三浦
『晩夏の幽霊』は、登場人物がみんな魅力的でしたね。
短編小説新人賞
選評付き 2015年度
『晩夏の幽霊』は、登場人物がみんな魅力的でしたね。
主人公はお坊さんだけど、全然悟れていなくて青臭い。そこがいいよね。お母さんを亡くした女の子も、希望の持てる変化を見せてくれた。話の着地がちゃんとしていて、きれいにまとまっているのもよかったです。
明確なテーマがあり、でも説教くさくはならず、絶妙なバランスで書けていて、面白かったです。それに、作品に力強さがありますよね。
変に流行とか読者受けとかを考えず、自分で「これだ!」と思えるものを書いた感じで、新鮮でしたね。
熱のこもった作品で、訴えかける力がありました。
『キャンディ・シュシュ』は、女の子の友情の、いいところも悪いところも、両方きちっとすくい出せているところが、とてもよかったと思います。大好きな作品です。
思春期の女の子のリアルな感じが、ちゃんと出ていたよね。
手芸関係の描写なども、キラキラ感があってかわいかったです。それに、シュシュというアイテムと、キャラクターの心情の流れが、ちゃんと呼応しているのがすごくよかった。とても説得力がありますよね。
趣味を通して新しい世界が開け、変化していく主人公が、よく描けていたと思います。
「美少女だけど、実は植物」という『花を嘗める』の設定は、目を引かれますよね。
巨大な鉢のてっぺんに植えられているとか、そこへはしごで昇っていくとか、ビジュアル的にもインパクトがありました。
主人公が飛行機乗りというのも魅力的。世話人のおばあさんの正体がわかったときには、驚かされましたし。
ただ、距離や大きさ・高さなどの、数値設定や空間把握などに、いろいろ難がありました。
でも、手に手を取って脱出するというラストは、切なくてロマンティックで、よかったですよね。そして、『狐の仲人』。これはもう、とにかく油揚げがおいしそう(笑)。
いやみのない話でしたね。読みやすいし、笑える面白さもあって。
「狐に祀られると、油揚げが食べたくなる」という設定は、素晴らしいと思う。なんだかおかしいのに、筋はちゃんと通っていて(笑)。
ただ、神様である主人公には、もっと活躍してほしかったです。
「他人の相談に乗る」だけではなく、主人公自身の物語を描いてほしかったですね。
『アイスクリームが解く時間』は、「アイスクリームに不幸を混ぜる」というアイディアがすごくよかったですね。
ただ、設定にはいろいろ粗があり、アイディアを活かしきれていないところが、非常にもったいなかったです。
出てくる男性キャラが、俺様でバカっぽくて、すごくかわいかった(笑)。しかもラストでは、なんだかかっこよく主人公を勇気づけてくれたりする。
ちょっとトキメキも感じられますよね。
とぼけた味わいで面白く読めるのに、テーマもちゃんと伝わってくる作品になっていました。
『虹の下の幸せ』は、何気ない優しさに、心が温まる話でしたね。登場人物がとてもいきいきしていました。
ユーモアのある文章で、楽しく読めますよね。好感度も高い。
ハッピーエンドで読後感がよく、私は好きでした。
ただちょっと、話にインパクトがなかったかな。
いい話であるがゆえに、パンチが弱いということはありますよね。ただ、この作品は丁寧に語られていて、そこが長所だし持ち味だと思います。