かける

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選評付き 短編小説新人賞 選評

泳ぐかかし

飛松利菜

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漠然とした観念だけで書かれており、読み手が話に入り込めない。

  • 編集I

    進路について、迷いや不安を抱えている高校生のお話です。全体的に、ちょっと自意識の強い作品だとは感じますが、身体感覚を書けていたのはよかったと思います。

  • 編集A

    主人公が泳いでいる場面から始まるんだよね。

  • 編集F

    途中で足が攣って溺れかけるのですが、でも冒頭一行目から「塩辛い水が肺に流れ込む。」と書いてある。最初から既に溺れていたのでしょうか?

  • 編集D

    「海水と一緒に酸素を吸い込む」とあるけど、これでは魚の呼吸法みたいに思える(笑)。泳いでいる描写も、溺れている描写も、ちょっとうまくいってないね。

  • 編集E

    冒頭シーンの分量も、多すぎますね。

  • 三浦

    書き始めって、どうしても気合いが入るので、頭に浮かんでいる情景を、微に入り細を穿つように書いてしまいがちですよね。でもやっぱり、全体とのバランスをよく考えて、もう少し枚数を抑えた方がいい。それと、感覚的な描写だけでは、状況がわかりにくいです。今の書き方では、冒頭のシーンが夢なのか現実なのかすら、判然としません。

  • 編集A

    作品舞台や時代設定も、しばらく読み進むまではっきりとはわかりませんね。

  • 三浦

    冒頭のシーンは、どんな登場人物たちが、どこにいて何をしているのか、読者にスパッと伝わるように描いたほうがいいです。

  • 編集E

    物語は、実際に存在する離島が舞台。主人公たちは、本土にある高校に通うのに、海を泳いで渡っている。橋も架かっているんだけど、「橋を渡るのは復路のみだ。往路は/島から本土までを泳ぐ」ということらしい。

  • 編集A

    でも冒頭で描かれているのは、主人公たちが海を泳いで島に帰る場面ですよね。復路は橋を歩いて渡るはずでは? 矛盾していて、すごく引っかかりました。

  • 三浦

    泳ぐとき、鞄や制服をどうしてるんでしょうね? 細かいことですが、読んでいて気になります。

  • 編集E

    ストーリーがほとんどないのも気になりました。

  • 三浦

    海でちょっと溺れかけ、夕食後に散歩していたら脱水症状で倒れた。出来事のみを並べると、それだけですよね。

  • 編集A

    小さな島で育ち、進路を決めかねている高校生たち。水の中の不自由さ・不安定さと、田舎でくすぶっている状態を比喩として重ねているんだろうな、とは思うのですが。

  • 編集H

    でも、「こんな島、飛び出してやる」と強く思っているのは、真奈だけですよね。颯太は、「勉強は好きじゃないし、卒業したら畑仕事をやろう」と思っている。その割に、「偏差値が高く、東京の大学を目指して猛勉強中」の従姉妹を、馬鹿にするような発言をしています。何らかの葛藤を抱えているのでしょうが、主人公の立ち位置が明確ではないので、結局何を言いたい作品なのか、最後まで分からなかった。

  • 編集G

    「閉塞感」みたいなものがテーマなのかなと思います。それはいいのですが、描かれている高校生たちの内面が、ちょっと幼稚すぎるように感じられました。進路に不安を抱えているわりに、夏休みにやっていることは、泳いでゲームをしてマンガを読むだけ。

  • 編集C

    真奈が「この島が嫌い。憎い」とまで思っているのは、「学校帰りに映画見たり、ゲームセンター行ったり、ファミレス行ったり」できないから、ですよね。

  • 三浦

    「島を出たい」理由がこれでは、ちょっと薄っぺらく感じられてしまいます。実際はもっと真剣な気持ちがあるのかもしれませんが、今の書き方では、うまく伝わってこない。それと、登場人物たちがやたらと、「島育ちなんて田舎者だ」「田舎者は、都会に出たら笑われる」などと言っているのも不可解です。

  • 編集A

    キャラたちが、不思議なほど強い「田舎者コンプレックス」を抱えてるよね。でも、橋を渡ればすぐ本土だし、もう高校生なんだから、どこかへ遊びに行くなり、もっと行動範囲を広げて楽しんでみたらいいのに。何もしないまま、「どうせ島暮らしだから」と鬱屈をため込んでいるように見える。

  • 三浦

    「田舎が嫌だから出て行きたい」とかではなく、「思いきって新しい世界に行ってみたいけど、躊躇う気持ちもある」とか「自分は何がしたいのか、何ができるのか、わからなくて悩んでいる」みたいな、もう少し読者が共感しやすい、普遍的なテーマにした方が良かったのではと思います。

  • 編集H

    あと、「水」に関する描写で、やたらと「虚無」を連発しているのも気になりました。「偏差値の意味すら知らない」颯太の語彙としては、不自然で違和感がありますね。

  • 三浦

    「自分はこのまま、この閉鎖的な島で生きるべきなのか、それとも……」という颯太の迷いを、「水恐怖症」に象徴させることで描こうとしているのでしょうね。ただ、今のままでは、人物と出来事がうまく絡み合っていない。漠然とした観念だけで書いている感じで、読者が話に入り込めません。そもそも、入り込むべきドラマそのものが不足しています。もうちょっと、登場人物の行動や心情の変化で、物語を動かしたほうがいい。また、心の中のモヤモヤとした暗い部分を書きたいのであれば、それをストレートに暗く重く描くのは効果的ではないです。暗いものを書くときこそユーモアが必要だし、焦りやイラつきを描くときこそ、切ないほど美しい風景が必要。正反対のものを対比させた方が、ずっと印象的になります。「田舎臭いつまらない島だから出て行きたい」という話ではなく、「家族と楽しく暮らしている美しい島なんだけど、何かが足りない、心が満たされない」という話にした方が、より読者の胸に届きやすかったと思います。せっかく「離島」が舞台なのですから、もっと活かしてほしかった。

  • 編集F

    他にも、「かかし」とか「井戸」とか、読者の気を引くモチーフは入っているのですが、曖昧で、話にうまく絡んでいなかった。

  • 編集E

    ぼんやりとしたイメージとか雰囲気だけで書いてしまったかなという印象です。

  • 三浦

    何かしらの作者の思い入れが込められているのはすごく感じます。そこはとてもいいんだけど、書きたいことをちゃんと読者に伝えるためには、構成やモチーフの扱い方など、もう少し話を整理した上で書き始めた方がいいですね。

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