栄華を極める凱帝国に新たな皇貴妃が誕生した。名は李紫蓮。そのつとめは偽りの寵妃として後宮を統治すること。職務上の夫でしかない皇帝・高隆青にはかつて深く愛した妃がいた。かの女は大罪を犯して冷宮送りになったが、いまだに天子の心をとらえて離さない。絢爛たる皇宮の奥深くで妃たちの野心と嫉妬が交錯し、寵愛は流転する。すべては後宮が見せる泡沫の夢…。
物語の舞台は、中華帝国「凱」。架空の王朝でありながら、中国王朝史に造詣の深い著者が生み出した帝国「凱」は、官制や後宮制度、作中に登場する数々の事件に至るまで、極めて精緻な「中華王朝」を再現している。読み進めるほどに「これは史実なのでは…?」とのめりこまずにいられない、その重厚な世界観を味わってみては。中国史が好きな人なら、作中の設定を読み解いてみるのも楽しい。
本作では、主役としてクローズアップされる凱帝国の皇帝・高隆青と、皇貴妃・李紫蓮の他にも多くの人々が登場する。彼らは単に主役を引き立てるための存在ではない。サブキャラとして登場したこれらの人々にも、一人ひとり背負うもの、譲れぬ思いがあり、それを丁寧に掘り下げていく群像劇的な側面が物語の魅力である。ぬきさしならぬ人間模様の中、誰に感情移入して読み進めるかで、物語を何度でも楽しむことができるだろう。
「美女三千」といわれる中華王朝の後宮。凱帝国においても後宮とは、美貌を誇る妃たちが寵愛を巡って妍を競う戦場であり、そこにあるのは、美しく甘美な愛だけではない。皇帝の愛を得るためならば他者を陥れることすら厭わない女たち。どんなに相手を恋い慕っても決して口にはできない苦い想い――。絢爛たる後宮で繰り広げられる愛の末に待つのが「幸福な結末」とは限らない。その残酷さこそが、物語にさらなる煌めきを与えている。
今作『後宮染華伝』には、著者はるおかりのが今作と同じ中華王朝「凱」を舞台に書いた第一部がある(集英社コバルト文庫より発売中)。一作ごとに「書」「料理」「織物」といった技芸に秀でた花嫁たちが登場し、後宮で巻き起こる様々な事件の謎に立ち向かうなかで得がたい愛を見出していく。単巻読み切り、かつ既刊の登場人物が次作以降でもキーパーソンとして登場する連作形式で大ヒットを博した。『後宮染華伝』に登場する人物が主役を務める巻もあり必読だ。