編集A
父子家庭で「母親」という存在に触れることなく育った主人公と、主人公と同い年の娘を病気で亡くしたばかりの女性。全く他人の二人が、ほんの数時間を一緒に過ごし、別れる寸前に、本物の親子ほどの濃密さでつかの間心が触れ合う。一瞬の気持ちの揺らぎが、みるみるエモーショナルな高まりへと発展していくクライマックスの描写は見事でした。二人の気持ちの盛り上がりが感動的に描けている、とてもいい作品だと思います。私はイチ推しにしました。話のほとんどが、二人が会っている数時間のなんでもないようなやり取りと、主人公のわずかな回想で占められているのですが、その淡々とした描写の中から、二人の過去や思い、人となりみたいなものが浮かび上がってきて、とても小説らしい作品に仕上がっていたと思います。