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選評付き 短編小説新人賞 選評

『海と鐘』

白鉛筆

  • 編集C

    中世ヨーロッパ的世界が舞台です。冒頭からすんなりと話に入って読むことができました。世界観のちゃんとある作品だなと思います。主人公も、すごく可愛くて好きですね。私はイチ推しにしています。

  • 編集G

    作者が、自分の好きな世界を素直に一生懸命書いている感じで、とても好感が持てます。それが主人公の描写にも反映されている気がする。主人公のレオノールもまた、素直で明るくて一生懸命な子ですよね。とても好ましいキャラクターになっています。

  • 青木

    裕福ではなくとも、愛情にあふれた家庭。善良で優しい村の人々。太陽が輝き、作物のよく育つ暮らしやすい土地。「世界名作劇場」的な牧歌的な作品舞台で、これもまた微笑ましいですよね。

  • 編集G

    主人公の年齢が分からないのは、ちょっと気になりました。一応、8~10歳くらいをイメージしながら読みましたが。

  • 編集C

    私もそれくらいだと思いました。お父さんとお母さんが大好きで、「僕も頑張るぞ!」と思ってる屈託のない男の子。ほんとに可愛いなと思います。

  • 編集A

    村人たちの人の好さとかも、読んでてほっこりしますよね。いいキャラクターが書けていると思う。

  • 編集D

    生活感がちゃんとあるのもいい。登場人物たちが、作品世界の中で実際に暮らしていると感じられました。

  • 編集G

    登場人物がけっこう多いのに、混同せずに読めるのもよかった。キャラ同士の関係性みたいなものが、ちゃんとわかります。ただ、細かい部分では、いろいろあやふやなところも多かったですね。例えば、最初のほうのシーンでブドウを収穫しているので、「今は秋なのかな?」と思っていたら、何日か後にマチャードが「今度はこっちのトマト食べさせてやる」なんて言っていたり。

  • 青木

    それに対して主人公が、「トマトっていつになるんだよ、夏の話じゃないか」って語ってますから、夏ではないんでしょうね。でも、なんだかよくわからない。季節がはっきりしないです。

  • 編集G

    また、ラスト近くに、「Te quiero」という台詞が出てきますね。「愛している」という意味のスペイン語です。だから、スペインが舞台なのかなとは思うのですが、ちょっとはっきりしない。スペインなのだとしたら、男の子である主人公の名前が「レオノール」というのは少し妙なんじゃないかな。

  • 編集A

    「マチャード」というのも、スペイン語圏の女性の名前として、あまり聞き慣れない気がします。

  • 編集G

    「Te quiero」という台詞さえ出さなかったら、「ヨーロッパのどこかが舞台なのかな?」という程度で、ある意味ごまかせたと思うのですが……

  • 編集C

    でも、作者が一番書きたかったのはこのシーンではないかなと思います。自分たちはこの地を離れられないけれど、息子には生き延びてほしい両親。その気持ちが分かるから、嫌だとは言えない息子。愛し合っている親子が、涙を呑んで別れを決める場面です。胸にキュンときますよね。

  • 編集G

    はい。でも、家族で抱き合って「愛しているよ」って言い合う、って描き方でもよかったんじゃないかな。まあ、「ここは一発、『Te quiero』の台詞でキメたい!」と思う書き手の気持ちもわかりますけど(笑)。

  • 編集A

    ただ、「Te quiero」がなかったとしても、やっぱり舞台はスペインっぽく感じます。

  • 編集G

    はい。どうしてもイベリア半島をイメージしてしまいますよね。

  • 編集A

    歴史的な経緯がかなり似てますからね。過去にはイスラム勢力が支配していたんだけど、次第にキリスト教に駆逐されていって。でも、イスラム建築は破壊されずに、そのまま残っていたりする。聖堂とモスクが共存している建物とかが、実際に残っています。

  • 編集G

    これが中央ヨーロッパの辺りになると、駆逐した前宗教関連のものを徹底的に破壊したりしますからね。他宗教の寺院とかが中途半端に残らないと思う。

  • 編集A

    だから、時代は中世、舞台はイベリア半島、主人公たちはカトリック教徒、「異教」がイスラム教、「新大陸」はアメリカ……というふうに考えると、歴史的事実といろいろ符丁が合うんですよね。

  • 編集G

    レオノール一家は、過去の異教徒の寺院に住んでいて、その寺院の鐘を鳴らすのを日課にしているけど、信じているのは「新しいほうの宗教」であるという設定が、ぴったり合致すると思います。ただ、ラストで主人公が、新大陸・アメリカを目指して出港したということなら、ちょっと描写が腑に落ちない。「沈みゆく太陽」と「故郷の町」が同じ方向にあるように描かれていますので。

  • 青木

    そこは私も引っかかりました。西に向けて旅立ったのなら、船の進行方向に太陽が沈むはずなのに、と。

  • 編集A

    さらに言うなら、この時代、夕方に出港というのもないんじゃないかな。むしろ、日の出とともに出港、となるのが自然だと思う。できるだけ明るいうちに距離を稼ぎたいはずですよね。

  • 編集G

    父親の台詞の中には「船が出る夕方」とあるのですが、ラストシーンの描写からは、明るいうちに出港したようにも感じられます。主人公は船内の物置に三日間隠れ、船が出港してからようやく行動し始めたんですよね。親戚を探して合流し、語り合って、髪を切って……と、いろいろあった後でやっと甲板に出てきた主人公の前で、「世界は昼から夜にだんだん塗り替えられていった」わけですから、「夕方に出港」したようには思えない。

  • 編集A

    「夕方に出港」というのは、単なる書き間違いだったのかな? でもそれだと逆に、港を出て半日以上も経過しているのに、振り返ると故郷の町がまだ見えているというのは、船の進みが遅すぎて変ですよね。

  • 青木

    ちょっと細かいところで、いろいろつじつまが合ってないですよね。

  • 編集H

    ラストシーンを現状のように描きたいがために、無理やり帳尻合わせをしちゃったかなという感じです。

  • 編集G

    そうですね。「遠い海の上までも、教会の鐘の音は届くんだ」「今こそ僕はそれを知った」というラストを、どうしても書きたかったんでしょうね。

  • 編集H

    冒頭でその話題を出しておいて、ラストでちゃんと回収しているのはいいと思います。しかも胸に迫る演出ですよね。暮れなずむ洋上に遠くから響くのは、二度と会えないかもしれない父親が、旅立つ息子へと贈る、万感の思いを込めた鐘の音。とてもいいシーンだし、作者のやりたいことはすごくわかるんだけど、やや強引でもありましたね。

  • 編集A

    それにしても、異教徒の寺院を残すくらいの緩やかな社会情勢だったのが、なんで突然、「異端審問官」が徹底的に宗教弾圧、みたいなことになっちゃったのかな?

  • 編集C

    この先この世界ではこんなふうに、違う神のものは受け入れられない方向に厳しく変わっていく、ということなんじゃないですか? その始まりの頃を描いている。

  • 編集G

    もしかしたら、都に近い地域では、以前からこういう方向に変化してきていたのかもしれませんね。その変化の波が、主人公たちが暮らす田舎にまでとうとう押し寄せてきた、ということなのかも。ただまあ、それでもちょっと急すぎる気はします。

  • 編集H

    展開は急すぎるんだけど、アウトダフェの人達は逆にのんびりし過ぎているようで、引っかかりました。

  • 青木

    わかります。マチャードたちを連行しに来たアウトダフェの職員たちは、レオノールが「あの鐘鳴らし屋の息子」だとわかっているのに、その日は拘束しないんですよね。

  • 編集H

    レオノールを家に帰してしまったら、一家そろって逃げ出すかもしれないのに、そんな猶予を与えるのは恐怖の組織らしくないと思う。不意に現れて、有無を言わさずひっ捕らえて拷問する、みたいなのが「異端審問官」というものじゃないかな。

  • 編集F

    レオノールが船に隠れ、三日後に出港したときに鐘の音が聞こえたということは、あれから三日経ってもまだ、お父さんたちは捕まっていないということですよね。

  • 編集E

    ここの地方の異端審問は、実はけっこうゆるい組織なのかな?

  • 編集A

    それなら、こんなにあわてふためいて息子を逃がす必要はなかったんじゃない?

  • 青木

    それに、どうしてこの両親は息子とともに逃げないのかというのも、すごく疑問に感じますね。

  • 編集G

    アウトダフェに関しては、わからないことが多い。「ついにこの町へいらっしゃるんだぞ」みたいに敬語で話していた一般の人が、いつのまにか職員になってたりしますし。それに、アウトダフェがどれくらい恐ろしい組織なのかも、よくわからないです。一度目をつけられたら、死を覚悟しなきゃならないほどなの? だったらのんびりしてないで、今すぐ逃げたほうがいいように思うけど、どうしてこの両親はあえて村にとどまろうとするのでしょう?

  • 編集F

    アウトダフェが来るという噂を聞いて、カタリーナたちと深刻な話し合いをしつつも、お父さんは鐘を突くのをやめないですよね。「異教徒の鐘を突いている」ことが問題視されているというのに。

  • 編集G

    「村の人が喜んでくれるから」みたいなことが書かれているけど、命がかかってるんだから、そんなこと言ってる場合ではないですよね。どうしてそこまで鐘にこだわるんだろう?

  • 青木

    このお父さんが、前宗教、つまり「異教徒」の末裔とかだったりするなら、話は分かるのですが。

  • 編集A

    なるほど、その設定はいいですね。「新しい宗教を信じている」というのは建前で、実は前の宗教の隠れ司祭をやっていたとか。「信仰する神を捨てることはできない」「だから、寺院とともにこの地に踏みとどまる」みたいな理由があるなら、まだ納得しやすかったと思う。

  • 編集B

    宗教弾圧で家族が離ればなれになるという展開なのですから、主人公サイドにも宗教的基盤を持たせておいたほうが、悲劇性が盛り上がりましたよね。

  • 編集E

    ただその設定の場合、「お父さんも僕も新しい宗教を信じているのだから、異端視されるはずはないのに」という部分が食い違ってきてしまう。ストーリーをけっこう作り変える必要がありますね。個人的な好みを言えば、もっとがっつりと宗教絡みの話にしてほしかった。宗教のせいで辛い目に遭った主人公が、最後には神を捨てるとかね。そういう展開のほうが引き込まれたと思います。

  • 編集F

    それと、アウトダフェの影がちらつき始めてからも、けっこう何日も普通の生活が続きますよね。こういう間延びした時間の流れ方が、若干、話から緊張感を削いでいるように感じました。

  • 青木

    確かに。異端審問官が登場してからは、一気に畳み掛けるような展開にしたほうがよかったかもですね。

  • 編集B

    あと、もしこれが中世ヨーロッパを舞台にしたお話なら、「職員」という言葉は時代にそぐわないと思う。アウトダフェの描き方には、むしろ近未来っぽさを感じます。SFに出てくるディストピアみたいなイメージがある。

  • 青木

    わかります。私はむしろ最初、「ファンタジーかな?」と思っていました。とても読みやすい作品ではあるのですが、ジャンル的な世界観が分かりにくくて引っかかるところはありますね。冒頭からしばらくは牧歌的な世界が描かれているので、ほのぼの気分で読んでいたら、急に話が宗教弾圧、生きるか死ぬかみたいな方向に行くので、びっくりしてしまった。やっぱり、「これからこういう話が始まりますよ」というのは、最初の辺りでもう少し読者に伝えたほうがいいと思います。

  • 編集A

    展開が唐突なんですよね。起承転結が整えられた話でもない。構成自体はそんなに悪くないと思うのですが、上手くまとまった作品であるとは言い難かった。

  • 編集E

    「鐘」が重要な要素になっている割に、その鐘のビジュアルがよくわからないのも残念でした。それに、子供とはいえ主人公が状況に翻弄されているばかりなので、ストーリー的に物足りなさを感じます。

  • 青木

    主人公がただ逃げて話が終わりになっていますからね。もう少し何かが欲しかった。長い物語のプロローグ部分であれば、これでもいいのかもしれないけど、短編小説としてはちょっと完成度が低いなというのが正直な感想です。短編はやっぱり、ラストできちんとオチをつけないといけないので。

  • 編集F

    作者はお若い方だし、まだ小説を書き慣れていないのかもしれませんね。話の型みたいなものに関してまでは、思考や意識が行っていないように思えます。頭に浮かんだ話を、ワクワクしながら書いているという感じ。

  • 青木

    同感です。そして、この作品に限っては、そこがとてもいいところだと思う。作者が楽しんで書いていることは、ほんとにすごく伝わってきますよね。何よりもそこが魅力的でした。確かに、細かい部分で気になるところはたくさんあるし、実際この場でもいろいろと指摘されている。でもどうか、あまり深刻に受け止め過ぎて、気を落としたりしないでくださいね。「楽しんで小説を書く」気持ちを失くしてほしくないです。

  • 編集F

    具体的な細かい指摘は、簡単に直せる部分だとも言えますからね。書き慣れていけば、自分で気づいて修正することだってできるようになるでしょうし。

  • 編集E

    作者の年齢や投稿歴の浅さを考えたら、むしろすごくよく書けていると思います。書きたいイメージがあって、それをちゃんと最後まで書き切っているという点は、僕は高く評価したい。ただ、史実をベースにした物語を書くのか、「なんちゃって歴史もの」にするのか、虚実入り混じった「架空の歴史」設定にするのか。そういうあたりに関しての書き手のスタンスは、もう少しはっきりと決めたほうがいいと思う。

  • 青木

    作品のテイストもね。子供向けアニメみたいな可愛い物語が、途中から急にシリアスな大河ドラマに変わったりしたら、読者が戸惑いますので。

  • 編集A

    誤解のないように言っておきたいのですが、歴史ものにするなら「スペイン」とか「カトリック」とか固有名詞をはっきり出せ、ということではありません。現状のようにふわっとさせたまま書くのでも全然かまわない。この批評の中の、「これはスペインの話なのでは?」というのだって、我々読者が勝手に想像しているだけのことです。ただ、実際の歴史を彷彿させる物語を書くのであれば、読者が「なんか変だな」と引っかかったりしない程度には、齟齬の生じない書き方を心がけてほしい。

  • 編集E

    ちゃんとした歴史ものを書くのはまだ難しいということであれば、まったくのファンタジーにしてしまうのも一つの手だと思います。

  • 青木

    あるいは、史実的な要素は取り払って、親子の愛情に焦点を当てて描くとかね。ほっこりしたいい話になりそう。

  • 編集B

    そういうほうが、作者の人柄の好さが活かされる気がします。いい持ち味だと思うので、そこは大事にしてほしい。

  • 青木

    ただ、短編でファンタジーを書くことは、本来すごく難しいことだと思います。いろいろ説明しないといけないですからね。今作のような題材で書いてみたいということなら、思いきって長編にチャレンジしてみてはどうかなと思います。

  • 編集G

    そして、とにかくまだまだ、たくさんの作品を読んでほしいですね。それも、楽しんで読んでほしい。

  • 編集F

    そうですね。どんどん読んで、どんどん書いてほしい。書きたいものを持っている方だと思いますので、読んで書いて経験値を積んでいけば、とてもいい物語を作れそうな気がする。現状でも、雰囲気のある話を書けていますよね。胸を打つ、余韻のあるラストも良かった。

  • 青木

    文章にはリズムがあるし、台詞回しも上手いし、いいところはたくさんありますよね。

  • 編集C

    いきいきした可愛いキャラクターを描けているのもよかった。私は大好きです。

  • 青木

    私もです。だから、もちろん批評はじっくり読んでほしいんだけど、「読者に突っ込まれないようにしよう」ということにばかり一生懸命になりすぎないでくださいね。ダメなところではなく、いいところに目を向けて伸ばしていってほしい。自分の好きなものを楽しく追求しながら、書き続けていってほしいですね。

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