恋愛、ミステリー、コメディ、学園モノやファンタジー……ジャンル不問で「はじめての夜」をテーマにした作品を募集した「はじめての夜小説賞」。さまざまなアイデアで綴られた「はじめての夜」の数々に、編集部選考も白熱。見事入選作に選ばれた作品、および今回の投稿作品の傾向について、コバルト文庫編集長・手賀からの選評を発表します。
今回の募集には、56本の力作が寄せられました。厳正な選考の結果、11本にしぼられた最終候補作の中から、白崎紗己さんの『罪咎の夜』が受賞作品に選ばれました。
テーマのイメージから「愛し合う二人がはじめて結ばれる夜」を題材にした作品が多かったのですが、それ以外にも斬新なアイディアが多数盛り込まれ、バラエティに富んだ選考となりました。
反面、ラブロマンスに焦点を当てすぎてテーマが絞り切れていなかったり、「はじめての夜というより“最後の夜”じゃないか?」と思えるものがあったりなど、テーマを無理なく作品に織り込むことの難しさを感じました。
受賞作の『罪咎の夜』は、政略結婚を目前に控えた侯爵令嬢エレナと、彼女に付き従う執事レイの身分差の愛を描いた作品です。
政略結婚相手のハロルドはあまり好人物とは言えず、不幸な未来を予感させるものの、エレナは命令に逆らうことは許されない。そんなエレナを陰から見守るレイが、ついにとった行動とは……。
まず冒頭の描写で読者の興味をつかみ、話に引き込む展開は見事でした。エレナを愛するあまり逸脱した行動をとるレイの壊れっぷりもよかったのですが、後半、禁忌を犯した後なのに発覚後にわりと常識的な対応を見せるので、ここはむしろ壊れっぱなしにしたほうが、より禁忌感が高まってよかったのではないかと思いました。
文章もこなれていて読みやすく、きらびやかでありながら暗く隠微な世界観を作りあげるのに成功していました。
受賞作は、8月30日に配信されるeコバルト文庫電子オリジナル作品『「はじめての夜」アンソロジー(仮)』に収録されます。読者のみなさまにもぜひお読みいただければ幸いです。