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選評付き 短編小説新人賞 選評

『ハヤシライス』

田仲絵筆

  • 編集G

    主人公は、母子家庭に暮らしている高2の女の子。ある日突然、書置きを残して母親が出て行ってしまって……というお話です。いきなり一人で生きていかなければならなくなった女の子の、生活や内面がすごくリアルに描かれていて、読んでいて胸に刺さりました。

  • 編集B

    描写が細かいので、主人公の生活感が如実に浮き上がってきますね。経済的に豊かではない家庭で、ぜいたくなんて何ひとつできなくて、食費すら常に切り詰めている。古い団地の狭くて暗い台所のにおいが漂ってくるような、生々しい描写がとてもいいなと思いました。主人公の置かれている苦しい状況というものがすごく伝わってくる。

  • 青木

    同感です。私はもう主人公がかわいそうで、読んでいて胸を締めつけられる思いでした。すごくしっかりした子で、気丈に振舞ってはいるんだけど、それでもまだ高校生ですよね。ある日突然親に置いて行かれて、生活のすべてを一人で背負うというのは、やっぱり相当キツいと思う。

  • 編集B

    ただ、「しっかり者」という設定のわりに、主人公には見通しが甘いところも見受けられて、気になりました。例えば、母親が83万円ほどのお金を残していってくれたので、「高校生活はあと13ヶ月だから……」と計算して、「まあ、なんとかなりそう」と思ってるらしいけど、これは大人から見るとかなり危なっかしい。公的な補助金やバイト代で月9万円の収入があるとはいえ、家賃・光熱費・食費など、生活費はけっこうかかります。足りない分は貯金を切り崩すしかない。卒業後は就職するつもりらしいですが、一年以上も先の話ですし、高校生女子がたった一人で暮らしていくには、ちょっと無理を感じる経済状況だなと思います。

  • 編集F

    ほんとにギリギリですよね。何かちょっとしたトラブル一つで、一気に生活が立ち行かなくなってしまう。読んでいて心配になりますが、主人公は意外と平気そうにしていますね。

  • 編集G

    「帯広のおばあちゃんと相談を」と母親が書置きしていますが、主人公はそんなことをする気は全くないようですね。

  • 編集D

    雪国っぽい描写がありますので、北のほうの地方都市に住んでいるのだろうと思います。その地域では、月10万もあれば、まずまず暮らせるのかな? 主人公が住んでいる場所がはっきりわからないので、ちょっとイメージをつかみにくかったです。

  • 編集A

    お金に関しては、納得できないところが多かった。例えば、お母さんは失踪する直前に40万円を引き出していますが、これは主人公も推測しているとおり、逃走資金なのだろうと思います。再出発資金と言ってもいい。もし「生活に疲れました。もう死にます。さようなら」ってことなら、40万もいらないはずですからね。このお母さんは娘をすっぱりと捨てて、心機一転、新しい生活を始める気でいるのでしょう。まあ、はっきり言ってクズですね(笑)。

  • 編集F

    作者がこのお母さんを、「クズ母」として書いているんだろうなというのは、描写のあちこちから読み取れます。部屋は荒れ放題、ろくに家事もせず、家にいるときはお酒飲んでスマホいじってごろごろしてるだけ。「あんたを養う義務なんかない!」って金切り声を上げたかと思えば、すぐさま被害者ぶって泣き崩れ、「死にたい。もう死ぬ」なんて言葉を軽率に口にする。

  • 編集A

    でも、一方でこの母親は、それなりにちゃんと働いてもいる。月16万円の給料で娘と自分の生活を成り立たせつつ、失踪直前までに120万以上のお金を貯めてもいるんです。児童手当を4万円もらっているとはいえ、薄給をやりくりしてのこれだけの貯金は、なかなかできることではないですよね。少なくとも「クズ母」には無理だと思う。と考えると、なんだか矛盾を感じます。私はどうにもこの、「月20万の収入の中から総額120万もの貯金を成し遂げた上で、40万を引き出し、残りの80万円とともに娘を捨てるシングルマザー」というのが、うまく呑み込めなかった。このお母さんがどういう人なのか、さっぱりイメージできない。

  • 編集G

    このお母さん、ほんとに計画立てて出て行ったのかな? もっと衝動的なものかとも思うのですが。失踪前夜に多めの抗うつ剤をアルコールで流し込んでたりしてますので。生活は苦しいし、娘とはまたもや大げんかしちゃうしで、なんかいっぱいいっぱいになっちゃって、発作的に荷物まとめて飛び出たのかもしれない。

  • 青木

    それは私も思いました。ただそれにしては、きれいに掃除して、料理も作り置きして、40万引き出して出ていくという行動が、理性的すぎて引っかかる。

  • 編集A

    40万というのが、すごく中途半端な額なんですよね。例えば、後先考えられない人がとりあえず10万円ほどひっつかんで家を飛び出すということならまだわかるし、逆に、貯金を全額下ろして姿をくらますということなら、「ダメ親」としてこれまた納得できる。でも40万円というのは、むしろ絶妙に「自分の今後の生活をちゃんと考えている金額だな」という印象を受ける。

  • 青木

    お母さんの本気度がうかがえる額ですよね。「帰ってこないつもりなんだな」って思えます。しかし、これまでのお母さんの描写からいくとしっくりこない。クズ母というのは娘の思い込みで、実はしっかり考えて行動する人だったのか。キャラクターがぶれるので混乱します。

  • 編集H

    でもそもそも、普通に働いてて、120万も地道に貯められるお母さんが、急に娘を捨てて失踪したりしますかね? 生活基盤を全部捨てていくんですよ? 娘だってあと1年ほどで自立してくれそうだし、そうなれば生活もぐっと楽になるはずなのに。

  • 編集G

    普通に暮らしてるように見えても、実は精神的にギリギリなところにいる人って、いると思います。ちょっとしたきっかけで、限界に達したということもあるのでは?

  • 編集F

    ただ、そういう人ならなおさら、とても120万もの貯金を作れるとは思えない。そして、出ていくときに80万も残すとは思えない。主人公と暮らしていた頃のお母さんの描写からは、むしろ入る端から無計画に使っちゃいそうな人のように感じます。

  • 編集D

    だからこそ主人公も、しっかりせざるを得なかったわけでしょうからね。

  • 編集A

    典型的なダメ母のパターンだと、男に金を貢ぐことで家計がひっ迫して……みたいなことになっていそうなものですが、このお母さんにはそういう雰囲気はないですね。今回の失踪も、男絡みではないみたい。

  • 青木

    母子家庭で、母親に男の影がちらつけば、高校生の娘が気づかないわけはないと思います。「家では寝てばかり」らしいので、夜に働いて朝方帰ってくる生活かと思いきや、そういうことでもないらしい。

  • 編集B

    水商売をしている風ではないですよね。学生の主人公より遅く家を出て、帰りは早い。特に激務でもなく、月に16万の給料。いったい何の仕事をしているのでしょう? そこもイメージできない。

  • 青木

    作者の中では、このお母さんはどういう職に就いている設定なのかな? そこが見えてこないのは残念でした。べつに作中に明記する必要はないのですが、作者にははっきりわかっていてほしい。そして、その設定がちゃんと作られていれば、描写の中に自然ににじみ出てくるものがもっとあったのではと思います。

  • 編集G

    主人公のアルバイトに関する描写は割と細かいのに、お母さんの仕事に関しては、どうにもふわっとしていましたね。

  • 編集B

    いや、主人公のバイトに関しても疑問点は多かったと思います。バイト先のハンバーガー屋のマネージャーが、「行くとこなかったらうちに就職しなよ」と言ってくれたとありますが、「マネージャーがいる」のなら、おそらくチェーン店でしょうね。でもその場合、マネージャーが雇用権限を持っているとは思えない。フランチャイズなら店舗採用が可能かもしれないけど、その場合トップは、「マネージャー」ではなく「店長」になるんじゃないかな。

  • 編集E

    「バイト先でよくやるから、ソースを小分けにする作業なんて慣れたもの」というようなことが書かれていますが、これもちょっと不思議でした。ハンバーガーショップって、そんな作業がよくあるんでしょうか?

  • 編集F

    作者の知っているお店ではそうなのかもしれないですけど、一般的にはちょっとピンときませんね。

  • 青木

    作者の脳裏には、具体的なイメージがあるような気がします。地域によっては、よくある話なのかもしれない。ただ、「高校生のバイト」と聞けば、やはり読者のほとんどは、全国的に有名なチェーンのハンバーガーショップをイメージするでしょうね。

  • 編集E

    ちょっとした言葉選び、ちょっとした描写に関して、「読者がどう受け取るか」ということを、まだあまり意識できていないように思えます。

  • 編集F

    小説を書くときは、「自分の常識と読者の常識は違うかもしれない」ということを念頭に置いておいてほしいですね。「この描写で正確に伝わるかな?」ということは、常に気にしていてほしい。

  • 青木

    誤解が生じないくらい、作品舞台を明確にしておいたらよかったかもしれないですね。例えば、「ここは北海道です」「この地域には、こういうお店があります」みたいな情報がさりげなく入っていれば、読者も普通に「そうなのか」と思って読めたかも。

  • 編集A

    そうですね。作品舞台がはっきりすれば、読者もイメージを描きやすい。私は主人公の、「バーガー屋への就職は、最後の受け皿。どこでもいいから、とにかく事務系の職に就きたい」という気持ちも、よく分からなかった。ハンバーガーショップの正社員というものが、なぜそんなに「底辺の仕事」扱いなの? このあたりも、地域による感覚の差なのでしょうか?

  • 編集E

    なんだかちょっと、疑問点や矛盾点が多いですね。特にお母さんに関しては、仕事もよくわからない上に、性格や行動に一貫性が無いように思えて気になります。

  • 編集F

    ちょっと頭で考えすぎてるのかな。例えばさっきの、「40万引き出して、80万残していく不可解さ」についても、「よそで新生活を始めるなら、これくらいは持って行かなきゃ」とか「高校生がバイトしながら1年暮らすには、これくらいは必要かな」というふうに、作者が頭の中で弾き出した金額なのかも。書き手がつい常識的な思考を話に持ち込んでしまって、「そのキャラクターらしい行動」を描くことができなかったのかもしれませんね。

  • 編集A

    あと私は、話にオチがないのが非常に気になりました。

  • 編集D

    私もです。この作品は、小説の一部分を切り取ったもののように感じます。つまり、これだけではまだ、小説になっているとは言いにくい。

  • 青木

    わかります。現状では、「主人公が辛い境遇にいる」ということを描いただけに終わっていますよね。これは短編ですので、ラストにもう少し締めくくり感がほしかったなという気がします。

  • 編集G

    私はこれでもいいと思います。ラストで、気丈な主人公がついに涙を見せるところで、「ああ、やっと主人公が心の奥をのぞかせてくれた。弱い部分をさらけ出してくれた」と感じて、胸にぐっときました。

  • 編集A

    はい。それは確かにいいと思います。でも、それだけではオチにならないですよね。お母さんが出て行って、「ふん、べつにいいわよ」と最初は強がっていたんだけど、しばらく経ったらやっぱり気持ちが弱って、つい泣いてしまいました。うん、そこまではいい。で? ……ってことなんです。そこから先が何かないと、小説にはまだなっていないというか、あまりに物足りないと感じる。

  • 編集G

    いや、そこから先は、べつにないですよね。今日はとうとう泣いてしまったけれど、正直な感情を吐き出したことで、一区切りがついた。この先も、主人公は一人で頑張って生きていくのだろうと思います。

  • 編集A

    それならなおさら、この作品は小説としてまとまっていないということになる。冒頭でお母さんは既に出て行っているのですから、最初から主人公は、気丈に一人で生きています。「時には涙する夜もありますが、変わることなく頑張って生きていきます」というだけで終わってしまうのでは、話がどこへも進んでいないですよね。ラストシーンは単なる「ある日の出来事」に過ぎない。読みどころには成り得ていないと思います。

  • 編集G

    そうですか? 主人公の大きな感情の揺れが描かれているし、私はこのラストには心を動かされました。お母さんがいなくなっても主人公は平気そうにしているから、私もラストにくるまでは、「まあ大丈夫そうだな」と距離を置いて読んでいたんです。でも最後の最後で、しっかり者の主人公が急にぼたぼた泣き出しちゃって。こちらもびっくりして、「うわっ、やっぱり本当は辛かったんだね。そうかそうか、よしよし」って、そばへ飛んで行って背中を撫でてあげたい気持ちになりました。「一人でも平気だ」と、ずっと気を張って暮らしていた主人公の、その緊張の糸がぷつんと切れて心が緩んでしまった瞬間、抑え込んでいた自分の素をついさらしてしまった瞬間が、この号泣ラストだと思うんです。ここで一気に引き込まれましたので、私はこのラストシーンに不満はないですね。

  • 編集A

    うーん、「主人公がついに泣いた!」というのをクライマックスにするのであれば、それまでに読者を主人公に寄り添わせる必要があると思うのですが、この主人公の共感度はちょっと今ひとつのように感じるんです。クズ母との二人暮らしで苦労しているのは分かるんだけど、なぜかあまり寄り添える感じではない。

  • 編集B

    「クズ母」とまでも言いきれないから、読者が明確に主人公の味方になれないのかもしれない。だって、このお母さんは一応娘を養って、学校にも通わせてますからね。暴力をふるったり、バイト代を巻き上げたりしていない。嫌々ながらも、時々はご飯を作ってくれたりもする。

  • 編集D

    大人であっても、心がどうしようもなく弱い人というのはいると思います。前向きに踏ん張ることができないというか。そういう人がシングルマザーとして生活を維持していくというのは、すごく大変なことだろうと思う。ましてや120万の貯金なんて。このお母さん、ダメ親なりに頑張ってはいますよね。

  • 編集F

    対して主人公は、話の最初から、お母さんに対して非常にドライですよね。ほぼ見切ってると言っていい。「卒業したら、こんな家からとっとと出て行こう」と思っています。

  • 編集A

    困窮家庭に暮らしている主人公の怒りや苛立ちももちろん分かるのですが、曲がりなりにも育ててくれている親に対して、「保険金残して今すぐ死ね!」とまで言うのは、ちょっと度が過ぎているかなという気がします。

  • 編集B

    まあ、思春期・反抗期と重なってもいるでしょうから、仕方ない部分もあるとは思います。一方で、お母さんのクズ度もそんなに高くないように思える。だから、二人の関係をどう受け取ればいいのか、判断しかねるところがあるんですよね。迷惑な存在でしかない母親との生活に必死に耐えている娘ということなのか、細腕で頑張ってる親の気持ちも分からずに暴言を吐いている娘ということなのか。

  • 編集F

    一人称作品ですから、主人公の目を通してしか物事が描かれないので、実際はどうなのかがわからないですね。

  • 編集E

    私は、作者は主人公側に立って書いているのだろうと思います。お母さんのこともクズ母として描いているつもりなんだと思う。ただ、描写が矛盾しているところがあったりするので、読者が引っかかってしまうのでは?

  • 編集A

    はい。わかりにくいところは、ほんとに多いですね。例えば、主人公がお母さんのことを本気で見限っているのなら、「最後のハヤシライス」でどうして号泣するのでしょう? お母さんの作ったハヤシライスを、「とても食べられない」と大事に取っておいたわけではないですよね。次々食べていったから、最後の一つになっただけなのに。

  • 編集G

    いや、毎日必死で生きていて、くたくたになって家に帰ってきたとき、食べられるものが目の前にあったら食べちゃいますよ。

  • 青木

    この主人公は、未練がましく「お母さんの最後の手料理だから、とっておこう」なんて考える子じゃないと思います。あるから食べる。それがこの子の矜持なんです。「なくなったっていいや。食べきっても全然平気」と、表面上は自分でも本気で思ってたんです。でも、やっぱり心の奥では違っていた。

  • 編集G

    最後の一袋まで来たときに、「え、これ食べきったら、お母さんとのつながりは何もかもなくなってしまうってこと? ほんとのほんとに終わりってこと?」と改めて気づいた。その途端、張りつめていた心の糸が切れ、堰を切ったように涙があふれてきたということなんだと思います。

  • 編集A

    本当にこれで最後なんでしょうか? このお母さんは、出て行った先でうまくいかなかったから、またヘラッと帰ってきそうにも思えます。どうにもつかみどころのない人で、どんな行動を取るか予測できない。このラストシーンの後、どういう展開が起こるのかは、読者には予想がつきません。これでは、ラストシーンの感慨にうまく浸れない。

  • 編集H

    同感です。このラストを、「お母さん、本当にもうお別れなんだね」という切ないシーンとして読むためには、このお母さんが二度と帰らないのだということを、もう少し強く打ち出しておく必要があったと思う。「携帯番号は解約されてる『かも』」とか「LINEはブロックされてない『みたい』」という曖昧な状況では、主人公の孤独や寂しさがひしとは伝わってこないです。

  • 青木

    私はこの主人公は、単なる「親に見捨てられた子」ということではなくて、立場がひっくり返っちゃったところがあるのかなと思いました。お母さんはダメなところのある人で、娘である主人公はしっかりしていて。だから、ヤングケアラーとまではいかないけど、「むしろ私のほうがお母さんの面倒を見ている」みたいな気持ちがあったんじゃないかな。でも現実は、ケアされてるはずのお母さんのほうが、娘を置いて出て行った。だから、親に捨てられたという思いと同時に、世話をしている対象が逃げちゃって、取り残されたという気持もあるんじゃないかな。お母さんがいなくなってしばらくして初めて、自分の中にぽっかり穴を開けている喪失感に気づいたということではないでしょうか。そう考えると、ほんとに切なかったです。まだほんの十七、八歳なのに。主人公のほうはお母さんが大好きなのに。

  • 編集A

    えっ、この主人公、お母さんのことが大好きなんですか?

  • 青木

    私はそう読みました。一人称の語りの中では一度たりともそんなことは言わないんだけど、でも本当は好きなんだろうなと。口に出さない思いがきっとあるんだろうなと。

  • 編集F

    まあそこは、読み手がどう脳内補完するかによって、解釈が違ってくるところかなと思います。

  • 編集B

    「大好き」までの気持ちかどうかはともかく、お母さんに置いて行かれて、表面上は平気そうに振舞ってはいたんだけど、日にちが経つにつれてじわじわと喪失感が身に染みてきた、という流れなのかなとは思いました。作者はそういう話を書こうとしたのかなと。

  • 青木

    お母さんと娘の心のつながりは、実はあちこちでほんのちょこっと顔をのぞかせているとは思うんですよ。中でも、「ハヤシライス」というのはとても重要な要素だったと思うのですが、なんだか今ひとつうまく使いこなせていない。そこはもったいなかったですね。

  • 編集H

    描写はすごくいいのに、人物の解像度が低かったのが残念でした。最初は「お母さんがよく分からないな」と思ったのですが、読み込んでいくと、主人公の気持ちにもちょっと推し測りにくいところがありました。

  • 編集F

    もう少し、お母さんや主人公の人となりがうかがえる描写なりエピソードなりがあったらよかったですね。一人称で語っている主人公自身は気づいていないけど、読者には「このお母さん、娘のことを思ってるんだな」とか「娘も、実はお母さんが好きなんだな」と分かるようなエピソードが。そういうものがあれば、この母と娘の関係に、もう少し読み手が思い入れられたかも。

  • 編集A

    あるいは逆に、徹底的にお母さんをクズ母にするのでもいい。思いきってそういう方向で話を統一しても、現状よりは読者が受け取りやすくなるだろうと思います。全体に、なんだか矛盾を感じるようなところが多かった。もう少し、人物の性格やバックグラウンドをしっかり構築しておいてほしかったですね。逆に言うと、そういう矛盾点がなくなるだけでも、この話は格段に読者の胸に響く作品になったと思います。とにもかくにも、設定を詰めてほしい。

  • 編集B

    あと、僕は割と主人公の気持ちに沿って読んだし、推してもいるのですが、ラストで主人公が泣いたところにだけは不満が残りましたね。ここで泣かないでほしかった。主人公には、泣かずに踏ん張ってほしかった。「泣くな。泣くな」と自分に言い聞かせながらも、「泣きながら食べるのは苦しい」みたいに書いてるということは、やっぱり泣いてるわけですよね。いや、百歩譲って泣いてもいいから、「これは涙なんかじゃない。あたしを捨てた人のために、涙なんか流さない」と最後まで強がってほしかった。一人称なのですから、泣いていても「泣いてない!」と言い張ることは可能です。ここまで一人で頑張ってきた主人公の、最後のプライドを見せてほしかったです。

  • 青木

    そうですね。確かにそこは、「泣かない!」と踏みとどまったほうが、この主人公らしかったかなと思います。でも私はとにかくもう、この主人公がかわいそうでかわいそうで。実は私も、一回目に読んだときはよくわからなくて、「モヤモヤした話だな」と思っていたんです。でも、二度目に読んだときには、「なんて切ない」と感じて、一気にハマりましたね。

  • 編集B

    僕もです。読み終わってしばらく経った後で、なんだかじわじわこみあげてくるものがありました。

  • 青木

    何か深いところに刺さるものがあるんですよね。時間をおいて脳内補完が完了すると、すごく感動する話なんです。

  • 編集A

    確かに、描写力そのものは高いと思います。だから、人物設定をきっちりと詰め、描写の塩梅にもう少し客観的な配慮ができるようになれれば、大きく飛躍する可能性は十分あると思いますね。

  • 青木

    現状でも、私の胸にはとてもグッとくる作品でした。より多くの読者にもそう思ってもらいたいですので、ぜひがんばってほしいですね。

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