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選評付き 短編小説新人賞 選評

『光を継ぐもの』

櫻井みずき

  • 編集A

    とても楽しいお話でした。主人公が元気よく動き回るし、コメディタッチでありながらミステリーまで盛り込まれている。しかも、メインアイテムは「短歌」なのに、テイストはスポ根ノリというのも面白い。でも、やっぱりなによりも、主人公が生き生きしているのがとてもよかったです。作者も楽しんでのびのび書いている感じですよね。

  • 青木

    明るくて読みやすい、いい話だなと思いました。主人公が素直ではつらつとしたキャラクターで、微笑ましいです。

  • 編集A

    十歌仙に選ばれたときの、「お母さーん! 聞いて!」みたいなところなんて、もう本当に嬉しそう。読んでいるこちらも、つい頬が緩みます。唯一ツッコミどころがあるとすれば、ラスト近くの、「私は、彼女に比べたら全然駄目だ。小さなことで悩んだり、先が見えない不安に押しつぶされそうになったり。」ってところでしょうか。変ですよね、そこにくるまで、そんな描写は一ミリもなかったのに。「いやいや、あなたは最初から最後まで、ずーっと楽しそうでしたけど?」って思ってしまいました(笑)。でも、面白かった。引き込まれて一気に読めました。私はイチ推しにしています。

  • 編集B

    ただこの主人公、高校生にしてはちょっと若さが足りない感じですよね。「歌うまベストテン」とか言ってたり。あと「料紙」なんて言葉、若い人はあんまり知らないでしょうに、当たり前のように使ってますし。

  • 編集A

    ちょっとおばちゃんくさい高校生なのかな(笑)。でも、その飾り気のなさも好感が持てました。

  • 編集C

    「おっ、気が利くねえ」なんてところは、むしろおじさんくさいですよね(笑)。私は、主人公のこういうキャラクターはいいなと思うんだけど、最初はちょっと話に入り込みにくかったです。いきなり短歌から始まるのですが、私はあんまり短歌に詳しくないので。

  • 編集D

    「栂」という漢字が、そもそも読めないですよね。ここはルビを振ってほしかった。もうのっけから、つまづいてしまう。

  • 編集E

    僕もあんまり引き込まれなかったです。単純に、短歌に興味がないので。ポンと一句出されて物語が始まるし、その後ずっと短歌がらみのあれこれで話が進んでいくので、最初の辺りはちょっと斜め読みしちゃいました(笑)。すみません。

  • 編集C

    冒頭の短歌は、意味を取りづらいですよね。ここで読む気をなくす読者はいると思う。もう少し早めに「無理やり訳すとこんな意味だけど」というのを入れるか、あるいは、キャラクターの楽しさで読者を引き込んだ後で短歌の話を始めるかしてほしかった。

  • 編集A

    私は、冒頭の「栂の木」の歌は好きですけどね。韻を踏みまくっていて面白いし、技巧的な和歌という意味で、いい出来なんじゃないかな。

  • 青木

    うまいですよね。それにテーマに直結していますから、短歌から話に入ること自体は、私はいいのではと思います。ただ、日頃から短歌に馴染みのある読者はそれほど多くないでしょうから、冒頭シーンの書き方はもう少し工夫したほうがよかったですね。

  • 編集B

    冒頭シーンは大切ですよね。何ページもお饅頭ばかり食べてないで、もうちょっとわかりやすく状況や世界観を伝えてほしかった(笑)。

  • 編集A

    それにしても、この高校の設定はすごく面白いですよね。中高一貫校で、和歌を詠むことが文化として生徒間に定着していて、オリジナルアプリまである(笑)。

  • 編集B

    確かに面白いです。少女マンガに出てきそうな設定。

  • 編集D

    こんな高尚な遊びを、普通の高校生たちがやってるんですよね。素敵です。

  • 青木

    作中にいくつも和歌が出てきますが、どれもすごく上手ですよね。

  • 編集F

    作中に出てくる和歌は、作者のオリジナルなのだろうと思います。すごいですよね。私は短歌にはそんなに詳しくないのですが、しっかりした知識に基づいて作られているんだろうなと感じました。作者はこの分野に造詣が深いのでしょうね。その手腕が存分に活かされた作品になっていると思います。コメディチックで親しみやすいキャラクターである主人公が、このレベルの短歌をさらりと詠んでいるというのがまた、心憎い感じでいい。

  • 編集A

    ラストの句だけ現代的でポップなものになっていますが、これがまた、青春感があっていいですよね。

  • 編集B

    ただ、ここまで和歌に特化したハイレベルな学校なら、もっと有名になっているはずじゃないかな? 「入学して初めて、この学校は変だと気づいた」というのは不自然ではないでしょうか?

  • 編集E

    まあこの主人公だったら、特に調べもせず、「近いから」みたいな理由だけで受験しそうではある(笑)。

  • 編集A

    中高一貫校ということは、受験したときはまだ小学生ですしね。細かいことはあんまり気にしなかったのかも。短歌作りも、やってみたら意外と才能があって、どんどんハマっていったということじゃないかな。競技カルタに力を入れている学校とか実際にありますし、そういう環境なら、学校全体でレベルが底上げされているというのはあることだと思う。

  • 青木

    それは考えられますね。現在高1ということは、もう三年以上も楽しく取り組んでいるわけですし、若いからぐんぐん上達したということはあり得ると思う。

  • 編集B

    でも、毎年学校オリジナルの百人一首が選ばれるとか、さらには十歌仙まで選出されるとか、ちょっと設定を大きくし過ぎじゃないかな。そこまで和歌に優れた人材が揃っているというのは、どうにも作り物っぽく感じます。

  • 編集G

    全校生徒は中高合わせて五百人くらいらしいから、その中から百人一首を選ぶとすると、五人に一人は作品が選ばれることになる。全校生徒が投稿するわけではないことを考えると、意外と高倍率ではないですね。

  • 編集A

    たぶん百首の中には、笑えるようなくだらない歌もけっこうあるんだと思います(笑)。学生のお遊びだし、思うより敷居は低いんじゃないかな。

  • 編集H

    この話、「今年の定家を探す」というのが、一応ストーリーの中心ですよね。その「現定家」は「全校生徒の中の誰か」であると。ただまあ普通に考えて、それは十歌仙の中の誰かですよね。「定家であることは、他の人に悟られてはいけない」とか、「任期後も秘密は厳守」「歴代の定家にだけ情報が共有される」とか、設定がやたら仰々しい割に、あっさり候補者が十歌仙に絞られてるし、その候補たちのほとんどは、大して話に出てこないままで影が薄い。ちゃんと登場する脇役自体が少ないから、「現定家」の正体はだいたい想像がついてしまいます。大きく広げた設定の割に、肩透かしな展開になっている印象でした。

  • 編集D

    実際問題として、五百人の中から一人を探し出すというのは無理ですよね。最初から、「十歌仙の中の誰かだ」という設定にしておけばよかったのに。

  • 編集E

    ちょっと大仰な設定を作り過ぎている感はあります。三十枚しかない中では、使いこなしきれない。

  • 青木

    ただこの話は、「定家は誰か?」を解き明かすミステリーというわけではないように思います。作者は、そんなに本格的な謎解き物語を書いているつもりはないんじゃないかな?

  • 編集A

    まあ、エンタメ作品なのでしょうね。女子高生の楽しい日常とちょっとした悩み。そこへ、これまたちょっとしたミステリーを絡めつつ、みたいなお話。ただ、謎解きの部分には、けっこう力を入れている気はする。

  • 編集E

    ミステリー部分を話の縦糸に、主人公の高校生活を横糸に、ってところでしょうか。

  • 編集A

    もしミステリーを主軸にするのなら、今のままではちょっと苦しい。定家候補の十人の名前が出てくるのが7枚目。三分の一も話が進んだあたりで、急にずらりと並べられています。これは唐突だし、遅いですよね。だから、謎解き部分も猛スピードで飛ばさざるを得ない。せっかく十人も候補がいるのに、「さあ、この十人の中の誰だろう?」と推理する楽しみは味わえないですね。

  • 編集C

    それに、これが「定家を探し出す話」だということがわかるのも遅すぎると思う。かなり話が進んでからでないと、主人公がどういう状況にいるのか、何をやろうとしているのかが伝わってこない。設定が特殊なので、それを把握するのに時間がかかります。

  • 青木

    話の構成もかなり入り組んでますしね。まず、饅頭を食べながら「定家のご指名が来た!」と気付く冒頭シーンが描かれたあと、「二日前に遡る」と時間が戻される。で、主人公が十歌仙に選ばれてお母さんに「おめでとう」と言ってもらった場面の後に、この学校の説明が入ります。それが終了したら、また一旦お母さんとのシーンに戻り、次の場面でようやく、冒頭シーンの後に時間が戻ってくる。

  • 編集A

    複雑ですよね。時系列がどうなっているのか、「定家」絡みの設定と相まって、理解するのにけっこう頭を使う。もう少し読者にすんなり話を伝える書き方を考えたほうがいい。冒頭に「栂の木」の短歌を持ってきたいがためにこの構成にしたんだなというのはわかるのですが、あまりうまくいっているとは思えないです。

  • 編集H

    冒頭を読む時点では読者は誰も、この学校の特殊設定を知らないわけですからね。主人公一人が「ご指名キター!」と盛り上がってますが、読者はさっぱり話が見えなくてついていけない。

  • 編集B

    短編の書き方として、冒頭でまず謎をドンと提示して読者を引き込むという手法は確かにありますが、この作品に関しては、状況や世界観を先に読者にわかってもらってから、のほうがよかったと思います。

  • 編集E

    話の上がり下がりも、ちょっと残念だった。この話って、冒頭シーンの終わりの部分が、作品中で一番テンションが高いですよね。「焼くや藻塩の!」「身もこがれつつー!」「ああ、あああ、ああ」ガッツボーズ! って(笑)。本来のクライマックスである、現定家を探し当てる場面は、正直言ってそれほど盛り上がっていない。主人公の元気の良さがこの作品の良さなのですから、アップダウンを交えつつ、終盤をもっとハイテンションに盛り上げてくれたら面白かったのにと思います。

  • 編集A

    ただこれ一人称作品だから、あんまり主人公に一人で盛り上がられても、スベるというか、イタいというか。

  • 青木

    塩梅が難しいですよね。

  • 編集C

    作品世界を読者にちゃんと理解してもらうためには、「入学して初めてわかったけど、この学校は変だ」ってところから物語を始めたら良かったのではないでしょうか。で、学校の説明をひと通りしてから、主人公が次第に短歌に惹かれていく様子を追っていく。

  • 編集E

    でも、あまりに順を追って書くと、つまらなくなりそうな気がしますね。

  • 青木

    私だったら、キャラクターの会話から話を始めるかな。作品の空気感や現在の状況を、会話を使って読者に伝えていくと思います。

  • 編集G

    私は今のまま「饅頭」から入ってほしい(笑)。冒頭シーンは結構好きです。楽しいし、主人公の大らかな性格が伝わってくるし、勢いもあるし。もうちょっと書き方を整理したほうがいいとは思うけど。

  • 編集E

    僕も、「焼くや藻塩の!」って盛り上がるこの冒頭シーンは嫌いじゃない。ただ、終盤でももう一度テンションを爆上げしてほしかっただけで。

  • 青木

    うーん、難しいですね。どうしたらいいんだろう? ただ、何が正解かは分からないけど、もう少し読みやすくする工夫は必要でしょうね。

  • 編集B

    とにかく、この学校の特殊な世界観を、もっと早く読者に教えてほしい。それが遅くて、説明もイマイチだから読者が引っかかるわけで。

  • 青木

    やっぱり主人公以外に誰か登場させて、会話で説明していくのがいいんじゃないでしょうか。

  • 編集B

    そうですね。「短歌とか全然わからん」みたいなことを言う友人を出して、二人の会話で現状を伝えていくとか。

  • 編集F

    十歌仙の知識が全くないお母さんが現在でも登場しているのですから、このお母さんに話をする体で説明を入れてもいいかもしれない。

  • 青木

    このお母さん、かわいいですよね。素敵なキャラクターだと思う。ただ、家のシーンを入れると場面があっちこっち飛んじゃいますから、この物語はもう、学校の中だけで進めていったほうがいいんじゃないかな。登場人物を増やすなら、友人とかのほうがいいのではと思います。

  • 編集B

    主人公はこんなに短歌が好きなのに、親友は全然興味がなかったりね。で、その子に「すっごく面白いんだってば!」って力説する中で、短歌や十歌仙のシステムを説明するとか。

  • 編集G

    この主人公なら、友達は多そうに思えるんだけど、これといって登場してこない。ちょっと妙だし、もったいないです。友達との会話を入れてくれてたら、主人公のことがもっとよくわかったと思います。どんな子なのかということが読者によりしっかりと伝わる。

  • 編集B

    そうですよね。主人公のことを外から客観的に見る目線が、この作品にはもう少し必要だったと思います。

  • 青木

    友達から、「いくらなんでも、あんた短歌にハマりすぎ。引くわー」みたいなこと言われたりしたほうが、話に奥行きが出ますよね。

  • 編集B

    はい。それに、そういう人物を登場させたほうが、短歌をよく知らない読者もこの話に入り込みやすい。読む人に対して親切ですよね。「短歌に興味ない」読者だって当然いるのですから、書き手には、そういうところにも意識を向けてほしかった。

  • 編集C

    逆に、タイトルはもうちょっと短歌に引っかけたものにしたほうがよかったと思います。それこそ、「茜さす〇〇」みたいな。

  • 編集A

    あるいは、コメディっぽくするとかね。今のタイトルでは、ファンタジーやSFを連想しかねない。

  • 編集B

    主人公が短歌にがっつりハマっている割に、所属しているのは文芸部ではなく美術部で、実は絵について悩みを抱えているというのも、話がとっ散らかっている感じです。しかもラストの書き方では、まるでその悩みのほうが物語の主題であったかのように思える。

  • 青木

    確かに。微妙に話がブレている印象がありますね。この点に関してはもう少し描き方を工夫するなり、話を練り直すなりしたほうがいいと思います。

  • 編集B

    気になるところがたくさんありましたね。私もあれこれツッコんでしまいましたが、実はイチ推ししています。筆力のある書き手だけに、いろいろ惜しいと感じるんです。この作品の設定は、もっとうまい活かしようがあると思う。

  • 編集A

    同感です。今回受賞されるわけですが、この作品の舞台設定を、この短編だけで終わらせてしまうのは非常にもったいないと思う。というか、そもそもこの話、三十枚で描けるサイズの話ではなかったですよね。例えば、「現定家を探せ!」というミステリーをもっとど真ん中に持ってきて、十歌仙の十人をしっかりとしたキャラクターとして登場させて、あれこれ推理して、一人一人候補から外していって……みたいなのを、百枚くらい使って書いたらよかったのに。

  • 編集D

    その話、読んでみたいです。とても読み応えのある話になりそうですよね。

  • 編集A

    この学校の設定は、ほんとにすごく面白いです。これをもっと練り込んで、大きな物語の舞台として使わない手はないと思う。

  • 青木

    もうとっても想像が膨らみますよね。この学校では、ほとんどの生徒が短歌をたしなむのかな? サッカー部の男の子とかが、何気ない調子でさらっといい和歌を詠んだりする場面があったら面白いでしょうね。

  • 編集F

    日常会話の中に、短歌が混ざってたりね。あるいは逆でもいい。文学方面に疎い野球部の男の子が、女の子に告白するために一所懸命下手な句をひねってたりしたら、キュンときます。

  • 編集H

    おそらく、購買部で売られている花や枝は、自信作の歌を結んで意中の人に告白するのによく使われるんでしょうね。だから、高等部のお兄さんやお姉さんがけっこうな頻度で買っていく。

  • 編集G

    バレンタインには、結び文を添えたチョコレートで下駄箱があふれそうですね(笑)。

  • 編集A

    歌合せ大会が開催される展開とかがあっても面白そう。短歌でバトルです。

  • 青木

    やりようはいくらでもありますよね。とにかく、せっかく学校の設定が秀逸なのですから、もっともっと登場人物を増やして、いきいきした学園ものにしてほしいです。今作には主人公と増井さんくらいしか出てこなくて、ちょっと物足りなかった。

  • 編集A

    作者は魅力的なキャラクターを書ける人だと思います。国光先生とか、あんまり登場してこないのに、なんだか印象に残りますよね。

  • 青木

    生徒の遊びに混ざってくるお茶目な先生ですよね。でも和歌はそんなにうまくない。国語の先生なのに(笑)。

  • 編集G

    なぜ「定家は名前に光の縁語を持っている人が継ぐ」ことになっているのかとか、そういう辺りの由来も知りたいです。

  • 編集F

    そもそもなぜこんな変わった特色のある学校になったのか、そこについてのエピソードも書いてほしいですよね。全ての始まりとなったドラマを知りたい。

  • 編集A

    最後のほうで名前だけ出てくる印刷屋さんの楢本さんは、もしかして初代定家だったりしてね。ちらっとそんなことが匂わされたりしても、楽しいと思う。そういったところまで世界を広げられるなら、もう三百枚でもいいです。

  • 青木

    この学校の設定なら、文庫本一冊の話が書けそうですよね。ただ、この短編を単純に引き伸ばして長編に仕立て直すのはお勧めしないです。書くのであれば全部一新して、違うキャラを主人公にしたほうがいいと思う。

  • 編集A

    今回の主人公を出すのはかまわないし、十歌仙の設定も活かしていいんだけど、もっと他のキャラもたくさん出して、エピソードも作って肉付けして、世界観自体を広げてほしいですね。今作に引きずられないほうが、面白い作品になると思います。期待していますので、ぜひ挑戦してみてほしいですね。

  • 青木

    最後に、投稿者さん全体に一言だけ申し上げたいのですが、前回は「俳句」、今回は「短歌」と、文学に絡んだ受賞作が続きましたが、そういう要素を持ってきたら高評価されるということではありません。そこは誤解なさらないでほしいです。

  • 編集A

    むしろ、似たテイストの作品だと、求められるレベルが一層高くなってしまうかもしれない。とはいえもちろん、書きたければ書いていいんです。どうか傾向と対策に捉われることなく、ご自分の書きたい物語に全力投球していただきたいですね。

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