編集A
いじめモノとしては、けっこうひねりが利いていて、良かったと思います。いや、作者はこれを、「いじめモノ」として書いているつもりはないのかもしれないですけどね。辛い思いをしている者同士が、顔も知らないまま秘密のポストを通じて親交を深め、互いに心の支えになっていく、というのがこの作品の中心要素だし、それはちゃんと描けていると思います。謎の文通相手という設定には引き込まれますし、ラストで相手の意外な正体が明らかになったりもするし、作者は色々考えて、仕掛けのある物語を作っているのだなと感じました。
でもまあ、主人公が現在形でいじめを受けているのですから、「いじめ」もこの話の重要な要素ではありますよね。普通いじめモノって、「どうやって主人公がいじめられている状況を脱するか」が描かれることがほとんどだろうと思います。自分から立ち向かっていったり、誰かが助けてくれたり、何らかの理由でいじめっ子が改心したり。でもこの作品には、そういう展開は全くない。暴力みたいな直接的なものではないにしても、緩慢ないじめは長期にわたって続いていて、主人公のメンタルに地味にダメージを蓄積させ続けています。助けの手も現れない。普通の作品なら、主人公の辛い心情とか、苦悩を深めていく様子が描かれるところだと思うんだけど、この話は違う。主人公は毎日遺書を書いては使われていないポストに投函し、「これで今日の私は死んだ。死んで生まれ変わったのだ」と思うことによって、辛い現状をやり過ごそうとする。この発想はとても面白いなと思います。