編集H
ラストにどんでん返しのある作品です。ここから後はネタバレを含みますので、本編を未読の方は、どうかそちらを先に読んでくださいね。物語は、主人公の青年・拓哉の一人称で進んでいきます。その大半は、恋人の七海とのデートシーン。終盤に来るまで、拓哉は「短期記憶しか持てない人物」であるかのように描かれています。主人公が何度も「この楽しい記憶も、数日で消えていく」と地の文で語ったり、恋人と記憶を共有できない七海が寂しさをこらえている様子だったり。ところがラストで、実は主人公は、記憶を売り飛ばして金にするためにデートをしていたのだということが判明する。それまで、切ない恋愛を描いているのかと思えた物語が、ラストでいきなりの転調を見せています。この落差の激しさは、僕は面白いと思った。おそらく作者は仕掛けのある作品が好きで、そういう話を作ろうとして、あれこれ頭をひねったり妄想をたくましくしたりしているんじゃないかな。そういう創作姿勢はとてもいいなと思います。