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選評付き 短編小説新人賞 選評

世界で一番長い日

ひとばしら

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  • 編集A

    ジャンル分けするなら、パニック物ですね。ハラハラドキドキしながら読めて、とても面白かったです。主人公は、校外学習で高層ビルにやって来た中学生の女の子。仲のいい友人とおそろいのお土産を買ったり、クラスメイトの男の子が自分に好意を寄せてくれている様子だったりと、ほのぼのとした中学生の平和な日常が、突如発生したビルの大揺れと床の崩落で一変します。みるみるうちに被害は拡大して、生徒も教師も次々と死んでいき、気がつけば、生きてビルを出られたのは主人公一人。そして、やっとの思いで崩れかけたビルから脱出し、助かったかと思いきや、そこに待ち構えていたのはさらに過酷な現実だった……という、たたみかけるような追い詰められ方もいいですよね。怒涛の展開をちゃんと描けていたのは、すごく良かったと思います。エンターテイメント性の高い作品だなと思えて、私はイチ推しにしました。

  • 編集B

    私も面白く読みました。「この話にどういうオチをつけるんだろう?」って、すごく興味を引かれますよね。しかも、ラスト手前で、一瞬「夢オチか?」と思わせておいてから、絶望的な現実に再び引き戻すという容赦のない展開になる。描かれている夢の部分がふわふわと幸せなだけに、その後の現実の残酷さが際立って、とても印象的でしたね。

  • 編集C

    主人公がいるのは「新都心ビル」ということですが、これ、埼玉県に実在する新都心ビルとは別物ですよね? 場所は東京らしいし、高さも違いますし。

  • 編集D

    「地上536.4メートル」なら、間違いなく「日本一高いオフィスビル」でしょうけど、今はまだ存在しないと思います。最上階は100階以上になるのかな。

  • 編集E

    「シントくん」というマスコットキャラも、すごく「ありそう」と思えたのですが、検索してみると何もヒットしなかった。ということは、この作品の舞台は、近未来の日本か、架空の日本なのでしょうね。

  • 編集B

    でもその割に、「熊本県やら船橋市の非公式マスコットキャラ」みたいな、現実のアイテムも混ざっている。基本的な設定は、もう少しきっちり詰めたほうがいいと思います。

  • 編集F

    結局このパニックの原因は何だったのかは、まったく書かれていませんね。おそらく、大地震が起こったということかなとは思うのですが。

  • 編集B

    私は、ゴジラみたいなものが出現したのかと思いました。ラストで、ビルの外に出た主人公の語りで、「影が私に落ちる。そして私は、見上げた。そこには――――」とありますよね。だから、「私」が見上げた先には、巨大怪獣か何かがいるのではないかと。

  • 編集A

    もしくは、宇宙人的な何かかもしれないですね。侵略しにきた異星人の、巨大な宇宙船が浮かんでいるとか。

  • 編集F

    あるいは単に、大きなビルが倒れてきたのかもしれない。そこに関して、作中には全く説明がありませんでした。「そこには――――」で突然終わってしまっている。読者としては当然、「え? その先が知りたいのに~~」と思うわけだけど、でもこういう寸止めのラストも、個人的には悪くないかなと思います。焦らしテクが心憎い感じというか(笑)。

  • 編集B

    私も、このブツ切り感のラストは、嫌いじゃないです。作者は明確に演出効果を狙って、こういうラストにしているわけですよね。まあ、その選択がベストかどうかには少し疑問を感じますが、話にオチをつけるぞという意識が作り手の中にあることは窺えます。そこはいいと思いました。

  • 編集F

    展開とか演出とかは、いろいろ計算されてますよね。日常が突如、非日常へと変化する落差のつけ方とか。他にも、エレベーターが2基並んでいて、二手に分かれて乗り込むと、主人公が乗っていない方のエレベーターのロープが切れ、猛スピードで落下してきてすれ違う瞬間、その中にいる人と主人公の目が合うとか。パニック映画とかでは定番の演出ではありますが、お話の造りというものが、ちゃんと考えられているなと思います。

  • 編集B

    ただ、ちょっと計算され過ぎというか、作中で起こる出来事が作者の都合になりすぎている印象はあります。最初は、生徒・教師あわせて、けっこうな人数がその場にいたわけですよね。それが、床が崩れて多くの犠牲者が出て、かなり減る。そこを生き残った人たちは、「穴から降りる組」と「階段から降りる組」に分かれ、「穴から」組が去って、さらに人数が半減。残った50人くらいは、今度は「残る組」と「エレベーター組」に分かれる。30人が2台のエレベーターに分乗し、主人公側ではない1台は落下してしまうので、ここでまた人数が15人へと半減。エレベーターから脱出しようとするも、主人公と中島君以外は間に合わなくて、生き残りはたった二人に。そして中島君もまた、主人公を庇って犠牲となり、とうとう主人公は最後の一人になった。これ、すごく順序よく、人が減っていってますよね。

  • 編集C

    「こうなることが最初から予定されていた」という感じですよね。登場人物たちが次々と死んでいって、最後に主人公が残る。映画やゲームではよくある展開ですが、作者の意図が見えすぎてしまうと、興醒めになってしまいます。加えて、まず半分が死んで、次にそのまた半分が死んで……みたいな繰り返しになっているのも、やり方としてうまくないと思う。

  • 三浦

    しかもそれが、30枚という短い枚数の中で駆け足で描かれているので、余計に作り物感が強くなってしまうのでしょう。それに、冒頭の主人公は中島君のことはさほどどうとも思っていなかったのに、終盤ではいつのまにか「ほんとは好きだったのに、死んでしまった」みたいな扱いになっている。こういうあたりの描き方も、ちょっと唐突に感じます。話を盛り上げるために「そういうことにした」ように見えてしまう。

  • 編集B

    パニック物の割には、登場人物たちは、実はそれほどパニックに陥っていない。高層ビルのてっぺんにいるときに大規模な災害が起こったら、もっと収拾のつかない騒ぎになりそうなものですよね。こんな、「降りる組と残る組に分かれましょう。各自、希望の組に入ってね」みたいな展開にはならないと思います。今の描き方では、作者が生き残りの人数を減らすために、頭で考えて手順を踏んでいるという感じが、すごく強い。

  • 編集F

    「もし実際にそういう事態になったら……」ということが、あまり想像できてないですよね。作者の都合で話が展開しているように見える。そういう点から考えると、この災害の原因については、もっとはっきり描いたほうが良かったのではという気がします。

  • 編集B

    どうしてこういう事態になったのかということが、現状ではよく分かりませんからね。読み手が状況を把握しづらいです。私は勝手にゴジラっぽいものを想像して読みましたが、本当のところはどうだったのでしょうか?

  • 編集C

    生徒が「足音が聞こえる」と言う場面がありましたね。あれは、ゴジラの足音と解釈していいのかな? でも、「トン……トン……」というのは、怪獣の足音としてあまりに軽すぎる気もしますけど。

  • 編集B

    地震による地鳴りとか、壊れかけているビルが立てている音、とも受け取れますよね。

  • 編集C

    主人公たちがいたホールは、「展望室の一角に設けられ」ていたらしいですが、このホールの広さとか様子とかもよくわからない。展望室の床は無事らしいのに、どうしてこのホールの床の中央だけが崩れるのでしょう? それに、ホールに集合して説明を聞いていたんだから、中央の床が抜けたときにほとんどの生徒が落ちてしまうはずじゃないかな。

  • 編集F

    最上階の展望室が仮に地上100階にあったとして、それだけの高層階で全面ガラス張りの窓がすべて割れたりしたら、風圧で立っていられないんじゃないでしょうか。少なくとも「(ホールから)展望室に出ると、窓がすべてなくなっていた」なんてのんびりした描写にはならないと思う。

  • 編集D

    展望室もエレベーターも全面ガラス張りなら、もし外にゴジラ的なものがいたなら見えたはずだと思うのですが、そういう描写もないですね。じゃあ、原因は怪獣じゃないのかな?

  • 編集B

    もそも、ゴジラがどう暴れたら、このビルのてっぺんの窓が割れるのか、そういうことも今ひとつ理解できない。いや、勝手に「ゴジラ」と決めつけてますが(笑)。とにかく、何がどうなったら、これらの災害がこの順番で発生するのか、ということがよくわからないです。

  • 編集F

    だからどうしても、「作者の都合に合わせて被害が展開している」ように感じられるんですよね。理屈や因果関係などの設定を詰め切らないまま、書かれた作品のように見えてしまう。

  • 編集C

    そもそも登場人物は、ほぼ生徒と教師だけ。こんな巨大ビルで非常事態が起こっているのに、ビルのスタッフが誰もその場にいないというのは妙です。逃げる途中で目にする犠牲者も、この学校の生徒と教師しかいなくて、すごく不自然に感じる。

  • 編集A

    作者が、描きやすいように状況を操作してる感じですよね。まあ30枚だから、細々したことまで入れ込む余裕はなかったんだろうけど、読んで「わかりにくいな」「不自然だな」と思うところは多かった。もう少し緻密に、物語を創り上げてほしかったですね。

  • 編集C

    文章面でも引っかかる点は多かったです。案内役の女性がビルの説明をすることを、普通「スピーチ」とは言いませんよね。5分や10分のあいだ眠気を我慢することを、「睡魔との戦いに明け暮れていた」とも言わない。

  • 編集G

    「お土産コーナーの節々」という表現も適切ではないですよね。

  • 編集B

    言わんとするところからずれた表現になっているところが、あちこちにありました。誤字脱字も目につきます。投稿前に、よく見直してほしかったですね。

  • 編集C

    あと、一人称作品なのに、「私」という言葉が出てくるのが2枚目の後半。これはちょっと遅いと思います。そこに来るまで、二人の女の子の会話が続いているのですが、詩織と薫のどちらが主人公なのかが分からないし、どの台詞をどっちが喋っているのかもよく分からない。今作の場合、1枚目の3行目に、「そういって薫が私に見せてきたのは」など書いておいてほしかった。

  • 三浦

    そうですね。ちょっとしたことですが、人称とか視点の主体とかを、素早く、かつさりげなく読者に提示するというのは、とても重要だと思います。

  • 編集G

    迫力のある作品だとは思うのですが、状況説明がやや荒っぽいというか、行き届いていない点が多くて、私はそこがすごく気になりました。映像的な作品の割に、場面の状況がぼんやりとしか伝わってきませんよね。誰がどこにいるのか、その場に何があるのか、どんな様子なのかということが、文章からはっきり見えてこない。それに、心理的に引っかかりを感じる描写も多かったです。例えば、ホールの床が抜けた後、「床の穴から降りられるよ」と、生徒たちが次々と飛び込んで降り始めた、というシーンがありますね。でも、崩れたがれきの下には、当然たくさんの人が埋まっていて、血まみれで亡くなっていたり、重傷を負って呻いてたりしているはず。なのに、そういう場所を平然と足掛かりにして降りていけるものでしょうか? 実際の場面を想像すると、こんな展開には到底ならないだろうと思います。そういう箇所が、全編にわたっていくつもある。もう少し丁寧に、納得感のある展開・描写にしていってほしい。今のままでは、小説というより、ゲームみたいに感じられます。

  • 三浦

    「どうなるんだろう」とハラハラしながら拝読できましたし、多少の粗はありつつも、パニック物としての展開や描写は非常にうまいと思いました。ただ、パニック物の肝の部分って、「何が起きるか」であると同時に、人間心理をどう描くかではないかと思います。つまり、「極限状態でこそ露になる人間性」みたいなものこそが、こういう作品の一番の描きどころであり、盛り上がりどころなのではないでしょうか。パニック物の中でも、名高い既成作品には、そういうことがちゃんと描き出されているものだと思います。例えば、人格者だと思われていた人物が、人を蹴落としてでも助かろうとしたり。逆に、狡くて身勝手な人間かと思えた人物が、身を挺して他人を助けたり。30枚だと、そこまで描くのは難しいと思いますが、「何が起きるか」がちゃんと描けているだけに、「心理面ももっと……」と思えて、少々残念でした。

  • 編集F

    そういえば、今作の中盤で、中島君がエレベーターの中からまっさきに主人公を引き上げるシーンがありましたね。「私が一番近かったから」とはありますが、他の人たちは内心不満だっただろうと思います。一秒が生死を分ける場面ですから。しかも、主人公の次に引き上げられるのは、主人公の友人の薫で。

  • 三浦

    その薫はといえば、この期に及んで「携帯を拾うから待って」なんて言っている。こんな際は、他の人が我先に「じゃあ先に私を!」「いや俺を!」ってことになりそうなものなのに、なぜかみんな大人しく指示を待ってますね。

  • 編集B

    親友の薫はあっさり死んでしまうし、主人公と中島君との間に深い心の交流が生まれるわけでもない。登場人物たちの間で、もう少し、心に残るやり取りでもあったらよかったのにと思います。

  • 編集F

    人間ドラマは描けていないですよね。ただまあ、30枚しかないので、あえて心理面には深入りしなかったのかもしれない。

  • 三浦

    人物をどの程度まで深く描くかというのは、難しい問題ですよね。キャラクターの人間性を掘り下げる必要のない小説もありますから。例えばホラー作品などで、主人公をあえてクセのない人物に設定することはあります。読者を怖がらせたり驚かせたりすることが目的の場合、主人公の性格描写とかキャラ立ちとかは必要なかったりする。ただパニック物の場合、やはり主人公は、読者が応援したくなる人物として描いたほうがいいのではと思います。「この主人公には、なんとか生き延びてほしい!」と読者が思う人物設定なり性格付けになっていないと、読んでハラハラドキドキできませんからね。でも、30枚でそこまでを描くのは、とても難しいことです。だから、「パニック物を短編で」という挑戦そのものが、すごくハードルの高いものだと思います。かなりの面でクリアされていて、すごいなと思いましたが、こういう作品はもうちょっと枚数をかけて書いたほうがいいような気がしました。

  • 編集A

    なんだか、すごくもったいないですよね。確かに展開とかが乱暴に感じられるところはありましたが、とても面白い作品だったのは間違いないです。「この後どうなるんだろう?」という興味でぐいぐい引っ張られ、最後まで一気に読むことができました。それに、短編賞でパニック物の投稿作を目にすること自体あまりないので、そういう意味でも面白かった。

  • 三浦

    新鮮でしたよね。それに、主人公が突出した人物ではないというのは、短編パニック物としては、うまく作用しているところもあります。よくパニック物の映画の冒頭辺りで、何が起きたのかもわからず、死んでいくモブキャラたちっていますよね。この主人公は、まさにそういう立ち位置なのではないかなと思います。本来なら主役になれない人、あっさり死んでいく名もなき人に焦点を当てているという点で、すごく面白い切り口だなと感じました。でも、色々考えると、やはりこの作品は長編にすべきだったのではないかと私は思います。パニック物というのは元々、構造的に短編には向いていない気がする。「展開がご都合主義的に見える」という意見が多く出ましたが、「短編だから」というのも、その原因の一つだと思います。ご都合主義をご都合主義に見せないための手数を打つには、それなりの枚数が必要ですから。

  • 編集D

    様々な要素や、登場人物それぞれが抱えている事情、思惑などを細かく積み重ねていくことでこそ、厚みのあるドラマが生まれるわけですよね。通常、パニック物には大勢の人物が登場するでしょうし、短い枚数で描くのはどう考えても難しい。

  • 編集A

    それでも、どうしても短編でパニック物を、ということなら、もっと話をミニマムにしたほうがいいと思います。それこそ、「閉じ込められたエレベーターから脱出するだけ」くらいのストーリーにするとか。

  • 三浦

    あと、このタイトルは、ちょっとピンとこなかったです。ほんの一時間ぐらいの出来事なのに「日」というのは、作品の内容とズレている気がする。

  • 編集D

    「世界で」というのも少し大げさでな気がします。

  • 編集G

    私は、ペンネームも改めてほしいと思います。この作品内容でこのペンネームをつけるというのは、いささか配慮に欠けると言わざるを得ない。

  • 編集F

    いろいろな面において、再考すべきところがありましたね。でも、読者を引き込む作品が書けているという点では、とてもよかったと思う。

  • 編集B

    30枚でパニック物を書こうとしたチャレンジ精神は評価したいですよね。指摘された点を踏まえた上で、ぜひ再挑戦してほしいです。

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