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選評付き 短編小説新人賞 選評

人食いキャンパス

平 成

29

  • 編集A

    ミステリー作品、なのでしょうね。わずかにホラーテイストもある。「何が起こるんだろう?」「どういう真相なんだろう?」と、終始興味を惹かれながら読めました。今回の候補作の中で、単純に一番「面白い」と思えたので、私はイチ推しにしています。正直読み始めたときは、主人公に関することがさっぱり分からないので、「登場人物のことをもう少し描写なり説明なりすべきでは?」と思ったのですが、最後まで読むと、「わざと描写しなかったのかな」という風にも感じられました。「語り手が犯人」という真相で読者を驚かせるために、あえて主人公の情報を読者に明かさなかったのかなと。

  • 編集B

    確かに、主人公がどういう人なのかは、ほとんどわからないまま話が進みますよね。年齢も性別も、体型も雰囲気も全くわからない。

  • 編集A

    6枚目の「もう三十年前のことだ」というところでようやく、主人公は少なくとも、三十代半ば以上の年齢だなとわかるんです。

  • 編集B

    それでもまだ、すごくアバウトな情報でしかないですよね。さらに読み進んで、12枚目の「被害者と同級生だった」というところで初めて、主人公は四十代後半だと判明する。

  • 編集A

    でも性別は、依然はっきりしないまま。私はずっと、「男性かな」と思いながら読んでいました。ラスト近くの28枚目の「こんなおばさん褒めても、なにも出ませんよ」のところで初めて、「女性だったのか」とわかって、ちょっとびっくりしました。警察の事情聴取に対して、「当時の美術部には、男子は一人しかいない」と言っているところがありますよね。その一人が主人公なのかと思っていたんです。もしこれがミスリードなのだとしたら、私は見事にひっかけられたということですね。

  • 編集C

    あの、私は最初から、主人公は女性だと思っていました。わざと性別を曖昧にしていたのだとしたら、その企みはあまりうまくいっていないのかなと思います。

  • 編集B

    うーん、主人公の性別がはっきりしないのは、作者がわざとやっていることなのかな? そこはちょっとよく分からなかったです。

  • 三浦

    私は意図的なのだろうと思いますね。「男子部員は一人だけ」という情報は、敢えて入れたもののように感じるので。

  • 編集D

    私は、主人公の性別は女性だと思いながら読んだのですが、若い人なのかなと思っていました。生徒との会話が、ですます調で堅苦しいですよね。この先生の、生徒たちへの距離感は、どうもよくわからない。だから、まだ若いがゆえに、生徒に遠慮した物言いになっているのだろうと解釈しました。ところが終盤で四十代後半と判明して、「あれれ?」って思ってしまった。読者がイメージを描きにくい書き方になっているのは気になります。

  • 三浦

    確かに。主人公のことが全く分からないまま話だけがどんどん進んでいくので、ちょっと乗り切れないところもありました。そもそも冒頭の展開も引っかかる。普通、生徒から「私、もうすぐ死ぬと思うんです」なんて言われたりしたら、「なぜ?」なんて冷静な返しをする教師はいないんじゃないかな。もう少し驚いたり詳しく聞きたがったり、というリアクションをするものではないでしょうか。

  • 編集B

    続く「明日美術館に来てほしい」「わかりました」という流れも、すごく事務的ですよね。これでは連絡事項の伝達みたい。「もうすぐ死ぬかも」という要素の深刻さが感じられないです。

  • 三浦

    非常にスピーディーに、サクサクと話が進んでいく。30枚に収めるためなのかもしれませんが、そのサクサク加減に、ちょっと違和感がありますよね。読者の気持ちとして、今ひとつついていけないところがある。

  • 編集B

    引っかかるところは、全編にわたっていろいろありました。そもそも、話の組み立てに無理を感じます。主人公は、教え子の七海さんに請われて美術館に同行し、かつての同級生の遺体を発見するわけですよね。自分から事件現場へ赴いたわけではないから、警察も主人公を疑っていない。絵里ちゃんの遺作を「呪われた絵」に仕立て上げるという企てを、まんまと成功させたわけです。
    でもこれは、主人公があらかじめ計画していた筋書きとは考えにくい。七海さんが美術館に忍び込んだのもたまたまなら、肖像画の人物と七海さんがどことなく似ていたのもたまたま、さらに、相談する相手に主人公を選んだのもたまたまです。でも主人公は、ピンポイントで今年、絵里ちゃんの遺体を発見させるつもりだったんですよね。「三十年後」が絵里ちゃんとの約束だから。だからこそ肖像画の没年に、今年の数字を書き込んで準備していた。でももし、七海さんがたまたま美術館に忍び込まなければ、肖像画の没年に気づかなければ、「自分に似ている」と不安に駆られなければ、そして主人公以外の人物に相談していたとしたら、主人公はいったいどうするつもりだったのでしょう? ストーリー展開が、あまりにも偶然に頼りすぎていると感じます。これではミステリーとして成立しない。

  • 編集E

    同感です。すごく行き当たりばったりな印象ですよね。

  • 編集F

    刑事さんの弁も、微妙におかしい。通報を受けて数分後に駆けつけたばかりなのに、「資料が古くて捜査が難航している」みたいなことを言っていたり。

  • 三浦

    14枚目に、「(この美術館は)七海さんは初めて行った場所なのだ」とありますが、初めてではないですよね。以前忍び込んで肖像画を見ているわけですから、ここは明らかに矛盾しています。あと、美術館には地下室があるということが、ラストで急に判明しますね。それも、自家発電を備えた氷彫刻用のアトリエという、大掛かりなものです。確かに、こんな部屋があれば悪だくみもしやすくなるでしょうけど(笑)、ちょっと作者都合という印象が強いかなと感じます。

  • 編集F

    「こういう真相にしたい」という、結末に合わせる形で話が展開しているから、エピソードに矛盾や無理が生じてしまっているのではないでしょうか。この作品は、「フレッシュな遺体=氷の彫刻(冷凍保存)」という、一発アイディアを元に作られているのかなと思います。いいアイディアを思いついたとき、それを活かす話を考えようとするのは当然のことですが、ラストからただ逆算して話を作ると、展開が作者の設定した一本道だけになってしまう。すると、読者がその一本のルートを頭から辿ったとき、ひどく不自然に感じてしまいます。

  • 編集B

    読んでいて、「こうなる可能性も、ああなる可能性もあるはずなのに、なぜそうならないのか。なんだか展開が都合良すぎる」と思えてしまうんですよね。ミステリーを書くのなら、もう少しいろんな可能性をさりげなく潰しながら、真相へと導いてほしい。
    あと、すごく気になったのは、絵里ちゃんの家系の急激な滅びようです(笑)。ちょっと異常ですよね。なんでこの一族は、こんな急にバタバタ死んでいくのでしょう? あまりに不自然で引っかかります。私はこれ、「実は絵里ちゃんが殺していた」ということかなと思いながら読みました。自分の絵の価値を認めない家族を一人一人殺していって、最後、自分の絵を至高の芸術作品にするために、自らも命を投げ出したということかなと。でも、最後まで読んでも、そういう真相が匂わされている感じは特にない。ということは、この一族滅亡もまた、「単なる偶然」ということなのかな? こういうあたりにも、もう少し何らかの理屈をつけておいてほしかったですね。

  • 編集F

    作者の中には何らかの設定があるのかもしれないけど、それが作品には反映されていませんね。読者が置いてけぼりを食っているところは確かにある。

  • 編集D

    引っかかる点や曖昧な点は本当に多くて、雰囲気小説になってしまっているなと思います。話自体は面白いんだけど、ちょっと書き方が乱暴かなと感じますね。

  • 編集A

    確かに。ただまあ、ホラー風味のミステリー作品なので、細かい部分は、私はそんなには引っかからなかったかな。一族滅亡についても、「まあ、そういうこともあるのかな」と(笑)。

  • 編集B

    あと、ペンネームはもう少しちゃんとしたものにした方がいいように思います。

  • 編集C

    ものすごく適当感が漂ってますよね(笑)。ただ私は、この作品の謎めいた雰囲気は、とても魅力的だと思います。絵画に絡めての殺人事件というのも面白いし、「三十年前の少女の遺体が、なぜか綺麗なままで……」という謎に、ちゃんとトリックが用意されているのもよかった。私はイチ推しにしています。

  • 三浦

    いろいろ引っかかるところはあるのですが、すごくキャッチーな要素が多くて、引き込まれますよね。流氷が逆巻く北の海、という絵をバックに、三十年前に失踪した女子高生が、当時のままの姿で溺死体として発見されるなんて、画面的にも非常にインパクトがあります。

  • 編集A

    まるで、その絵の中の海で、たったいま溺れたかのよう。「えっ、どういうこと!?」って、すごく興味を惹かれました。

  • 三浦

    見せ場みたいなものが、ちゃんと用意されてますよね。

  • 編集A

    ただ私は、このびしょ濡れの少女が死んでいるとは思わなかった。「三十年前に失踪」ということだったので、その子が今まさに見つかったということかなと思いながら読んでいました。そしたらしばらく後に「溺死」と出てきて、そこで初めて「死んでいたのか」と。

  • 編集G

    僕なんて最初、この少女は人形かと思っていました(笑)。ちょっと描き方がうまくいっていなくて、わかりにくいなと感じます。

  • 編集B

    この美術館の様子も、よく分からないですよね。描写をいくら読んでも、映像が浮かんでこない。サイズ感とかもさっぱりわからなかった。

  • 編集G

    「芸術の天才一族が、自分たちの作品の保管のために建てた美術館」というのも、ちょっと無理のある設定のように感じます。もし本当に天才芸術家たちだったのなら、その作品は引く手あまたのはず。自腹で展示場を用意する必要はないんじゃないかな。

  • 三浦

    言われてみれば、確かにそうですね(笑)。

  • 編集H

    本当は、それほど「天才」ではなかったのかもしれませんね(笑)。

  • 編集B

    自己申告の「天才」だったとしたら、ちょっとイタい(笑)。

  • 編集A

    すごく田舎の、芸術好きの一族、みたいなことかもしれませんね。昔ながらの稼業で順調に稼いでいて裕福で、その利益をアマチュアレベルの「芸術」につぎ込んでいる。意外にそういうこと、「実際にあるかも」って思います。

  • 編集F

    本物の天才芸術家一族ではなくて、田舎の素人の芸術好き、みたいなことなのでしょうね。だから、「絵の才能が」とか「芸術的価値が」とか言っていても、実はすごくちっぽけなスケールの話でしかない。でも私は、そこが逆にいいなと思いました。たったそれだけの出発点から殺人にまで発展してしまったというところに、大きなドラマ性を感じました。その一点を高く評価して、イチ推しにしています。

  • 編集B

    ただ、そういうドラマ性は、作者が意図して作ったものではないように思います。確かに、引き込まれてぐいぐい読める作品なのですが、どこまでが書き手の力量によるものなのか、ちょっと見極めきれない。「結果的に、今回たまたまうまく転んだのでは」とも思えてしまいます。文章力も、正直心もとないですよね。冒頭部分だけを見ても、「町外れに、古びた美術館がある」「私は美術の教師をしている」「私は美術準備室で仕事をしていた」みたいに、ほんとにもう、「主語+述語」みたいな文章ばかりで。

  • 編集A

    確かに、書き慣れている感じではないですよね。シンプルな文章だから読みにくいわけではないんだけど、達者とは言えない。

  • 編集B

    ただ、このそっけない文章が、今回の話においてはうまく効果を上げていると言えなくもない。すごくミステリーっぽい雰囲気が醸し出されていますよね。だから、主人公の年齢・性別が分からないとか、口調が妙によそよそしくて不自然だとかっていうところも、この作品においては奇跡的にうまく作用して、作品の面白さを押し上げているのかなと感じます。

  • 三浦

    私は、そういう辺りに関しては、作者が狙ってやっていることかなとも思いましたね。わざわざこういう、説明的な文章を書いているのかなと。

  • 編集B

    計算ずくの書き方だと受け取るには、若干文章には粗が目立ちます。例えば、2枚目で美術館に行くところでも、美術室で生徒と話をしていた次の行で、いきなりポンと場面が移りますよね。一行空きも何もない。ちょっと筆が足らなくて、乱暴すぎるなと感じます。

  • 編集D

    その直前の、「怯えてはいるが、取り乱してはいない。落ち着いている」というのも、誰のことを指しているのか、よく分からない。これは七海さんのこと? それとも、いよいよ計画を実行に移そうとしている、主人公自身の心情なのでしょうか?

  • 編集F

    一人称の地の文を後から読み返してみると、理屈の合わないところがありました。例えば美術館の場面で、「確かこの先には、/一族の肖像画があるのだったか」と言っていますが、そんなこと主人公はよく知っているはずですよね。「釈然としないまま、私たちは肖像画の間を後にした」というのも、犯人である主人公の言葉としてはおかしい。

  • 編集B

    「信用できない語り手」タイプの作品であっても、真相を知った読者が再読したとき、「なるほど、言葉巧みに、うまくだまされていた」と納得できる書き方をする必要があります。

  • 編集E

    あと私は、事件の背景となる登場人物たちの気持ちが、今ひとつ見えてこないのが引っかかりました。30年もの間、氷漬けになった絵里ちゃんを見守り続け、維持管理して、30年後に本当に遺言を実行するなんて、ものすごい執念ですよね。でも、半生を費やしてここまでのことをする動機が、主人公の語りからはちょっと読み取れない。絵里ちゃんにしても、「私は今日死ぬから、30年後にどうかよろしくね」と他人に全てを託すには、相当の覚悟と信頼がいったはず。互いの命と人生をかけて壮大な企てをしているのですから、この二人の強い秘密の絆が、もっと描かれているべきではないかと思います。

  • 編集H

    確かに。なにしろ主人公は、自分の生徒を平気で殺してるくらいですからね。今後も、何人も殺すつもりらしいし。

  • 編集B

    ものすごい執着ですよね。でも、どうしてそこまでするのかってことが、この作品からは見えてこない。

  • 編集E

    そこが読者に伝わるように描けていれば、作品の評価はずっと高くなったと思います。30年もの間、親友だかライバルだかの遺体の番人を務めている主人公、というのは読者として気持ちを惹かれますし、総仕上げに自分の命を捧げてまで「絵を完成させたい」と望んだ絵里のアーティスト魂もすごくかっこいいと思う。

  • 編集F

    わかります。読者の妄想を掻き立てるものがありますよね。

  • 三浦

    30年という年月の長さと、二人の強い結びつきは、考えるとキュンとくるものがありますね。ただやはりそれが、今ひとつ伝わってこない。そこが非常に惜しいです。もう少し、語り口を変えてみてはどうでしょうか。そのほうが、もっとドラマティックな話にできるのではという気がします。ミステリー調の淡々とした文章も、ちょっと人工的でそっけなさすぎるように感じる。主人公の内面を、もっと盛り込んだほうがいいんじゃないかな。最初から、この主人公が犯人で、何かをもくろんでいるということは、一人称の語りの中で明らかにしておくんです。どういう計画なのかまでを詳しく語る必要はないけど、何かすごいことをやらかすつもりでいる、そしてそれは絵里ちゃんの為であるということは、最初から読者に明かしておく。その上で、絵里ちゃんとの関係性がどういうものであるかを語りつつ、現実での企てを着々と進めていく、という描き方もありだったのではと思います。

  • 編集A

    なるほど。それでも十分、引きのある話になりますよね。

  • 三浦

    ずぶ濡れの遺体を発見する場面でも、本当は「ああ絵里ちゃん、三十年ぶり……!」って思ってるんだけど、一緒にいる七海さんの手前、表には出さない。平静なふりをしながら心の中は燃え滾っているとか、そういう描き方のほうが、読者はうっとりできますよね。ミステリー色は薄まってしまいますけど、もう少し抒情に振るというか、「リリカルで美しい殺人」みたいな方向性で描いたほうが、読者の気持ちを強く引き込むことができたかもという気がします。三十枚の短編だと、段取りやトリックを精緻に積み上げるのは難しそうなので、そこを補うために、登場人物の心情にもうちょっとフォーカスした語り口にする方法も検討してみては、ということです。

  • 編集A

    せっかく大きな事件が起こり、そこには深い思いが絡んでいるというのに、現状ではちょっと、感じ入るところまではいけないんですよね。

  • 三浦

    それはやはり、主人公に思い入れしにくい造りになっているからだと思います。作者はわざとそうしているのだと思いますが、ややもったいない感じがします。発想自体はとても面白いので、それをもっと活かす方法を探ってみてもよかったかも、と。いずれにせよ、こういうミステリーをたった30枚で書いたのはすごいです。
    今回は主人公があまり気持ちを明かせない話でしたから、次に短編を書くときは、もっと違うテイストのものにしてみてはどうでしょうか。あるいは、「ミステリーが書きたい」ということであれば、長編でやったほうがいいんじゃないかな。ちゃんとプロットを立てて、「館もの」でも「旧家もの」でもいいから、好きな世界を思いきりぶち込んで描く。この作者なら書けそうな気がします。ぜひ挑戦してみていただきたいですね。

関連サイト

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