編集G
冒頭から、いっそ清々しいほど嫌な感じの女性が一人語りをしています。「ああ、これは『嫌な主人公』の話だな。『嫌な読み味』を狙った作品なんだろうな」と思って読み始めたのですが、予想は見事に裏切られました。主人公がフルコースのフランス料理を食べる描写と並行して、少しずつ状況が明かされていくのですが、細かく謎が散りばめられていて、読めば読むほど「え? どういうこと?」と興味を引かれます。主人公と太一の過去に何があったんだろう? この二人は結局どうなるんだろう? と気になって、ぐいぐい読まされました。先へ先へと読者を引っぱっていく力がすごくある作品だと思います。
ラスト手前でようやく、太一がもう死んでいることが明かされるんだけど、同時に、その死から17年も経っていることも判明して驚かされます。そのうえ主人公は、近々別の男性と結婚することが決まっている。だから結局、麗華と太一の間には、これといった関係は起こらなかったんです。でも、麗華は太一にすごく影響を与えられたし、精神的に支えられてもいた。実はとても特別な相手だったんですね。主人公はなかなか素直にはそういうことを語らないんだけど、主人公視点の一人称だからこそ、その語らない思いを読者は感じ取ることができるという構成になっているところが、とても面白いなと思いました。イチ推ししています。