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選評付き 短編小説新人賞 選評

『片思い同盟』

赤羽理人

  • 編集E

    爽やかな青春もので、非常に読後感のいい作品でした。
    主人公は、クラスメイトの女の子・辻さんへの恋心を秘めている、中学三年の男の子・宮本くん。辻さんは、宮本の幼馴染・光と仲のいい子なのですが、ある日辻さんに呼び出され、「私、光が好きなの。あなたもでしょ?」と聞かれた主人公は、流れでつい肯定してしまう。そして、後に引けないまま、ずるずると「光を好き」なふりを続けるはめになる――というお話です。「誰が誰を好きか」という矢印が、うまい具合にバラけていますね。そこを崩さずに最後まで書ききったのは良かったと思います。

  • 編集H

    安易なハッピーエンドにしなかったのはとても良かったですよね。

  • 三浦

    物語の主要三者が、いつのまにか、おかしな三角関係みたいになってるんですよね。かわいかったです。それぞれの人物のことが、非常によく描けていたと思います。特に、主人公の「僕」の心情を、とても丁寧に追えていました。

  • 編集E

    全体を通して、嫌なところの全くない作品でしたね。辻さんは同性である女の子が好きなんですが、そこに引け目や問題意識を持ちすぎてるわけでもなく、主人公もそのことを変に大ごとに受け止めたりしていない。「同性を好き」という要素が、物語の中で自然に流れていっている。非常に好感の持てる作品だったと思います。僕はイチ推しにしています。

  • 三浦

    ただちょっと気になるのは、これって最初から、「僕」の失恋は確定してますよね。辻さんは光を好きなわけですから。なのに「僕」は、失恋したことをすぐには認識していない。心理的に抵抗しているとかではなくて、なんだか、考えがそこまで至っていないという感じ。10枚目で「告白するタイミングを完全に失ってしまったのだった」と語っていますが、いや、告白のタイミングとかではなく、あなたもう失恋してるんだよ? わかってないの? って、ちょっと心配になってしまった(笑)。15枚目でようやく、「僕の失恋は確定してしまった」と語っていて、「やっと気づいたか」とほっとしました。この主人公の、ちょっとズレているような感覚って、なんだか面白いですよね。

  • 編集C

    そうなんです。主人公は、辻さんから「女の子が好きなんて、普通じゃないと思う?」と聞かれたときに、「いやいや全然! 超フツー!」って答えながら、内心で「もう一つの誤解に比べたら大したことない」と語っています。彼は本気で、「そんなこと、大したことではない」って思ってるんですよね。「自分が好きな女の子が、同性愛者だった」ということが、「僕が光のことを好きだって誤解されてる!?」ってことに比べれば、「その程度のこと」なんです。この感覚がすごく新鮮でした。

  • 三浦

    今の若い人って、案外こういう感じなのかもと思いましたね。好きな相手に告白して、「いや、私は同性が好きだから」って返されても、「そうか……でも僕は付き合ってほしいんだけど」って言っちゃうような。いや、「同性が好き」ってはっきり言ってるじゃん? と私などは思うんだけど、でも、感覚がフラットすぎて、逆に「性別に関係なく、俺にもチャンスがあるかも」って思っちゃうんでしょうかね? 私にはちょっと不思議な感性に思えるんだけど、だからこそ、すごく新鮮にも感じられました。「なるほど、自分は全然恋愛対象じゃないのか」ってわかっても、すぐさま「身を引く」という考えにはならず、「でもやっぱり俺の気持ちは伝えたいな」ってなるんですね。そういう辺りも、すごく興味深かったです。

  • 編集C

    私もまったく同じことを感じてました。辻さんから「私は光が好き」「片思い同盟を組もう」と言われたとき、主人公は相手の性的指向をあまり大ごとに受け止めてなくて、「これから頻繁に会えるんだ。嬉しい。僕にもまだワンチャンスあるかも」みたいな感覚なんですよね。何週間も経った後でようやく、「あ、これはもう、とてもチャンスはないみたい……」って気づいたようなんだけど、そのテンポのズレ方が、読んでるこっちからするとおかしい(笑)。でも、意外と今の若い人はこんな感覚なのかなって思いながら読めました。「同性が好きなの」と聞かされても、衝撃を受けたりしない。そこの描かれ方がとても自然で、読んでて違和感がなかった。すごくよかったと思います。

  • 編集A

    うーん、私は、主人公が辻さんのことをずっと好きだったということが、この話から読み取れなかったです。主人公が、辻さんをいつ好きになったのか、どこを好きになったのか、そういうことがほとんど描かれていないですよね。この同盟が始まる前の段階で、主人公が辻さんにどれくらい強い想いを持っていたのかということがよくわからない。普通、「恋した人には、もうすでに好きな人がいた」と知ったら、もっと衝撃を受けるんじゃないでしょうか。「僕が光を好きだと誤解されてることのほうがショック」というのは、私は理解できなかった。もうすぐ離ればなれだというのに、辻さんの卒業後の進路を気にしている様子もないですよね。ちょっと、「本当に辻さんのことを好きなの?」と疑問を感じてしまいます。
    辻さんは辻さんで、同性愛者だということをあっさり明かしてますよね。読んでいて、登場人物の「好き」の実感があまり伝わってこなかったです。「『僕』は辻さんが好き。辻さんは光が好き」というのが、まだ「設定」でしかないように思えました。同性愛という要素がするっと流して描かれているのも、そこにはあまり触れずに、とにかく「片思い同盟」のストーリーを進めたいという作者の意図があるようにも感じられてしまう。非常に好感度の高い作品だとは私も思うのですが、読んでいてちょっと、うまく消化しきれないところがありました。

  • 編集E

    辻さんがあっさり告白したのは、「どうせ自分はフラれるから」って確信しているから、強がって明るく振る舞ってみせたのかなと思います。わざと「なんでもないこと」のように、自分からさらっと明かしたということなのでは? そのうえ主人公はテンポがズレていて、失恋している状況になかなか気づけていませんでした。そういうタイムラグが、「想いの本気度がわからない」という印象に繋がったのではと思います。

  • 編集F

    うーん、私は、「主人公が辻さんを好きとは感じられなかった」派ですね。だからちょっと、この話に入り込みにくかったし、恋愛ものとしては弱いかなと感じます。主人公の辻さんへの想いが、もう少し伝わってきてほしかった。そういう描写がもっとほしかったです。

  • 編集D

    私は逆ですね。もし辻さんの進路とかが書かれていたら、読者がその先を想像しすぎてしまうと思う。余計な情報になるかなと思います。閉ざされた三角関係をそのまま完結させるためには、主人公の視野狭窄的な恋愛だけが描かれて終わっているというのが、ちょうどいい青春感を出しているように思います。辻さんが「私、女の子が好きなの」と言っているのに、主人公があんまり重大なことに受け止めていないのも、感覚がフラットというよりは、自分の気持ちにしか目がいってないからじゃないかな。「そうか、女の子が好きなのか。うん、わかった。で、僕と付き合ってほしいんだけど」みたいな、「え、あなた、話聞いてた?」と読者が思うような展開になってはいます(笑)。でもそれを、この主人公の良くないところだとは、私は思いません。十代だし、まだ恋愛のことをよくわかっていなくて、相手や周りのことがあんまり見えていないんだろうな、と感じました。この視野狭窄感は、高校生の恋愛話として、むしろとてもいいなと思います。「十代の恋って、こんな感じだよね。自分の恋に無我夢中なんだよね。分かる分かる」って納得できた。

  • 編集G

    でも、恋に夢中なら、やっぱり話の中にもう少し恋愛感情が描かれていたほうがいいと思います。現状では、主人公の恋心があんまり伝わってこないですよね。こういう三角関係の話なら、主人公が自分の想いを押し殺して辻さんの恋に協力するとか、そういったエピソードでもう少し切なさを出したらよかったのにと思います。「いいんだ、辻さんが幸せになるなら、僕はそのほうがいいんだ」と思いつつ、「やっぱり辛い。それにこんなの、嘘をついてるってことだ」みたいに悩んだり。あるいは、辻さんと一緒に過ごす時間が増える中で、彼女の新たな一面を知り、ますます好きになって、ますます辛いとかね。そういう心の動き、感情の揺れを、もっと描くべきだろうと思います。せっかく十代で、せっかく三角関係なんだから、「好き」という気持ちの甘酸っぱさを、もっと味わわせてほしかった。恋愛小説として、そこは残念なところだったかなと思います。

  • 三浦

    そうですね。いろいろな意見が出ましたが、皆さんがおっしゃること、それぞれに説得力があると思います。個人的には、確かにこの話はちょっと箱庭感があるというか、作者が「片思い同盟」というシチュエーションを思いつき、その設定に沿わせる形に話を作り込みすぎた面はあるかなと思います。
    でもその箱庭感が、十代の高校生の在りようとして納得感がある、というご意見も、すごくわかります。それに主人公は、多少視野狭窄になりつつも、最後には相手の気持ちをしっかりと理解して、その上で自分の気持ちもちゃんと伝えていますよね。主人公自らが、考えて、動いて、話を完結させているのはとてもよかったと思います。短編の造りとしても、非常にうまいなと感じました。

  • 編集H

    本来「恋する気持ち」って、すごく自由なものだと思います。相手がゲイだろうとレズビアンだろうと、すぐさま諦めなきゃいけない理由なんてない。だって、好きなものは好きなんだから。私は主人公の、「あ、君は(同性の)光が好きなんだね。でも、僕は君が好きなんだよ」というフラットな感覚は、やっぱりとてもいいなと思います。すごく好きです。

  • 編集C

    私もです。それにそういうフラット感を持っているキャラクターって、描こうとして描けるものではないですよね。これは、作者ご自身が持っている素直さだとか、バランス感覚なんだろうなと思います。この主人公の、「同性が好きとか、そんなことより、僕は別のことがショックで――」という感覚は、この作品の中ですごく自然に描かれていて、とても好感が持てる。そこは高く評価したいと思います。

  • 編集H

    「同性愛」みたいな要素を話に入れるときって、割と多くの人が変にあれこれ考えすぎてしまって、「当たり前のこととして描こう」「差別感を出さないように書かなくちゃ」みたいに意識し過ぎてるところがあるように思います。でも、この主人公の在りようの描き方には、肩に力が入っている感じが全くないですよね。だから、相手が同性愛者とわかっていても告白するとか、自分が失恋したと気づくタイミングが遅いとかという展開にも違和感がない。
    私は、この主人公に恋心が窺えないとは思わなかったです。恋愛感情の描き込みが足りていないという点に関しては、指摘されて本人が気づけば、じゅうぶん修正可能だろうという気がする。恋心自体はあるのですから。私は主人公の、相手が同性愛者だろうが異性愛者だろうが全然気にしてないという、この感覚が本当にいいなと思って、イチ推しにしています。

  • 編集C

    わかります。ただ正直、ストーリーにもっと起伏があったほうがいいのでは、とは思います。あまりにも何も起こらなくて、エピソード不足ですよね。微笑ましくていいんだけど、でもなんだかたわいのない話、という印象も強かったです。

  • 編集G

    ちょっと腑に落ちないところもありました。タイトルにまでなっている「片思い同盟」ですが、「同盟」って、共通の目的のために協力し合うことを約束する、みたいなことですよね。でも主人公と辻さんは、一緒に何かをするわけではない。作中にもあるように、ここは「休戦協定」のほうがしっくりくると思います。

  • 編集D

    「片思い同盟」という言葉は確かにキャッチーだから、作者としては、多少意味がズレていても使いたかったのでしょうね。

  • 編集G

    二人がちょくちょく放課後に会って話をするようになったというのも、ちょっと不自然かなと思います。一応二人は「恋敵」という立場のはずなんだから、「卒業式までお互い告白しない」という話がまとまったのなら、辻さんは主人公に用はないんじゃないかな。

  • 編集E

    この辻さん、名前が「辻山」となっている箇所がありますね。単なるミスかもしれないけど、見直しのときに気づいてほしかったです。

  • 三浦

    あと、3枚目に「まったく被害妄想もいいところだった」とありますが、この「被害妄想」というのは、文脈に合ってない言葉ですよね。ここは「自意識過剰」とするほうがよかったのではと思います。
    それから6枚目に、「さすがに隣の段に並ぶことはできず」とありますが、この「隣の段」という言葉も変だと思う。おそらく、階段に座っている辻さんの隣に腰かけることを言おうとしているのでしょうけど、普通、階段に「隣の段」はありませんよね。ちょっと言葉選びが不正確なところがあるのが気になりました。

  • 編集E

    冒頭シーンで、「机の中に教科書二冊分くらい厚みのある単行本が入っているから、机が物凄く重くなっている」みたいなことが書かれていましたが、これも変な話だなと思います。教科書二冊なら、大した重さではないでしょう。

  • 編集I

    あと、この作品がどうこうということではないのですが、最近「同性に対する恋愛感情」を扱った作品が目立って増えてきているような気がして、私はそこも少し気になっています。特に、そういった作品について、「微妙な問題だから扱い方が難しいけれど、そこにちゃんと切り込んで描いているというのは素晴らしいですね」とか「現代社会の空気感がよく出ていますね」みたいな高評価を載せた後から、同性愛要素が増えているような印象があるのですが……

  • 三浦

    確かに、最近多い気はしますね。「社会的に話題になってるし、話を作りやすくするためのネタとして」という意識で同性愛を扱っているのだとしたら、それはいやだなと思いますが、今の若い人にとってはもはや繊細なテーマですらなくて、「あって当たり前のこと」だから作品の登場率が増えている、ということなのかもしれませんね。そうであったらいいなとは思いますが、実情はよくわかりません。
    ただ、結局「どう描くか」が重要ですよね。この作品においては、「同性を好きな辻さん」も、「それを特異なことだとは受け取らない主人公」も、現代を生きているキャラクターとして、すごく自然に描かれていました。「読者に受けやすいネタだから入れよう」みたいな感じは全くなかったので、本作においては、私はまったく問題は感じなかったですね。

  • 編集H

    同感です。同性愛要素を入れ込んだ作品は、正直増えているとは思いますが、この作者が高評価を得ようとしてこういう話を作ったとは思えないです。

  • 編集C

    作為は全く感じられないですよね。同性愛要素を入れたら瑞々しくて切ない話になるだろうとか、投稿作としての傾向と対策を考えたとか、そういう意図的なものは微塵も感じられない。

  • 編集E

    むしろ、自分の書きたいように素直に書いたらこうなった、という印象が強いです。

  • 編集D

    それに、多くの書き手がつい「扱い方に気をつけなきゃ」と意識しすぎたり、実際うまく扱いきれなかったりする要素を、気負いなくさらりと描けていたというのは、逆にすごい。この作者が自然に持っている長所かなと思います。

  • 三浦

    それに、素直に書かれているように見えて、実はよく練られた話だなとも思うんですよね。思いついたストーリーをどう読者に見せるかということが、非常によく考えられていると思います。文章もちゃんとしていますし、何といっても心情表現がいいですよね。細やかな心情をとてもうまく描けていました。

  • 編集E

    青春感あふれる甘酸っぱい話になっていて、僕はすごく好きです。多くの読者の共感を得られる作品だと思います。

  • 編集F

    作者は以前、最終選考に残られた方ですね。そのときの作品と比べると、格段に進歩していると感じます。

  • 三浦

    小説の書き方の勘所みたいなものを、感覚としてわかっておられる書き手ではないかと思います。いろいろな立場の人の心情を描くことができているということは、いろいろな作品が書けるということにつながりますから、期待が持てますよね。

  • 編集C

    新鮮な感覚で、好感度の非常に高い話を書けていて、とてもよかったと思います。

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