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選評付き 短編小説新人賞 選評

青い鳥は空にとける

北原こさめ

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  • 編集D

    ファンタジー作品ですね。敵国と百年にわたって戦争を続けている、とある国が舞台のお話です。主人公の青年、貴族軍人であるエーリヒは、激しい戦闘で片足を失い、前線を離れて内地に戻ってきています。今は義足暮らしで、戦闘員としては役に立たない。そんな彼に、「任務放棄している『カナリア』を戦線復帰させろ。それが不可能なら始末しろ」という命令が下る。「カナリア」というのは、歌声で傷を治癒すると言われている、特殊能力者のことです。エーリヒがその「カナリア」に会いに行くと、それはシャティエルという名の美しい少女で……という、この設定と筋立てだけで、僕はもうワクワクしました。

  • 三浦

    わかります。すごく期待感の高まる設定ですよね。「面白そう!」と思えます。

  • 編集C

    絵が浮かびますよね。映像作品にも向いている、華のある設定だなと思います。

  • 編集D

    終盤でカナリアの特殊能力が、「傷を癒やす」のではなく「洗脳」だったと明かされるのも面白い展開だなと思いました。読者の裏をかこうという意欲があるのは、僕はすごくいいことだと思います。ただまあ、シャティエルがどうやって中立組織と渡りをつけたのかはよくわからないし、合図用の青い鳥が手に入らなかったらどうしたのか、説得・監視役がエーリヒのような甘い軍人ではなかったらどうしたのか、いろいろ疑問は浮かびます。展開がなんだか都合よく行きすぎているところはあると思う。

  • 編集B

    私はその、「特殊能力は、治癒ではなく洗脳だった」という真相にも、ちょっと疑問を感じました。シャティエルは、「本気で、歌なんかで人間の傷が癒えると思いますか?」と言っていますね。「現実的に考えてみてよ。そんなことあり得ないでしょ」と言っているも同然なんだけど、でも、「歌で洗脳できる」というのも、じゅうぶん魔法っぽい能力ですよね。

  • 編集F

    「実は洗脳」という真相が終盤で明かされるまでは、読者は「カナリアの特殊能力は、傷の治癒」だと思って読みますよね。だから、エーリヒが戦場で足を失っているという設定に、疑問を感じるんです。エーリヒは「私の部隊にはナイチンゲールもワルキューレも所属してなかった」と言っていますが、彼は名門貴族の子息ですよね。なら、爆撃で足がちぎれたとき、すぐさまカナリアのいるところへ送られるとか、逆にカナリアが呼び寄せられて治療にあたるとかってことになりそうなものなのに、どうしてそうならなかったのかな? ということが、読んでいてずっと気にかかりました。

  • 編集A

    エーリヒは終盤で、実際にカナリアの歌を聴いてますよね。シャティエルが、具合の悪いエーリヒのために、目の前で歌ってくれた。なのに目が覚めたとき、彼の足は治っていなかった。というか逆に、意識不明になって入院までしていたわけですよね。「あれ? 治癒のはずが、むしろ悪化してる?」って思いました。その後の場面で、「実は、治癒ではなく洗脳」と明かされたんだけど、それを知って読み返しても、何だか釈然としない。シャティエルの能力が一体エーリヒにどういう効果を及ぼしたのかということが、よく分からないです。

  • 三浦

    カナリアの歌を聴いたのちにエーリヒが目を覚ますシーンで、「治療は一ヶ月で済みますけど、完治するまでに一年はかかります」と看護師らしき人が言いますが、この「治療」って何の治療なのでしょう? 「完治」というのは、どういう状態を指しているのかな? まさかちぎれた足が復活するわけはないし、ちょっとよくわからなかったです。そもそもなぜ、足の状態がいきなり悪化したのか、展開がやや唐突に感じられました。義足生活にもけっこう慣れているような印象だったのですが。

  • 編集B

    冒頭シーンでも「傷はもう癒えたはず」とありました。いったい急にどうしたんだろう? いくらなんでも、お酒を飲み過ぎたせいではありませんよね? それとも、義足をつけるのが早すぎたということでしょうか?

  • 三浦

    状況や事態の説明が、あまりうまくできていない気がします。戦場で負傷したエーリヒがいつ義足をつけるようになったのか。シャティエルと出会った時点で、その足はどの程度の治り具合だったのか。そういうあたりを、ちゃんと時系列に沿って、さりげなく説明しておいてほしかった。「負傷した足」は、主人公であるエーリヒにまつわる重要な要素ですからね。それにしても、カナリアたちの能力が本当に「洗脳」なら、そして、兵士たちを洗脳するのを本気で辛いと感じているなら、「もう戦争なんかやめましょう」という洗脳を、軍部や国民にかけたらいいんじゃないのかな? そういうことはできないのでしょうか?

  • 編集B

    シャティエルがおとなしく監禁されているのも不可解です。見張りの兵士を歌で洗脳したら、いくらでも逃げ出せそうなのに。

  • 三浦

    歌声は、どのくらいの範囲に効果があるのでしょう? たとえかすかな声量でも、歌を耳にした人すべてに効くのかな。そうだとすると、洗脳にかけられる兵士の耳のよさとか、カナリアの声帯の強さとかによって、効力にけっこうばらつきが出てきそうですが、そのあたりの仕組みもよくわからないですね。

  • 編集E

    そもそも、「痛みや感情を一時的に麻痺させるだけ」の能力なら、「洗脳」という表現は的確ではないんじゃないかな。それに、「相手の脳波を操る」という仕組みらしいけど、それならべつに「歌」でなくても、「声」でもいいはずですよね。

  • 編集B

    いろいろな基本設定がどうにも曖昧ですよね。

  • 編集D

    同様に、世界観も非常に曖昧でした。作品の雰囲気は、19世紀のヨーロッパあたりをイメージモデルにしているのかなと思えるのですが、それにしては「PTSD」なんて言葉が出てくる。科学とか医学とかの文化レベルがさっぱりわからなかったです。「野戦病院にはナイチンゲール」という連想も引っかかる。この架空世界には、白衣の天使である「ナイチンゲール」は存在しないはずですよね。まあ確かに、「陸軍にはワルキューレ」「海軍にはセイレーン」みたいな名前つけは、なんだかかっこいいというか、萌え要素だなとは思うのですが、作品世界の構築という点から考えると、引っかかるものがある。

  • 三浦

    一つの能力に対していくつもの名前をつけるというのも、変な話だと思います。それに「ナイチンゲール」って、鳥の名前でもありますよね。「カナリア」という枠の中に、さらに別の鳥「ナイチンゲール」がいるというのも、なんだかややこしい。これはもう、「カナリア」で統一すればいいのではないでしょうか。ただ、この「カナリア」というネーミング自体にも、引っかかるものはありました。私は「カナリア」と聞くと、どうしても「炭鉱のカナリア」を連想してしまいます。繊細でか弱い少女たちが、その感じやすさゆえに危険な最前線へ送られてしまうという、悲しい役割としての意味合いがこもったネーミングかなと思って読んでいたのですが、どうもそういうことではないらしい。単に「美しい歌声」からのイメージのように思えました。それなら、「カナリア」以外の名称にしたほうがいいんじゃないかな。というのも、シャティエルは作中で「青い鳥」をエーリヒに所望しますよね。

  • 編集B

    「幸せは近くにあるって、忘れない為に」と言っていますから、これはメーテルリンクの『青い鳥』のことですよね。これもまた、この架空世界には存在しないはずです。

  • 三浦

    はい。それに加えて、「カナリア」と言われて、ほとんどの読者がまず思い浮かべるのは、黄色い小鳥ですよね。この、「黄色い鳥」であるシャティエルが「青い鳥」を欲しがるという図式には、どうにも違和感がある。せっかくの要素が、作中でうまく機能していないように思えます。

  • 編集F

    確かに。「カナリア」と「青い鳥」という取り合わせには、なんだかミスマッチ感がありますね。

  • 三浦

    終盤でシャティエルが窓から鳥を放すシーンも、実際に思い浮かべてみると、ちょっとピンと来ない気がします。いくら満月とはいえ、「鈍色の夜空に青い鳥」って、ビジュアル的にあまり映えませんよね。鳥は当然鳥目だから、夜はうまく飛べないかもしれないし、「青い鳥が合図」だったらしいけど、夜に「あの鳥は青色だ」と見分けられるのだろうかとか、細かいことなんですけど、読んでいていろいろ引っかかってしまいました。全体に、「どうも惜しいな」と感じるところが多かったです。

  • 編集E

    ファンタジー作品なのに現実のアイテムに頼りすぎていたり、書き手が個人的に連想したことをそのまま話に盛り込んでいるようなところがあるのは、気になりますね。もう少し緻密に、物語を構築してほしかった。

  • 編集F

    ちょっと、思いつきとか何となくのイメージだけで話を創っているのかな、という印象はありますね。詰めが甘いというか。

  • 編集E

    もったいないですよね。せっかく、萌えの感じられる作風だし、終盤のクライマックスシーンも、見せ場として盛り上げようという意欲が感じられてよかったのに。

  • 三浦

    すみません、私はラストシーンもよくわからなかったです。唐突にシスター・ローラという人物が出てきますが、これ、誰なんでしょう?

  • 編集C

    まあ、生き延びたシャティエルが、後に修道女になったということかな、と推測はするのですが、よくはわからないですね。

  • 三浦

    消去法でシャティエルなのでしょうけれど、もう少し「シャティエルだよ」と確定できるような書き方をしたほうがいいような気がしました。あと、冒頭シーンでゲスっぽい上司が、「カナリアにならないなら、女の孤児など穀潰しだ」みたいなことを言っていますが、この台詞には疑問を感じます。戦時中は、ただでさえ人がたくさん死んでしまうのですから、人口が減ることには危機感があると思う。人が減れば減るだけ、兵力も国力も落ちてしまいますからね。支配階級の人間ならなおさら、「子供の数を増やしていくことは重要」という考えを持っているはず。であれば当然、子供を産んでくれる女性は貴重な人的資源ですから、孤児であろうと「穀潰し」という認識にはならないと思う。おそらくこの台詞は、「主人公の上司がどれだけ嫌な人物か」ということを表現しているのだろうとは思うのですが、ちょっとリアリティに欠けるというか、「こういう立場の人物が、果たしてこういう発言をするだろうか?」と思えてしまいました。

  • 編集B

    そもそも、戦争が100年続いているという設定に、リアリティが感じられないです。

  • 編集D

    しかも、主人公の国と敵国しかいないような、ざっくりとした世界観でしか描かれていないですよね。あと、この作品ではカナリアの「歌」がとても重要な要素になっていると思うのですが、その肝心の「歌」が、文章からはあまり響いてきませんでした。文章で音楽を表現するのは、本当に難しいことではあるのですが、今作においてとても重要なキーとなるモチーフだっただけに、なんとかしてもう少しうまく表現してほしかったと思えて、残念ですね。

  • 三浦

    小説の中で「音楽」を描くというのは、表現力とか工夫とかが問われてしまうところですね。

  • 編集D

    この作品、設定の基本ラインはとても魅力的なので、長編にしてもいいのではとも思うのですが、その場合、何人もの「カナリア」が登場してくることになりますよね。その一人ひとりの「歌」に、それぞれの個性をつけて表現しなければならない。同じ一人のカナリアの歌だって、時と場合によって違うものになりますよね。当然それも描き分けなければならない。となると、難易度は桁外れにアップしてしまう。お勧めしていいものかどうか、迷うところです。

  • 三浦

    というか、現状でも、この作品は長い物語の序章という感じですよね。たぶんこの後エーリヒは、シャティエルと共に中立組織に加わるのでしょう。名家の生まれであるというくびきから放たれ、「戦争を終わらせるための戦い」に身を投じていくのかなと思います。そしてたぶん、いろいろ活躍していく中で、シャティエルを守るために命を落とすのでしょう。で、シャティエルは修道女シスター・ローラとなり、エーリヒの魂と共に生きていく――みたいな展開になるのではと、勝手に想像しています(笑)。長編化する構想がおありのようですから、チャレンジしてみるのもアリだと思います。

  • 編集B

    つい想像が膨らみますよね(笑)。それはやはり、作品の設定に、読者を引き込む魅力があるからだと思います。

  • 編集F

    名門の出である青年軍人と、特殊能力を持つ可憐な少女との、戦場を駆ける恋。シチュエーションの萌え度は、申し分なく高いですね。

  • 三浦

    ただ、恋愛を大きな要素にする作品なら、ヒーローはもうちょっとかっこよく描いたほうがいい気がします。本作の中で、エーリヒは実は大して活躍していないですよね。ピュアな心を持った紳士的な人物であるのはいいし、いろいろ苦悩を抱えているのも分かるのですが、結局これといった行動は取っていない。終盤の脱走直前のシーンだって、主人公ではなくシャティエルの見せ場になってますよね。このまま、女の子に誘われて中立組織へ行くという展開になるとしたら、主人公としてはやや流され過ぎのような気がする。

  • 編集F

    こういう話なら、男性主人公にはもう少しかっこよく活躍してほしかった。「素敵……!」と思える人物じゃないと、このあと恋愛展開になったとしても、読者がのめり込めませんよね。

  • 三浦

    あと、13枚目でエーリヒは、シャティエルの声を聴いて「甲高い女のそれとは違う、穏やかで、滑らかな声」と言っていますね。これだとエーリヒは、「女の声は甲高くて不快だ」と日頃から思っている人物のように感じられてしまいます。女性読者としては、引っかかりを感じる表現です。シャティエルについて「18歳で初潮を迎えたのか」みたいに考えているシーンも、ちょっとどうかと思います。他人のそんなプライベートな部分をどうこう考えるって、男女を問わず無礼だし、率直に言ってキモくないですか? エーリヒよ、きみはこの作品のヒーローなんだから、その思考回路はやめていただきたい、と思ってしまいました。シャティエルの辛い境遇を表現するためなら、もっとべつのエピソードがあったのではないでしょうか。

  • 編集D

    「初潮を迎えた後に能力が発現する」という設定自体、この話において特に必要だとは思えませんでした。これはやめたほうがいいんじゃないかな。

  • 編集F

    台詞の最後に「、」がついていたり、語尾が「ッ」とカタカナ遣いになっているのも、ちょっと気になります。その台詞のニュアンスを表現しているんだろうなとは思うのですが、なんだか洗練されていないように感じます。

  • 編集E

    読者が受ける印象というものについて、もう少し意識的になったほうがいいかなという気がしますね。

  • 三浦

    ただ、基本的な設定は、本当に魅力的だと思います。引っかかる点は色々ありつつも、心惹かれるものがありますよね。ロマンティックな感じとか。

  • 編集B

    作者が、自らも楽しみながらこの作品世界を描いているのは、すごく伝わってきましたよね。そこはとてもよかったと思います。自分も楽しみつつ、読者も楽しませようとしている。

  • 編集E

    萌えのある作風なのはとてもいい。それを存分に活かすためにも、設定とか世界観は、もう少しきっちり構築したほうがいいですね。

  • 編集B

    割合書き慣れているのかなという印象も受けるので、今回指摘されたことを意識するだけでも、格段にレベルアップされるのではと思います。頑張ってほしいですね。

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