編集C
甘酸っぱい青春ものでしたね。
短編小説新人賞
選評付き 2020年度
甘酸っぱい青春ものでしたね。
素直で嫌味のない、好感の持てる作品になっていたのがよかったです。というのもこれ、主人公が女の子を騙しているというか、嘘をつき続けている話ですよね。主人公が嘘をついたのは、気弱さと優しさゆえなのですが、相手からするとショックだと思う。一歩間違えばすごく嫌な話になりかねないのに、そうはならなかった。
微妙なところでちゃんとバランスを取れていましたよね。まあ、小説的手腕というよりは、作者の人柄の良さから来るものかなという気もしますが。
過不足なく書けているし、キャラクター造形もちゃんとしているし、上手かったと思います。ただ、ちょっとパンチに欠けるかなとは思いますね。
かわいらしいけど、たわいないと言えばたわいない話。まあ、「小さな恋の物語」という感じで、悪くはないんだけど。
そこがよくもあり、物足りなくもあり、という感じですね。
片想いをしている女の子の好きな相手が同性だという点に、ちょっと目を引かれたところは正直あると思う。ただ、作者はそれを、ごく自然にさらりと扱うことができていましたよね。それは誰にでもできることではないと思います。それだけに、ストーリー面や盛り上がりという点で、ちょっと弱かったのは惜しかったですね。
減点方式だと上位に残るけど、加点方式だと埋もれてしまうタイプの作品かなという気がします。
好感度の高いキャラクターを書ける点は大きな長所ですから、そこは活かしつつ、もう少し盛り上がりのあるストーリー作りを心がけてみてほしいですね。
正直、小説や文章のレベルとしては、そんなに高くないんです。
でも、ものすごく強烈に魂を揺さぶられました。
そうなんですよね。とにかく、作品全体が素晴らしくエモかった。とてもインパクトがありました。
私は最初読んだときは、「あんまり上手くはないかな」程度にしか感じなかったのですが、読み返してみると、最初は気づかなかった良さをどんどん発見して、評価が上がりましたね。
うーん私は、作者が描こうとしていることは頭では理解できたのですが、今ひとつ感情を動かされなかったですね。私には、この作品のエモさは響いてこなかったです。
そうですか? 私は引き込まれましたね。読んでいると、情景とかが頭の中にすごくきれいに浮かんできました。
うん、一応情景は浮かぶんですよ。でも、なんだかちょっと、ピンとこなかった。
情景描写や設定には、いろいろ粗がありましたね。国同士の距離感とか、政治的なこと、描かれている生活の様子や話の展開などにも、理屈に合わないと感じたり、違和感を覚える点がとても多かった。でも、作品そのものに、なにかほとばしるものを強く感じたんですよね。それがとても魅力的でした。
台詞や文章が大仰で芝居がかっているんですが、この作品にはマッチしてましたね。かっこよかった。作者の熱はすごく伝わってきました。
「多くの人が『そこそこいい』と思う作品よりも、少数ではあっても強くハマる人がいる作品のほうを、むしろ推したい」というようなことを、三浦先生も仰ってましたね。私もまさにハマりました。魂のこもった作品を、ぜひまた読ませていただきたいです。
筆力が飛び抜けていましたよね。
単に描写が上手いということではなくて、生の人間を描けているところが素晴らしかったです。すごくリアルでしたね。主人公が林ちゃんに惚れ抜いていることも、実感として如実に伝わってきました。林ちゃんが不意に姿を消してしまうと、彼女の大きな熱い身体が恋しくて眠れなくなるとか。
汗ばんだ肌の感じとかまで、生々しく伝わってきましたよね。
読んでいると、映像だけじゃなくて、温度や質感みたいなものまでまざまざと感じるんですよね。
林ちゃんは直接には登場してこないのに、とても印象的で心に残りました。
すごく太ってて、奇抜な格好をしているんですよね。林ちゃんを安易に美少女にしなかったところがよかった。作者のセンスの良さを感じます。
脇役のエンくんのことも、いまだに覚えています。登場人物一人ひとりが、作中で実際に生きていました。
主人公が慟哭するときの、「ああああ、えああ、いあ、いやいや」みたいな、「目の口から漏れ出る音」という表現も独創的でした。
言葉でしかできない表現ができていて、小説として非常に優れていましたね。
一生忘れられない作品になると思います。
気負わずに楽しく読める作品になっていて、とてもよかったです。程よい軽さなんですよね。読後感も悪くないし、ユーモアもある。キャラクターもちゃんと立っています。
この作品は、なんと言っても三原君ですね。三原君のキャラ造形がとてもよかった。「つまり、俺に彼女ができたってことでいいんだよね。じゃあ、帰るね」のところなんか最高。帰っちゃうんだ(笑)。
フラれたときも、同じことを言って帰っていくんですよね。あちこちぶつかりながら(笑)。
「ニアピン山手線」というネーミングも絶妙でした。
ラッコのうんちくをちらっと語るところも良かった。「流されないように昆布につかまって寝るんだよ」って、これはキュンとくる。
主人公の変わり身の早さも面白い。理想的だったはずの三原君をあっさりフッて、臆面もなく立崎君に乗りかえるんだけど、不思議と「嫌な子」とは感じないです。
主人公の悪気のない率直さ。三原君の青さと不器用さ。リアルな十代を描けていたと思います。
読み終えてしばらく経った後でも、「そういえば、ちょっとキモい男の子が出てくる、楽しい話だったな」って、ふと思い出したりします。
あら? 待ってください。「キモい」って誰が?
まさか三原君? 三原君はキモくないですよ!
あ、いやいや、いい意味で、です、もちろん(笑)。生々しい「キモさ」じゃなくて、女の子慣れしていなくて妙な言動になってしまうところが微笑ましい、ということです。
言葉に気をつけないと。すでに固定ファンがいるみたいですから(笑)。
決してディスってないです、私(笑)。この作品を今回の中でイチ推ししてるくらいですから。
軽やかな青春ものになってましたよね。主人公が男の子をフッちゃう話なのに、なぜだか爽やかでかわいらしい。
どなたにでも、「これ読んでみて!」ってお勧めできる感じの作品でした。私は大好きです。
これはもう、鉄板クラスで上手い。筆力の高さは驚くほどです。
あらゆる面で圧倒的でした。他作品を寄せつけないほどのハイレベルさ。描写も、文の運びも、物語の造りそのものも、非常に優れていると感じます。内容も深くて、読んでいてゾッとするし、ハッとするし。
それでいて、胸が痛くなるくらい繊細で美しくもある。
奔放で、でも純粋な環のキャラクターには、読む人を強く惹きつけるものがありますよね。
女の子たちの自意識が絡み合う話を、非常に巧みに作り上げていました。
ただ、文章力が高いからこそ、言い回しのくどさや堅苦しさが若干目につきました。漢字熟語も不必要に多い。そういう辺りについて、適度に角が取れて柔らかく読みやすくなってきたら、文章も作品そのものも一層きらめきを増すのではないかと思います。
そうですね。とりあえず、難しい漢字をひらいて表記したり、熟語をやさしい言葉に言い換えたりするだけでも、堅苦しさはかなり改善されると思います。
ちょっと、肩に力が入ってるところはあったかもですね。
でも、女の子たちの繊細で微妙な感情や関係を、ここまで見事に描き切っているのは、やはり素晴らしい。イチ推しも多いですし、文句なく、今回の年間最優秀賞受賞となりました。おめでとうございます。
ホラー作品として、とてもいい出来だったと思います。僕はすごく好きですね。
何とも言えない気持ち悪さが最初から微妙に漂っていて、それが終盤でさらに大きく盛り上がりますよね。すごく引き込まれて読みました。ラストも怖いままで終わってくれた。十分に「うわあ、怖い」と思えたので、大満足です(笑)。
それも、霊とか化け物とかスプラッターみたいなわかりやすい要素ではなく、雰囲気や描写によって、怖さや薄気味悪さを醸し出している。作者の筆力の高さがうかがえます。
ただ、設定がはっきりしないところはありましたね。「紫の家」はこの話の核となる要素なのに、この「家」の設定がよくわからない。
実在するのか、幻覚なのか、魔の領域のものなのか、はっきりしないですよね。だから読んでいて、どう解釈すればいいのか分からないところに引っかかってしまいました。
その「家」の中で暮らす、「ママ」たちのことも、よくわからなかったですね。
なにもかもを説明し尽くす必要はないですけど、読者が疑問を感じない程度には設定をきちんと定めて、それとなく醸しておいてほしかったですね。「作者的にはどういう設定なのか」が、作品から読み取れないのが気になりました。
時制がやや混乱しているあたりも、ちょっと引っかかりましたね。
でも、怖さと気味の悪さをキープしながら、展開も大きく盛り上げて、読者の気持ちを掴んだままラストまでもっていったというのは、非常に見事だなと思います。
とても読み応えのある作品でした。今後にぜひ期待したいですね。