編集A
今回、「しまもよう」というお題を設けて投稿作を募ったわけですが、頂いた原稿を読んでいると、いろいろ思うところが出てきましたので、それについて話をしていきたいと思います。というのも、お題をどう扱うか、どんなふうに料理するのかということも、評価にかなり影響を与えるのだなと感じましたので。
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第203回
【全体講評】お題つき小説を書くときに、心に留めてほしいこと
今回、「しまもよう」というお題を設けて投稿作を募ったわけですが、頂いた原稿を読んでいると、いろいろ思うところが出てきましたので、それについて話をしていきたいと思います。というのも、お題をどう扱うか、どんなふうに料理するのかということも、評価にかなり影響を与えるのだなと感じましたので。
最終選考に残った4本のうち、3本が「しまもよう」を「服の柄」として使っていましたね。投稿作全体で見ても、この使い方は非常に多かったです。
まあ、一番単純な発想ですよね。もちろん、それがいけないわけではありませんけど。
受賞作の『駅で会いましょう』も「服の柄」でしたが、とても印象的に使われていましたよね。小道具としてうまく活用できていたと思います。
『飛脚のおにいさん』は、もうそのまんま(笑)。「佐川男子」は、多くの人が真っ先に連想するものではないでしょうか。安直と言えば、これほど安直な使い方もない。
でも、そういう安直さの振り切り方がいっそ潔くもある。作風にも合っているし、この作品に関しては、こういう使い方でも悪くないかなと思います。確かに工夫はないですけど。
『しまもようの中身』は、「ボーダー服を着ることで、『いい人』の仮面をかぶっている女性」が主人公でした。「しまもよう」というものが、単に「服の柄」だけではなく、「本当の私を、誰も見てくれない」というテーマを描く要素としても使われていた。そこはとてもよかったと思います。お題にすごく真剣に向き合っている。
ただ、「ボーダー女子は地味だ」という決めつけの元に書かれているので、ちょっと読者が共感しにくい話になっていましたね。そこは残念でした。あと、作中にくどいほど繰り返し「しまもよう」という言葉が出てくるのですが、これはとても不自然でした。
本当なら「ボーダー」と書けばいいところも、わざわざ「しまもよう」と書いているんですよね。
「お題をちゃんと使っています」と示すためなのでしょうけど、こういう書き方はやめた方がいい。落語の三題噺なら、題目である三つの単語を明確に出す必要がありますが、小説の「お題」は違います。「『しまもよう』というお題が出ていた」ことを知らない読者が読んだときにも違和感なく読める、そういう作品にしてほしい。
『横断歩道の海に溺れる』は、お題がなかなかうまく使われていたと思います。ストーリー展開にもしっかり絡んでいるし、すごく工夫されていましたよね。
目のつけどころが良かったですよね。二重にひねってもいるし。
ただ、全体的な感想として、みなさんちょっと素直すぎるというか、「お題」をそのまんま作中に持ってきすぎかなと思います。「しまもよう」というお題を見て、すぐに「ボーダーあるいはストライプの服が登場する話」、みたいなものを作り始めてしまうのは、ちょっと短絡的すぎて気になります。もっと柔軟に発想してもいいのに。
そんなに「使わなきゃ……!」って身構える必要はないですよね。例えば、単純に名前でもいいんです。脇役の男の子が「しまもよう君」だとか。
ちらっと出てくる店の名前が「居酒屋しまもよう」だとかね。
また、「しまもよう」という言葉を作品中に登場させなくても、まったく構いません。例えば、作中で誰かが見ている古い映画の中に刑務所のシーンがあって、しましまの囚人服を着ている囚人たちの映像がちらりと映った、なんていうだけでもいいんです。
連子窓(れんじまど)から部屋の中を覗いている男の話、なんていうのも面白いかと思うのですが。
いいですね。「格子」は私も、「『しまもよう』として使える」と思っていました。牢屋の格子とかね。
窓格子に鉄格子、座敷牢、柵。「しまもよう」っぽいものは、いくらでもありますよね。
物体じゃなくても、何らかの理由でしましまの影が落ちている、とかでもいい。ちょっとした描写でも、そこに縞の模様っぽい何かが入っていさえすれば、それでお題はクリアしたことになります。一ヶ所さりげなくそういうものを入れているだけでも、OKなんです。読者からしたら、「なるほど~。ここに持って来たか」なんて思うのも、楽しいですよね。
お題は、作品の主題に据える必要もないし、いかにもな目立つ場所に登場させて、「ここで使っていますよ」とアピールする必要もない。むしろ、「あれ? お題の『しまもよう』はどこに入っていたんだっけ?」と再読して、「なるほど、ここだったか!」なんて驚かせてくれたら、「してやられた」感で、評価は上がるかもしれない。
トリッキーな使い方をした作品とか、ぜひ読みたいですよね。
それに、「しまもよう」というお題が、わざわざひらがなになっていることにも気づいてほしかった。つまり、必ずしも「縞模様」を意味しているのではないということです。例えば、「しま」=「アイランド(島)」と捉えて、「ある島にまつわる人間模様の話」を書いたっていい。それくらい、お題は柔軟に捉えてほしいです。ちょっとみなさん、ストレートに受け取りすぎかもしれないなと思います。
物語を書く人間にとって、柔軟に思考するというのは、とても大切なことですよね。
遊び心もね。
読者の裏をかくというか、読み手の想像の上を行こうとするくらいの気概は持っていてほしいです。
プロの作家さんは、やっぱりそういう傾向が強めだと思います。以前、何人もの作家さんにアンソロジー本への寄稿をお願いしたとき、見事にひねりを利かせた作品ばかり集まったことがありました。正直、「一作くらいはストレートなものがほしい……」と思ってしまいました(笑)。
皆さん、それぞれに趣向を凝らして書かれますからね(笑)。「他の作家さんと被ってはいけないから、私はこうひねろう」とお考えになった結果でしょう。まあ、投稿作品においては、そこまで空気の読み合いをしなくていいですが、書き慣れていない方であればなおさら、あまりお題に正面から取り組みすぎないほうがいいんじゃないかな。もちろん、ストレートに受け止めて書いてもいいんですけど、その場合、よっぽどいいネタでないと、完成度の高い作品にするのは難しい。お題から少しズラして発想するほうが、自由度が上がって書きやすいのではと思います。
ストレート勝負には出ずに、あえて変化球にするのもアリということですね。
はい。まあ、ひねることばかりに一生懸命になっても本末転倒かもしれませんが、お題に引っ張られ過ぎないほうがいいと思います。もっとお題を自由に変形させ、物語を発想していってほしい。「お題つき小説」ではあっても、最終的にはお題が何であるかには関係なく、一つの独立した作品として楽しめるものにすることを目指してほしいですね。お題があった場合にどう発想して書いたらいいのかについては、今回の「プチアドバイス」においても、もう少しご説明するようにします。