編集H
イチ推しの非常に多い作品でした。
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第195回
入選作品
告白は勇気がいるから
湯浅ひなた
41点
イチ推しの非常に多い作品でした。
登場人物は、高校二年生の女の子である主人公と、クラスメイトの男の子。ほぼ、この二人のやりとりだけで話が進んでいくのですが、交わされる会話も、二人の間の空気感も、現代の高校生の自然な感じがよく出ていると思いました。
大人が若者を描こうと意識しすぎて、つい不自然になってしまうことってありがちなんですが、そういう違和感がなかったですよね。
ストーリー展開にも、違和感がなかったです。するする読めるし、「この後どうなるんだろう?」と興味も湧く話になっている。そしてラストで明かされる真相には、「そうきたか!」と驚かされた。私にとっては、予想もしなかったオチでした。企みがある話なのに、切なさもすごく感じられて、胸にじんと来ますよね。非常にうまくまとまっていたと思います。キャラクターたちにも好感が持てる。素直に、「とてもいい話だな」と思える作品でした。
最初のあたりで、まず驚かされますよね。のんきにべらべらおしゃべりしている男の子・有田が、昨日死んだばかりの「霊体」だと分かったところで、びっくりします。で、事情がだんだん分かってくると、「なるほどね。でも、主人公が書かされている手紙って、実は三浦さんに宛てたものではないんだろうな」と見当もついてくる。あ、「三浦さん」ていうのはむろん私ではなく、人気のある女子の名前です(笑)。それはともかく、私としては、「だいたい展開は読めたぞ」と思っていたのですが、ラストの種明かしで、またもや「えーっ!?」って(笑)。
ちょっと戻って読み直して、「そういえば確かに、主人公もスマホを持ち歩いてない!」って気づいたりするんですよね。「そういうことだったのか!」って。
道ですれ違う人たちの何げない描写とかも、読み返すと、「この二人が誰にも見えてなかった」描き方にちゃんとなっているんですよね。読者は最初、見えてないのは有田だけだと思いながら読んでいるけれど、「実は二人ともだった」と後でわかる。うまくだまされてしまいました。
私も、主人公が「歩きながら一人で喋っている変な子」と思われないのはどうしてかなあと疑問に感じつつ読んでいたのですが、ラストで真相が明かされると「なるほど!」と。作者が真相を伏せて書いているところは、ヒントを散りばめながらも、不自然ではない描写になっています。オチを知った後に読み返しても、引っかかるところがほぼない。非常にうまいなと思います。
施した仕掛けに矛盾が生じないよう、細心の注意を払いながら描写していますよね。再読に耐える作品を丁寧に創り上げていて、秀逸だなと思いました。
ラストのオチにも、納得感がありました。それに、真相を知った後にもう一度読み直すと、主人公と有田、それぞれが秘めている切ない気持ちが改めて伝わってきます。
登場人物たちの心情が、とても細やかに描かれていますよね。二人のやり取りとかにはユーモアが感じられて楽しいんだけど、同時に切なさも伝わってくる。彼らがどういう人柄なのか、何を考え、どう感じているのかということを、何げない描写から自然と読者へ伝えることができていました。そこがとてもよかったと思います。
キャラクターの好感度はすごく高いですよね。
文章にも、「せつない夜が、朝へと向けて減っていく」とか、いい表現がたくさんありましたね。ただ、たまにちょっと語りすぎているところがあって、そこは気になりました。例えば十六枚目の最後、「あれで有田も、少しは緊張が解れたかな」とありますが、これは不要だと思う。どうして主人公が、その直前の部分であえてつっかかるようなことを言ったのかというのは、読めばわかることです。そこまで説明しなくても、主人公が有田を気遣う優しい心を持った人物であることは、多くの読者が読み取ってくれるだろうと思います。そして、それを読み取れない読者については、あまり神経質になる必要はないと思う。作者が書いていることを、読者が100%読み取る必要も、またないですから。特に、この作品のような話では、主人公の内面を説明し過ぎるのは興醒めになってしまう。そういう書き過ぎの箇所がいくつかありましたので、もう少し意識的に筆を抑えてみるといいかなと思います。読者が想像する余地を残すというか。 ところで、7枚目の「テキストメッセージ」って何ですか?
電話番号だけで送れる、ショートメッセージのことじゃないでしょうか?
あ、そうなんだ。すみません、あまり聞き慣れない単語で。ここは、単に「メール」とか「メッセージ」でいいんじゃないかな? そのほうが、私みたいに「何だろう?」と思う人が減るでしょうし。
終盤で、三浦さんが有田を好きだったことが判明しますが、これもいらないんじゃないかなと思います。
主人公の好きな男の子を、モテキャラにしたかったんでしょうね。
有田が死んで三日も経っているのに、主人公たちとすれ違うちょうどそのときに、「有田が好きだった」という話をしているのは、ちょっと偶然が過ぎる気はしますね。
三浦さんたちは、もっと別なことを気にかけてもいいんじゃないかな。なんといっても、同学年の子が二日続けて死んでいるのですから。
「うちの学校、呪われてたらどうしよう」、とかね(笑)。
実際にこんなことが起こったら、やっぱり生徒たちはすごく動揺すると思います。
あと、私がこの作品で一番気になったのは時系列です。時間の流れがすごくわかりにくいものになっていますね。
時系列はものすごく入り組んでいます。「有田の霊体の残り時間があと一日」というところから話は始まり、いったん時間が戻って、霊となった有田が初めて主人公の部屋を訪れた場面が描かれ、そこから順に経過をたどって描写され、現在時点へと戻ってくる。そこからまた、改めて話が進んでいき、有田の最終日を迎えます。夕方には有田は成仏して消えるのですが、その後主人公の秘密が明らかになると、読者は「え、どういうこと?」と、もう一度戻って事実確認をしたくなる。でも読み直しても、「この場面が、時間的にどの地点なのか」が非常にわかりにくい。「手紙を代筆する」という同じような場面が続いているせいもあって、よけいにわかりにくくなっています。現状の作品構成は、この話を描くのにあまり効果的とは言えないと思う。
冒頭シーンに、「一昨日交通事故で死んだばかり」とありますよね。この「一昨日」というのが、混乱を誘っているんだと思う。その後、霊体の有田が現世にいられるのは「三日間」で、そのうち「ひと晩以上」は家族のもとにいたとか、親友の麻里ちゃんから連絡がきたのが「昨日の朝」だとか、いろんな時間情報が出てくるので、読んでいて脳内で整理しにくい。「有田が死んだのは一昨日」という中途半端な時点から冒頭シーンが始まるうえに、さらに回想シーンへと話が飛んでいくし。今描かれているシーンが何日目のことなのか、有田が消えるまでにあとどれくらい時間があるのかということが、非常にわかりにくいです。
手紙を書いている冒頭シーンは「有田にとっての二日目の夕方」なんだけど、回想シーンへ移行した後、また主人公が夕方に手紙を書いている場面が出てきたりする。その後彼女はバイトに出かけて亡くなってしまうのですが、霊体となって帰宅して、翌日そのニュースが流れ、次の場面ではすでに最終日になっていて――あれ? 冒頭シーンはどこに入るの? と、読んでいてこんがらがってしまう。文章を精査して読むと矛盾はないのですが、読者がすんなり理解できる書き方にはなっていないですね。
時間が行ったり来たりしているのがややこしいんですよね。回想シーンがいつ終わったのかがよくわからないから、読者は混乱してしまう。
この作品は、なるべく時系列通りに描いたほうがよかったのではと思います。
ネタバレを防ごうとしたんでしょうね。「主人公は、物語の途中ですでに死んでいた」という大きな仕掛けを、読者から隠そうとしたんだろうと思うのですが、ちょっとうまくいっていない。また、私はニュースの場面を読んで、「死んだのは主人公だな」とわかってしまいました。この「ニュース」はどう見ても、大きな伏線ですよね。「若い女性」が死んだということなら、それは主人公か三浦さん以外いない。
僕は「三浦さんが死んだな」と思った派なのですが。
私もです。まんまと騙されて、三浦さん死亡派。
どっちかはっきりはしないけど、まあこの流れなら主人公かなと。それに、最終日に三浦さんの家へ手紙を投函に行きますよね。この時点でやはり、「三浦さんが死んだ可能性はなくなったな」と思いました。もし三浦さんが死んでたら、お葬式とかでもっと慌ただしい雰囲気になっているはず。だから実は私は、ラストのオチにはそんなに驚かなかったです。
十五枚目に「想定外のこと」とありますが、これは「自分が死んだ」ことをぼかして言っているわけですよね。でもちょっと意味深だし、ニュースの情報と合わせると、真相に勘づく読者も出てきてしまう。いっそ、ニュースのくだりはカットしてはどうでしょう?
ニュース場面は残したほうがいいんじゃないかな。ある程度の情報は出しておかないと、オチが唐突すぎると感じる読者が出ると思います。
では、「想定外」という言葉ではなく、「バイトの後、有田が事故に遭った交差点に行って、花を供えてきた」というようなことを書いておけばいいんじゃないでしょうか。それ以上は書かずに、さらっと流す。そうすれば、オチを知った読者が読み直したとき、「なるほど。書かれていないけど、この『花を供えた』後に、主人公は死んだんだな」とわかります。
それはいいですね。で、次の日、ニュースがかかったテレビを慌てて消す場面も、「見たら有田がショックを受けるだろうから」という「思いやった感」をうまく匂わせて書いておく。でも、オチを知ってから読み返すと、「自分が死んだことを、有田に気づかれたくなかった」という理由もあったのだと、読者は改めて知ることになる。
そのほうが読者は、「うまい! 騙された!」と、より思えるかもしれませんね。
ここはもったいなかったですね。「想定外」と「ニュース」のところを、もう少しさりげない書き方にしてくれていたら、引っかかりは少なかったと思います。
バイトの後の主人公の行動が、「ひとつ用事を済ませてから」とか「想定外のこともあったけど」とぼかされていて、具体的なことは全く書かれていない。だからこそ、何か意味ありげなんですよね。
隠そうとして、逆に目立ってしまった感じですね。
テレビで読まれているニュース原稿にも、違和感がありました。
「例の交差点」とは言わないですよね。もっと具体的な場所が示されるはずです。
有田のことは「高校二年の男子生徒」と言っているのに、主人公のことは「若い女性」という扱いなのも変ですよね。それに、改良工事がどうのという情報より先に、被害者の氏名とかを出すと思うし。これもネタバレを避けようとしたのでしょうけど、不自然ですよね。
でも、全体としては、かなりうまくまとまっている作品だと思います。タイトルもよかったですよね。
話を最後まで読むと、このタイトルが「二人ともが抱えていた気持ち」だとわかって、キュンとしますよね。
確かによくできている作品だと思います。ただ、「幽霊×恋愛」とか「幽霊×青春」みたいな話は、ちょっとありきたりとも言えますよね。
確かに。幽霊オチって、夢オチに通じるものがありますよね。
でもまあ、その「幽霊オチ」の話の中では、この作品はかなり工夫されていると思う。
そうですね。幽霊モノの話の中では、悪くない出来だと思います。
企みのある作品で、それがラストでちゃんと効果を発揮している。作者がアイディアをしっかりと練り込んで話を創ったことが窺えます。
ただ、これはあくまでも一般的な話なのですが、「企み」というものを、「どんでん返しに次ぐどんでん返し」というふうには、思わないでほしいですね。
そう誤解している投稿者は多いと思います。
企み=どんでん返し、ではなく、「企み」の中の一つに「どんでん返し」があるということですよね。
「どんでん返し」は、ある意味発想しやすいから、つい書きがちなんでしょうね。
「企み」にはいろんなやり方があるんだから、もっと自由に、意欲的に、新しい物語を創造してほしいです。
その際、書き手の中にちゃんと意図があるか、ということが非常に重要になってくると思います。何か思いついても、ただ漫然と書いていては、30枚に収まらない。話の焦点が作者の書きたいポイントにちゃんと合っているかということを、しっかりと見定める必要があります。「このシーン」でも「この台詞」でも何でもいいから、とにかく「自分は何を描きたいのか」ということを常に意識しながら、作品作りに取り組んでほしいですね。それが、「『企み』のある作品」なのだと思います。