編集H
主人公は妹の「わたし」なのですが、なんといっても「お兄ちゃん」のキャラクターに心をつかまれました。お兄ちゃんであるヒカル君は、あるとき突然高校を中退し、以来、近所のスーパーでアルバイトをしています。成績は優秀だったんでしょうね。お母さんはいまだに、「あんたなら余裕で合格できるから」と大学進学を進めてくるのですが、ヒカル君は即却下。不安定なバイト生活をやめる気は当分ないらしい。ここまでを読んだ段階では、将来に希望が持てそうにない、しがないフリーター青年みたいに思えます。でも、後半ぐっと印象が変わってくるんですよね。妹が思春期の悩みのあれこれに押し潰されそうになっているのを感じ取ったヒカル君は、さりげなく救いの手を伸ばしてくれます。それも、直接的に何かを解決しようとするのではなく、普段通りのなんでもない調子で、でも温かい思いやりをもって主人公に寄り添ってくれる。これがもう、人間としてすごくかっこいい。自分の考えや価値観を押し付けたりせず、でもつかず離れず妹の側にいてくれる感じが、とても素敵でした。