ファシリテーター

このたびはシリーズ完結、おめでとうございます。完結にあたってのお二人の往復メッセージをお読みになっていかがですか?

桑原

「フランシスコ・ザビエル」! 懐かしいですね。

前田

そう、自分の答えがあまりに頓珍漢すぎて、忘れられなかったんです(笑)。だってヒントは、「とっても意外な人です」だけだったでしょう。だから、「むむ? 戦国時代と言えば、種子島。え? じゃあ、フランシスコ・ザビエル?」と連想したのよ。

桑原

あはは。それから何といっても忘れられないのは、ホテルのバーでのお姿です。舞浜のディズニーランド近くのホテルでした。そこでコバルトの大きなイベントが開催されて、作家さんも読者さんもたくさん集まったとき、前田さんが前日からそのホテルに泊まっていて、夜、バーでご一緒しました。「飲みますか」とお誘いを受けた席で、ブランデーをゆったりと嗜んでいらした。

前田

そんなことありましたっけ? すっかり忘れていました(笑)。

桑原

お酒をご一緒したのは何度目かでしたけど、このときの姿が目に焼きついています。きっと、ものすごく高級なお酒を「作家はこうやって飲むんだ!」という見本のようにカッコ良く飲んでいらしたので、あまりにもインパクトが強すぎて、「こうやってブランデーをゆったり飲めるくらいでないと、物書きではないんだ」と刷り込まれたんです。そのおかげで、私はその後、すごい酒飲みになりました!

前田

あれ? いつの間にか、私のせいになってる(笑)。

桑原

それよりなにより、前田さんは和製ファンタジー小説というジャンルを切り拓いた方。コバルト文庫で初めて読んだ時、「私が好きな世界ととても近いところにある作品をコバルトで唯一書いてる方だ!」と思いました。その後、いろいろなことを教えてくださったので、ほんとうに師匠のようです。私が読者賞をいただいた受賞パーティで初めてお目にかかった時からお世話になっています。

前田

いや、受賞作を読んだ瞬間に、「桑原さんには絶対、お近づきにならなければ」と思って「ファンタジー書こうよ」「仲間にな~れ♡」って近づいていったんです。

桑原

ありがとうございます。デビュー前、書店さんで前田さんの本を見ると、そこだけ輝いて見えました。もちろん新刊は全部ぴかぴかしてますけど、私の目には、前田さんの本が強い光を放って飛び込んできました。マニアックなところもある作品で私のようなオタクからすると、そこがまたくすぐられる。リア充向きじゃない人にも優しくて、「コバルトでディープな小説が書けるんだよ」というところを書き手にも読者にも見せてくれました。

前田

それもこれも、初代担当のTさんが、受け入れてくださったからです。

桑原

最初の作品はSFでしたね。

前田

ええ。SF界には新井素子さんがいらっしゃったので、「書きたい」と言えば「じゃあ、二冊目もSFで」と話がどんどん進んでいく。「このままだとSFしか書かせてもらえなくなるんじゃないか」という不安が頭をよぎり、Tさんに、「一冊でいいので、ファンタジーを書かせてください。それでだめだったら、あきらめます」と頼み込んで書いたのが、『イファンの王女』でした。

桑原

それが全ての始まりだったんですね。

前田

次の『破妖の剣』の企画は、「女の子がモンスターハントする話でーす」と説明しました(笑)。

桑原

なるほど。ファンタジーがわからない人にもわかりやすいですね。

前田

まあ、担当さんは詳しく聞いてもわからないと思ったんでしょうね。「まず書いてみなさい」と言ってくれました。でも一冊目のときに、原稿締め切り直前にひどい夏風邪をこじらせてしまい、「難しいです~~、Tさぁーん……」と泣きを入れたら、「あと十日なら待てますよ」。その十日間、ひたすら風邪薬とユンケルを飲み続けて、なんとか仕上げることができました。その後しばらくは固形物が食べられなかった(笑)。

桑原

『炎の蜃気楼』(以下、ミラージュ)は一応プロットらしきものをつくって担当さんのAさんにわたすと「ん?」っていう感じでしたね(笑)。ちょっと書いて見せたら、びっくりしていました。男子が主人公で、しかもサイキック・アクションだから、少年誌の作品だと思われたようで、「とりあえず書いてごらんよ」という感じでした。イロモノ的なラインナップだったのかな(笑)。でも、たぶん、私がいきなりミラージュの原稿を書いてみせても本にはならなかったと思うんです。前田さんが実績を作って、さらに若木未生さんも続いたので、「あ、この路線はイケるのかな?」と判断してもらえました。道を作って下さった前田さんは師匠です。

前田

とんでもないです。私のほうこそ、ミラージュがコバルト文庫で出ると最初に知ったとき、「えっ!? コバルトで戦国武将!?」と驚きました(笑)。本を見るとカバーイラストで男子が刀を持ってるし、ページをめくるとアクションだし。しかも、その当時、梵字が堂々と紙面に出てるのが衝撃的で「おおっ!」と叫びそうになりました。

桑原

梵字の「バイ」ですね。私が手書きした梵字を編集部にファックスして、担当さんが一文字ずつゲラに貼ってくれたんです。手書きは初版だけで、二刷りからは活字になっています。

前田

そんな秘密があったんですね。

ファシリテーター

『破妖の剣』、『炎の蜃気楼』ともに第一巻の本文にのさいごに[―おわりー]とありますから、一話完結の構想でスタートしたのですね。

前田

ええ、でも、「人気が出たら、続きも書ける」という仕掛けは、作品内にちょこちょこ挿入してあります。

桑原

それからあとがきでも、「お手紙ください」と切望しました。読者さんからの反応を「来い来い」と必死に待っていましたね。

前田

おかげさまで一巻目の反響はよかったですね。当時は守られるキャラクターがヒロインの主流だったので、「戦うヒロインを待っていました」とか「こういう物語を待ってました」という感想のお手紙をたくさんいただきました。すぐに増刷が決まって「よし、これは続きが書けるぞ!」と嬉しかったです。

桑原

それが一番嬉しいですよね。前田さんの作品には、キャラ萌えの要素があったんです。キャラが立ってると言うか。

前田

キャラクターは、よりどりみどりのタイプを多数、取り揃えております(笑)。

桑原

しかも乙女系とも違うキャラだから、コバルトを読んだことのない方も男女を問わず物語世界に入りやすかったんですよ。漫画やゲームで今ではそれが主流になっていますが、前田さんが先陣を切って下さったんです。

前田

そう、果敢に攻めてましたね。「ファンタジー」というのは、あくまで欧米から輸入するしかなかった時代が長くて、翻訳で日本語になったとはいえ、所詮は音訳のカタカナなんです。せっかく漢字を使えるのだから、「漢字も使える世界」を書きたくて、「破妖」「闇主」などを漢字で造語しました。。

桑原

「ファンタジーなのに、漢字を使っている!」と衝撃でした。前田さんがいてくださって、ほんとうにありがたかったです。

前田

こちらこそ。桑原さんのおかげで、孤軍奮闘せずに済みました。「ファンタジーを書きたい」「コバルトなら書けるんだ」という新人さんが後に続いて次々と出てきましたので。

桑原

いえいえ。私は、後方支援しただけです。えーと、何でしたっけ? 「前田班」じゃなくて、何かネーミングがありました。そうだ、「前田軍団」だ!

前田

あら、やだ。ミラージュのあとがきでそれを読んだとき、「たけし軍団なの?」と思いましたよ。私、軍団なんて作っていませんからね。ま、作品ではあちこち破壊しましたけど(笑)。

(第一回・了)