編集F
結婚式を明日に控えた王女様と、王国一の仕立て屋との、秘められた恋のお話です。エリッサ王女は、初めての舞踏会に出たときに身に着けたドレスの素晴らしさに心を奪われ、以来すべての衣服を、この若き天才仕立て屋・ラルフに作らせてきました。彼は貴族の青年たちとは違い、王女であるエリッサに対しても、こびへつらうことがない。態度はそっけないどころか、むしろ冷ややかですらある、生粋の職人です。でも、彼の作るドレスからは、彼が内に抱えている情熱の強さがはっきりと感じ取れる。そんなラルフにどんどん惹かれていったエリッサですが、身分が違いすぎますから、気持ちを明かすことなど到底できない。ドレスを注文しては、わがままなふりで細かい直しを要求し、彼と顔を合わせる機会を増やすのが精一杯だった。それでも、募る想いはどこかで伝わるもので、彼はエリッサの気持ちに気づいていると思われるし、彼もまた同じ想いを抱いてくれているのではないかと、エリッサには感じられる。六年もの間、二人はそうやって、気持ちを表に出すことなく過ごしてきた。そして、いよいよ明日は結婚式という、エリッサ独身最後の夜に、いまだ気のないふりを装いながら、想いを寄せ合う男女が二人きり――という、このシチュエーションが、なんとも絶妙でした。