ファシリテーター

お互いのシリーズのお好きなところはどこですか?

桑原

白状します。闇主が好きなんです。

前田

おおー、鉄板(笑)。

桑原

読者アンケートでも一番人気ですものね。

前田

やっぱり、顔が良くて性格がひねくれていて、力があって、ヒロインのラスにベタ惚れ、というのがいいのかしら。

桑原

デレーっとしてるのに「でも、すんごいヤツなんだぜ」みたいなところも、私たちの夢です。しかも、中途半端なドリームよりも、はるかに強烈じゃないですか。

前田

ひょっとして、「普通、ここまで詰め込むか!」と思ってる?(笑)。

桑原

そうそう。そのうえ、口が悪くてツンデレでしょう。もう、完璧です(笑)。そんな闇主に愛されているのに、男性に守られることに甘んじずに血みどろになって果敢に戦うラスを読んで、女性としてこう生きるべきという普遍的なモデルを見つけたような気がしました。しかもラスって不器用で、コミュニケーションも下手。そんなラスに自分を重ねて、それでも戦う私」みたいに共鳴して、ほんとにシビれました。

前田

ありがとうございます。当時読んでいた少年少女マンガの中から、「この人のここが好き」とかいう部分を全部まとめ上げて、オタクゆえのひねりをちょっと加えたんです。 私がミラージュで好きなところは……やっぱり、直江よね。

桑原

そうですよね(笑)。

前田

ま、理想というわけではない。いや、むしろあんなのは理想ではないです。

桑原

ガクッ。そうですね、直江も強烈なキャラですからね。

前田

初登場の、高耶に対するアレがね。

桑原

アレ? ああ、石をぶつけた(笑)。

前田

「この人、大丈夫か~?」って(笑)。

桑原

主人公に石をぶつけてるなんて、と思いますよね、普通。直江は社長秘書のイメージだったんです。宮本輝さんの『優駿』に登場する多田さんという秘書が、とてもカッコよくて、そんなキャラクターを書きたいと思ったのかもしれないですね。社長秘書萌えは、たぶんそこからです。それで、ビシッとスーツを着せて、言葉遣いもかっこよく、社長の前ではきちんと敬語を使うけど、同僚の前では口調が崩れたりする。そのあたりの「敬語崩し」にすごい萌えました。

前田

慇懃無礼、いいよね~。

桑原

はい。萌えます、二面性。「俺」と「私」の使い分けとか、オタクってそういう細部にキュンときますよね。

前田

うんうん。胸がキュウってなるよね。

桑原

ミラージュでは、聖地巡礼めぐりをして連載をまとめた本がコバルト文庫にもなりました。でも、私は、『破妖の剣』の浮城へ行ってみたい。まずネーミングがかっこいいです。城長の「マンスラム」という名前もかっこよくて衝撃的だし、「ラエスリール」というヒロインの名前も、響きが色っぽいんです。「闇主」という字面もすてき! 「紅蓮姫」って、カタカナで書いても、「グレンキ」と音読してもかっこいい。ネーミングセンスがすごいんです。

前田

私、漢字辞書とか、漢和辞典とか、見るの好きなんです。パラパラっと。漢字、好き(笑)。以前は凝りすぎて一発変換できないような漢字があったけど、自分でも打つのに手間取るのが嫌なので(笑)、なるべく最近では、平易な漢字で、でも、響きはきれいなものを選ぶようにしています。最近で一番凝ったのは、「津々螺」かなあ。

桑原

前田さんがつける名前は口に出して気持ちいい響きの言葉でもありますよね。

前田

ありがとうございます。

桑原

美意識がすごい、文字から滲み出てくる。そこが素晴らしいです。『炎の蜃気楼』は最初、「炎のミラージュ」というカタカナのタイトルでした。担当さんに「字面がよくない」って言われて。「ここは漢字になさい」って言われて。

前田

でもやっぱり、「蜃気楼」が良かったと思う。あのタイトルのおかげでねえ、こう、ピシャーッとくる感じに。

桑原

でも今だと、「意味がわからない」と言われそうだなと思って。今は割と、作品の内容がわかりやすいタイトルをつける傾向にあります。「炎の蜃気楼」って字面を見ただけでは、怨霊退治モノだということは、抽象的すぎて全然伝わらないじゃないですか(笑)。だから、ほんとうに、当時で良かったと思います。

前田

それでいったら、『破妖の剣』というタイトルも、中身がまったくわからないでしょう。

桑原

え、そんなことないですよ。「あ、モンスターを倒す話だ」とわかります。

前田

「破妖」という言葉自体、私の造語です。

ファシリテーター

お二人は、執筆はいつごろからパソコンになりましたか?

前田

受賞作は、初期のワープロで書きました。なんとブラザーの一行しか打てないやつ(笑)。下書きは手書きで、それをワープロで清書したんです。下書きを書き上げたのが、締め切り日の朝で、それを清書するのに、「郵便局、何時まで?」「今日の消印でなきゃダメなのよ!」って半べそかきながらパチパチ打ち込んで、ぎりぎり間に合いました。新人賞の賞金でシャープの十行打てるワープロを買いました。インクリボンが高かったですね。

桑原

私はずっと感熱紙に印刷していました。すぐ日に焼けちゃって困りました。

前田

何度もあります(笑)。パソコンになってからは、特に増えましたね。たぶん、そのパソコンの中にはあるんでしょうけど、どこにしまい込んだかが分からないという。いくつかポケットがあって、いつも決めてるところに入れればいいのに、睡眠不足とかで頭がもうろうとしてるときに、たぶん何も考えずに、まったく違うポケットを選んで、入れてしまうんでしょうね。そいで、翌日、頭すっきりして「さあ、続きを」ってときに、「……ない!」って(笑)。そして結局、記憶を頼りに書き直すハメに。

桑原

私は、最初からワープロで、たしか二十行くらいかな?(笑) ミラージュの5、6巻目くらいまではワープロでやって。三浦真奈美さんの旦那様が電気系に強い方で、「水菜ちゃんもそろそろ、パソコンにしなよ~」って言われて(笑)、買って、パソコンを使い始めました。ずっとフロッピーを編集部に渡していましたね。

前田

パソコンのフロッピー機能が壊れたときがあって、仕方がないから、印字して、紙で(編集部に)送りましたよ。手元にも残したいから、コンビニで一枚一枚コピーして。

桑原

そういう時代でしたね。デジタルが全くなかったので、手紙を下さって読者さんにお返事ペーパーを出したりしてましたよ。 「封筒入れてください」っていうふうにしたら、なんか、そのペーパー目当てに、すごい(量の)感想の手紙が来て。読むの大変でしたよね。ちょっと途中から、「ああ~……」と思いましたけど。封入も友達と手分けして。やりましたよ、しまいには印刷して(笑)。懐かしい。編集部企画のファックスサービスをやりながら、お返事ぺーパーも書いていました。あとは、ときめきテレフォン。最初は作家だけがおしゃべりしていたのが、声優さんと掛け合いをするようになって。

前田

そのうち「ミニドラマもつくっちゃおう」となった。

桑原

書きましたね。公衆電話から三分10円で聞ける長さで。読者さんたちがまだ高校生だから学校の公衆電話からかけて、「聴きましたーー!」と教えてくれるんです。みんなで順番に聴いてみたりとか、そういうことをしたっていう話を聞きました。

前田

後で全員プレゼントのドラマCDになりましたよね。

(第三回・了)