個人的に読みたい!と思い立ち上げた企画賞でしたが、総応募数230作と多数の力作が集まり、たいへんな盛況となりました。ご応募くださった皆様に深く感謝申し上げます。
総評としては、ディストピア(SF)というジャンルへの関心の高さ、熱量を感じました。読んでも読んでもディストピア(SF)飯という幸せ…! 設定も定番のサイバーパンクからギムナジウム風までバラエティに富んでおり、侍やヤンキーなど意表を突く作品もあって、終始楽しく選考させて頂きました。ごはん要素については、タブレットやサプリ系、VR(AR)といった「今既に現実にあるもの」が多い印象でした。また、カニバリズムをテーマにした作品も非常に多かったです。
「異星人や未来人・過去人が現代の人間の食べ物を食レポする」という作品も少なからずありました。この設定で面白い作品を書くのは、中々の力量が必要になってくるかと思います。せっかく自由なテーマなのですから、ない食べ物、ない文明、ない生活習慣、その世界で暮らす生き物への想像力を広く深く働かせることに挑戦してほしいと思います。
逆に、架空の食べ物を「マヨネーズのような味」など実在の食べ物を引き合いに出して表現する際、少し立ち止まって考えてみてください。例えば語り手が宇宙人であった時、「なんで地球人じゃないのにマヨネーズの味を知ってるの?」と疑問を感じると、読者は一気に物語に入り込めなくなってしまいます。自分が書いている物語を俯瞰し、矛盾のない言葉選びができると、世界観構築の精度はぐっと上がるのではないでしょうか。
科学技術は日夜進歩しています。ぜひ、最新の情報収集を心がけて欲しいです。そこからまだ使い古されていないアイデアが得られるかもしれません。
最後に、どんな形式でもOKとはしましたが、短編だから短くしようという気持ちのあまり、改行や句読点を極力排した読みづらい文章になっている作品が散見されました。削るのは文字数ではなく情報量であり、短編=プロットではないということ、誤字脱字の見直しなど基本的な点は心に留めておいていただければと思います。
今回最終選考まで残った作品は、テーマを独自に解釈し、かつSFと食へのパッションを感じる、どれも印象的なものばかりでした。詳しくは各選評をご覧いただければと思いますが、どれも甲乙つけがたく、選考に難儀した末、苦渋の思いで順位を付けさせていただきました。
当賞はあくまで私の独断と偏見による選考ですので、ぜひ作品を皆さんの目で読んでいただき、お気に入りのディストピア飯(SF飯)小説を見つけて頂ければと思います。そして、今後ともディストピア飯小説(SF飯)小説が書き続けられ、また読まれ続けることを願っています!
当賞の開催に際し、「ディストピア飯」のキーワードにインスパイアされた作家の方々よりご寄稿頂いた書き下ろし短編を特別掲載!
食欲と創作欲、そして琴線をも刺激する一皿をご賞味ください。
『Don't Think, Feel.』
五色ひいらぎ
食べるという行為を、「生命活動の維持」以外の角度から捉える発想が面白いです。全く異なる惑星に放り出された主人公の絶望感がひしひしと伝わってくる文章は、読んでいてぞっとするほどですし、ラストには驚かされました。ケイ素生物の生命がどのように維持されているのかについて、説明はあった方がよかったかもしれません(両者間で「食べる」という言葉の意味自体にズレがあるので)。また、タイトルと最後の一文は全体の雰囲気にそぐわないように感じました。ですが、総じてとても完成度の高い作品でした。
『宇宙のお茶漬け』
かどたゆういち
どれだけ文明が発達しようと、いつどこに暮らすことになろうと、人間は食への欲望と探求心を失わない。そんな真理を感じる作品でした。ディストピアな食事をいかに美味しく食べるか、限られた環境で工夫をする人間の姿は涙ぐましくもたくましく、失われた「料理」という文化が取り戻されるのもドラマチックでした。惜しむらくは、倍くらいは書ける内容を駆け足で短く押し込んだ感じがします。規定枚数まではまだ余裕がありました。詳しく描写すべきところとテンポよく進めるべきところを再考し、紙幅に適した情報量を見極めて書く練習をして欲しいと思います。
ディストピア飯の「呼称」に着目するセンスが素晴らしいです。ミート(イート・ニード)はともかく、「キューブ」が他に存在しないことはないのでは?と気になりましたが、普遍性を求め暴走するコンピュータの皮肉さや、演算の出力文書という形式を含め、アイデア賞の作品です。
ユーモラスな語り口と展開、好感を持てるキャラクターで、終始楽しく読みました。「ともだち一号」や「めざめ」といったネーミングセンスがいかにも日本的で、親しみとリアリティを感じさせる要素になっています。ブンババボボイボもこの延長線上で名付けて欲しかった感はありますが…(笑)
親の出自は関係なく自身に選択権がある所や、食用クローンは可哀想だと却下された、という適度に温かみのある設定や、独自の固有名詞が世界観に奥行きを出しています。最後の手紙にはぐっとさせられましたが、やや分かりづらかったです。アニュはストゥに自分を食べてもらった(もらいたかった)のでしょうか?
事件現場に残る「罪」の味で裁判をするという発想が面白かったです。見た目の表現描写も十分にされており、想像して読むことができました。サスペンス仕立てのストーリーも楽しめました。一方で「DNA鑑定」や「割り箸」といった身近な単語が頻出するため、ミロンの存在とちぐはぐで情景を思い浮かべにくかったです。味の描写も含め、世界観に合った言葉選びを心がけては。
描写力が卓越しており、限られた文字数ながら眼前に広がる情景がありありと目に浮かぶ導入が素晴らしいです。本物のコーヒーを手にしてからのオチも、それはそうなるよな、という皮肉さがあり良かったです。「猿」の描かれ方がやや中途半端なので、枚数を増やして深掘りする(食べ物に絡める)か、カットしてよいのでは。
熱を食べる宇宙人と人類が共生する世界で、ぼくと先輩が交流するゆったりした日常感、すこしふしぎな青春感が良かったです。
現代の言葉が未来には微妙に間違って伝わっていたりと、会話の端々のディテールが良かったです。注射による栄養摂取は腕が穴だらけになりそうです。
時をかけるヤンキーという発想が異彩を放っていました。文章に粗さはありますが、とても面白く記憶に残る作品でした。
食用の人間には美味しそうな名前を付けたり、食人は平気でも生前を知っていると拒絶する、という絶妙な倫理の破綻具合が良かったです。
人魚の刺身の描写が美味しそうです。人間が人魚に突然変異する経緯をもう少ししっかり説明するとよいのでは。
未来版「萩の月」とでもいうべき銘菓の描写にとてもワクワクさせられました。反重力はロマンですね。
声が食物になる不思議な惑星のユートピア感が素敵でした。ヌヌドール廃棄方法の効率が悪いのが気になりました。
武士がタイムキーパーという意外性のある設定で、未来食材のピザも面白かったです。どちらかというと長編向きの題材かもしれません。
大いなる文明の進歩の中に必ず存在する人間個人の感情やままならなさが、食事に対する主人公の葛藤を通してしっかりと描かれていました。
静謐な世界観が魅力的ながら、人物たちの心の交流がきちんと体温を持っていました。この世界の物語をもっと読みたいです。
子供の書いた感想らしさがよく出ていました。「マダラ様」に絡めてもう一捻りあるとよかったかもしれません。
未来の人類から見たオアシス惑星の描写が魅力的でした。モモを事前にもっと深掘りできると、ラストも更に効いてきたのでは。
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