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選評付き 短編小説新人賞 選評

年上のクラスメイト

小嶋優美子

36

  • 編集D

    定時制高校に通う16歳の女の子・美月が主人公です。ある日、6歳年上のクラスメイト・滝さんに呼び出され、「もしかして告白!?」などと思っていたら、彼の口から出た言葉は「弟子にしてください」。どうやら、コミュニケーション能力の低い彼にとって、年下とはいえ、明るくて社交的な主人公は「尊敬する人」であるらしい。勇気を振り絞って頼んできている様子にほだされ、ついOKしたものの、実は主人公のほうも人付き合いには問題を抱えていて――というお話です。
    初めのうち主人公は、「滝さんが変われるよう、力を貸してあげなきゃ」と思って世話を焼いていたのですが、彼と関わるうちに、次第に美月自身にも変化が生じてくる。へらへらと八方美人でいることができなくなり、父親と派手に衝突したりしますが、同時に、今まで見ないふりをしていた自分の本心とも向き合うようになります。登場人物たちが、互いに関わり合うことによって、それぞれ前向きに変化していくという、真っ当で気持ちのいい作品に仕上がっていました。
    キャラたちに嫌味がないし、描写もきちんとしているし、展開が中だるみすることもない。話としてすごくうまくまとまっていますよね。総合評価が高いという点で、僕はイチ推しにしました。まあ多少、無難にまとまりすぎかなという気がしないでもないのですが。予定調和的というか。

  • 編集J

    私はそこがいいと思いました。このまとまりの良さは十分魅力的だと思います。とても読後感のいいお話で、私もイチ推しにしています。すごく読みやすいし、話にも入り込みやすかったです。

  • 三浦

    マンガ的な魅力もありますよね。この作品は、ラブコメっぽい少女マンガの文法を、意図的になぞる形で描いているのだと思います。例えば11枚目に、主人公が「髪型変えようよ」みたいに言って滝さんに手を伸ばし、何げなく彼の前髪を上げてみたら、意外にイケメンだったので、至近距離で見つめ合いながらドキッとする、なんて、すごくベタなシーンがありますよね。こういうのも作者は、わかっていてわざとやっているんだろうと思います。

  • 編集A

    冒頭の、「16歳のあたし」という古典的な自己紹介も、あえてこういう書き方をしているのでしょうね。

  • 三浦

    ただ、その少し後の「授業おわったら少しだけ話を下さい」というところに関しては、わざとかどうかわからなかった。

  • 編集D

    正しくは「話を聞いて下さい」ですね。

  • 編集A

    もしくは、「時間を下さい」か。

  • 三浦

    滝君のテンパっている感じが出ているので、いいなとは思うのですが、意図的な演出なのか単なる推敲不足なのか……。まあ、もし意図的なのだとしたら、主人公に内心でひと言ツッコミを入れさせるはずでしょうから、たぶん推敲不足ですよね。気をつけましょう。でも、この作者には会話のセンスがあるように感じます。やりとりが面白いし、ポンポンとテンポよく読めました。確かに、ちょっとご都合主義的な展開だと感じなくはないし、主人公も少しいい子過ぎるかなとは思うのですが、「なによ、いい子ぶっちゃって」とまでは感じないですよね。全体的に嫌味なく、いい塩梅で描けていたと思います。

  • 編集D

    ただ10枚目の、「付き合ってくれませんか?」でドキッとさせておいて、「散髪と買い物に」でオトすというところ。テンプレ通りの引っかけ方なのはいいのですが、「付き合ってくれませんか」を二度言わせると、滝さんが引っかけ効果を狙ってわざとその言葉を選んだようにも見えてしまう。ここは「散髪と買い物に行きたいんです」と別の言葉を使わせ、主人公が「あ、そういう意味の〝付き合って〟か。一瞬誤解しちゃった」みたいに思うほうがいいと思います。

  • 三浦

    なるほど。細かいテクニックですね(笑)。確かに、少女マンガ的ラブコメの雰囲気に読者を上手に乗せるためには、演出の仕方に細かい目配りが必要です。今はまだちょっと、それがうまくできていないところがありますね。

  • 編集G

    私は、ご都合主義的な点に関しては、けっこう引っかかりを感じました。するする読めていいなとは思いつつも、乗り切れないところがあった。特に、恋愛感が生じる展開は急すぎると思います。パッと視界が開けるように突然恋に落ちるということは、もちろんあることだとは思うのですが、それにしてもこの話は終盤で急激に「恋愛」にシフトしていて、私はちょっとついていけなかった。もう少し段階を踏んで恋愛展開にしてほしかったなと思います。

  • 編集A

    でも、冒頭で「告白されるかも」と思ってるところから、すでに恋愛感は匂わされていたんじゃない? ほんのわずかではあっても。

  • 編集G

    ちょっと意識したり好きになり始めたりする程度ならわかるのですが、23枚目あたりから急に「好きだ好きだ好きなんだ!」って感じに、主人公の気持ちがグワーッと盛り上がってますよね。読んでいてちょっとびっくりしてしまった。

  • 編集D

    急激なテンションアップについていけなくなったんですね。

  • 編集G

    はい。主人公が急に「好きーっ!」って突っ走って行っちゃったので、置いてきぼりを食った感じでした。主人公が彼を好きになること自体は理解できるんだけど、それまでさほど「恋」という感じはなかったのに、いきなり家を飛び出して泣きながら彼の元へと走る、みたいなドラマチックな展開になるのは、ちょっとやりすぎかなと。

  • 三浦

    あの、実は私もかなりテンションが乱高下するタイプなので(笑)、この主人公の感じは、すごくよくわかります。たぶん主人公は、今まであんまり親に激しく言い返したりしたことがなかったんじゃないかな。いえ、私から見ると、このくらいの言い合いは全然激しいうちには入らないんですけどね(笑)。でも主人公は今まで、誰に対してもニコニコいい顔をして、嫌なことを言われてもへらっと聞き流して、波風立てないで暮らしてきたわけですよね。そういう主人公が、はじめて親と言い争いをしたので、そのことで本人もテンションがすごく上がってるんだと思います。で、今まで親に反抗したことなかったのに、なんで今回ここまで言い返しちゃったんだろうって考えたとき、「はっ、あたし好きなんだ、彼のこと!」って、雷に打たれたように気づいたというか、本人的に得心がいったということじゃないかな。だから私は、こういう急激な展開も、まああることだろうと思いました。

  • 編集E

    30枚で「恋に落ちました」という話を作るために、こういうエピソードを持ってきたことについては、私はむしろうまいと思います。実際、好きになりかけている人のことを親に悪く言われたりしたら、思わず「悪くないもん!」ってかばいたくなりますから。急激に気持ちが傾いてしまう。

  • 三浦

    しかも、その突発的な「私、彼が好きなんだわ!」っていうテンションがずっと続くのかというとそうではなく、やがてまたしゅんと小さくなって「……お友達にして下さい……」って言うのが精一杯になっている。こういうあたりは、けっこうリアルだと思います。緩急のメリハリがついていて、いいなと思いました。

  • 編集A

    私は、恋愛展開に関しては気にならなかったんだけど、そもそもこの主人公が「定時制に通っている」という設定が、作者都合のように思えて引っかかりました。定時制を選んだ理由を、主人公は「あれが嫌で、これも嫌で、残ったのが定時制だった」みたいに説明していますね。でも、ごく普通の中学生が、「あっちの高校は遠いから。こっちの高校は苦手な子が行くから」なんて理由で、定時制を選ぶとは考えにくい。全日制か定時制かというのは、人生を左右しかねない大きな選択だと思います。主人公のお父さんは、かなり高圧的で学歴偏重傾向がある人のようですから、「あれ嫌これ嫌」なんてわがままな理由で定時制を選ぶことを許すとはとても思えない。しかも主人公は、周囲と軋轢を起こしたくないタイプなんですよね。ならなおさら、父親に言われるまま、本当は行きたくなかった私立高にでも仕方なく進学したはずじゃないかな。「苦手な子が受験するから、通信制に行くのはやめた」というのも納得できなかった。だって通信制なんだから、ほとんど会わないですよね。その子がそこへ進学するとも限らないし。受験の段階で選択肢から外す理由としては弱すぎます。

  • 編集F

    いや、このお父さん、厳しいんでしょうか? 私はむしろ、娘を甘やかしてるように感じましたけど。定時制への進学も、一旦は「まあ、とりあえずそれでいいよ」って許しておいて、後から「そろそろ、全日制への編入も考えたほうがいいぞ。お父さん、力になるぞ」って言ってきているということかなと思ったのですが。

  • 三浦

    私もそういうふうに読みました。この両親は甘いですよね。今だって、バイトくらいしろとせっつくこともなく、何度捨てられても高校のパンフレットをもらってきたりしている。主人公は単に、勉強しないでダラダラしているうちに、定時制しか選択肢がなくなってしまったのでは?

  • 編集A

    でもそれならなおさら、この弁護士のお父さんはもっと早くから、成績の奮わない娘の進路について準備を整えていそうですよね。私にはどうにもこのお父さんが、定時制の願書にサインしそうに思えない。むしろ「許さーん!」って破り捨てそう。

  • 編集G

    お父さんの描き方がブレているんですよね。すごく口うるさくて厳しいことを言っている一方で、一旦は定時制に通うことを許可してるわけだし。「全日制へ行け」としつこく言っていた割に、たった45分の家出で、服飾関係への進学を応援してくれるようになっているし。厳しいのか甘いのか、よくわからない。

  • 編集A

    主人公の描き方もブレていると思います。人の言いなりで流されて生きているはずなのに、父親の反対を押し切って定時制に進学している。「八方美人のいい子。自分の気持ちを押さえてごまかしている」という設定の割に、親の説教を聞き流したりパンフレットを即捨てしたり、ごく普通の女子高生にも見える。こういう矛盾が生じているのは、この話が「後付け方式」で作られているせいなのではと感じます。「年上のクラスメイト」を登場させたいから話の舞台を定時制高校に設定し、その後で進学に至る経緯を考えた。主人公には最終的にスタイリストを目指させるから、そのきっかけ作りとしてモッサリした人物を登場させ、その人をおしゃれに変身させるという展開にした――というように、結末から逆算して話や設定を作っているように思えます。だから、後から肉付けした部分に、つじつまが合わないところがちらほら生じてしまったんじゃないかな。そのせいもあって、ちょっと作り物っぽいところがあるというか、物語自体はまとまっていても、「予定調和的で、インパクトに乏しい」と感じられるのかなと思います。

  • 三浦

    なるほど。小説を書くための計画表が透けて見えてしまって、ちょっと人工的に感じられるということですね。小説なのですから、色々考えて書くということ自体は、全然悪いことではないです。でもそれが、「いかにも作ったという感じだな」という印象を読者に与えてしまうようだと、作品のパンチ力は落ちてしまう。

  • 編集G

    話を型通りに作りすぎたということでしょうか?

  • 三浦

    いえ、むしろ、型をうまく使えていないということだと思います。こういう「何か事件が起こり、それを経て主人公がちょっと成長した」というパターンの話を描く場合、主人公の前に立ちふさがる障害物を、もっとはっきり示す必要があると思います。障害物を乗り越えるからこそ、成長できるわけですからね。本作において、その障害物役はお父さんになると思いますが、主人公の前に立ちふさがる存在というには、このお父さんには甘いところが多い。

  • 編集D

    描き方が中途半端だから、ハラハラ感がないんですよね。「こんなにも厳しいお父さんが相手で、果たして主人公は勝てるの?」という不安感を読者が持てない。小説だから、最終的に主人公が勝つことは分かっているんだけど、そこへ至るまで読者を本気で心配させないと、エンタメにならないです。

  • 三浦

    パンチが足りないもう一つの理由は、この作品に実感があまりないことから来るのかもしれません。登場人物たちがこの世界で確かに生きているという感じを、うまく出しきれていない気がします。それは物語の型をうまく踏まえられていないということでもある。型がうまく機能していれば、型の力を借りて登場人物が生き生きと命を吹きこまれる、ということも起こり得ますからね。
    例えば17枚目に、トイレで「クラスメイトの女子が話しかけてきた」シーンがありますね。でも、その子の名前は書かれていない。こういうのはすごく引っかかります。そのクラスメイトだって、この作品世界で確かに生きている人間のはずなのに。もちろん、キャラクターにただ名前をつければそれでいいということではないです。でも、各人を真の意味で生きたキャラクターとして描くことができていたら、名前すら出てこないなんてことは、本来起こらないだろうと思います。現状ではどうしても、キャラクターに書き割り感が生じてしまっている。

  • 編集G

    現実感がないんですよね。主人公が通っているのが定時制であることも、実感として伝わってこない。このトイレの会話場面での二人は、ごく普通の女子高生同士のように見えます。例えばこのクラスメイトを、主人公より年上の水商売らしき女性として描いたりしていれば、また違ったと思うのですが。

  • 編集D

    派手な化粧をしながら「これから出勤なの」と言うとかね。それなら、定時制らしい雰囲気が伝わってきたと思います。二十代のフリーターも、四十代の主婦も、定年間際の会社員も、みんな等しく「生徒」であるという定時制高校らしい空気感というものを、もっと出してほしかったですね。現状では、主人公と滝さんだけの、二人の空間しか描かれていないから、「定時制」という要素が記号化してしまっている。

  • 三浦

    「定時制にはいろんな人が通ってるから、みんな他人のことをそんなに気にしないよ」みたいな台詞もあるにはあるのですが、まだ言葉だけの段階にとどまっている感じです。空気感を醸し出すところまでは行けていないですね。

  • 編集A

    滝さんにも、あまり年上感がないですよね。主人公とそう変わらない年齢に思える。

  • 編集D

    これ、無理に「定時制」にしなくても、普通の全日制の高校に、ちょっと年上の滝さんが入ってくる、という設定でも書けたのではと思います。そのほうが、いろいろな齟齬が生じにくかっただろうし。

  • 編集I

    滝さんの設定や描き方にも、私は引っかかりを感じました。滝さんは、とても素敵な人だと私には思えます。確かにちょっと気弱で自信なさげだけど、内面はすごくピュアだし、お父さんのことをとても大事にしているし、前髪あげたらイケメンだったりするんですよね。むしろ非常に魅力的な男性だと思う。なのに、こんな人が「人とうまく付き合えなくて」「いじめに遭って、高校は不登校でした」、というのが、どうにもピンとこなかった。

  • 編集E

    「陰キャラで、コミュ力なくて」みたいに言ってるけど、主人公とごく普通に会話してますよね。礼儀正しいし、気配りもちゃんとできている。思いやりのある優しい人だなと感じます。コミュニケーション能力が低いとは全く感じない。本当に「暗くて気持ち悪い奴」だったら、服装や髪形を変えたくらいで人付き合いの問題が解消したりはしないですよね。

  • 編集I

    「気持ち悪がられる」とか「コミュ下手」とかって設定にはなっていますが、描写からはそれが感じられない。単に、キャラ付けのための「そういう設定」であるように思えます。私から見て滝さんは、全然キモ男なんかじゃないです。むしろ私は、もしこんな人が現実にいるなら、ぜひ付き合いたいくらい(笑)。

  • 編集A

    私も(笑)。それも、変身前の滝さんで充分です。モサくて、「アメリカ」のTシャツ着てる滝さんで、全然OKなんだけど。

  • 編集G

    どうも、設定と描写が乖離していて、作品の足を引っ張っているところが多いように感じます。そのせいで、疑問を感じたり、読み手によって受け取る印象がまちまちになったりするところがある。

  • 編集D

    それに、それなりにまとまってはいるんだけど、ちょっと無難な出来上がりかなという印象もやはり拭えない。もう少しひねりとかプラスアルファとか、何か尖った部分があったなら、記憶に残る作品としてさらに評価が上がったと思います。まとまりも引っかかりも両方ほしいというのは、高度な要求ではあるんですけど。

  • 三浦

    とはいえ、すごく考えて作っていることが窺えるのはとてもいいし、実際、悪い仕上がりではないです。等身大の女子高生が、他者と出会ってちょっとだけ精神的に大人になりましたという話が、ちゃんと描けていました。そこはすごくよかったです。

  • 編集G

    設定や構成をいろいろ考えながら書いているところには、作者の創作に対する誠意が感じられて、とてもいいですよね。指摘された点を意識しながら、描写の仕方や整合性のつけ方などに配慮すれば、さらに完成度の高い作品が書けるだろうと思います。

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