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選評付き 短編小説新人賞 選評

芥川くんのラブレター

伊川真澄

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  • 編集F

    雰囲気の楽しい作品でした。主人公の小泉さんは、クラスメイトのカップルを横から見る立ち位置なんですけど、その一人称の語り口が、ユーモアがあって、なんだかとても面白い。描かれているエピソードもよかったと思います。芥川君とユイちゃんカップルの恋人模様は、読んでいてとても微笑ましかったですね。芥川君は「つきあっていることは隠しておきたい」と思っていて、ユイちゃんのほうは「なんで隠すの? 恋人だってちゃんと言ってよ」と思っている。ユイちゃんは美少女で学園のアイドルなんだけど、「つきあってるって、みんなに言いたい!」のはやっぱり女の子のほうなんですよね。二人の仲を、思いがけず主人公が知るところとなったんだけど、でも芥川君は、もともと「今日、公表しよう」と決心していて、ユイちゃんに手紙まで用意していた。彼のほうでも、ユイちゃんの気持ちをちゃんと考えていたわけです。しかも方法が「手紙」というのが、またいいですよね。「芥川」だけのことはあるというか(笑)。ラストで芥川君が、「どうせ小泉にバレるんだったら、手紙なんか書くことなかったな」みたいなことを言うのに対して、主人公が「そんなことない。芥川君が自分から決心してくれたからこそ、ユイちゃんはすごく喜んでるんだよ」と応じる場面も、すごくよかった。彼らを見つめる主人公がいたからこそ、この恋人たちのエピソードがより素敵に際立ったのだろうと思います。

  • 編集I

    私も、この作品、すごく好きでした。主人公の語り口は、なんだか三枚目的というか、サバけていて楽しいですよね。一人でいることが平気そうな感じなので、学校生活に距離を取っているタイプなのかなと思うのですが、意外と人気者のようにも思える。芥川君にも、スクールカーストの頂点にいるユイちゃんにも、ちゃんと認識されていて、同等の立場で話ができていますからね。変に卑屈だったり遠慮がちだったりしない、フラットな目で世界を見ている主人公のおかげで、気持ちのいい空気が作品内に流れていたと思います。私はイチ推しにしました。

  • 編集F

    ただまあ、主人公自身の話ではないですね。主人公はあくまで、狂言回しでしかない。そこについては、賛否が分かれるかもしれませんね。

  • 編集C

    私は最初、主人公のことが今いちつかめなくて、ちょっと話に入りにくかった。しばらく読み進まないと、主人公の性別がわからないですよね。まあ、「女の子なのかな?」とは思いながら読むのですが、はっきりわかるまでかなりモヤモヤはしました。

  • 編集B

    五枚目の「女の私から見ても」のところで、初めてわかるわけですね。

  • 編集C

    主人公が中心の話ではないからこそ、もうちょっと、登場人物の立ち位置をわかりやすく読者に伝えるべきではないかと思います。これが恋愛の話で、主人公はその点に関しては脇役であるということは、もう少し早くはっきりさせたほうがいい。性別などの基本情報も、最初のあたりで示しておいてほしかった。

  • 編集B

    特にこの主人公は、冒頭から語り口が、妙におっさんくさいですからね(笑)。

  • 三浦

    「いやー参った参ったコリャ」ですからね(笑)。でも、高校生の女の子がおっさん口調で喋るのって、逆になんだか可愛い感じもします。全然嫌な気はしなかったですね。

  • 編集B

    むしろ、この主人公にはすごく好感が持てますよね。

  • 三浦

    はい。登場人物が全員魅力的だったと思います。芥川君もいいし、ユイちゃんも生き生きとした女の子で、素敵ですよね。芸能スカウトが来そうなほどの、ものすごい美少女らしいけど、読者受けは悪くないと思う。そしてオッサンくさい主人公もまた、かなりの好人物ですよね。好ましい魅力的なキャラクターを描けているのは、すごくよかったと思います。

  • 編集H

    中盤に、手紙を介して恋人たちが絆を深める様子を、主人公が少し離れて見守るシーンがありますよね。この、クマの着ぐるみの中から二人を見ながら主人公が語るナレーションの部分が、僕はとても好きでした。

  • 編集B

    私もです。心が温まる感じがしますよね。他人の恋愛を見ながらこんなことを考えられる主人公は、とてもいい子だなと思います。

  • 編集C

    ラストの二行も可愛いかったですよね。

  • 編集G

    ただ僕は、芥川君についてはちょっと気になるところがある。十三枚目で、「ユイみたいな子に好きだって言われて、断る男なんていないよ」と言っていますね。ここはかなりのマイナスポイントだと思います。これでは、「美少女だから好き」と言っているも同然です。「恋人」という特別な存在になる役どころなのですから、「美人」とか「スタイル抜群」とかってこと以外の、誰も気づいていないユイちゃんの隠れたいいところを見つけて、そこをこそ「好きだ」と言うべきだと思います。

  • 編集B

    確かにそうですね。言われてみればユイちゃんの、外見以外の美点は、この作品の中であまり語られていない。キャラクターの描き方はうまいけど、実は人物像はそんなに濃くないです。もう少し踏み込んで描いたほうがいいかもしれませんね。

  • 編集H

    そういう意味では、芥川君も、名前以外にこれといった特徴はないですよね。

  • 編集B

    それに、この話において、彼が「芥川」という名前である必然性も、実はないですよね。まあ、キャラ付けとして、なんとなく「芥川龍之介」を利用したということなのでしょう。でも、芥川君に関しては、何といっても、下の名前がわからないのが致命的です。一枚目の「芥川くんの下の名前は、龍之介じゃなくて、だった」というところを読んだときは、一瞬目を疑いました。

  • 三浦

    作者は、あとで下の名前を入れようと思っていて、うっかり忘れたのかな? それにしても、痛恨のミスですよね。

  • 編集I

    読み直せば気づけたはずですから、投稿前にちゃんと見直してほしかったですね。

  • 編集F

    彼は本当は、なんて名前だったのでしょう? ユイちゃんには「リョウ」と呼ばれていますが、このカタカナは正式名ではないですよね。「龍之介と二文字ちがい」らしいですから。

  • 編集H

    龍一? 龍太? あるいは「龍」一文字とか。

  • 編集B

    わからないですね。この作品において芥川君の下の名前は、けっこう重要ポイントだと思います。こういうミスには気をつけてほしいし、原稿を見直す習慣もぜひつけてほしいですね。

  • 三浦

    あと私は、芥川君がユイちゃんに渡した手紙に、何が書いてあったのかわからないところがかなり気になりました。

  • 編集B

    これは、あえて隠しているのではないでしょうか? 作中に手紙の文面が乗っていたら、逆に興醒めになってしまうと思います。

  • 三浦

    具体的な文面を書く必要はないのですが、「大体どういうことが書いてあったのか」は知りたいですね。私は正直、見当をつけかねているんです。というのも、主人公から、「手紙には、『付き合いを公表しよう』という決意が書いてあったの?」と聞かれた芥川君は、「まあ、そんなところ」と言うんだけど、ユイちゃんはなぜか、「一瞬虚をつかれたような表情をしてから、『うん、そうだね』と曖昧に笑った」とあります。そのため主人公は、「どうやら、本当はそれだけじゃないみたいだ」と思う。じゃあその、「それだけじゃない」ことって、いったい何だったのかな? そこがよくわからなかったです。

  • 編集D

    ラストでもう一度主人公が内容を尋ねたとき、芥川君は「ラブレターだよ、ただの」って言ってますよね。だから、「今日、公表しよう」という内容と共に、愛の言葉も綴られていた、ということではないでしょうか。

  • 三浦

    でも、「手紙の内容は『公表しよう』ってこと?」という質問に、ユイちゃんは「虚をつかれたような表情をした」んですよ? ということは、そういう内容ではなかったということですよね。けれど、話の流れを読む限り、手紙の内容は「公表しよう」だったように思える。だから腑に落ちないんです。ユイちゃんがなぜ「虚をつかれた」のか。なぜ、何かをごまかすように「曖昧に笑った」のか。その「何か」って、なんなのでしょう? ユイちゃんは、何を隠しているの?

  • 編集I

    ユイちゃんは単に、手紙に書かれていた愛の言葉が嬉しくて、ポーッとなっていたので、主人公の問いかけにすぐに反応できなかっただけではないでしょうか。

  • 編集D

    私もそう思います。ユイちゃんにとっては、手紙の中の愛の言葉の部分が何より重要で、それだけで頭がいっぱいになった。だから、「公表するって内容だったの?」と聞かれて、一瞬ぽかんとしてしまった。そのあとで我に返り、「ああ、うん、まあそういうことも書いてあったけど、それだけじゃなくてね……うふふ♥」、とごまかし笑いをした。というふうに、私は解釈して読みました。まあ、あくまで想像ですか。

  • 三浦

    そんな何でもない真相なのか……。と言ったらユイちゃんと芥川君に失礼ですが(笑)。私が深読みしすぎたのかな。

  • 編集C

    いえ、実は私も、どんでん返しのようなものがあるのかなと思って読んでいました。ユイちゃんの返事には何か含みがあるみたいで、不穏なものを感じたんです。そしたら、何もないまま終わってしまったので、「あれっ?」って(笑)。

  • 編集D

    でも、二十枚目のユイちゃんは、涙ぐみながら「こんな素敵な手紙もらったの、生まれて初めてだよ」と言っているのですから、不穏なものではありえないと思います。何か隠しているとしても、それは「嬉しいこと」なんだろうと推測できる。だから、「愛の言葉」なのかなと。

  • 編集B

    ただ、確かにここは、ちょっと誤解を招きやすいのかもしれませんね。

  • 三浦

    恋人からの手紙なんですから、文面に甘い言葉が含まれているのは当たり前のことですよね。手紙に書かれていたのが「公表しよう」+「愛の言葉」なのだったら、読者に隠すほどの内容ではない。だから私は、「それ以上の何か」があるのかと、つい思ってしまったんです。今のままでは、やはりちょっと意味深すぎるような気がしますね。どういう主旨の手紙なのかが今ひとつ汲み取りきれず、読んでいてモヤッとする。私のように感じる読者もいると思うので、このあたりはもう少し伝わりやすい書き方にしたほうがいいかなと思います。

  • 編集H

    ユイちゃんの反応を書いている文章が、ちょっと演出過剰なんですよね。

  • 編集D

    「虚をつかれた」とか「曖昧に笑った」とか書いてあるから、読み手が惑わされるんですね。単純に、言葉の選び方のミスかと思います。どういう言葉や表現を使うかについては、もう少し慎重に吟味したほうがいいですね。

  • 三浦

    そうですね。作者の意図が、読者に正しく伝わらなくなってしまいますから。ここはユイちゃんの反応についての言葉選びが、ややオーバーなのかもしれません。

  • 編集H

    実は僕は、この話自体、何を描いているのかよくわからなかった。

  • 編集G

    僕もです。ストーリーがほとんどないですよね。

  • 編集H

    恋愛ものとして見ても、内容があまりに他愛ないですし。

  • 編集G

    「バス停が同じで、話をしてたら付き合うことになった」らしいですが、ビッグカップルの馴れ初めとしては拍子抜けですよね。恋愛感も高まらない。

  • 編集F

    まあ、これはそういう、ほのぼのした明るい世界の空気感を楽しむ作品だから。

  • 三浦

    確かに、なにか大きなドラマがあるわけではないですし、カップルが抱えている問題も、結局大したことではなかった。でも、クマの着ぐるみを着て、おっさん口調で喋る女子高生を狂言回しに据えることによって、この話はとても可愛く、面白いものになっていると思います。そこに、工夫がありますよね。私は読んで、素直に「かわいらしいお話だな。好きだな」と思えました。

  • 編集F

    何でもない話を、小説にまとめるのは、けっこう難しいことだと思います。それができていたという点で、私はこの作者の力量を評価したいですね。

  • 三浦

    私もです。登場人物は三人だけで、舞台は校舎裏からまったく動かず、主人公が大活躍するわけでもないのに、三十枚で楽しい話にまとめているのは、非常にうまいなと思いました。とぼけたようなオッサン口調の語り口は、とても楽しく読めますし。

  • 編集H

    確かに、すらすら読めるし、語り口も軽妙でいい。書く力を持った「うまい人」だなと思います。ただ、それだけの力があるなら、もっと読み応えのある作品も書けるでしょうに、どうしてこんな気の抜けた題材を選んだのかなと、惜しい気がしました。せっかくの力量がもったいないですよね。

  • 編集B

    まあ私も、これはこれでいい話だとは思うけど、あまりに他愛なさすぎるという感想もよくわかります。

  • 編集H

    短編集の中に、こういう読み味の作品が一つ混ざっているということなら、すごく記憶に残るだろうし、僕も素直に「いいな」と感じただろうと思います。

  • 三浦

    箸休め的な作品としては、ぴったりですね。

  • 編集H

    でも、こういう話ばっかりが延々連なっていたら、やはりちょっと読むのが辛い。この作者は書く力を持っている方のように見受けられますので、ぜひ次は、グッと力のこもった作品を読ませてほしいですね。

  • 編集B

    そうですね。今回の作品は、ほんわかしたラブコメとしてとてもよかったと思いますが、この作者の、違うテイストの話もぜひ読んでみたいですよね。期待して待っています。

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