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選評付き 短編小説新人賞 選評

横断歩道の海に溺れる

森野登春

  • 編集B

    点数はそれほど高くないのですが、イチ推しも多い作品です。

  • 編集A

    私、イチ推ししています。ただ、文章的にいろいろ難があるので、高得点はつけられなかった。例えば大きなところで言えば、場面転換時の一行空きが一回もないですよね。30枚をだらだらと書き連ねてしまっている。

  • 三浦

    前回、「一行空きを多用しないで」というアドバイスを載せたせいでしょうか? うるさく言い過ぎちゃったのかな……。

  • 編集C

    そんなことはないでしょうけど(笑)、みなさんどうか、アドバイスは柔軟に受け取ってくださいね。「一行空きを不必要に多用しないほうがいい」と言ったのであって、「一回も使うな」ということではありません。適度かつ的確に使ってください。

  • 編集A

    まあこの作品に関しては、意図してこういう書き方にしたのかどうかはわからないですね。単に、「一行空ける」とかってことをあまり考えずに書いたようにも思える。練りに練られた作品だとは感じられませんでした。少年の名前も、主人公の名前さえも出てきませんよね。文章も、なんだか一本調子でぎこちない。25枚目の「私ができる全部はその程度だった」なんて、英語の直訳みたいに感じます。

  • 三浦

    確かに、文章は練れていませんね。「てにをは」遣いがうまくいっていなかったりする。6枚目の「説教を続けれなかった」をはじめ、地の文でも「ら」抜き言葉が多用されていますし。一人称小説だから、高校生っぽい口調にする意図でわざとこう書いているのかもしれないけど、若干気になります。

  • 編集A

    「久しぶり会うことになった」、なんてのも、読んでいて引っかかりますよね。

  • 三浦

    主人公らしい口調としてこう書いているのか、単なる誤字脱字なのか、よくわからない。実際、誤字脱字もあちこちにあるので、よけいに判断しづらいです。そもそも、主人公の女子高生がラノベの男性登場人物のような喋り方をしていること自体、かなり引っかかるものがあります。

  • 編集B

    こんな言い切り型の口調で喋る女子高生、現実にはあまりいないと思います。小学生の男の子に、「なあ、少年、君ね……」なんて話しかけるとか、ちょっと芝居がかってますよね。作り物感が強いです。

  • 編集A

    出会ってずいぶん経っても、命を救った後でさえも、「少年」と呼んでるんですよね。

  • 三浦

    主人公の喋り方は、この作品の場合、もう少し普通の感じにしたほうがいいと思いました。こういう口調で喋らせる必要は特にないわけですし。

  • 編集B

    主人公のキャラクターに、あるいはこの話のテイストに、特別合っているというわけでもないですしね。

  • 三浦

    それと、少年が小学何年生なのかとかも書かれていませんね。性別も5枚目にならないとはっきりしない。それ以前は「小学生」としか書かれていないですから。こういった人物の基本情報に関しては、登場した辺りでさりげなく入れておいたほうがいいですね。

  • 編集D

    時系列の描き方もうまくいっていないです。12枚目に、「それから、私は放課後になると(中略)横断歩道研究会という(中略)活動をしていた」とあります。この書き方だと、すでに一定期間が経過しているということになる。でも、そのすぐ後に描かれている場面は、おそらく第一回目の「研究会」の様子です。少年はノートを広げ、「めあて」と書き込んで、ごく基本的な質問をしていますから。同じ場面の中で、「昨日あれだけ落ちたし」とも言っている。つまりこれは、冒頭シーンの翌日の場面です。

  • 三浦

    同じ場面の主人公の台詞、「さっきみたいに沈むようになった」というのも、おかしいですよね。冒頭シーンで2回沈んだことを指しているのだと思いますが、すでに翌日の場面に移っているのですから、「さっき」と言わせてしまうのは的確ではない。それとも、書かれていないだけで、この場面でも一度落ちてみせたということでしょうか?

  • 編集A

    仮にそうだとしても、書いていなければ読者には何のことかわかりません。どちらにしろ、書き方として問題がある。

  • 三浦

    もう少し時系列を、作者の中で整理してから書いたほうがいいですね。

  • 編集E

    設定や描写も、ちょっと詰めが甘い感じです。例えば、横断歩道に落ちたときに「道路の白線をしっかりと掴んだ」とありますが、具体的にどんなものを掴んだのかな? 薄いテープのようなもの? それとも、ゴリゴリしたアスファルトごと白線部分を掴んだということでしょうか?

  • 編集A

    沈んだ先がどういう質感の世界なのかもよくわからないです。冒頭シーンで一回目に沈んだのはゼリー状の海だったけど、2回目には「ぱしゃん」という音を立てて沈んでいる。ゼリーほどの粘度はなさそうですね。もっと水っぽい感じです。

  • 三浦

    さらに、終盤で線路の間に飛び込んだときには、何かの中に沈んだのではなく、穴の底に落ちたように描かれています。どうやら、ジェルとか水とかが充満している世界ではないみたい。

  • 編集A

    「ぴちょん、ぴちょんと/頬をつたう水滴」とありますし、少年は主人公の後ろに少し離れて立っている。それなりに広さのある、息ができる空間、ということなんでしょうね。でも冒頭シーンでは、「底なし沼のよう」だったはず。どうにもイメージが一定しないですね。

  • 編集F

    もう少しちゃんと設定を整えた上で、ディテールを描写してほしいですね。読者が疑問を感じないように。

  • 編集E

    横断歩道の場面も、ちょっとイメージしにくかったです。二人が延々「研究会」をやっていても、人間はおろか、猫の子一匹通りかかる様子がない。確かに、「人気がなく車も通らない」「コンビニも公園も、何もない」と書かれてはいるけど、ちょっと不自然かなという気がする。

  • 編集B

    こういう横断歩道は実際に存在するのかもしれないけど、読んだときに、読者の脳裏に絵が浮かぶ描写はできていなかったですね。

  • 編集E

    まるで「世界に二人だけ」みたいな感じですよね。だから私は、「ちょっとした異次元にでも入り込んでいるのかな」、なんて思いながら読んでいました。

  • 三浦

    作者が描きたい世界を読者に正確に伝えるためにも、もう少し情景描写に力を入れてほしいですね。

  • 編集A

    とまあ、文章に関しては改善すべきことがたくさんあるのですが、「横断歩道に沈む」という発想自体は、私はすごく面白いと思いました。「しまもよう=横断歩道」というのはよくある連想でしょうけど、そこから考えを大きく一歩進めてますよね。

  • 三浦

    はい。しかも、「横断歩道の白いところだけ歩く」「黒いところを踏むと落ちる」というのは、多くの人が「ああ、子どもの頃そういうのやった」って思えることですよね。そういうわかりやすい「あるある」から、さらに一段展開させて読者を話に引き込んでいる。そこが非常によかったですね。

  • 編集A

    「この主人公は、なんと本当に落ちちゃうんです」というアイディアは、意外と斬新ですよね。ありそうで、なかった話だと思う。「え、沈むの? 地面に?」って興味を惹かれて、気づくとするすると読まされていました。文章も、うまくはないんだけど、妙にグルーブ感があってテンポよく読める。

  • 編集G

    引き込まれますよね。私はむしろ、主人公がちょっとうらやましかったくらいです。一風変わった能力だか体質だかのおかげで、他の人にはできない体験ができるのですから。私もこの作品がイチ推しです。短編らしいテーマとエピソードが用意されていて、どこかしら不条理な雰囲気があるのも魅力的です。勢いよく読めるし、「しまもよう」をちゃんと工夫して話に盛り込んでいるのも、とてもいいなと思いました。

  • 編集F

    私もイチ推しにしています。今回の投稿作の中では、一番「しまもよう」というテーマの料理の仕方がうまいと感じました。他の3作品はすべて、「しまもようの服」という、ある意味一番ありがちな方法でお題をクリアしているのに対し、この作品では、「しまもよう」が話全体を貫く重要な要素になっている。

  • 編集B

    しかも、二重にひねってますよね。「横断歩道」のしましまだけではなく、ラストでは電車のレールを「しまもよう」とみなして、クライマックス・シーンを作っている。

  • 三浦

    この展開は意表を突かれますよね。「おお、そうきたか」という新鮮な驚きがありました。「横断歩道の縞模様の間に実際に落ちてしまう」という能力設定が、登場人物たちが危機を脱する際に、非常にうまく活用されています。ただ、せっかくのクライマックス・シーンなのに、ちょっと盛り上がり切れていない気がしました。それは描写が足りないせいだと思います。二人が落ちた線路の下の異空間がどんな様子なのか、読んでもよくわからなくて、読者は話に乗り切れない。穴の底に落ちた主人公が、地表方向を見上げますよね。何もない暗い世界のはるか上空に、満月のように丸く切り取られた、夏の空が見える。ここは本来なら、もっと美しい、詩情あふれるシーンになったはずです。なのに、うまく描写できていないせいで、今ひとつ印象的なシーンになっていない。本当にもったいないと思います。

  • 編集A

    やはりここでも、文章力が問題になってきますね。せっかくいいシーンを描いているのに、文章が足を引っ張っている。とても惜しい。

  • 編集D

    あと僕は、「少年は虐待されているらしい」という要素とその描き方にも、非常に引っかかりを感じました。文中には、「虐待」という言葉は出てこないですよね。でも、身体に痣があって、触られるのを異常に嫌がって、家に帰りたがらなくて、ラストでは本気で自殺しようとしている。であれば、27枚目の「彼は『困難』から脱出しつつある」の「困難」というのは、「親からの身体的虐待」と解釈して間違いないでしょう。大概の読者は察してくれるだろうし、作者もそれを計算に入れて、わざと「虐待」という直接的な言葉を使わずに書いているのだと思います。でも、その計算はちょっと強引すぎる。11枚目で主人公は、少年の身体に痣を見つけ、すぐさま「この子は虐待を受けている」と思ったわけですよね。はっきりそう書かれてはいないけど、これは明白です。「虐待に気づいたのに、私には何もできない」と思って、主人公は黙り込んだのですから。でも、初対面の少年の腕に痣があるのを見たからといって、すぐさま「虐待だ」と思うというのは、実はとても不自然なことです。

  • 編集B

    袖の下からちらっと見えた痣なんて、何によってついたのかわかりませんものね。小学生の男の子ならなおさら、走ってて転んだとか、体育の授業中にぶつかったとか、いくらでも考えられる。

  • 編集D

    なのにこの話においては、「痣」が登場した時点で、「虐待されている」という前提が急に立ち上がり、その前提のもとに話が進んでいる。どうにも作者都合だなという印象が強いです。文中に「少年の身体に痣がある」みたいな事柄を入れておけば、それだけでもう、「読者は『児童虐待』だと察してくれるだろう」と思っているように感じられてしまう。書き手の姿勢としてはちょっと甘いと言わざるを得ない。

  • 編集C

    それっぽいことをちらりと匂わせて、あとは読者に読み取ってもらおうというのは、書き手が楽をし過ぎですよね。この「少年」というキャラクターを描く手間とエネルギーを節約してしまっている。それに、「児童虐待」というワードを読者に想起してもらっても、それで伝わるものはほとんどないと言っていい。なぜなら、人間は一人ひとり違う人生を生きているからです。十人の虐待児童がいれば、そこには十通りのドラマがある。それをひとくくりに「児童虐待」と片づけることはできない。少なくとも、小説においては、してはいけないと思います。この作品に出てくる少年には、その少年独自の苦しみがあるはずなのに、そこにはまったく触れられていません。名前もない「虐待されている子供」という役どころとしてしか描かれていない。そこにとても疑問を感じます。

  • 編集D

    そもそも僕は、この話に「児童虐待」という要素を盛り込んだこと自体に大きな引っかかりを感じました。非常にアイテム感が強いですよね。

  • 編集A

    これはあくまで推測ですが、クライマックスから逆算して話を考えたのではないでしょうか。「主人公が線路の『しまもよう』に飛び込むシーンを描きたい」→「『線路に横たわる少年』を救うことにしよう」→「その少年はなぜ線路に横たわっているのか?」→「自殺しようとしていた」→「なぜ?」→「虐待されていたから」、という感じ。もしも間違っていたなら、大変申し訳ないです。ごめんなさいね。ただ、読者からはそう見えてしまう、というのは否めない。たった30枚の中で、描写も説明も抜きにして「自殺願望の少年」の事情を作るには、とても便利な要素ですからね、「虐待」は。だからどうしても、作者都合による「虐待されている設定」なのかなと感じられてしまうんです。そこは大きく引っかかる。

  • 三浦

    そうですね。描きたいシーンに向けて、直線的に最短距離で展開を作るのは、いいやり方とは言えないです。もう少しいろいろ想像を膨らませたほうがいいですね。それに、本作は一人称小説ですから、主人公が知り得ない「少年側の事情」は深くは描けない。そういう描ききれない部分に、「虐待」のようなヘビーな要素を持ってくるのはやめたほうがいいと思います。「虐待」によって傷ついて苦しんでいる人が現実にいらっしゃるわけですから、やはり作中で取り上げる際には、できるかぎり繊細かつ慎重になるべきです。自分が書く小説のために、そういった「深刻な事情」をアイテムとして消費するのは、極力避けるべきだと思います。物語作りに手間暇をかけることを、厭わないでほしい。それは、自分の作品の為でもありますからね。登場人物の背景や事情を作者がじっくりと考え、想像することによって、そのキャラクターにより血が通うようになるわけですから。

  • 編集D

    これは投稿者全員に申し上げたいのですが、キャラクターの背景事情を、ありがちな要素で簡単に作るのはやめた方がいい。読み手側としては陳腐に感じて、「またか」と思ってしまいます。かつては、「親の離婚」とか「いじめ」とかがすごく多かったけど、最近特に増えているのがこの「児童虐待」です。

  • 編集A

    都合よく簡単に使われていると、その要素が「記号」に感じられてしまいますよね。

  • 編集D

    この作品の「少年」の今後が、僕はすごく気になります。親戚の家で暮らすようになったからといって、そんな簡単に「困難」から脱出できるものかな? なんだかいい雰囲気で話が締めくくられているけど、これを「解決」と思っていいのかな? 少年の痛みや苦しみを、作者はまだ本当には身に染みて感じていないのではという気がしてならないです。どうか、自分の創ったキャラクターの人生に対して、もう少し責任と覚悟と思いやりを持ってほしいと思います。

  • 編集E

    そうですね。自分の創ったキャラクターを深く掘り下げることが、作者の「愛」ですから。

  • 編集A

    まあでも、作者が安易な気持ちで「虐待」設定を利用したとは、私は思わないです。作者は、少年だけでなく、主人公をも救いたかったのだと思う。主人公は自分の能力を好きではないですよね。何の役にも立たないどころか、邪魔で危険でさえある能力。神様に意地悪されているのかとまで思っていたくらいだったのに、この能力のお陰で、主人公は少年の命を救えた。それによって、主人公もまた救われたわけです。両者が救済される話を書こうとして、「虐待を受けて死にたがっている少年」と「それを救う主人公」を登場させたのだろうと思います。

  • 編集C

    ただ、「死のうとしている」展開のためなら、なにも「虐待」を持ってくる必要はないと思う。子供なんだから、理由はいくらでも作りようがあります。例えば、ものすごく高価な品物を壊してしまったとか、友達にけがをさせてしまったとか。

  • 編集A

    確かに。そもそも、「少年の命を救う」展開が目的なら、「自殺願望」は必須要素ではない。危機的状況はいくらでも作れます。自転車が踏切に引っかかった、とかでもいい。

  • 三浦

    考えてみたのですが、例えばこんな展開はどうでしょう。この少年は、とても大きな犬を飼っていて、ものすごくかわいがっている。親は働いているし、犬の散歩は少年の日課なんだけど、でもこの犬、全然言うことを聞いてくれなくて、今日も踏切の真ん中でうんこしちゃった(笑)。電車は迫るし、立ち往生して困っているところに、主人公が駆けつけて助けるんです。

  • 編集C

    なるほど(笑)。そういう話の方が、この作品のテイストとも合いますね。

  • 三浦

    主人公と少年の仲は、「犬の散歩中によく出会い、親しくなった」というくらいでもいいかな。そういう風な話にすれば、その少年と犬とのかかわり、とても大事にしてるんだけど犬のほうはきかん坊で、みたいな少年の生活についても、主人公視点で描くことができます。キャラクターに肉付けができますよね。少年を救えたことによって、主人公も救われる、という根本のストーリーラインは変更せずに済みますし。

  • 編集D

    話の持っていき方は、いくらでもあったと思います。もう少しじっくりと展開を練ってみてほしかったですね。

  • 編集B

    でも、この作品、プロット自体はちゃんと考えられていたと思います。読み直してみて気づくことですが、この少年は自殺する目的で人気のない踏切の近くをうろついていたのでしょうし、「楽に死ねるかも」と思って主人公の能力を熱心に研究していたんですよね。少年が自殺する展開はちょっと唐突で引っかかるんだけど、一応伏線は張られているし、筋も通っている。

  • 編集A

    だからこそ、ほんとにいろいろ惜しいんですよね。発想力は素晴らしいと思うので、やはりまずは、文章力アップに力を入れてほしい。推敲もきちんと行ってください。

  • 三浦

    そうですね。技術的な部分は、努力が一番実りやすいところです。神経を配るべきところに、ちゃんと配って書くことができるようになれば、作品全体の出来は格段に良くなると思います。文章修業をどんどん積んで、書き慣れていってほしいですね。

  • 編集A

    伸びしろはすごくあると思う。希望に満ちた爽やかなラストも、個人的にはとても好きでした。

  • 編集C

    こんなにも改善点の指摘が多かったというのに、イチ推しもまた多いんです。作者にはどうか、そこを忘れないでいてほしい。実は私もイチ推ししています(笑)。ぜひ今後もがんばってもらいたいですね。

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