三浦
『王妃の化粧師』は、しっとりとした語りがすごくうまかったし、ドラマティックでもありましたね。
短編小説新人賞
選評付き 2016年度
『王妃の化粧師』は、しっとりとした語りがすごくうまかったし、ドラマティックでもありましたね。
お化粧の話ですが、化粧シーンに具体性がなかったところはちょっと気になりました。化粧で王妃の顔色を読むとか、王妃の顔をいつもと同じに整えていくというところに、繊細な掘り下げがちょっと不足していたのがもったいなかったな、と思います。
はい。ただ、「化粧師」を主人公に据えて、その人から見た王妃を描写するという書き方に発想の妙が感じられて、私は好きでした。
化粧師の主人公が、様々な貴婦人の元でいろんな物語を目にして――という作品を書いたら、面白そうですよね。
『自分だけの永遠を探す』は、主人公の可奈が好意を抱く相手の譲がいい感じにむさくて魅力的でしたね。それに、主人公が「永遠」について考えるというテーマも、とてもいいです。
主人公は10代ですから、「永遠」を考えても、すぐに流れていってしまうんだろう――と読んでいて思わされるのですが、そういうところも含めていいですね。
最初は恋愛話だったのが、天文台に通ううちに星にはまっていくという流れも、扉が開く感じでよかったですね。
登場人物同士のやりとりもテンポがよくて面白かったです。「この泥棒猫!」(笑)。
『コールは四回』は、先の展開が気になる作品でしたね。
たくらみ感がありました。
僕はホラーが好きなので、正体不明の不吉なことが定期的に起こって......という導入、恐ろしい物が這い寄ってきて、だんだん追い詰められていく感じが好きでした。
緊迫感があって読ませる作品ですね。登場人物の心情描写も「あぁ、こういう状況ならこう考えるだろうな」と思えて、スリルがありました。
『意思のつなぐ花』は、丁寧な描写から切実な気持ちが伝わって、とてもいい作品でした。人生の終わりを迎えようとしている身近な人と、どう向き合えばいいのか。この作品に描かれている心情や出来事は、普遍的で読み手の胸を打ちます。
あたたかみとユーモアを感じさせる文章でしたよね。テーマは重いのに、押しつけがましさや説教臭さがなくて、素直に読めました。
人の死をしっかり描ききっていて、「この人にしか書けない作品だな」と思わせるものがありましたね。
『夕と梔子』は、音もなく誰も話せない中で、梔子が咲いていくという――というビジュアルイメージが非常に美しい作品でした。
「言葉」そのものを題材に、伝えられない想いが描かれていて、切なさが伝わってきました。
私は物語の着地が決まったかどうかがかなり評価に影響するので、『追っかけ』のように最後で「......騙された!」というのがとても気持ちよかったです。
『追っかけ』はとてもうまい作品でしたね。たくらみがあるだけでなく、そこはかとなくユーモアもあるところがよかったです。登場人物はみんなちょっとヘンなのですが、各人が真剣さに裏打ちされた言動を取っているので、ますますヘンさが際立つというか(笑)。ストーカーの話なのに好感を抱いてしまいました(笑)。