編集A
イチ推しが一番多くて、点数も同点首位でトップです。私もイチ推しにしていますが……うーん、ごめんなさい、文句なしの太鼓判、ってわけじゃないんです。でも、型通りのホラーとして、わりと完成されていると思いましたので。
小説を書いて応募したい方・入選した作品を読みたい方はこちら
第208回
【佳作】『はなしたい』
麦原拓馬
イチ推しが一番多くて、点数も同点首位でトップです。私もイチ推しにしていますが……うーん、ごめんなさい、文句なしの太鼓判、ってわけじゃないんです。でも、型通りのホラーとして、わりと完成されていると思いましたので。
わかります。「きっとこういう結末になるんだろうな」と思って読み進んだら、やっぱりその通りになったことによる心地よさ、みたいなものがありますよね。しかも、「結末は予想がつくから、読まなくていいや」とはならず、最後まで興味を持って読むことができた。物語が、「はなしたい」というテーマ一つに、ちゃんと集約されている。そのブレのなさは評価したいです。
目新しさや新鮮さには欠けますが、独白系のホラーはこうでなくちゃ、と思わせる道筋が立っていて、読者の期待通りに話がオチていく。「ああ、やっぱり」って思えて、爽快ですよね。私もイチ推しにしています。面白かったです。
語り手であるディレクターは、いま全国ネットの生放送に出演しているんですよね。ラストシーンの台詞を言い終えた後、この語り手がカメラの前で自ら目をつぶして死ぬんだなと思ったら、変な言い方だけど、すごく気持ちいい(笑)。こういうの、ホラー独特の楽しみですよね。
はい。描かれていないその凄惨な場面を、ありありと想像させてくれるのがすごくいいところです(笑)。ひどいことを言ってるように思われそうですが、ホラーってそういうものだから。
しかも、この放送を見た全国の視聴者は、全員「はなしたい呪い」に感染してしまうわけですよね。ということはこの後、膨大な数の人間たちが「はなしたい」衝動に負けてしまい……という、さらなる大惨劇が起きるわけです。そのカタストロフィーを暗示しつつ話が終わるという、余韻のある締めくくり方も、すごくいい。
ちゃんと作為がありますよね。作者は、計算した物語を意図通りに書けていると思います。
まあ、一介のディレクターの打ち明け話を全国ネットの生番組で延々流してくれる放送局なんて、果たして存在するだろうかと考えると、そこはかなり引っかかりますけどね。
それに、ドラマの撮影にしては、いくらなんでも少人数すぎるだろうとか、昼食の段取りについても事前にもっとちゃんと手配しておくはずだろうとか、ツッコミどころはいろいろあります。でも一応、明らかに目的をもって配置されているエピソードではあるので、後で「なるほど」と思えますよね。
話をラストシーンに着地させるために、すべてが計算されていますよね。多少不自然な設定ですが、本作においてはギリギリ許容範囲かなと思います。キャラクターの描写も、見事にステレオタイプでしたね。特に、平気でわがままを言う若い売れっ子女優の嫌な感じとか、すごく紋切り型に描かれている。
典型的な昭和の聞かん坊アイドル、みたいなイメージですよね。まあこれについても、本作は型に沿って書かれた短編ホラーなので、登場人物がわかりやすい「役割」でしかないのも、目をつぶれる範囲かなという気がします。
ただ、そもそもこれ、「小説」の域に達しているのか? という疑問は多少感じましたね。ネットによく投稿されている「怖い話」みたいなものを、巧みに語った程度の作品にも思えます。
確かに。似たような話を、過去にいくつも読んだことがあるような気がします。
ホラーの「型」に関して言うなら、「人に話さないと死ぬ」というパターンのほうが多いのではないでしょうか? 「呪い」の側からすると、広めてもらいたいわけですから。でもこの話は逆で、「話したら死ぬ」となっている。そこが、既存の作品とは違うところなのかなと思いました。もっとも、作者がそこまで意図してやっているのかどうかは疑問ですが。
独自性を打ち出しているのか、何も考えずにただ面白そうな話を書いてみたらこうなったのか、そこはちょっとわからないですね。
この話において、「誰かに話したら死ぬ」というからくりは、もう途中でわかっているわけですよね。ラストで真相を明かして読者を驚かせるという物語ではない。なら、「死ぬとわかっているのに、話したい衝動が激しくつき上げてくる」ときの気持ちとか、何とか抑えようとするときの苦しみとか、話さないようにそれぞれがどう工夫を凝らすのかとか、呪いに感染した人の心情や状況をもうちょっと書いてもよかったのではと思うのですが、割と作者は、目をつぶしたり耳をかっさばいたりすることに興味が向いているように思える。残酷な映像、残酷なシーンを描くことに、より力を入れているように感じるんです。読者を喜ばせようということかもしれないけど。
ホラーの中でも、スプラッター志向なのかなと感じるところはありますね。まあ、目を覆うほどの残酷さというわけでもないとは思いますけど。
もうちょっと「はなしたい」気持ちのところに焦点を絞って、そういう状況で人がどんなことを思うのかということを描写しても、読み応えのある話になったのではないかという気がします。
この「話したい。話したくてたまらない」という精神状態にさせるのは、誰のどういう意思による呪いなんでしょうね? まあ、単純に山姥の呪い、ということでも悪くはないのですが、その辺りにもう少し理由があれば、もっと怖かったかなと思います。
ただ、あんまり理屈がつき過ぎると、逆に怖くなくなってしまうところもありますからね。
そうなんです。こういうホラー作品の悩ましいところって、怪異の理由とか、誰がそうさせているのかとかが分かると、かえってつまらなくなってしまうことが往々にしてあることだと思う。だから、「なんだかわからないけど、とにかく怖い!」という方向に寄せるのか、原因をちゃんと作っておいて作中で真相を明らかにするという、理屈が通っているものにするのか。そのスタンスによって、ベストな書き方はかなり違ってくると思います。
この作品は、「なんだかわからないけど、とにかくこういう恐ろしい怪異がありまして……」という方向で書かれてますね。
理由があったほうが面白かったかもしれない。同じ「山姥の呪いで殺される」話であっても、そうなるに至った伝奇的なエピソードみたいなものがもう少し描かれていたらと思います。例えば、撮影隊一行が山に入ったとき、このいけ好かない女優が不注意で祠を壊してしまうとか、何らかの怪異を封印している積み石を崩してしまうとか。そういう出来事があらかじめあれば、「あんなことをしたせいで、何かが俺たちを追ってきているんだ!」という、理由があるから自分たちは絶対襲われるとわかっている恐怖、みたいなものがより盛り上がったかなと思います。現状では、怪異の訪れ方がすごく唐突に感じて、そこが気になりました。
この話、実は怖くないですよね。残酷シーンの絵ヅラが派手なだけで、正直あんまり怖くはない。ホラーなのに。そこはちょっと問題かなと思います。
私、怖かったですよ。あんまりホラーを読まないせいかもしれませんが、怖がりながら読みました。後から考えると、ちょっとバカバカしい感じの設定ではあるのですが。
えっ、この話を読んで、怖いと思ったの?
はい。
まあ、次々に人が死ぬという畳みかけてくる展開で、「次は~……お前だ!」っていうセオリーに則ってはいますよね。
描写もけっこうエグかったですよね。ひきちぎられた耳が一つしか見当たらず、ふと気づくと、片方は血で背中にくっついていたとか。しかもそういう描写が、いかにも脅かしてやろうという感じではなく、淡々と書かれているところも怖かった。オチ自体は予想通りで、そんなに驚かなかったですけど。
怪異の正体が「山姥」というところが、僕はかなり引っかかりました。日本昔話じゃあるまいし、いまどき「山姥」と言われても、何だかピンとこない。現代の怪異のネタとして、「山姥」は怖いんだか怖くないんだかよくわからないです。その分、作品そのものの怖さレベルは下がってしまったと思う。
あと、「はなしたい」というタイトルは、変えたほうがいいかもと思います。ネタバレしているし、特に「読みたい!」という気持ちを起こさせるものでもないし、ジャンルもわからないですよね。もう少し、読み手の気を惹くタイトルを考えてみたほうがいいのではないでしょうか。
うーん、私はこれでもいいかなと思います。
そうですね。いろんな漢字を当てはめられるから、「何の意味を引っかけてるんだろう?」と、読者が無意識に想像しますよね。
漢字を開いて「はなしたい」にしているのは、間違いなく作者が意図的にやっていることでしょうね。
それはわかりますが、「はなしたい」というタイトルの本があったとして、気持ちを惹かれて手に取ります?
まあ、これは短編なので。短編集の中の一作品ということなら、このタイトルも「なんだか意味ありげ」でいいかなと思います。
確かにね。ホラーアンソロジーの中にこの作品が入っていたら、バリエーションの一つとして、とても面白く読んだと思います。
ただ、タイトルの意味にはもうひとひねりあってもよかったですね。現状、呪いにかかった人は目をつぶして耳をひきちぎる設定になっていますが、むしろ鼻をもぐことにして、「鼻のない死体」=「はなしたい」にするとか。ごめんなさい、このたとえは今とっさに考えたもので、うまく練れてないんですけど、とにかくもう一段タイトルに含みがあったなら、さらに良かったと思います。
まあ、ものすごく秀逸なホラーとは言い難い部分もありますけど、これはこれで完成された話だなと思います。
こういう作品は、好みの問題も大きいですよね。ホラー好きをうならせるほどではなかったですが、計算がきちんと行き届いていて、読者をそれなりに楽しませる作品になり得ていたと思います。このあと作者は、どういう方面に向かうのかな? ホラーの道を突き進むのか、全く別のジャンルに挑戦するのか。楽しみにしながら次作を待ちたいですね。