に足を踏み出してもいない僕たちには想像もつかないような、苦難が、社会には広がっているのではないか、そんな想像をした。超能力者のフリをせずにはやっていられない、「生きづらさ」と要約することもできそうな苦しみが、たくさんあるのかもしれない。
『砂漠』の中に出てくる超能力という要素を、僕は単にSF的な要素だけではなくて、子どもや学生がみんな持っている無鉄砲さや全能感の比喩として描かれているところがあるんじゃないかと思いました。たとえば、小さな男の子って「将来ウルトラマンになりたい」なんて本気で言いますよね。自分には何でもできる、何にでもなれると無邪気に信じている。あの頃の全能感って、超能力と一緒だと思うんです。でも大人になればなるほど、ウルトラマンにはなれないと気づかされる。自分は特別なものじゃないと気づかされていく……。北村たちが抱える見えない不安感みたいなものを、すごくリアルに感じられました。
もうひとつ、学生時代の自分を思い出して、刺さった箇所があります。
「学生はね、時間を持て余しているし、頭もいい。しかもこう思っている。自分だけは他の人間と違うはずだ、と。自分は何者かである、と信じてる。根拠なくね。だから、学生はたいがい、二通りに分かれる」
「二通りですか」
「その場凌ぎの快楽や楽しみに興じて、楽しければそれでいい、と考える学生と」
(中略)
「もう一方の学生は、自分が何者かであることを必死に求めるタイプだ。真剣に考えて、様々な知識や情報を得て、それで自分だけは他人と違う、と安心する者だ」
「自分は何者なんだ」という悩みも、「自分は他の人とは違うはずだ」という足掻きも身に覚えがあるので、このシーンはそれをピタリと言い当てられたようで衝撃的でした。これは誰しも子どもから大人になる狭間で、あるいはアマチュアとプロの狭間にある時、確実に通る道だと思います。その時期はすごく苦しかったし、随分さまよっていたなと思うけれど、今思い返せば、あの時期は僕という人間を作るうえですごく大事な時期でした。
ちなみに僕は、「自分は他の人とは違うはずだ」って足掻く人って、僕自身も含めて大抵はそれほど才能に恵まれていないと思っています。だから足りないところを努力して補って、上へ行こうとする。同じように感じたことがある人なら、『砂漠』に描かれる学生たちのリアルな悩みと不安は、きっと僕と同じように心に刺さってくると思います。
このレビューを読んでくれている中には、リアルタイムで北村たちのように将来に不安を抱いている学生の方もいるかもしれませんね。とりあえず大学には入ったけれど、将来の夢なんてない、自分が何をしていいか分からない――と。でも、僕は夢を持つことに焦らなくてもいいと思います。なぜなら、学生時代に時間を持て余して友達と遊びまわる中で得たものが、社会に出てから思いもよらぬ形に結実することって、ままあると思うからです。
たとえばゲームばかりして親に叱られていた子が、大人になったらゲームメーカーに就職してゲームを作る側になるかもしれない。僕だって、ダンスがなかったら何をしていいか分からなかったと思うけれど、ダンスと出会えたおかげで今の仕事を掴むことができました。
学生時代って、先々のことを考えて悩みがちだけど、人生はどうなるか分からない。だから、あるがままの自分で生きること、今日一日を頑張って楽しんで生きること。そしてそんな自分を認めて褒めてあげることが、すごく大事なんじゃないか。これは、今回『砂漠』を読む中で、僕が改めて感じたことです。
学生さんに限らず、もしみなさんが将来に不安を感じていたら、ぜひ『砂漠』を読んでみてください。読み終えた時、きっと、背中を押してもらえたような気持ちになれると思いますよ。
「みんな、正解を知りたいんだよ。正解じゃなくても、
せめて、ヒントを欲しがっている。(後略)」
「みんな、正解を知りたいんだよ。正解じゃなくても、せめて、ヒントを欲しがっている。(後略)」
これは、「砂漠」を歩く上でとても重要なフレーズだなと感じた一文です。実は、第9回でご紹介した『スター』でも、これと似た文章が出てくるのですが、今という時代は、本当に誰もが「答え」を提示してもらいたがっている。だから、自己啓発本がヒットするんだろうなと思います。
『岩谷文庫』の連載を一年間続けて、見えてきたことがあります。それは、僕は本を読むことを通して、気づきを得るだけではなく、疑問点を自分の中で咀嚼していく行為が好きなんだろうな、ということです。正解を知りたがってはいるけれど、いざポンと誰かから正解を与えられたら、押しつけというか「いやいや…」って感じてしまう。
自分にとっての正解は自分で導きたいから、小説を読むんだと思っています。
入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決……。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれを成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。
岩谷文庫、もう一年が経ったという事で時の流れの早さにビックリしております。
自分自身この岩谷文庫という新しい挑戦をさせて頂き、表現者としての幅と視野が一気に広がりました。
本の世界に魅了され、本だから伝えられるモノが大好きで、本を通して皆様と繋がれる
この岩谷文庫という場所がいつの間にか僕にとって一つのライフワークになっていきました。
レビューをさせていただく中で、自分も知らなかった自分に出会う事も出来ました。
本の世界に答えじゃなく問いを求めている自分や、少し性格がひねくれている自分など(笑)
レビューをする中で心を丸裸にされたような感覚になりました。
今の僕の等身大の言葉が岩谷文庫のレビューには沢山詰まっています。
岩谷文庫に出会え本と向き合ったおかげで、朗読劇の脚本を書かせていただくことになったり、
色々とこれからも叶えたい夢が広がりました。
これからも沢山の夢を叶えていけるように頑張りたいと思います。
一年間岩谷文庫を楽しみにしていただいた皆様、
本当にありがとうございました!
これからもTHE RAMPAGE、
岩谷翔吾の温かい応援の程よろしくお願いいたします。
【プレゼントのお知らせ】
一年間、『岩谷文庫』をご愛読いただきましてありがとうございました! 皆様の応援に感謝の気持ちを込めて、岩谷翔吾くんの「直筆書初め色紙」を抽選で一名の方にプレゼントいたします。
〈応募方法〉
Twitterで集英社コバルト文庫公式アカウント(@suchan_cobalt)をフォローの上、「岩谷文庫書初めプレゼントのお知らせ」のツイートに、 #岩谷文庫 を添えて引用RTしてください。当選者には、後日DMにてお知らせいたします。
〈応募締め切り〉
2022年1月31日23時59分まで