編集I
イチ推しのとても多い作品ですね。評点も高い。
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第196回
二位の君
宮島ムー
40点
イチ推しのとても多い作品ですね。評点も高い。
すごく好きな作品です。主人公の二宮あさひは、勉強しか取り柄のない高校三年の女の子。地味で真面目なあさひですが、とにかく成績だけはずっとトップでした。なのに、高校に入ったとたん、二位に甘んじることになる。増田という女生徒が常に一位をキープしていて、あさひはどうしても彼女を追い抜けないからです。そんなある日、クラスの席替えで、内村君という男の子と隣になる。彼は校内のミスターコンテストで、二年連続二位の人。内村君は当然イケメンですから、あさひとはスクールカーストの位置がかなり違うのですが、「万年二位」という共通点に、あさひは秘かな親近感を覚えます。そしてそれは、実はあさひの一方通行ではなかったんですね。あさひから見たら雲の上の人の内村君もまた、あさひに何かしら親しみを感じてくれているようで、ことあるごとに話しかけてくれる。この二人の、微妙な友情というか、心の通じ合いみたいなものが、私はとてもいいなと思いました。「二位であること」に忸怩たる思いを抱えている者同士が、しかもスクールカーストがかなり違う男女が、戦友のようにわかり合っていく。でもべったりくっつくわけでもない。そのあたりの塩梅が絶妙です。自分の現在の立ち位置をちゃんと認識しながらも、めげずに頑張っている高校生たちのお話になっていて、非常に共感を持って読むことができました。青春感のある爽やかな作品なのですが、「すごく笑える」のがまた、素晴らしいですよね。
随所で爆笑しました。ものすごくユーモアのある作品ですよね。
非常に読みやすいですよね。
私は最初、がり勉でまじめ一辺倒の、面白みのない主人公なのかなと思って読み始めたんです。ところが、そのまじめな主人公の語りが、思いがけずなんともおかしい(笑)。まじめな語り口のままで、これでもかと笑わせてくれます。
「いや、これは配布用のスマイルで」って(笑)。
重々しく、「わたしは投票の秘密を守る」って(笑)。
「いつもは投票用紙の裏面は計算用紙にしているが」って、なにそれ(笑)。「二十四時間勉強しているわけではないので」って、当たり前ですよね。なんだかもう、読んでいたら、すべてがおかしく思えてきてしまって(笑)。しかも、ただ面白いだけじゃなくて、主人公がちゃんと変化してますよね。イケメンと期せずして近しくなったことで、主人公の「いつもの自分」がどんどん崩されていく感じが、とてもよく描けていたと思います。でも主人公は、イケメンたちとお近づきになりたいと思ってるわけでもないんですよね。陰から見ているだけで充分で、むしろ笑いかけられたりしたら、「いや、わたしのために笑顔を作らないで」とか思っている。この場面もすごく笑えたけど、彼女がそう思う気持ち、とてもよくわかるなあとガクガクうなずきました。
なにしろスクールカーストが違いすぎる相手ですから、「そんな雲上人に、私なんぞが近づくなんて」と、主人公は思っている。彼女のその含羞というかわきまえのようなものは、読者から見て、とても好感が持てますよね。そのうえ、イケメンたちは、容姿だけでなく性格もいいんです。主人公は、接点などあるはずもないと思っていたかっこいい男の子の内村君と、奇跡的に戦友みたいにわかり合えた。でも、それ以上は近づかない。ラスト手前で、二人の距離は一瞬ぐっと縮まるのですが、その後はいつも通り、主人公は遠くからただ見つめているという、この微妙な関係性が、私はすごく胸に響きました。そういう切ないことを描きつつ、あちこちで笑わせてもくれる。「彼のご迷惑になるようなことをしただろうか。鼻血が何かに付着したとか」「そのせいで感染症にでも?」って(笑)。
それでいて主人公は、そんなに卑屈というわけでもないですよね。周囲に惑わされることなく、我が道を日々淡々と歩いている。そんな「我が道」にイケメンが二人も登場して、さすがの主人公もちょっとペースを崩されたというのが、このお話なんですね。
想定外の出来事に慌てふためいている様子が、おかしくも微笑ましいですよね。
それでも主人公は、自分を見失ったりはしない。初めてミスターコンテストに投票して、陰ながら内村君を応援してあげるんだけど、自分らしさは崩さない。相変わらず文化祭の最中も勉強に精を出して、なんとか増田さんを追い抜こうとがんばっている。この主人公は、読者がすごく共感を持てる人物ですよね。そういうキャラクターを描けているのは、とてもいいと思います。
がり勉キャラの出てくる話にありがちな、キリキリ感がないですよね。
ないですね。それどころか、むしろマイペースですごくおかしい(笑)。宿題をやったノートをクラスメイトに貸してあげると、それを写した人がまた別の人に写させてあげて、知らない間にクラス中に回っていて、それがもう日常になっているとか。
内村に「二宮さんも写す?」って言われるんですよね、自分がやった宿題なのに(笑)。
「末端ではわたしの翻訳ということすら知らないようだ」って(笑)。
「わたしの間違いがクラスみんなの間違いになっている」って(笑)。もうほんと、爆笑しました。しかも、この件に関して主人公は、「利用されて嫌だ」とか「みんな、ずるい」とか全く思っていませんよね。むしろ、「わたしの解答が間違ってても、わたしのノートだと知らずに写してるから、みんなに責められずにすむ。はぁー、よかった」と胸をなでおろしている。こういう人物を書けるというのはすごいですよね。なかなか出てこない発想だと思います。
主人公の変化の微妙さも、リアルでよかった。もしもラストで主人公が一位を取ったりしたら、一気に興醒めになったと思うのですが、「増田さんを追い抜くのは非常に難しい。でも、化学だけは付け入る隙があるかも」と、わずかな希望に向かって頑張り続けている。正面突破ではなく、傾向と対策を練って隙を狙うというのも、頭脳派の主人公らしい。こういうあたりの描き方も、とてもうまいなと思います。
内村君も、最後にまた、一位に届かなかったですよね。この展開もよかった。
内村君、実は根回しとか頑張ってたのにね。イケメンなのに、地味に努力をしていた。でもダメだった。
対して、いつも一位の中川君は、順位にはほとんど興味がなさそうだったりするんだよね。
でも、中川君、全然嫌な奴じゃないんですよ。むしろ、すごくいい人。イケメンの上に優しくて思いやり深い、本物の紳士。「どうしようもない鼻血女」の主人公のことも、全く嫌がらなかったし(笑)。
中川君と内村君は、とても仲がいいんだよね。それでもやっぱり、内村君のほうは、中川君のせいで自分が万年二位であることに、ちょっと忸怩たる思いがある。口にも態度にも出さないけど、それは絶対にある。そういうあたりがまたいいと思います。人物描写が非常にいい塩梅になってますよね。
勉強で常に一位の増田さんが、話に登場してこないのもよかったです。主人公と増田さんがライバル関係になっていないというのは、絶妙ですよね。
主人公のほうだけが、やきもきしてるんですよね。完全に一人相撲です。それは主人公もわかっている。増田さんはむしろ、誰かをライバル視すること自体なさそう。主人公にとっては、勝てる気がしないくらい、上のレベルにいる人。
でも、そんな増田さんのことを、内村が「知らねぇ」って言った瞬間、目から鱗が落ちる思いをする。ここはすごくいい場面で、好きでした。
狭い世界にいたことに気づくわけですよね。それでもまあ、今後も一位は目指すんだけど、それは自分がやりたいからやるというスタンス。内村君との交流によって、主人公の感情が揺れ動き、「でも、今後も変わらず頑張り続けよう」となったわけですね。心と心が触れ合い、何かが生まれ、でもまた、互いに元の世界に戻っていく。そういうことを描いている話として、とても匙加減がよかったと思います。
同感です。主人公の中では大嵐が吹きすさぶような出来事だったんだけど、そのことは誰も知らない。誰かにそれを伝えたいとも思っていない。これからも、地味で真面目な自分のままで進んでいく。でも卑屈になっているわけでもないんですよね。そういう感じがすごくいいなと思います。あと、二人のイケメンの描き方もうまいですよね。少女マンガに出てきそうなキラキラしたキャラなのに、「こういう人いそうだな」と思える感じでした。学校の中でとても人気があって、でも、それを鼻にかけているわけでもない。すごく自然体ですよね。単に生まれつき容姿がいいだけなんだけど、それゆえの余裕がある。そういう人って、実際にいるだろうなと思います。
登場人物が、みんな好感度が高くて、魅力的でしたね。
ただ、「三位の子」の扱いがちょっとおざなりな感じで、僕は気になりました。一位と二位が抱き合ってる横で、一人ぼっちみたいで、なんだかかわいそう(笑)。
言われてみれば、確かに(笑)。あと、私がすごく気になったのは、ラスト手前のシーンです。去年もおととしも主人公が、渡り廊下の窓越しにミスターコンテストを見ていたことを、実は内村君は知っていて、わざわざ主人公に会いに来てくれますよね。この展開はちょっとやりすぎかなという気がするのですが。
ここだけ、なんだか作り物感がありますよね。
そうなんです。ミスターコンで二位を取るほど人気者の内村君が、地味でがり勉の主人公をここまで特別に気にかけて、「君、去年もおととしも、ここで僕のこと見ててくれたよね。知ってるよ」「隣の席になったとき、渡り廊下の人だって気付いたよ」みたいなことを言うのは、ちょっとあり得ないと思います。現実的に考えて、内村君のような男の子は、主人公みたいな女の子を、それほど気に留めたりしないだろうと思う。それは、カーストの低い人間をバカにしているとか、そういうことではないんです。内村君はイケメンでモテるだろうし、バレーにも打ち込んでいるし、あれやこれやで日々忙しく過ごしていたら、「ミスターコンを渡り廊下から見ていた女生徒」のことなんて、覚えていられないですよね。
年に一度、遠目にちらっと見かける人のことなんて、普通記憶に残りませんよね。
はい、相当に視力と記憶力がよくないと無理かなと。なのに、コンテストが始まる前に、内村君はわざわざ、主人公に会いに渡り廊下までやってくる。この展開ではなんだか、「内村君は、主人公が好きなのでは?」と思えますよね。主人公に、恋愛フラグが立っているように見えてしまう。このお話においては、そういう要素は排除したほうがいいと思います。
単に、「二位同士」という点でつながった二人のままで、話を終えてほしかったですね。今の書き方では、「地味でさえない私の魅力を、イケメンが見抜いて恋してくれていた」という、いかにもな展開のように見えてしまいかねない。
場面設定もできすぎだと思う。渡り廊下は、ミスターコンをゆっくり見物できる絶好ポイントなのに、通りかかる人が誰一人いないというのも、ちょっと都合のいい設定のように思えました。
書き手の作為が見えてしまうと、途端に読者の気持ちが萎えてしまいますから、注意が必要ですね。
ここは非常にもったいなかったですね。恋愛っぽいものがチラつくことで、それまでの主人公の、「私なんぞ、陰から見させていただければ、それでもう充分なんで」みたいな、絶妙のオタク感がなくなってしまいます。
ただ、二人が明確に戦友感を共有するシーンは、やはり終盤あたりに欲しいです。
だとしたら、内村君が主人公をわざわざ訪ねてくるのではなく、文化祭の最中にどこかですれ違えばいいんじゃないでしょうか。例えば、内村君はコンテストの発表に向かう途中、主人公は椅子を抱えて渡り廊下への移動中に、二人は偶然に出くわすんです。内村君が主人公を見て、「その椅子何? え、渡り廊下で勉強!? すごいね」とかって話になる。会話する中で、「内村君、一位になりたい?」「なりたい」「わたしも」「え、二宮さんも?」みたいな話になり、一瞬気持ちが近づく。でもそれ以上のことは起こらず、「じゃあ、頑張れよ」「そっちもね」みたいな感じで二人は別れ、違う方向へと歩き出す。
その展開はいいですね。さりげない感じで、わざとらしさがない。二人の距離感がちょうどいい感じです。
惜しいですね。他の部分の匙加減が絶妙だったからこそ、このシーンの不自然さが際立ってしまってましたね。恋愛感が絡むことで、物語の焦点にもブレが生じている。
ラスト手前だから、何かしら盛り上がる場面を作らなくてはと思ったんでしょうね。
作者は物語を終わらせるために、二人の気持ちが通じ合い、少々盛りあがるような場面が必要だと考えたのかもしれません。でも、シーンの作りかたが、ここだけちょっとぎこちないかなという気がしますね。強いて「物語を終わらせよう」「そのために盛りあげよう」と考えすぎず、登場人物たちの気持ちに沿った言動を取らせてあげるといいと思います。
これは、恋愛が成就する話ではないですからね。
ただ私は、このお話の後、二人が付き合う展開になってほしいと、秘かに思っています。
実は私もです。
そうですか? 私は付き合ってほしくないですね。この二人には、思いを共有する戦友のままでいてほしい。
男女の友情って、ありえますかね?(笑)
主人公はこんなに面白くて味のある人物なのですから、恋愛面でも報われてほしい。内村君には一味違うイケメンとして、主人公の良さにぜひ気づいてほしいです。
そういう女性の魅力に気づけるのは、もっとずっとオジサンになってからじゃないかな(笑)。私は、描かれている「二位同士の戦友感」がほんとに好きだったので、二人にはこのまま、純粋に友情をはぐくんでほしいです。まあ、このあたりについて、作者がどう思っているかはわかりませんけどね。
話の続きをつい想像してしまうくらい、キャラクターたちが魅力的なわけですよね。
語り口、人物造形とその描写、書き方の匙加減など、いろんな面において、非常に秀逸な作品でした。その上、読んでいてとても楽しかった。受賞するにふさわしい、素晴らしい作品だと思います。