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選評付き 短編小説新人賞 選評

『破裂』

数井美治

  • 編集A

    今回は、総じて非常にレベルの高い回でした。点数的には、この作品が最下位になってはいるのですが、他作品と差をつける意味で、あえて低い点数に抑えざるを得なかったという面が大いにあります。

  • 編集B

    これ、良かったですよね。もし他の回だったら、受賞したかもしれないレベルだと思います。すごく面白かった。私、この作品好きです。

  • 編集A

    私もです。読んで「怖っ!」って思いましたから。ホラー作品ですから、読者を怖がらせることができたら大成功ですよね。私はもうとにかく、創太くんが気持ち悪くて気持ち悪くて(笑)。そういうものを書けているのはすごいことだと思う。

  • 編集B

    読む人を引き込む力、先へ先へと読み進ませる力を持っていますよね。

  • 編集A

    なんといっても、ラストの展開には驚かされました。

  • 編集B

    主人公の女性教師は、ごく普通の真っ当な人なのですが、それゆえに、「私は正しい」と無意識的に思っているところがちょっと気になります。最初は、生徒思いの誠実な先生という感じで登場してくるんだけど、話が進むにつれて、「私はいい教師。どんな生徒も上手に正しく導いていくわ」みたいに思っているのが鼻についてくる。「なんか嫌な人だな」と思いながらさらに読み進むと、ラストでなんと目が飛び出しちゃって(笑)。びっくりしたけど、思わず笑っちゃいました。残酷なんだけど、ブドウのように眼球がぶらさがってるとか、なんだかおかしくて。嫌な人が最後で落とされるという展開に、ちょっとすっきりするものを感じました。

  • 編集C

    主人公が偏った倫理観を持ったままで終わったら、ちょっとモヤッとしただろうけど、ちゃんとラストで成敗されましたからね。

  • 編集B

    いよいよ創太くんが登場する相談室のシーンが始まったときには、「この話にどういう落としどころをつけるんだろう?」と、もうワクワクしてました。そうしたら、私の想像とは全く違う、衝撃的なオチが来て。ちょっと興奮しちゃった(笑)。面白かったです。すごくよかった。

  • 編集F

    風間先生とかも、いいキャラしてますよね。

  • 編集A

    はい。風間先生のウザさ加減の描写とかも、上手だったと思います。なにげにベテランぶっていたり、お金持ちの子供に偏見を持っていたり。

  • 編集B

    「コーヒー豆のような顔でコーヒーを飲みながら」とか、笑えますよね。

  • 編集A

    ディテール描写がすごくうまい。恋人の手の指がすらりと長くてきれいだとか、まくり上げたワイシャツから血管の浮いた腕が覗いているとかっていう、「手フェチ」描写もよかったです。そういう細かい描写で、ディテールをコツコツ積み上げながら話を進めていって、最後、いきなり目玉が飛び出すという超展開になる(笑)。

  • 編集B

    衝撃ですよね。つい前日には、主人公はラブラブの恋人と楽しくカレーを食べていたというのに、この極端な落差。

  • 編集A

    創太くん、本当にヤバい子ですよね。こんな子がもし現実にいたらとか考えると、震えが走ります。いや、いないとは思うけど(笑)。

  • 編集B

    普通に考えたらありえない設定なのですが、あまり疑問を感じませんでした。怖がる間も与えず衝撃展開に突入するので、読者は心の準備ができていない。だから、つい受け入れて読んでしまう。ほんとなら、「この世界のものでない何かと契約」とか「悪霊に憑りつかれてるのかも」なんてところにはツッコミたいところなんだけど、いきなりドーン! と突き落とされて、パッと終わる。だから読者は、「あぁびっくりした! でも面白かった」と思えるんです。こういうあたりも上手いですよね。

  • 編集F

    とても面白く読みました。僕はイチ推ししています。でも、他の方がいい点をいろいろ言ってくれましたので、僕からはあえて、気になったところを少しだけ。まず、ホラーの演出についてですが、不気味さの盛り上げ方は、現状のやり方でいいのかな? 最後で一気にホラー展開になっていますが、もうちょっと不気味さが少しずつ盛り上がっていくほうが、読者の気持ちも盛り上がっていくんじゃないでしょうか? まあ、こういうあたりは好みの問題かなとは思いますが、今の書き方だと、終盤に至るまでこれがホラー小説だと気づかない読者もいるのではないかなという気がして、ちょっと引っかかりました。

  • 編集B

    私は現状のままでいいと思います。淡々と大したこともなく話が進んでいって、最後にバァーン! と驚かされるというのが効果的だったと思うし、個人的に好みです。

  • 編集F

    うーん、僕は真綿で首を絞められるように、主人公がじわじわ追い詰められていく不気味展開のほうが好きですね(笑)。

  • 編集A

    でも、現状でもけっこう、じわじわ怖がらせてるとは思いますけどね。生徒が不穏な作文を書いてきて、その生徒の気になる過去も聞いて、いよいよ対面してみたら、なんだか淀んだところのある子で……って、私は充分気味が悪かった。

  • 編集F

    ただ、創太くんの登場が少し遅すぎないですか? これも好みの問題かとは思いますが、もう少し早い段階からチラッチラッと姿を見せるほうがいいのか、それとも現状みたいに、最後の最後にようやく登場するほうがいいのか。どちらがこの物語において効果的だろうかと考えて、ちょっと答えが出なかったです。創太くんがなかなか登場してこないのも不気味だし、出てきたら出てきたで不気味だし(笑)。

  • 編集E

    私は、もっと早めに出すべきだったと思いますね。この物語の要であるはずの創太くんがなかなか登場してこないので、話がちょっとダレているように感じます。

  • 編集F

    あるいは、創太くんを「いよいよ最後に登場!」という形で使うのなら、彼に関する証言をもっと積み重ねたほうがいいのではと思います。何人ものキャラクターが、彼に関する不気味な話をちょっとずつしていく。それにより、主人公と読者の創太くんへの興味とか、怖いもの見たさの気持ちがどんどん膨れ上がり、頂点に達した頃合いで、満を持して実物の創太くんが登場してくる。

  • 編集B

    それはいいですね。現状では、不穏さを盛り上げる要素が、創太くんの作文と、サッカー部の先輩が怪我した話しかないですからね。できればもっと登場人物を増やして、クラスの子がこんなことを言っていた、別の先生がこんなことを言っていた、こんな目撃証言がある、こんな噂もある……みたいな描写を重ねていく。それぞれの人物が、それぞれの視点から見た勝手な解釈を並べていくんです。で主人公が、「そんな悪い子のはずはないわ。大丈夫、私は理解者よ。私が創太くんを救ってみせる!」みたいに、ちょっと思い上がった高揚感のある気持ちでいよいよ創太くんと対面したら、ラストで目玉が……という展開のほうが、もっと不気味だったし、ラストの衝撃と爽快感も高まったかもしれません。

  • 編集E

    登場人物を増やすのなら、もう少し話を整理する必要がありますね。というか、現状においても、日常パートはやや長すぎると感じます。この話の中心要素は「創太くん」と「破裂」だと思うのですが、それとは関係のない、作文の添削だとか風間先生との会話、恋人とのやり取りなどにページ数を多くとられている。この辺りはもっと刈り込んで、創太くんに行数を割いたほうがいいと思います。

  • 編集A

    冒頭の作文も、いらないですよね。「動物のお医者さんになるのが夢です」とかってやつ。本編とは全く関係がないのに、1枚弱もページを費やしている。内容もほのぼのしていて、この作品の冒頭には不似合いかなと思います。

  • 編集G

    まあでも、創太くんの不穏な作文と対比させる意味で、「普通の子」の作文があってもいいんじゃないかなとは思います。

  • 編集A

    ただ、今の書き方では、「動物のお医者さんになりたい私」=「主人公」かと、読者が誤解しかねないですよね。冒頭部分なだけに。

  • 編集F

    作文の部分を二重カッコ(『』)に入れたらどうでしょう?

  • 編集A

    なるほど。それはいいですね。冒頭の作文をもっとタイトにして、二重カッコに入れる。それなら、この問題は簡単に解決できそうです。ただ、この箇所以外でも、全体に日常パートはやや冗長かなと思います。あちこちで不要な文章を書き過ぎていると感じる。

  • 編集G

    中でも特に引っかかったのが、「破レツ」の部分です。創太くんの作文に出てくる「破レツ」とは「破裂」を意味しているのではないか? というようなやり取りが描かれていますが、この部分は必要ないと思う。タイトルからして『破裂』なのですから、作中に「破レツ」とカタカナ交じりで出てきたとき、「『破レツ』って何?」と首をかしげる読者はまずいないでしょう。

  • 編集F

    全く同感です。

  • 編集A

    こんな言わずもがなのことをわざわざ口に出して説明する隼人のことも、なんだか間抜けに思えてしまいますよね。

  • 編集B

    私はそこがいいと思ったのですが。

  • 編集F

    えっ?

  • 編集G

    えっ?

  • 編集B

    いや、実は私は最初、隼人のことを「素敵な男性だな」と思っていたんです。だって、仕事をして疲れて家に帰ったら、カレーを作って待っててくれてるんですよ。最高じゃないですか(笑)。手もきれいだし。でも隼人が、「『破レツ』とは……」ってどうでもいい説明を始めたところで、「あ~あ」って幻滅しますよね。私はこれは、作者の引っかけかなと思いました。「隼人のこと、素敵だと思ってときめいたでしょ? はい、残念でしたー」という企みにまんまとハメられたのかなという気がしたんです。作者が意図的にこう書いていると解釈して、面白いなと感じました。

  • 編集A

    確かに隼人は上っ面男ですよね。私はそもそも最初から、彼を魅力的とは思わなかった。

  • 編集G

    うーん、でも、ここは読者を引っかけようとしている場面ではないと思います。この話において、隼人を「いい男……と思わせておいて、実は残念男でした」なんてふうに描くことに、特別意味はないですよね。

  • 編集F

    僕もそう思います。隼人のキャラクター描写に、そんな凝った仕掛けを施したとは思えないし、その必要もまたないでしょう。ここは単に、「『破レツ』という表記では読者にわかってもらえないかもしれない」と感じた作者が、つい丁寧な説明をし過ぎたということじゃないかな。

  • 編集G

    はい。そしてそれが、不必要な会話なので浮いて見えるし、キャラの魅力度も下げてしまっているんですよね。あちこちにあるこういう無駄な描写が、作品のテンポ感に影響して、読者に「ちょっと冗長だな」と感じさせる原因になっているのではと思いました。

  • 編集A

    あと、ラストの二行、「破裂」の語句説明もいらなかったと思います。なぜ『破裂』というタイトルなのかは、全編を通して伝わってきますから、この上ラストで繰り返す必要はない。

  • 編集F

    まあ、キーワード系のホラー短編において、よく見る手法の一つではあるんですけどね。

  • 編集G

    でも、少々蛇足に感じるのも確かだと思います。ラスト二行を読んで、「うまい!」とか「やられた!」というふうには感じなかったですね。演出効果を上げていないなら、削ってもいいんじゃないかな。好みの問題かもしれないですけど。

  • 編集F

    そうなんですよね。ちょっと気になるところはいくつかあるのですが、どれも割と、「単に好みの問題」というレベルの引っかかりのようにも感じる。文章のテンポ感とかも、好みによって、ハマる人とハマらない人がいるのだろうと思います。面白い作品だと思うし、イチ推しもしているのですが、僕は若干ハマらなかったほうですね。だから、不穏要素をチラリと出してはまたしばらく日常パートが続く、という現在の書き方には、ちょっと引っかかりを感じた。日常パートが長すぎるように思います。やっぱり、話が進むにつれてだんだん不気味パートのほうが量を増していく、徐々に分量が逆転していく、という書き方のほうが良かったんじゃないかな。逆転しないで、あくまで日常パートをメインにして進んでいって、最後に急にズンと落とすという展開には、ちぐはぐさを感じました。

  • 編集E

    私もです。せっかくホラーなのですから、読むにつれて「怖さ」がどんどん盛り上がっていく展開にしてほしかった。

  • 編集B

    私はごく普通に話が進んでいって、最後の最後に「ワッ怖い!」ってなるのが好きです。だから、これでいいと思う。

  • 編集G

    まあ短編ですからね。怖さをあんまり匂わせないで進めて、ラストで一気にホラー展開に叩き込むという流れには、ある種の分かりやすさがあると思います。それも一手法だとは思う。

  • 編集C

    ただ、それを作者が意図的に選択しているのかどうかは、ちょっとこの作品からは読み取れないですね。演出効果を考えて、あえてホラーっぽくならないように筆を抑え気味にして、ラストでドーンと落としたのか。それとも、あまり戦略とかは考えず、ただ素直に思いついた物語を書いていったらこうなったのか。そこがわからなくて、ちょっとモヤッとします。

  • 編集G

    作者は常連投稿者さんで、着実に力をつけてきていらっしゃるなとは思うのですが、もう一作見せていただけたらなというのが正直なところですね。

  • 編集F

    ただ、いろいろ申し上げはしましたが、どれも大きな欠点というほどではなかったですよね。

  • 編集G

    はい。もうちょっとだけ精度を上げていただけたら、という程度の問題だったと思います。

  • 編集A

    ちゃんとホラー作品になっていたのはすごく良かった。怖がらせてくれて、ありがとう(笑)。ほんとに面白かったです。

  • 編集F

    エンターテインメント性は、最終候補作の中ではトップだったと思います。今回はちょっと運が悪かったという感じですかね。なんだか申し訳ないです。僕はすごく期待していますので、次なる作品もぜひ読ませていただきたいですね。

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