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選評付き 短編小説新人賞 選評

コールドスクール

古野蛍

29

  • 編集D

    廃墟・オカルトマニアの青年が主人公です。廃墟レポートを作るべく、今日も、廃校となったとある小学校へと入り込んだところ、幽霊らしき少女と遭遇し、驚きつつも興味をそそられます。ただ、彼女は実は人間のようでもあり――と、ストーリー自体には、心惹かれる面白さがありました。ただ、よくわからないところも多かった。そもそも、主人公が何をしている人なのか、はっきりしない。「研究室」にいて「工学」をやっているらしいから研究者なのだろうとは思うのですが、「教授」の下にいるらしいから大学生・大学院生の可能性もあるし、「研究室の同僚」と言っているから「企業勤めの研究員だろうか?」とも思ったり。

  • 編集A

    廃校で出会った少女に関しても、実はよく分からないです。登場したとき「小学生くらいの女の子」と書かれているので、私は最初、小学1・2年生くらいの子をイメージしていたのですが、読み終わるころには「高学年かも?」と思い直しました。ちゃんとした受け答えができているし、礼儀正しいですよね。でもこれは、あくまで想像です。年齢も学年もはっきり書かれてはいないので。

  • 編集D

    女の子の年齢も、主人公の年齢も分からない。だから、二人の年齢差もわからない。二十歳の青年と小学6年生の女の子なのか、それとも三十歳の男性と小1の女の子なのか。そういうことによっても、この話は違ってきます。

  • 編集G

    設定とか背景とかっていう、ごく基本的な情報が盛り込まれていないですね。

  • 編集D

    話の舞台は「何らかの理由で廃校になった小学校」なのですが、「数年前に大きな地震があったから、その影響で廃校になった可能性が高い」ことが、ちらりと語られています。ただ、この設定は引っかかる。建て直しも補強工事もせず廃校にするということは、修復を諦めざるを得ないほどの甚大な損壊が生じたということですよね。災害時の避難先に指定されていた小学校が修復不能なほどの被害を被っているのですから、相当な規模の地震だったと考えられます。なら、周囲の住宅地なども、深刻な被害を受けているはず。むしろその周囲一帯が避難指示区域になっていてもおかしくないと思う。でも作品からは、その辺りの状況が全くうかがえません。この小学校がどんな場所にあって、周囲はどんな雰囲気なのかということが、全くイメージできない。結局、本当に地震のせいで廃校になったのかどうかすらも明確にされていませんでした。基本的な設定が曖昧なままなのは、すごく気になります。作品舞台がぼやっとしていて、読者が話の中に入り込めない。

  • 編集G

    それに、管理が行き届いていない廃校、しかも大きな地震によって被害を受けた建物なんて、すごく危険ですよね。映画の撮影とかならまだしも、趣味目的の一個人に立ち入り許可なんて下りないと思います。

  • 編集A

    この主人公は過去にも様々な廃墟を訪れ、その度「許可はもちろん取っている」らしいのですが、どうしても「本当に?」という疑問が浮かんでしまう。正直、ちょっと言い訳くさい感じがあるというか、読者の突っ込みを回避するために入れた説明のようにも思えてしまいます。

  • 編集D

    そもそも廃墟って、管理者がいないからこそ廃墟になっていることも多いですから、許可なんてそう簡単に取れるものではないと思います。あと、この女の子が「小学校に通っていなかった」というのも考えにくい。義務教育なのですから、行政などから何らかの介入があったはずじゃないかな。ちょっといろいろ、現実味が感じられないところがありました。

  • 編集F

    地震がいつあって、いつ廃校になって、みたいな時間経過もよくわからなかったですね。虐待が始まったのが、その時間軸のどこに位置するのかもわからない。

  • 編集D

    3枚目の机の落書きの「とても口では言えないような内容」って、一体なんと書いてあったのかな? 読者が「そこをこそ知りたいのに」と思うところを書いていないのは、ちょっと不親切だなという気がする。

  • 編集H

    私はラストシーンに、意味が読み取れない箇所がありました。26枚目の「ギリギリ偽装できたかな」というのは、何を「偽装」したのでしょうか?

  • 編集G

    幽霊設定のことではないでしょうか。女の子が今日のことを引きずらないよう、「また会えますか」という問いに、「生きてればね」と含みのある返事をして、消えるようにスッと立ち去った。二度と会わなければ、「あの人は幽霊だったのか」と思って、忘れてくれるかもしれないから。

  • 編集A

    でも、人間だってことはもうバレてますよね。その前のところで、「おにいさん……幽霊じゃなかったんですね」「ああ、ごめんね」とある。

  • 三浦

    私はこのラストは、女の子が手を振ったので思わず自分も振り返したんだけど、「いや、こんな行動はクールな俺には似合わない」と思い直して、タクシーに手を挙げたことに「ギリギリ偽装」したのかなと思いました。主人公、ちょっとかっこつけちゃった(笑)。

  • 編集E

    なるほど(笑)。なんにせよ、いろいろ説明不足なところが目につきますね。

  • 編集D

    全体に、ふんわりしたイメージだけで書いているような印象があります。設定がきちんと詰められていなくて、曖昧なまま押し通している。せっかく面白くなりそうな話だったのに、あまり練り込まれていないのはすごく残念でした。

  • 編集A

    ところで、10枚目の「三十年経つと(魔法使いに)なれるよ」というのは、「三十歳を過ぎても童貞だと魔法使いになれる」という、いわゆるオタクネタを下敷きにした言葉だと解釈していいのでしょうか?

  • 編集D

    そうでしょうね。ただ、これは書くべきではなかったと思います。小学生の女の子と会話している場面の中に、明確な単語こそ出していないものの、童貞がどうのなんていうネタ話を盛り込まれても、読み手側としてはちょっと笑えないです。

  • 編集A

    それに、このネタを知ってる読者ばかりでもないしね。知らない人にとっては意味不明な文章になってしまう。

  • 編集D

    主人公は、「(小学生の女の子と二人きりでいたら)自動的に俺が吊るし上げられる」「社会的に死ぬ」とか言っていて、しかもこの後実際に逮捕されたらしいですが、これもよくわからない。何も悪いことはやっていないどころか、むしろ女の子を助けた善意の市民なのに、事情聴取もせずに「とりあえず逮捕」なんてこと、ありえないですよね。どうも作者の認識の中では、「大人の男が幼い女の子と一緒にいたら、それだけで犯罪」となっている節があって、不可解でした。

  • 編集A

    「俺はロリコンじゃない」「そういう変態嗜好は持ってない」みたいなことが作中に何度も出てきますが、あまりに繰り返されると、逆に気になってしまう(笑)。こういう辺りも、なんだか言い訳くさいなと感じます。

  • 編集G

    まあ、この作品からは「幼女萌え」が全く感じられないので、主人公がそういう性癖でないのは了承できるのですが。

  • 編集A

    そうですね。性的な匂いは一切しませんね。

  • 編集D

    作者は、単に読者を楽しませようとして、オタクネタみたいなものをちょいちょい盛り込んでいるのかもしれない。でも、そういうのを「面白い」と思う読者ばかりではないですからね。

  • 編集E

    「青年と少女」という取り合わせで書いちゃったから、「でも、ロリコンじゃないからね!」とけん制しておきたくなったんだろうね。

  • 編集G

    「幼女」を話に出すからには、「YES!ロリータ NO!タッチ」だと伝えておかなきゃ、って思ったのでしょうね。

  • 三浦

    なんですか? それ。

  • 編集A

    ロリータ界での、紳士の掟とでも言えばいいのかな。「少女たちを愛でるのは空想の中だけにとどめ、実際に手を出したりはしません」という意味合いの、標語みたいなものです。

  • 編集D

    やはり、どうも全体に、オタクネタ方向に引っ張られ過ぎだと感じますね。そのあたりの自覚は持ってほしい。一般の読者がこの話を読んだとき、どういう印象を受けるかということを、もうちょっと客観的に見られるようになってほしいです。

  • 三浦

    そうですね。私はさほど引っかかることなく読んだのですが、もしこの作品がオタクネタのお約束パターンみたいなものに則って書かれているのだとしたら、そういう書き方は控えめにしたほうがいいと思います。自分が書きたいと思った話にふさわしいテイストの書き方をしたほうがいい。私はこの作品は、べつにオタク受けを狙っているとかではなく、青年と少女の心の交流を描こうとしているのだと思って読みましたし、そういう話として充分に味わえました。

  • 編集G

    私も、本来はそういう話なんだろうなと思います。でも、オタクネタを入れ込み、「俺違うから。変態じゃないから」みたいなことを主人公に何度も言わせたせいで、話の本筋が見えづらくなってしまっている。青年と女の子の交流を描きたいなら、それを普通に書けばいいだけだったのにと思います。そんなに先回りして言い訳しなくたって、「幼女と青年の組み合わせで話を書いたら、すべからくロリ」だなんて、ほとんどの読者は思わないです。

  • 三浦

    否定することで逆に、そういう要素ばかりが印象に残って、物語の本来の姿が読者に伝わらないのは、すごくもったいないですよね。

  • 編集A

    また、結局「虐待」の話にして終わっているのは、かなり引っかかりました。「両親が死んで、少女は施設に行くことになった。彼女は虐待から解放されたのだ」みたいな、一応の解決がついたかのような終わり方になっているけど、これって実は全然「めでたしめでたし」なんかじゃないですよね。彼女はこの先、相当ハードな人生を送ることになるだろうと思うのですが、その辺りに関して主人公も作者も、あまり思いを馳せられていないように見える。「母親が夫を殺して自殺していた」という展開も、キャラをすごく記号的に扱っている印象です。「虐待問題」に簡単にケリをつけるために、「両親とも死んだ」ことにしたように見えてしまった。

  • 編集G

    話をまとめるために、作者が「この両親には死んでもらおう」と考えた感じですよね。どうしても、「頭の中で創った話」という印象を受ける。

  • 編集F

    この女の子の将来を本気で考えたら、依然「よかったね」とは言い難い状況のままですよね。なのにこの話は、「俺が救出した女の子は、今後、少なくとも今までよりは幸せに生きていくのだろう」みたいな雰囲気で終わっている。そこがすごく引っかかりました。

  • 編集I

    わかります。主人公にとっては、「俺が女の子を救った」と思えて気持ちがいいというか、何かしらの充実感がある展開ですよね。もちろん主人公は、決して「俺が救ってやったんだ」なんて傲慢なことは思っていない。基本的に、優しくて思いやりのある好青年だと思います。でも、この作品が「主人公のヒーロー願望が満たされる話」であるという印象もまた、拭い難い。この女の子が、同情心をそそるいたいけな少女として描かれているのも、その一因だと思います。虐待を受けている子供って、実は傍から見たとき、「かわいそうに」と思える姿はしていないことが多いと聞きます。愛情を受け慣れていないせいで、こちらが手を差し伸べても、反応を示さなかったり、むしろ可愛げのない嫌な態度を取ったり。助けを求めている人というのは、必ずしも理想的な弱者の姿をしているわけではない。そこがまた、こういう問題の難しさでもあるんです。でも、この話に出てくる女の子は、誰が見ても「助けてあげたい」と思える存在ですよね。こういう「愛らしい少女」という描き方もまた、記号的だと思います。「傷ついたか弱い少女を、俺が救った」という、主人公にとって都合のいい話になっているようにも感じられて、引っかかりました。

  • 編集F

    「可哀想な女の子を助ける俺」という、ポエミーな書き方は気になりますよね。「虐待」という非常に深刻な要素が、物語を描くための都合のいい装置として使われている気がする。作者にそんなつもりはないのでしょうが、読者にそう受け取られてしまいかねない書き方は避けたほうがいいと思います。

  • 編集A

    「虐待」を話に盛り込むことがいけないのではなく、描き方や扱い方に細心の注意が必要だということですね。

  • 三浦

    そうですね。それに、せっかく、心優しい青年が傷ついた少女を救うという、とても希望の持てる話を描いているというのに、現状では読者があまり心を揺さぶられない。それは、主人公の心自体が、あまり動いていないように見えるせいだと思います。この主人公には、ちょっとかっこつけ感がありますよね。もう少し動揺したり焦ったり、彼の心が動いたところを率直に描いてもいいんじゃないかな。彼は本当はこの女の子のことがすごく心配で、何とか力になってあげたいと真剣に考えていると思うんだけど、今の描き方ではそれがうまく伝わってこない。少女が虐待されていると気づいても、「うわあ、大変だ! ど、どうしよう~~」とうろたえたりすることもなく、「おっと、これはおそらく虐待だぞ。さあて、俺はどう対処すべきか」みたいに、なんだかスカした対応を取っている。そのせいで、「虐待」が単なる話のネタに見えたり、人物たちが記号っぽく配置されているように見えるんだと思います。非常に損をしてますよね。文章自体は書き慣れている感じで悪くないと思うのですが、この語り口は題材に合っていない気がする。会話や行動を通して二人の心の交流はそれなりに描けているのですが、主人公に格好をつけさせているがために、彼の心の動きが伝わってきにくい、という難点があります。もちろん、あえてちょっとスカしてみせようとする、含羞のある性格の主人公なのだ、ということはわかりますが。

  • 編集A

    実際私は、主人公の心がそれほど動いているようには思えなかったです。それは、作者自身の心が、まだあまり動いていないせいではないかとも感じます。

  • 編集G

    同感です。これは「主人公=作者」タイプの作品だと思うのですが、先の展開を作者が知っているがゆえに、キャラクターの心もあまり揺れ動かない。すべてが通り一遍の出来事として流れていっている感じです。いろいろな点で説明不足なのも、「作者はわかっているから書かなかった」ということかなと思います。もう少し、未来など知る由もないキャラクター一人一人の立場まで降りていって、彼らの心の動きを直に感じながら描いてほしい。

  • 編集A

    それに考えてみたら、この主人公って、特別何をしたわけでもないですよね。幼い家出少女と偶然出会ったので、食べ物をあげて、警察に電話しただけ。活躍したというほどのことではない。

  • 三浦

    実際に取る行動は、それだけでもいいと思うんです。でも、人物の心の動きは、もっと描けたはずだと思います。それこそが、小説の強みですよね。表面に現れるドラマが少なかったとしても、内面の衝撃とか気持ちの変化とかってことを、すごく描きやすいジャンルだと思うんです。「少女と出会い、通報する」というストーリーラインはそのままでも、そこに至るまでの人物の心の動きをもっと描くことはできますよね。それができていれば、読者の想像や共感といったものを、もっと呼び寄せることができたはずだと思います。

  • 編集A

    すごく基本的なことですが、やはり登場人物の立場に立って考える、登場人物になりきる、ということですよね。

  • 編集E

    書き方しだいでは、もっと心に沁みる話になった素材だと思うのに、もったいなかったですね。

  • 編集I

    出会うはずのなかった二人が出会い、いっとき心が交わることで、その後の未来が変わっていくという、すごくいいお話ですよね。その構図自体はとてもよかったと思います。

  • 三浦

    はい。そして、その構図を活かすためには、どんなふうに描けば一番効果的かということを、もう少し考えてから書くといいかもしれませんね。この作者だったら、それができると思います。文章とかは、ほんとによかった。出会った当初、二人共が相手のことを「幽霊かな? そうじゃないのかな?」と思って探り合う、駆け引きみたいなやり取りのハラハラ感とか、すごくうまく書けていましたよね。

  • 編集D

    だからこそ、自分が何を書きたいのかということに、もう一度しっかりと向き合ってほしい。そこが定まれば、変にウケ狙いに走ったりせず、設定もきちんと整えて話を作ろうという方向に、自然に向かうだろうと思います。

  • 編集A

    話自体は、私は面白く読みました。文章も悪くないし、基礎力は十分お持ちだと思います。今後もぜひがんばってほしいですね。

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